増加するバタム島への投資(インドネシア)
データセンター需要と中国投資の増加

2026年3月25日

バタム島はシンガポール南方約20キロメートルに位置し、フェリーで約1時間という地理的近接性を背景に、シンガポールとの経済的関係を深めてきた。1990年代には、シンガポール・マレーシア・ジョホール州との間でSIJORI成長三角地帯が形成され、これを契機に工業団地の整備が進み、電子機器メーカーを中心とする外資が流入した。2007年に自由貿易地域(FTZ)に指定されたことで、税制の優遇措置が導入された。しかし、2010年代に入ると、労使紛争や賃金上昇によって投資環境が悪化し、外資企業の撤退が相次いだ。その後、インドネシア政府による制度改革や投資規制の改善、特別経済区(SEZ)の整備、データセンター需要の増加といった外部要因も重なり、再び投資が増加している。

本稿では、こうしたバタム島における最近の投資動向を概観する。

成長するバタム島の経済・人口・貿易

バタム市の直近10年間(2015年~2024年)の実質GRDP成長率は、新型コロナ禍でマイナス成長となった2020年を除くと平均で5.68%となり、全国平均の4.91%を約0.8ポイント上回る(図1参照)。人口は1980年の約4万7千人から2020年には約120万人へと約25倍に増加した。産業構造は、製造業が主で、実質GRDP構成比で5割超、就業人口(15歳以上)でも4割超を占めている。品目別の輸出入では、電子機器がともに4割超を占めており、これはバタム島がFTZであることから、部品を輸入して組み立て、完成品を輸出する加工貿易が主流であることに起因する。輸出先については、長らくシンガポールが最大であったが、近年は米国向け輸出が増加し、2025年には米国が58億6千万米ドルで最大となった(表1参照)。投資額の国別構成では、シンガポールが長らく首位を維持しているものの、ここ数年は中国からの投資額が増加しており、2023年以降は外国直接投資額の国別ランキングで上位に位置している。特に、2024年は前年比で約5倍と大幅に増加した(表2参照)。

図1:バタム市の実質GRDP成長率推移
バタム市の経済成長率は、2015年は6.87%、2016年は5.4%、2017年は2.6%、2018年は5.0%、2019年は5.9%、2020年は-2.5%、2021年は4.8%、2022年は6.8%、2023年は7.0%、2024年は6.7%。全国平均は、2015年は4.9%、2016年は5.0%、2017年は5.1%、2018年は5.2%、2019年は5.0%、2020年は-2.1%、2021年は3.7%、2022年は5.3%、2023年は5.1%、2024年は5.0%。

出所:バタム市中央統計局データからジェトロ作成

表1:バタム市の主要輸出先国(上位5カ国)(単位:100万米ドル)
輸出先 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
米国 2,245.6 3,369.3 3,468.6 4,043.3 5,860.3
シンガポール 4,997.7 6,385.3 4,898.1 4,219.6 4,728.4
中国 775.2 827.2 903.9 1,189.9 1,283.7
日本 322.8 357.9 503.3 645.5 756.1
インド 240.8 393.9 467.5 365.7 752.4

出所:バタム市中央統計局データからジェトロ作成

表2:バタム市における外国直接投資額(上位5カ国) (単位:100万米ドル)

2021年
順位 国・地域名 金額
1 シンガポール 167.9
2 ルクセンブルグ 91.5
3 ドイツ 77.3
4 フランス 31.5
5 日本 28.5
総額 504.2
2022年
順位 国・地域名 金額
1 シンガポール 480.3
2 フランス 91.1
3 ドイツ 45.4
4 台湾 41.4
5 香港 28.1
総額 746.9
2023年
順位 国・地域名 金額
1 シンガポール 366.5
2 中国 51.7
3 香港 41.7
4 フランス 40.7
5 日本 22.7
総額 595.9
2024年
順位 国・地域名 金額
1 シンガポール 680.1
2 中国 253.0
3 日本 39.5
4 台湾 35.9
5 香港 25.8
総額 1,153.6
2025年
順位 国・地域名 金額
1 シンガポール 1,038.2
2 台湾 99.9
3 中国 83.0
4 マレーシア 79.2
5 香港 77.3
総額 1,598.5

