日本企業が挑むインドの大学との関係構築(大阪・石原産業株式会社)
インドからインターン生の受け入れへ

2026年7月28日

国内で理工系人材の確保が厳しさを増す中、企業の海外大学との直接連携やインターンシップ受け入れへの関心が高まっている。こうした企業に対し、ジェトロは2025年10月に海外大学コネクションデスク(以下、大学デスク)を設置し、インドを中心とする南西アジア地域の大学と日本企業との初回面談をアレンジしている。

このサービスを活用し、インドの大学と関係構築を進めている企業がある。石原産業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:大阪市)は、農薬や動物用医薬品の開発・製造・販売などの有機化学事業や、酸化チタンの製造・販売などの無機化学事業を展開する総合化学メーカーだ。インドを最重要拠点の1つと位置付け、グローバル展開を加速させている。同社のバイオサイエンス事業本部インド拠点推進部長の黒田健二氏は2025年12月、大学デスクを活用してインド北部の公立総合大学、パンジャブ大学とオンライン面談を実施した。本稿では、黒田氏へのインタビューを通じ、同社がインドの大学との連携を進めている背景、大学デスク面談後の進展、社内の意識の変化について紹介する(取材日:2026年5月18日)。


石原産業の研究開発拠点「ひょうご小野研究センター(TREC)」(兵庫県小野市、同社提供)

インドの大学との新たな接点を創出

質問:
ジェトロの大学デスクに申し込んだ動機は。
答え:
当社はインドでのモノづくり基盤強化を事業方針として掲げており、その実現には化学工学(ケミカル・エンジニアリング)の専門性を備えた人材が不可欠だ。しかし、日本国内で優秀な人材を安定的に確保することは年々難しくなっている。
以前参加したジェトロ主催のオンライン合同企業説明会(注)をきっかけに、日本の国立大学に在籍しているインド人留学生に、当社の事業や職場環境を紹介する機会があった。その学生は化学工学を専攻しており、当社が求める人材像と高い親和性を有していた。こうした人材との接点は限られている。その学生がインド北部のパンジャブ大学の出身であることを知り、インドの大学で化学工学を学ぶ人材層そのものに関心を持つようになった。
そこで同大学との接点を持ちたいと考えたものの、適切な窓口が分からなかった。困っていたところ、ジェトロの大学デスクの存在と、「海外大学ディレクトリーPDFファイル(24.4MB)」にパンジャブ大学が掲載されていることを知った。自力で大学の適切な窓口にコンタクトを取ることは困難だが、大学デスクは適切な部署にピンポイントでつないでくれるサービスで、まさに求めていた支援だった。
質問:
オンライン面談時のパンジャブ大学の担当者の印象は。
答え:
大学側が日本や日本の企業に対して、非常に高い期待を持っているということがオンラインでも強く伝わり、印象的だった。担当者からは、当社に対して学生のインターンシップ受け入れへの期待や積極的な提案があり、「ぜひ現地で直接大学関係者と話したい。学生たちにも会ってみたい」と思った。大学デスクを通じて実施した初回オンライン面談で、実際に訪問日程の調整まで進められたことは、非常に有意義だった。

