中国新エネルギー蓄電産業の動向と日中協業の可能性

2026年3月2日

蓄電システム(Energy Storage System:ESS)とは、電力を一時的に蓄え、必要なときに供給する仕組みであり、再生可能エネルギーの普及に伴ってその重要性が急速に高まっている。同システムは太陽光発電の変動吸収、電力需給バランスの調整、停電時のバックアップ電源など、多様な役割を担う。

こうした背景から、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、蓄電システムは世界のエネルギー転換を支える不可欠なインフラとして位置付けられている。今後は技術革新の進展により市場拡大が一層進み、同システムはエネルギーシステム全体の高度化において中核的な役割を果たすと見込まれる。

本レポートでは、中国が掲げる「2060年までのカーボンニュートラル達成」の目標のもとで、急速に成長する中国の蓄電産業の動向を整理・分析するとともに、同産業における日本企業のビジネス参入機会や日中協業の可能性について考察する。

中国市場の急速な発展および世界各国の現状

蓄電に関する産業研究を行う団体である中関村蓄電産業技術連盟が2026年1月22日に発表したデータによれば、2025年12月末時点で中国の新型蓄電設備の累計設備容量は144.7ギガワットに達し、前年末比で85%増、前期の5カ年規画である「第13次5カ年規画(2016~2020年)」期間の末時点との比較では45倍となり、中国の蓄電産業は世界最大規模へと成長した。

中国における新型蓄電需要の急拡大は、2020年に中国が発表した「2030年までにCO2排出をカーボンピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを達成する」方針に伴う再生可能エネルギー導入比率の上昇と密接に関連している。また、2022年1月には、国家発展改革委員会および国家エネルギー局が公布した「第14次5カ年規画期間の新型エネルギー貯蔵発展実施プラン」を受けて各地方政府も政策を制定した。その中には、新エネルギー関連プロジェクトの実施にあたって設備容量の一定比率以上の蓄電設備を設置することが定められているものもあり、同産業の成長はさらに加速している。

中国における蓄電市場の急拡大は世界市場にも影響を及ぼしており、他国市場との比較は中国の現状を理解する上で重要だ。主要国・地域の動向を見ると、米国では政策支援を背景に大規模BESS(注1)の導入が進展している。欧州では送電網の安定化を目的とした蓄電導入が急増し、日本では再生可能エネルギーの出力制御対策やレジリエンス強化の需要が市場を牽引している。韓国でも過去のESSの火災事故を受けた安全規制強化後、主要メーカーが業務の重点を車載電池からESSの分野へと移す動きがみられる。また、オーストラリアでは発電に占める再エネ比率の高さから大型蓄電プロジェクトが加速している。

前述のとおり、中国は蓄電設備の量産力と導入スピードにおいて、世界市場をリードする一方、欧米や日本は安全性や長時間蓄電技術(LDES)で優位性を持つなど、地域ごとに異なる強みが形成されている。

こうした世界的な蓄電産業の急成長を受け、中国企業の海外向けの新規受注も急増しており、中国の蓄電企業は国内外の市場で急速に存在感を高めている。

蓄電システムの多様化と中国主力蓄電メーカーの海外展開

蓄電システムは、用途・技術・貯蔵期間といった観点から分類され、それぞれに導入目的が異なる。中国市場ではリチウムイオン電池、全バナジウム液流電池、フライホイール蓄電などの新型蓄電技術が全体の約3分の2を占めており、寧徳時代新能源科技(CATL)・比亜迪(BYD)・恵州億緯鋰能(EVEエナジー)などの主要メーカーが欧州・中東・東南アジアを中心に積極的な事業展開を進めている(表参照)。