出所:インドネシア投資・下流化省(BKPM)データからジェトロ作成

バタム島の経済政策変遷

バタム島の経済政策は、インドネシア政府の産業戦略の変化に合わせて段階的に展開されてきた。1971年に国家主導の工業開発地域として整備が開始され、当初は石油・ガス産業の支援基地として発展した。1978年には関税優遇措置を伴う開発地域として指定され、輸入部品を活用した加工貿易モデルの基盤が築かれた。2007年には政令第46号によりバタム島がFTZに指定され、同年に発足したバタムフリーゾーン監督庁(BP Batam)のもと、輸入関税や付加価値税の免除などの優遇措置が導入され、輸出志向型産業が強化された。2010年代には製造業中心から観光・造船・物流業へと産業の多角化が進められ、港湾や空港の整備が推進された。さらに2021年にはジョコ・ウィドド政権下で政令第67号が発布され、ハン・ナディム国際空港敷地内が航空機整備(MRO)分野を対象とする特別経済区(SEZ)に指定された。同年の政令第68号ではノングサ地区がデジタル産業を対象とするSEZに指定され、IT人材育成やスタートアップ支援がノングサ・デジタル・パーク(NDP)を中心に進められている。さらに2024年には政令第39号により、セクパン地区とノングサ地区が観光・医療分野を対象とするSEZに指定され、国際病院や医療観光、リゾート開発が促進されている。

このように、バタム島の経済政策は、1970年代の石油・ガス支援基地から始まり、2007年のFTZ指定、2010年代の産業多角化、そして2021年以降のSEZ導入と段階的に展開されてきた。現在では、製造業に加え、デジタル、航空、観光・医療といった複合的な産業モデルの構築にむけた取り組みが推進されている。2023年時点で、バタム島には30の工業団地があり、延べ約1,000社が入居している(表3参照)。

表3:バタム島内の工業団地一覧
工業団地名 開発年 面積
(ha)
入居
企業数
Sekupang Logistics 1984 32 9
Sekupang Makmur Abadi 1984 32 15
Union Industrial Park 1984 20.6 87
Batamindo Industrial Park 1990 320 73
Kabil Integrated Industrial Estate(KIIE) 1990 540 44
Taiwan International Park 1990 0.5 27
Kara Industrial Estate 1992 19 24
Citra Buana Industrial Park Ⅰ 1994 10 43
Megacipta Industrial Park 1994 5 33
Cammo Industrial Park 1995 18 30
Malindo Industrial Park 1996 2.6 25
Wiraraja Industrial Park 1998 112 20
Indah Industrial Park 2000 16 13
Latrade Industrial Park 2001 52 15
Panbil Industrial Estate 2001 200 24
Tunas Bizpark Industrial Estate 2001 64 93
Tunas Industrial Estate 2001 64 50
Tunas 2 Industrial Estate 2001 64 59
Citra Buana Industrial Park Ⅱ 2002 8 8
Citra Buana Industrial Park Ⅲ 2002 20 23
Dragon Industrial Park 2002 14.29 4
Hijrah Industrial Estate 2002 6.4 19
Executive Industrial Park 2005 20.83 45
Sarana Industrial Point 2005 17.5 27
Bintang Indstrial Park Ⅱ 2011 75 98
Lytech Industrial Park 2011 59 80
Horizon Industrial Park 2017 40 14
Nongsa Digital Park 2018 166 11
Tunas Kabil Industrial Estate 2018 27.2 8
Puri Industrial Park 2000 2022 24 35

出所:バタムフリーゾーン監督庁(BP Batam)公開データからジェトロ作成

増大するデータセンター需要

近年、バタム島はデジタル産業の集積地としても注目を集めている。その理由の1つが、急速に拡大するデータセンター需要である。クラウドサービスの普及、人工知能(AI)技術の導入、電子商取引の拡大、さらに5G通信の進展により、企業や公共部門では大規模なデータ処理・保存能力が求められている。加えて、インドネシア政府はデータローカライゼーション政策を推進し、一定のデータを国内に保存することを義務付けている。このため、従来ジャカルタ首都特別州に集中していたデータセンターの需要が、バタム島にも波及している。バタム市の実質域内総生産(GRDP)を見ると、情報通信分野は2015年の約2.3兆ルピア(約207億円、1ルピア=約0.009円、構成比2.6%)から2024年には約5.5兆ルピアと約2.4倍に増加し、構成比も4.1%へ大幅に上昇している(図2参照)。

図2:情報通信業における実質GRDP額およびその構成比
情報通信業の実質GDP額は、2015年は2.3兆ルピア、2016年は2.5兆ルピア、2017年は2.6兆ルピア、2018年は3.0兆ルピア、2019年は3.3兆ルピア、2020年は4.0兆ルピア、2021年は4.3兆ルピア、2022年は4.4兆ルピア、2023年は5.2兆ルピア、2024年は5.5兆ルピア。構成比は、2015年は2.6%、2016年は2.6%、2017年は2.7%、2018年は2.9%、2019年は3.1%、2020年は3.7%、2021年は3.9%、2022年は3.7%、2023年は4.1%、2024年は4.1%。

