アフォーダビリティー向上と成果可視化、州が主導(米国)
2026年全米知事会議冬季会合
2026年4月13日
2026年2月19~21日に開催された全米知事会議(NGA)冬季会合は、開催前にホワイトハウスが「民主党知事をホワイトハウス関連行事から除外する」方針を示したことを複数のメディアが報じ、例年とは異なる複雑な状況下で開幕した。会期直前には、一部の知事が「ホワイトハウス主催の夕食会に正式招待されていない」と明らかにするなど、混乱が表面化した(注1)。こうした動きに対し、NGAは「全55知事が対象でない行事には参加しない」との原則を打ち出し、超党派協働の姿勢を明確にした。また、開幕に際し、最終的にホワイトハウスとの合同イベントをNGAとしての公式日程から外し、通常プログラムのみを全知事参加の方針の下で一体的に実施した(注2)。
第2次トランプ政権の発足から1年2カ月が経過した現在、米国では党派対立が一段と表面化し、連邦政府の姿勢が社会の分断をさらに深める状況が続いている。こうした連邦レベルでの党派対立の緊張とは対照的に、今回のNGA冬季会合は、協働と実務を軸とした州主導のガバナンスを明確に打ち出し、政策形成における州のリーダーシップの重要性をあらためて認識させた。とりわけ、今日の米国で最優先課題となっている「アフォーダビリティー(affordability)」(注3)の改善や、エネルギー政策に不可欠な透明性・予見可能性の確保に向け、州主導による具体的アクションを示した点が注目される。本稿では、主要セッションにおける議論を手がかりに、会合の主要論点を整理する。
高まる市民の分断意識、州知事がいま発信すべき言葉は
2月20日のNGAプレナリーセッションのオープニングに登壇した世論調査の専門家フランク・ランツ氏は、建国250周年を前に「米国の分断は、政策の是非を巡る対立にとどまらず、感情が先導する段階に入りつつある」と切り出し、最新の世論調査結果を示しながら、州知事が対外コミュニケーションを行う際に、『用いるべき言葉』と『避けるべき言葉』を具体的に提示した(注4)。
同氏が実施した最新の世論調査によれば、現在の米国においては、結束(to unite)よりも分断(to divide)が加速しているとの見方が72%に上る。また、怒りや不安などの感覚が政治行動を左右している状況下で、州知事による感情に寄り添うメッセージの発信が必要と分析した。
加えて、国民の80%は州政府や地方政府をより信頼しており、連邦政府を信頼しているのはわずか20%にとどまるという調査結果を示した。その上で、党派性が優先されがちな連邦議会の現状では、「実務の最前線に立つ州知事こそが、分断修復の先頭に立つべき存在だ」と強調した。
市民向けのコミュニケーションにおいては、何よりも言葉の伝え方を見直すことが不可欠だとし、世論調査の結果を踏まえ、「自由(freedom)」「祝い(celebration)」「結束(united)」「敬意(respect)」などの言葉が、共感を喚起する効果が高いとの見方を示した。他方、「多様性(diversity)」「包摂(inclusion)」「公平性(equity)」といった言葉は、意図に反して、一部の有権者から政治スローガンとして受け取られやすく、共感を生みにくいと解説した。また政策プロセスなどに関する説得力の観点では、「成果(results)」「説明責任(accountability)」などを強調することが共感を得やすい反面、「実務的(pragmatic)」「超党派(bipartisan)」などの言葉は効果が低く、使うべきではないとした(表1参照)。
| 分類 | 効果が高い(使うべき)言葉 | 効果が低い(避けるべき)言葉 |
|---|---|---|
| 共感喚起 | 自由(freedom) / 敬意(respect) / 結束(united) / 祝い(celebration) | 多様性(diversity) / 包摂(inclusion) / 公平性(equity) |
| 説得力 | 説明責任(accountability) / 成果(results) | 超党派(bipartisan) / 実務的(pragmatic) |
出所:Frank Luntz, NGA 2026 Plenary Sessionでのプレゼンテーション(2026年2月20日)を基にジェトロ作成。 NGA公式動画(YouTube)