表:中国における主要蓄電技術の分類と代表的メーカーの海外展開動向(ーは記載なし)注:揚水発電は既に100年以上の歴史を持つ成熟技術であり、新型蓄電技術には該当しない。
項目 蓄電技術の分類 市場
シェア
(%)
特徴 代表的
メーカー
特徴、海外市場での展開
化学系 リチウムイオン電池 65.8 (1)現在の蓄電市場で最も主流の技術
(2)高エネルギー密度、小型・軽量、長寿命
(3)応答速度が速く、多用途に適合
CATL
(福建省寧徳市)
  • 世界最大の電池メーカーでESS市場でもトップクラス
  • 欧州に多数の大規模工場を保有
  • 欧州・北米の大型案件に採用多数
BYD
(広東省深セン市)
  • 世界4位の電池メーカー
  • 「Battery-Box」で、住宅ESS市場で世界トップクラスのシェア
全バナジウム液流電池
(VRFB)
0.7 (1)出力と容量を独立設計でき、大規模・長時間
放電に最適
(2)20年以上の長寿命、発火リスクが極めて低い
(3)主に大規模系統用途向け
融科儲能
(遼寧省大連市)
  • 中国最大、世界トップクラス
  • 欧州・オーストラリアのプロジェクト向けにスタック/電解液を供給
  • 東南アジア・中東にも輸出
鉛蓄電池 0.4 (1)鉛が安価であり、製造コストが低い
(2)リチウムイオン電池などに比べて重く、大型化しやすい
(3)サイクル寿命が短く、深放電に弱い
天能動力
(浙江省湖州市)
  • 世界鉛蓄電池市場シェア第2位(15.3%)
  • グローバル市場でも販売網を拡大しており、アジア新興国に強み
  • 2025年11月、オランダ事務所を開設、欧州市場向け販売・サービスを強化
ナトリウムイオン電池 0.1 (1)リチウムイオン電池より低コストで安全性が高い
(2)エネルギー密度はやや低め
(3)産業用蓄電を中心に導入が拡大中
恵州億緯鋰能(EVEエナジー)
(広東省恵州市)
エネルギー貯蔵やデータセンター向けとし
て世界市場投入を準備
物理系 揚水発電(注) 31.3 (1)世界の蓄電容量の大部分を占める
(2)低コストで40年以上の長寿命
(3)大規模電力系統で最重要の蓄電方式
- -
圧縮空気エネルギー貯蔵
(CAES)
0.6 (1)空気を圧縮し、地下空洞などに貯蔵
(2)数百メガワット級の蓄電が長時間可能
(3)建設できる場所が限られる
中儲国能
(北京市)
  • 中国で100〜300メガワット級CAESの商用化を実現した主力メーカー
  • 河北省張家口市に大規模製造拠点(年間4セット/100メガワット級)
  • 欧州・中東・アジアの大規模再エネ基地向けに、長時間蓄電技術の導入提案が進む
熱エネルギー貯蔵 0.8 (1)高温塩・岩石・水などに熱として蓄熱
(2)太陽熱発電・産業廃熱利用に活用
(3)長時間蓄熱や蓄冷にも対応
新華発電
(北京市)
  • 熱エネルギー貯蔵、とくに溶融塩(Molten Salt)を用いた太陽熱発電(CSP)+蓄熱の分野で
    中国を代表する企業の1つ
  • 安徽省亳州市にて、溶融塩を用いた100メガワットタワー型CSP+8時間蓄熱プロジェクトを開発
フライホイール 0.2 (1)回転体に運動エネルギーとして備蓄
(2)応答がミリ秒レベルで非常に高速
(3)周波数調整・瞬低補償など短時間用途に最適
瀋陽微控飛輪
(遼寧省瀋陽市)
  • 磁気浮上型フライホイールの中国トップ企業
  • 世界(特にデータセンター・系統用途)で高いシェア
水素エネルギー 0.01%以下 (1)電気を水素に変換して長期保存
(2)数日〜季節間の長期エネルギー貯蔵が可能
(3)インフラ整備コストの高さが課題
双良節能系統
(江蘇省無錫市)
  • 水電解式水素製造設備を提供し、水素製造分野でトップクラスの技術力を持つ
  • 2024年、オマーンの新エネルギー事業(4,000ノルマル立方メートル毎時級水素製造設備)を総額5,832万ドルで落札

注:揚水発電は既に100年以上の歴史を持つ成熟技術であり、新型蓄電技術には該当しない。
出所:公開情報を基にジェトロ作成

中国蓄電産業の急成長の背景

中国の蓄電産業は「需要拡大・政策面の支援・技術競争力・海外市場開拓」という複合要因により、2023〜2025年にかけて新エネルギー蓄電設備を大量に導入しており、蓄電所の運用データや制御ノウハウを蓄積している(図1、図2参照)。

図1:中国における新エネルギー蓄電設備の累計導入容量の推移
2020年の3.28ギガワットから始まり、2021年5.73ギガワット、2022年13.1ギガワット、2023年34.5ギガワット、2024年78.3ギガワット、2025年には144.7ギガワット と、年を追うごとに急速な増加を示している。

出所:中関村儲能産業技術連盟の発表を基にジェトロ作成

図2:中国における新エネルギー蓄電設備の新規導入容量と前年比推移
新規導入容量について、2020年1.56ギガワット、2021年2.4ギガワット、2022年7.3ギガワット、2023年21.5ギガワット、2024年43.7ギガワット、2025年66.43ギガワットと増加。特に2022年以降、導入規模が急拡大している。グラフ内には 前年比伸び率(稼働率ベース) の推移も示されており、2020年から2025年の間で75%から150%の範囲で推移。2023年に150%と最も高くなっており、導入が最も加速した年度であることがわかる。

