横浜名物「シウマイ」が挑むシンガポール市場

2026年4月10日

崎陽軒(本社:神奈川県横浜市)は、1908年創業の老舗であり、看板製品の「シウマイ」は横浜名物として高い知名度を誇る。同社は現在、日本国内の人口減少を見据え、中長期的な成長戦略のひとつとして海外事業の拡大を進めている。2028年には創業120年、「シウマイ」生誕100年の節目を迎える。同社の海外戦略について、同社海外事業室のレオン・ユン・メン氏にインタビューした(注1)(インタビュー日:2026年3月5日)。

質問:
シンガポールを含む海外展開を加速させている背景は。
答え:
最大の理由は、日本国内の人口減少に伴う市場縮小への危機感だ。当社は横浜・関東を中心とするローカルブランドとしての地位を大切にしているが、持続的な成長のためには国内市場のみならず、海外市場への展開も不可欠だと考えている。現在、売上高に占める海外比率は1%未満だが、将来的にはこれを10%まで引き上げる目標を掲げている。
質問:
重点的にターゲットとしている国・地域はどこか。
答え:
現在は中華圏と東南アジアを主なターゲットとしている。2020年に直営店をオープンした台湾は、日本と同様「駅弁文化」が根付いていることが進出の決め手となった。中国、香港、シンガポール、ベトナム、タイ、フィリピンといった国・地域では、現在、催事出展を通じて販売している。中でも購買力が高く、訪日客も多いシンガポールは、インバウンド需要との相乗効果も期待できる魅力的な市場だと捉えている(注2)
質問:
海外展開を進める上での課題や障壁はどのような点か。
答え:
各国・地域の輸入規制により、豚肉を使用する看板製品「シウマイ」の輸出を見送らざるを得ないケースが少なくない。例えばシンガポール向けの場合、現時点で同製品の輸出は困難な状況にある(注3)。また、タイなどでは詳細なレシピ開示を求められることもあり、企業秘密の保護の観点から展開を断念せざるを得ない製品もある。さらに、ターゲットとする市場では安価な類似商品が広く流通しており、日本品質の優位性や安全性を一般消費者に浸透させるには、時間が必要であると分析している。まずは日本品質に関心の高い層や現地在住の日本人をコアターゲットとして確実にファンを獲得し、その上で現地の消費者へと裾野を広げていく戦略をとっている。

輸入規制の壁を「マグロ」で突破

質問:
それらの課題を解決するための具体的な取り組みについて。
答え:
戦略の要となったのが、マグロを主原料とした新製品の開発だ。マグロは日本を代表する食材として国際的に人気が高く、肉類と比較した場合、厳しい輸入規制を受けにくいという利点がある。また、マグロは当社の看板製品「シウマイ弁当」において、長年親しまれていた定番のおかず(マグロの漬け焼き)だ。開発部門と海外部門で改良を重ね、2025年12月に日本での販売を開始。同時に各国・地域の通関テストを進め、2026年2月、シンガポールのイベントにて海外初のテスト販売を実現した。さらに、常温での保存・流通が可能であることも本製品の強みだ。この製品は海外戦略における強力な武器になると確信している。こうした戦略を支えるべく、ここ2~3年で海外事業体制の拡充(人員体制の強化)も図っている。

崎陽軒の新製品:「真空パックまぐろ(TUNA)シウマイ」(同社提供)

シンガポールを基点とした、ファンの獲得と市場開拓

質問:
現地の消費者の反応はどうか。
答え:
ブランドの知名度はまだ発展途上だが、試食では「肉を使用していないのに美味しい」と驚きの声があがった。シンガポール市場向けには、事前にアレンジレシピを準備して臨んだ。製品パッケージでは、電子レンジや蒸し調理を推奨しているが、現地の調理習慣に合わせ、フライパンやエアフライヤーを用いた調理方法も提案した。こうした調理法によって生まれる「カリカリ」とした食感は、現地でも非常に好評だった。食文化としては、シウマイに親しみがある一方で、タレの好みは日本と異なる。そのため、現地の好みに合わせたチリソースや酢、ゴマソースなどのアレンジしたタレを試食時に提案し、具体的な食シーンをイメージしてもらえるよう工夫を凝らしている。

シンガポールで行われたイベントの様子(ジェトロ撮影)
質問:
今後の展開と、解決すべき課題について。
答え:
まずは百貨店での催事やポップアップを通じたテストマーケティングで実績を積み、将来的には当社のブランド価値や販売方針を深く理解できるパートナーとの常設販売を目指す。並行して、輸出可能な製品ラインアップの拡充にも継続して取り組む方針だ。また、製品力だけでなく、神奈川・横浜という地域の認知度そのものを向上させ、中長期的に愛されるファン形成を推進していく。

注1:
本レポートでは、崎陽軒の表記にならい、「シューマイ」を「シウマイ」と記載する。 本文に戻る
注2:
シンガポールでは、日本は人気の旅行先の1つだ。日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」によると、シンガポールからの2025年の訪日外客数(総数)は約72万人(前年比5.1%増)となり、日本への旅行者数は増加傾向が続く。 本文に戻る
注3:
例えば、シンガポールへの日本産豚肉の輸出は、シンガポール食品庁(SFA)が認定した食品事業所(と畜場、食肉処理場、食品加工工場など)から認定された製品のみ可能。シンガポールの輸入に関する諸規制については、「日本からの輸出に関する制度」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所
中島 諒士(なかしま りょうじ)
2017年、株式会社佐賀銀行入行。
2024年からジェトロ出向。ジェトロ佐賀を経て、2025年4月から現職。