も参照。
家計に効く施策を、指標で可視化
ランツ氏の示した「使うべき言葉/避けるべき言葉」を受けたパネルディスカッションでは、ユタ州のスペンサー・コックス知事(共和党、写真左)、デラウェア州のマット・マイヤー知事(民主党、中央)、オクラホマ州のケビン・スティット知事(共和党、右)が登壇した(注5)。3人の知事は「次の選挙」ではなく「次の世代」を見据え、州が主導して結束を強化していく方法を議論した。ここでの結束は、同じ価値観の共有を目指すよりも、前提の違いを抱えたままともに進むことと定義され、市民に対して、「何を、どの順番で、どのような言葉で示し、どう実行に移すか」の手順に踏み込んだ議論が行われた。

はじめに、コックス知事は「SNSなどに氾濫する情報が、感情的な反応を増幅させ、分断を生みやすい現実」への認識を示した上で、州政府は手続きと結果を着実に積み上げる組織だと位置付けた。形式的な「超党派(bipartisan)」という表示よりも、日々・あらゆる地域で、全ての人に届く運用を徹底し、成果を見えるかたちで示すことが信頼の回復につながると述べた。具体的な手法として、(1)許認可や行政手続きの処理日数、(2)相談窓口の応答時間、(3)学校・病院・道路などの基礎サービスの満足度といった、生活の実感に結び付く指標を挙げ、これを定期的に公表・改善するサイクルの重要性を強調した。
マイヤー知事は、住民が行政を評価する基準は「暮らしが実際に改善されたかどうか」にあると強調。改善状況を日常生活で体感できる重要業績評価指標(KPI)を四半期ごと・年度ごとに公表し、前年同期比や達成率で示す方法が幅広い合意につながると説明した。具体的に、水道・電気・ごみ収集などの公共料金、通報(コールセンターなど)の一次応答時間、通勤や通学に直結する道路・公共交通の所要時間や遅延率などの例を示した。
スティット知事は、自らのNGA議長としてのイニシアチブである「Reigniting the American Dream(アメリカン・ドリームの再燃)」に言及し、次の世代にとっての機会を生み出す基盤(教育・インフラ・医療・雇用)を見直し、配分し直す方針を示した。その際、州、企業、NPOなどによる協働を前提に、評価軸そのものを「どこでも・誰にでも機会が届いているか」という尺度で点検する必要があるとした。加えて、ランツ氏が示した「使うべき言葉」を踏まえ、市民がアクションを起こしやすい簡潔な表現で意図を明確に伝えることの重要性にも言及した。結びでは、「a united United States(合衆国を1つに)」のような簡潔な呼びかけを入り口に、行動計画の提示、実施、進展の公開というフローに落とし込むべきだと強調した。
可処分所得を押し上げる政策パッケージを提示
2月21日のアフォーダビリティーをテーマとした討議では、インディアナ州マイク・ブラウン知事(共和党)、ケンタッキー州アンディ・ベシア知事(民主党)、マサチューセッツ州マウラ・ヒーリー知事(民主党)、モンタナ州グレッグ・ジアンフォルテ知事(共和党)が、家計の可処分所得(disposable income)を増やすためのアクションプランを、住宅供給、エネルギー料金、税制・投資誘致、人材育成の4領域で具体的に提示した(注6)。
2026年の中間選挙を控え、アフォーダビリティーが議題の中心となる状況下で、各州は、短期的なインパクトの可視化、そのための規制・手続きの緩和を意識し、可処分所得の実感を短期間で引き上げるための施策を前面に出したかたちだ。とりわけ住宅供給のボトルネック解消やエネルギーコストの家計転嫁を抑える設計が焦点となった。
住宅供給に関し、ジアンフォルテ知事は、敷地内に別棟を増やす付属住宅(ADU)の設置や、二世帯向けデュープレックス住宅の認可などを実現する規制緩和を実績として提示した。宅地の最小区画面積の基準緩和、環境影響評価や建築許可手続きの簡素化・迅速化、建設までの待機時間の短縮を掲げた。ヒーリー知事も、環境レビューを約30日に短縮した実績をはじめとする審査の迅速化、余剰の州有地活用・税額控除を組み合わせた供給促進などの取り組みに言及した。討議では、審査の上限日数の設定、固定資産税・所得税の控除などの税制措置も含む「政策の組み合わせの最適化」「効果の最大化」に繰り返し焦点が当てられた。