出所:同上

  • 再エネ比率上昇による蓄電需要の急増:
    「2030年までのCO2排出ピークアウト、2060年までのカーボンニュートラル達成」という国家目標のもと、西北・華北・東北などの各地域において、太陽光・風力発電の導入が進んでいる。出力変動の大きい再エネ発電の導入にあたっては蓄電設備の併設が不可欠であり、再エネ発電の最大出力の一定比率を一定時間備蓄することを求める地方レベルの政策も、蓄電市場の拡大を後押ししている。
  • 政府による支援:
    2025年2月に発表された「新型エネルギー貯蔵製造業の質の高い発展アクションプラン(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」において、蓄電産業の質の高い発展は中国政府が目指す現代化産業体系や新型エネルギー体系の構築にとって強力な原動力となると位置付けられた。同プランでは、蓄電など新型エネルギー貯蔵産業の技術を高度化、スマート化、グリーン化していく方向性が明確に示され、2027年までに同産業の国際競争力を確立するという目標の下で、関連産業の育成が加速している。
  • メーカーの競争力の向上とサプライチェーンの高度化:
    中国の蓄電企業は、大量生産によって価格競争力を高めているほか、安全性向上や長寿命化に向けた技術開発も進展している。また、これらの企業は電池セルから、BMS(注2)、PCS(注3)、EMS(注4)に至るまで主要部材を一貫して供給できる垂直統合型サプライチェーンを構築しており、低コストかつ高速生産を可能とする体制が世界市場での優位性確立につながっているとの指摘がある。
  • 海外受注の急速な拡大:
    中関村儲能産業技術連盟の発表によると、中国蓄電関連企業の2025年の海外新規受注量は約366ギガワット時に達し、前年比2.4倍と大幅に伸長した。納入先は60カ国以上に拡大し、欧州、オーストラリア、中東、北米市場など主要地域で中国企業の存在感が高まっている。

日本企業が注目すべき中国東北地域の新型蓄電関連メーカー

最近の中国市場では、全バナジウム液流電池(VRFB)(注5)やフライホイール蓄電(注6)といった新型蓄電技術が台頭している。東北地域所在の主なプレーヤーの例としてはそれぞれ以下の企業がある。

  • 全バナジウム液流電池:大連融科储能集団
    • 年間生産能力:電池1ギガワット、電解液5.05ギガワット時
    • 中国で約50%の市場シェアを保有。
  • 磁気浮上式フライホイール:瀋陽微控飛輪技術
    • 年間1万1,000台の生産能力を有する。
    • データセンターや電力系統向けに導入実績あり。
    • 高い出力応答性や耐久性を備えており、防災用途やデータセンター向けなどの需要が大きい日本市場との親和性が高いことから、今後さらに存在感を高める可能性がある。

日中協業の可能性と日本企業の参入機会

日中両国は、ともに再エネ拡大とそれに伴う電力系統安定化を重視・推進しており、また、蓄電分野における協業は双方の強みが補完的に機能する点に特徴がある。このため、各企業が経済安保、知財保護に十分に留意することを前提としつつ、今後、両国が協業・連携する余地は大きいと見込まれる。

  1. 日本の基礎研究力と中国の量産力:
    日本は材料、制御、人工知能(AI)需給予測などの先端技術に強みを持ち、中国は量産力とコスト競争力に優れている。両国の強みを組み合わせることで、技術の実用化や市場性の高い商品の共同開発が一段と進展する余地がある。日本企業にとっては、高付加価値材料の供給や制御技術の提供などにおける収益機会の拡大が期待される。
  2. 拡大する日本市場での協業機会:
    日本では系統用蓄電設備の導入が急増しており、中国企業との共同開発や共同参入の機会が拡大している。双方にメリットをもたらす協業モデルが形成されつつあり、日本市場は日中協業の重要な舞台となっている。
  3. 共同事業・投資の拡大:
    CHCJapan(注7)と四国電力・日立製作所による愛媛県松山市のBESS共同プロジェクトなど具体的な協業事例が既に生まれている。今後は、中国大手のCATLやEVE Energyと日本企業による共同開発、合弁会社の設立、商社経由の調達・販売連携など協業のあり方がさらに多様化すると見込まれる。
  4. 日本の課題解決への中国技術の適合:
    日本では再生可能エネルギーによる発電の拡大に伴い、周波数維持や出力変動など系統安定化の課題が深刻化している。一方、中国では大規模蓄電プロジェクトの開発が先行しており、圧縮空気蓄電(CAES)(注8)、全バナジウム液流電池、フライホイールなどの多様な技術で大規模な運用の実績を蓄積している。こうした知見は日本における出力変動・周波数調整といった課題の解決に具体的に寄与し得る。
  5. サプライチェーンの連携・強靱(きょうじん)化:
    全バナジウム液流電池蓄電分野においては、中国メーカーが日本企業を経由して海外の取引先へ電解液を供給する事例も見られる。このように日中企業は競合関係にありながらもサプライチェーンにおいては連携し、その強靭化を図ることが可能である。

