ドローンやAI、最新テックを世界の警察現場へ(シンガポール)
インターポールのイノベーションの取り組み

2026年5月28日

インターポール(ICPO〔国際刑事警察機構〕、本部フランス・リヨン)がシンガポールに設置したインターポール・グローバル・コンプレックス・フォー・イノベーション(IGCI)は、人工知能(AI)やドローンなどの最新技術を加盟196カ国・地域(以下、加盟国)の警察現場に橋渡しする役割を担っている。2026年10月には、ディープフェイク検知技術を持つ企業を対象としたイベントの開催を予定している。民間企業にとってIGCIとの協業は、どのようなビジネス機会が期待できるか。IGCIの安平俊伸イノベーションセンター局長に聞いた(取材日:2026年4月17日)。


IGCIの安平イノベーションセンター局長(ジェトロ撮影)

サイバー犯罪対策からAIへ、進化する役割

質問:
IGCIの役割と安平イノベーションセンター局長の活動について。
答え:
IGCIは2015年、シンガポール政府の協力の下で設立された。当初は民間企業や大学など外部機関と連携しながら、サイバー犯罪への効果的な対策を検討する拠点として始動した。現在は、より広い分野でさまざまな技術開発が進んでいる状況と各加盟国のニーズを踏まえ、AIやドローンなどの新興技術も対象となっている。これらの技術が犯罪にどう悪用されるか、逆に警察の捜査にどう活用できるのかを検証し、加盟国が次の技術変化に対応できるよう支援することが役割だ。
私は日本の警察庁から派遣(セカンドメント)されており、IGCI内のイノベーションセンター局の責任者を務めている。
質問:
具体的に対象となる技術と、活用例は。
答え:
対象となる技術は、3Dプリンター、仮想現実(VR)、ドローン、AIなど幅広い。例えば、3Dプリンターは拳銃製造にも悪用される可能性があり、この技術の動向を懸念する加盟国が多い。一方、犯罪現場をVRで再現することで、現場を長時間物理的に封鎖することなく、同じ状況を繰り返し確認できるようになる。こうした観点から3Dスキャン技術も有望だ。また、ドローンは航空機の運航妨害や密輸などの犯罪に使われる一方で、国境監視などで積極的に活用されている事例もある。また、AIは既に多くの警察機関で採用されており、その重要性は高まっている。
技術については、どのように犯罪に悪用されるのか、一方で同じ技術が警察ではどう効果的に活用できるのかという、双方の観点から検証している。 最近、インターポールでは、技術がどう警察活動を高度化するかという点に重きを置く傾向になってきた。

テック導入で官民連携を再強化へ

質問:
196に及ぶ加盟国間の技術格差にどう対応しているのか。
答え:
加盟国間では技術水準に大きな差がある。日本のように大手IT企業の拠点があり、新しい技術の導入などについて民間企業に相談しやすい国もあれば、そうした企業が存在せず情報へのアクセス自体が課題となる国もある。そこでインターポールは橋渡し役として、最新技術の情報を集約・共有し、各国における世界の水準の理解を促進し、警察活動の高度化に一翼を担おうとしている。技術進歩は速く、犯罪も国境を越える。だからこそ、国際的な情報集約のハブ機関としてもインターポールの存在意義は高いと思う。
質問:
IGCIの民間企業との連携の方向性は。
答え:
IGCIは設立当初、官民連携こそがサイバー犯罪対策に不可欠という発想から生まれた。その後、官民連携を消極視するような雰囲気も一時あったが、現在は新しい事務総長の方針の下で、民間企業との新たな連携構築に向けた枠組み作りを進めている。今後は、イノベーションセンターが中心となり、企業との連携もより積極的に推進していく方向だ。
質問:
プライバシー保護技術に注目する理由は。
答え:
シンガポールの南洋工科大学(NTU)などと技術的な連携を進めようと検討しているトピックの1つが、プライバシー強化技術(PETs)だ。これは、個人データの保護を強化しつつ、必要なデータの処理や分析を可能にする技術だ。加盟国それぞれの情報共有のルールや制約が存在する中で、PETsを効果的に利用することで、加盟国間で安全に必要な情報が共有されるようになり、国際的な捜査協力がより円滑化されるものと期待している。
質問:
イノベーション拠点としてのシンガポールの強みは。
答え:
私自身の視点でしかないが、シンガポールは重点分野を定めると一気にそれを推進させる意思決定の速い国だと感じている。魅力的な予算で企業や研究者を効果的に集め、短期集中でソリューションを提案するエコシステムが形成されやすい。さらに多くのグローバル企業や機関がアジア地域統括拠点を置いており、課題に応じて関係企業や機関と迅速に連携できる利点もある。新たなテクノロジーを扱うイノベーション拠点として非常に適していると思う。

10月にディープフェイクの検知イベント開催

質問:
今年、IGCIがシンガポールで開催を予定しているイベントの内容は。
答え:
現在、日本政府の支援を受け、ディープフェイクなどAI生成コンテンツへの警察の対処能力向上を目的としたプロジェクトを進めている。その一環として、インターポール主催で「ディープフェイク・チャレンジ」を今年10月に開催する計画だ。これは、画像・映像・音声などが本物か生成されたものかを判定する技術を持つ企業や機関に集まってもらい、それぞれの技術の強みや特性を比較・評価するイベントとなる。加盟国の警察機関も招待し、出席者向けの関連セッションも設ける予定だ。日系企業にとっても自社の技術を国際的な舞台で試し、技術力を発信する好機となると思う。
質問:
民間企業がインターポールと連携するメリットは。その中で日系企業の強みはどこにあると思うか。
答え:
今後、企業との連携の枠組みが整備されれば、加盟国の警察機関に対して自社技術を紹介する機会が増える。また警察のニーズを直接把握することで新たな需要を掘り起こすようなサービスのアイデアにつながることなどが、連携のメリットとして挙げられる。
日本企業の強みは細かなニーズを取り込んだ高機能製品を作り込む力にあるのではないか。インターポールでも日本発の技術や製品は一目置かれることが多い。日本企業の技術力は、国際治安分野でも十分に価値を発揮し得ると考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。