エネルギー関連では、データセンターの急速な立地拡大に伴う電力需要増を前提に、新規電源の増設費用を需要者側(大口負荷)に負担させ、一般家庭への料金転嫁を防ぐための料金設計のガードレールが争点となった。ブラウン知事は、データセンターによる電力需要が州全体のエネルギー需要に占める割合の高さを指摘。費用区分の透明化と料金への安易な転嫁を抑止する制度設計を求め、住民の信頼維持を最優先に据えるべきだと強調した。セッション全体でも、生活コストへの影響を可視化することが政策受容の前提であるとの認識が共有された。
税制・投資誘致では、ベシア知事が用地・上下水道・送電といった基盤整備に州が先行投資する準備基金を紹介。高賃金の投資案件を短期間で誘致しつつ、農村部立地の促進により地域間の雇用・所得格差の縮小を狙う戦略を示した。
ベシア知事はまた、人材(ワークフォース)育成に関し、コミュニティーカレッジと企業との連携を核に、企業からの講師派遣などを実現するキャリア教育などに3億ドルを投資し、在学中から採用ルートを可視化する取り組みを紹介した。同分野では、ヒーリー知事も、「雇用主のニーズに沿った人材育成に直結する投資」として州内のコミュニティーカレッジの無償化の取り組みを紹介。住宅・エネルギー対策と並ぶ家計負担軽減策の柱であることを強調した。
エネルギー関連許認可の期限、家計の保護を優先
急増する電力需要と、需要を支える投資の実現に向けた政策をテーマとする「エネルギー・ラウンドテーブル」には、アラスカ州のマイク・ダンリービー知事(共和党)、ノースダコタ州のケリー・アームストロング知事(共和党)、米領ヴァージン諸島のアルバート・ブライアン知事(民主党)、そしてウエストバージニア州のパトリック・モリッシー知事(共和党)が登壇した(注7)。
同セッションでの議論の核心は、許認可手続きの遅さと不確実性に集約された(表2参照)。各知事は、政権交代に伴う政策方針の揺れが長期投資の阻害要因となっている認識を共有。大規模プロジェクトの実現には、行政府の通達や大統領令ではなく、法律による恒久的な制度化(成文化)が不可欠だと強調した。具体例としては、(1)審査の明確な期限設定、(2)期限管理の厳格化、遅延抑止の制度設計、(3)エネルギー源に中立な(同一基準の)審査枠組み、などにより投資家に10~20年先を見通せる環境を提供すべきだという点で一致した。
また、送電網やパイプラインなどの線状インフラ(linear infrastructure)は、1カ所での訴訟や不同意が計画全体を止めるという脆弱(ぜいじゃく)性を抱えている。このため、複数の州や省庁を跨ぐ並行審査や、既存権益との事前調整メカニズムを制度として組み込む必要性が指摘された。
同セッションでは、こうした系統課題に配慮しつつ、人工知能(AI)・データセンター需要の取り込みと電力料金の抑制を両立するには、「エネルギー中立」「コスト負担の透明化」「長期的な規制安定性」という3条件を同時に満たす改革が必要だと提案された。とりわけ、大口需要増が家計の電気料金上昇につながらないよう、家計保護を前提に設計することが不可欠との認識が共有された。さらに、インフラを「早く、安く、確実に整備できるか」が、単なる経済課題ではなく、地政学・安全保障上の戦略課題でもあるとの見方が示された。各知事は、データセンター誘致や製造業回帰の競争に後れを取らないためにも、「レッドテープ(行政手続き)の削減」「線状インフラの迅速審査」「消費者料金の防波堤」といった取り組みを、法的安定性の確保のもとで進める必要があると総括した。
| テーマ | 課題(現状) | 改善策の提案・改革案 |
|---|---|---|
| 政策 | 政権交代による方針の振れ(投資の不安定化) | エネルギー源に中立な審査枠組みと法律での恒久化 |
| 手続き | 連邦機関での審査重複と予測不能な手続き | 明確な処理期限と遅延抑止の制度設計、並行審査(連邦+州) |
| インフラ | 線状インフラは一点不同意で全体停止 | 広域送電・パイプラインの高速審査と事前調整メカニズム |
| 価格 | 消費者料金への転嫁リスク(需要増時) | 大口需要側の費用帰属を明確化、電力料金を支払う家計の保護を優先 |
出所:Governors Energy Roundtable (2026年2月21日)- NGA Winter Meeting 2026を基にジェトロ作成。 NGA公式動画(YouTube)