中国の新エネルギー蓄電産業は、政策による支援、巨大な市場、量産化によるコスト低下などを背景に急成長しており、2025年には新型蓄電設備の累計設備容量が144.7ギガワットに達する見通しだ。これは再生可能エネルギーの変動吸収や電力系統の安定化を支える基盤となる。また、中国企業による海外受注も拡大しており、リチウムイオン電池に加えて、全バナジウム液流電池やフライホイール蓄電など、多様な蓄電技術の商用化も進展している。

一方、日本企業は、インバータ、DC-DCコンバータ(注9)、パワーデバイス活用といったパワーエレクトロニクスの基礎技術で世界的に高い水準を有しており、電力システムの安定化、周波数調整、再エネ統合に不可欠な高度制御技術で国際的な評価を得ている。さらに、日本は電力変換機器の安全規格、電磁両立性(EMC)への対応、試験環境設計など品質と安全性に関する技術力でも優位性を持ち、中国の電池セル・BMS・PCS・EMSといった量産力とは明確な補完関係を形成している。

今後は、日中間に残る「規格・制度や安全基準の相違」や「知的財産権の管理」といった課題を解消しつつ、共同研究、蓄電所の共同建設、合弁事業、第三国市場への展開など、多様な協業が生まれる可能性がある。また、日本が抱える周波数調整力不足といった系統運用上の課題にも、中国が大規模蓄電システムの導入・運用を通じて蓄積してきた知見が有効な解決策を提供し得る。

総じて、こうした日中協業が進めば、新型蓄電技術の共同開発や第三国市場への展開が一層加速し、新エネルギー市場の拡大やアジア地域における脱炭素化の推進にも寄与することが考えられる。


注1:
BESS(Battery Energy Storage System)とは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電気を蓄電池に貯蔵・供給するシステムを指す。 本文に戻る
注2:
BMS(Battery Management System)とは、リチウムイオン電池などの充電可能な二次電池の電圧、電流、温度を監視・制御し、過充電・過放電・発熱を防いで、安全性と寿命、出力を最大化するバッテリー管理システムを指す。 本文に戻る
注3:
PCS(Power Conditioner System)とは、太陽光パネルや蓄電池などで発電された不安定な直流電力を、家庭や工場で使える安定した交流電力に変換・制御する装置を指す。 本文に戻る
注4:
EMS(Energy Management System)は、工場やビル、家庭などで消費される電気・ガス・熱などのエネルギー使用量をリアルタイムで「見える化(計測・モニタリング)」し、AIやセンサー技術を活用して自動的に最適制御・管理するシステムを指す。 本文に戻る
注5:
全バナジウム液流電池(VRFB:Vanadium Redox Flow Battery)とは、バナジウムのイオン酸化還元反応を利用して充放電を行う、安全性の高い大容量蓄電池を指す。 本文に戻る
注6:
フライホイール蓄電とは、電気エネルギーを物理的な「高速回転する円盤の運動エネルギー」に変換して蓄え、必要なときに再び電気として取り出す技術を指す。 本文に戻る
注7:
CHCJapanはCATLを含む3社が日本国内で系統用蓄電池事業を行うことを目的として設立したCHC Co limitedの子会社。 本文に戻る
注8:
圧縮空気蓄電(CAES:Compressed Air Energy Storage)とは、余剰電力を使ってコンプレッサーで空気を圧縮し、地中やタンクに貯蔵して、必要なときにその空気でタービンを回し発電する大容量蓄電技術を指す。 本文に戻る
注9:
DC-DCコンバータとは、直流 (DC) 電圧を別の直流電圧に変換する装置を指す。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
李 莉(り り)
2007年、ジェトロ・大連事務所入所。経済情報部、進出企業支援センターを経て、対日投資などを担当。2015~18年には、ジェトロ本部(対日投資部)に勤務。