出所:バタム市中央統計局データからジェトロ作成

バタム島が注目される背景には、シンガポールとの地理的近接性と、国際通信インフラの結節点としての優位性がある。さらに、世界有数のデータセンターハブであるシンガポールでは、土地・電力コストの上昇や環境負荷への懸念から、2019年にモラトリアム(新規開発停止)が導入され、新規データセンター開発が一時的に停止されたことも需要を後押しする要因となった。その後、2022年以降は条件付きで開発が再開されているものの、再生可能エネルギーの利用や高効率冷却技術の導入など、厳格な環境基準が課されている。こうした状況下で、バタム島はシンガポールに隣接する補完的なデータセンター拠点として期待されている。

実際、バタム島では複数の具体的な投資案件が進行している。代表的なものが、BWデジタル社による80メガワット規模のデータセンター開発計画だ。2024年にシトラマスグループと共同で、NDPにおけるデジタルエコシステムの共同開発に関する覚書を締結した。BWデジタル社は5万5千平方メートル以上の土地を取得し、建設を進めている。

増大する中国投資

ここ数年、外国直接投資における中国の存在感が増している。2023年はシンガポールに次いで2位(5,170万米ドル)、2024年も2位(2億5,300万米ドル)、2025年は3位(8,300万米ドル)と、上位3位以内に位置付けられている(表2参照)。代表的な事例として、電子機器メーカーシャオミの案件が挙げられる。同社は、2023年から2024年にかけて27兆1,200億ルピアを投資し、BP Batamから表彰を受けている(2024年10月22日付「ビスニス」)。また、Range Intelligent社が50億米ドルを投資して、データセンターを開発する計画もある(BP Batamウェブサイト)。中国企業による視察も積極的に行われており、2024年3月には蘇州市および湖南省の企業代表30人(2024年3月28日付「テンポ」)が、同年9月にはリチウムイオン電池用部材製造のCNGR社が視察をしている(BP Batamウェブサイト)。2025年11月に実施したバタム島の工業団地へのヒアリングでは、ここ数年で中国企業の問い合わせが急増していることが確認され、「2024年から2025年の2年間で中国企業の数が倍増した」「現在、中国企業は工業団地全体の約3割に達する」といった声も聞かれた。

このように中国からの関心を集めるバタム島だが、その背景の1つとして、米中貿易摩擦の影響を指摘する声がある。特に太陽光パネル関連製品では、米中貿易摩擦を回避する目的で中国企業がバタム島を利用している可能性が挙げられている。ブルームバーグの報道によると、2025年上期にインドネシアから米国へ輸出した上位10社のうち6社(PT. Nusa Solar Indonesia、PT. Rec Solar Energy Indonesiaなど)がバタム島に拠点を置き、いずれの会社も中国の太陽光パネル関連企業の役員が最終的な所有者であることが各種記録から確認されたという(2025年7月25日付「ブルームバーグ」)。

年平均115兆ルピアの投資に向けて

2024年12月、ムハンマド・ルディBP Batam長官は、2029年までに年8%成長を達成するというインドネシア政府の目標に貢献するため、バタム島で年115兆ルピアの投資獲得が必要と述べた(2024年12月11日付「ビスニス」)。2025年のバタム島が経済の大半を占めるバタム市への投資総額が約44.2兆ルピアであることを踏まえると、この目標は現状の約2.6倍に相当する規模だ。上述のとおり、バタム島は近年、データセンター需要の増加や中国関連投資の拡大により、投資額を大きく伸ばしてきた。しかし、目標達成にはインフラ整備の進展と投資先としての魅力の維持が重要となる。例えば、データセンターに関しては、用地確保に加え、大量の電力と冷却用水が必要となる。開発需要に対応するには、島内での新たな発電所建設が求められるほか、水資源についても、現状の自然雨水依存から脱却し、シンガポールで導入されているような海水淡水化やリサイクル技術の活用が必要と指摘されている。さらに、2025年1月9日に合意されたジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)により、今後ジョホール州との競争環境が一段と厳しくなる可能性もある。これらの課題に適切に対応できるかどうかが、115兆ルピアという高い投資目標の実現可能性を左右することになる。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。企画部地方創生推進課(現、国内事務所運営課)、ナイロビ事務所、ジェトロ山梨、企画部企画課を経て、2025年10月からジャカルタ事務所で調査員として勤務。