も参照。
開催前から注目を集めたNGA冬季会合は、市民生活に根差した生活コストや将来投資、エネルギー政策などのテーマを前面に打ち出し、具体的なアクションを州主導で同時並行的に前進させることにコミットする重要な場となった。生活コストの観点では、住宅価格や公共料金の引き下げのための制度改正のほか、家計可処分所得を短期で押し上げる道筋を示した。エネルギー政策では、許認可に係る予見可能性・透明性と費用負担の適正化、AI・データセンター向け電力需要増を家計向け電気料金に転嫁しない施策などが共有された。会期中のセッション全体を通じ、繰り返し強調されたのは、具体的なKPIの設定と成果の見える化に取り組む重要性だ。
2026年11月の中間選挙に向け、政策論争の中心テーマであるアフォーダビリティーの改善について、今回示された具体的コミットメントをどの時間軸で実行に移すのか、また市民の生活実感の向上に結び付く成果指標をどう設計・公開するのかが、今後の最大の焦点となる。
- 注1:
-
政治専門紙「ポリティコ」の2月6日付記事「White House excluding Dems from its annual governors meeting」などに基づく。NGAによる関係者宛てメールなどを引用。「USAトゥデイ」の2月12日付記事「Trump excludes governors from White House event ... again. Here's what happened」の時系列解説も参照。筆者によるNGA会期中(2月19~21日)の各州政府関係者インタビューにおいても経緯や報道との整合性を確認した。そのほか、数多くのメディア(新聞・TVなど)が、ホワイトハウスでの夕食会の招待を受けなかった民主党知事のインタビューやコメントなどを報道している。
- 注2:
-
PBSニュースの2月10日付記事「Governors won't hold meeting with Trump after White House only invited Republicans, Stitt says」や2月19日付記事「Governors group skips White House meeting after Trump refused to invite two Democrats」など。NGA議長書簡要旨などを掲載。また開催日当日の続報で、NGAとしてはホワイトハウスとの会合を公式に実施しない旨を再度掲載。
- 注3:
-
住宅、エネルギー、医療、通信など、生活に不可欠なサービスについて、世帯所得の範囲内で無理なく支払える状態を指す概念のこと。全米低所得者住宅連合(NLIHC)の定義
では、affordabilityとは「世帯が家賃や住宅コストを無理なく支払えること」。 - 注4:
-
セッションタイトルは「Governors Discuss Reigniting the American Dream with Frank Lunt」。期間中のセッションの様子はNGA公式動画(YouTube)
リンクからタイトルで探して閲覧可能。 - 注5:
-
セッションタイトルおよび公式動画のリンクは注4に同じ。
- 注6:
-
セッションタイトルは「Governors Affordability Roundtable - 2026 Winter Meeting」。モデレーターは米国メディアのアクシオス共同創業者のマイク・アレン氏。公式動画のリンクは注4に同じ。
- 注7:
-
2月21日開催。セッションタイトルは「Governors Energy Roundtable - NGA Winter Meeting 2026」。モデレーターはポリティコのジョシュ・シーゲル氏。公式動画のリンクは注4に同じ。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
伊藤 博敏(いとう ひろとし) - 1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジア、調査部国際経済課長などを経て現職。主な著書:『ジェトロ世界貿易投資報告』2021年版~2025年版(編著、ジェトロ)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。





閉じる