「言葉」よりも「専門性」を重視

質問:
インドからの直接の人材採用やインターンシップに目を向けるようになった背景は。
答え:
当初は、日本語でコミュニケーションができ、専門分野が合致する日本国内の留学生を採用ターゲットとして想定していた。しかし情報通信(IT)などと違い、われわれが人材を求める化学工学分野では、専門知識を有する国内の留学生が極めて少ないことが分かった。専門知識がなければそもそも従事することができない分野であるため、日本語能力よりも専門性を優先して採用を進める方針に転換した。英語でのコミュニケーションを前提とした受け入れには社内で懸念の声も上がったが「まずはやってみなければ分からない」「言葉の問題は工夫次第で乗り越えられる」と判断し、海外から直接の受け入れに踏み出すことにした。
質問:
海外からのインターンシップ生の受け入れについてどのように考えているのか。
答え:
インドの大学側からは、単位認定を前提とした3~6カ月の長期インターンシップを求められることが多いが、それは日本企業の一般的なインターンシップの感覚とは異なっており、受け入れのハードルが高いのが実情だ。そこで私たちが選んだのは、背伸びをせず、段階的に一歩ずつ進めていくということだった。異文化の壁を越えるには、まず日本と当社の環境に慣れてもらい、日々の対話で相互理解と信頼を積み上げることが必要だ。そこで社内の理解と合意を取り付け、まずは単位認定を伴わない約1カ月の短期受け入れからスタートすることに決めた。そして次のステップとして、大学の要件を満たす単位認定型のインターンの実施を検討している。インターン生を受け入れる現場の負担を丁寧に見極めながら、次年度の実施に向けて段階的に設計を進めている。
社内には当初、数カ月単位の受け入れは難しいのではないかという声もあった。それでも、スモールスタートで成果を示すうちに、懸念は共感へと変わっていった。当社は、ダイバーシティ経営を柱に据えており、その具現化の取り組みとして経営層も高度外国人材の受け入れには前向きだ。
追い風となったのが、昨年秋、ジェトロがインド工科大学ハイデラバード校で開催した就職説明会「Japan Career Day」だ。当社からも人材採用・受け入れを担う人事部のメンバーが参加したところ、現地で実際に学生と交流したことで、インド人材への見方が一変し、現場の空気が確実に変わり始めた。
採用は、まずはお互いを知ることが重要だ。小さな一歩の積み重ねが、将来の人材採用や定着へ続く確かな道を築くと信じている。

現地大学訪問で初めて知る、インド人学生たちの熱意

質問:
大学デスクを介した初回面談後、大学との連携はどのように進展しているのか。
答え:
初回面談の際に大学にアポイントメントを取り、2026年1月にパンジャブ大学を訪問した。訪問時は、化学工学の教授やキャリアセンター担当者との意見交換に加え、学生への企業説明およびネットワーキングも実施した。学生によると、日本企業からの直接のコンタクトや来訪は初めてとのことだった。大学側からは歓迎され、学部3年生を中心に約60人の学生が参加した。ネットワーキングでは、会社紹介を行った後、当社がインド人材に着目する背景や求める人物像などについて説明し、相互理解を深める機会を持った。その後、複数の学生からインターンシップ参加への関心が寄せられ、具体的な手応えも得られている。
2026年4月に再び同大学を訪問し、今度は学生との座談会を実施した。同大学は日本の大学と交流を進めていることから、来日して日本企業を訪問した経験を持つ学生も多く参加し、日本企業への理解は一定程度進んでいると感じた。対話を通じて、日本での就労に関心を持つ学生が多く、インターンシップへのニーズも高いことが確認できた。

パンジャブ大学で自社の紹介をする黒田氏(本人提供)
質問:
今後の展開は。
答え:
定期的に同大学を訪問し、教員や学生との交流を継続し、関係を深めていく予定だ。今後は、若手技術者の同行も検討したい。
前回の訪問で、パンジャブ大学には一定数、日本企業でのインターンシップ希望者がいることが分かった。一方、彼ら全員を当社だけで受け入れることは容易ではないとも感じた。こうした機会を有効に生かすため、同様にインターンシップ受け入れを検討する他の日本企業と連携し、受け入れノウハウや工夫を他社とも共有しながら、持続的なかたちで同大学学生の日本への受け入れ機会を広げていけないかとも考えている。
また、将来的には「採用」だけでなく、パンジャブ大学との産学連携も含めた継続的な関係構築も検討したい。インドは当社にとって今後も重要な地域であり、足元の採用だけでなく、じっくりと時間をかけて日本企業への期待に応えていきたい。大学側も「米国や欧州だけでなく、日本企業ともつながりたい」というニーズを持っているものの、「どうすればいいか分からない」と話していた。今回お互いの顔が見えたことで、長期的な連携に向けた道筋ができたと感じている。

インドの大学との連携を活かし、次なる展開へ

石原産業は、ジェトロの大学デスクの支援でインドの大学とのオンライン面談を実現し、現地訪問や学生との直接対話、そしてインドからのインターンシップ受け入れに向けて、取り組みを進めている。海外から直接の人材受け入れに対する社内の懸念を、着実な取り組みの積み重ねにより共感へと転換し、体制を整えてきている。同社の取り組みは、将来の人材採用につながる有効なアプローチの好例といえるだろう。


注:
外国人留学生等の高度外国人材を対象とした、ジェトロ主催のオンラインジョブフェア。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ)
2025年、ジェトロ再入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課 プロジェクト・マネージャー
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ジェトロ京都、ジェトロ・コロンボ事務所長を経て現職。