300年越しのリベンジ:茨城県産の日本茶を輸出

2026年6月9日

日本では古来、お茶を楽しむ文化が発達している。近年は海外でも抹茶や日本茶(緑茶)が普及し、今や世界的なブームとなっている。今回は、抹茶を世界各国へ輸出している茨城県結城郡の企業「松田製茶」の松田社長に話をうかがった。同社の海外展開の成功の秘策や、今後の抹茶・日本茶の需要への期待について聞いた(取材日:2026年3月26日)。

世界で拡大する日本茶

農林水産省「令和7年産一番茶の摘採面積、生葉収穫量及び荒茶生産量(主産県)」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、一番茶の主要産県(静岡県、鹿児島県、三重県、京都府、埼玉県)における摘採面積(茶を栽培している面積のうち収穫を目的として茶葉の摘み取りが行われた面積)は2万2,300haで、前年産に比べ5%程度減少している。主要産5県全体での荒茶生産量は2万トンで、前年産より10%減少している。県別では、鹿児島県が初めて1位となり8,440トン、静岡県が前年比10%増の8,120トン、三重県が同8%増の1,940トン、京都府が同19%増の1,070トン、埼玉県が460トンとなっている。

なお、茨城県は、関東地方で埼玉県に次ぐ主要な日本茶の産地であり、年間約200~300トンの荒茶を生産している。古くから「猿島茶(さしま茶)」「奥久慈茶」「古内茶」が三大銘茶として有名だ。特に、本稿で採り上げるさしま茶は、歴史的に海外輸出も行われた代表的なブランドであり、江戸時代から続く特産品で、県内最大の産量を誇る。

日本茶の輸出動向を見ると、2025年は金額ベースで前年比98.2%増の720億円、数量ベースで同43.3%増の12,612トンであった(表参照)。主要輸出国・地域の動向を見ると、1位の米国は、金額が前年比82.6%増の293億円、数量が同55.3%増の4,430トンであった。シェアでは、金額で40.7%、数量で35.1%を占めた。2位はドイツで、金額が同69.4%増の58億円、数量は同23.1%増の877トンであった。3位は英国で、金額が同403.9%増の47億円、数量は同178.2%増の454トンと急増した。その他の国・地域も、台湾(数量のみ減少)以外は、金額、数量とも増加している。日本茶は、輸出額、数量とも近年右肩上がりで推移している(図参照)。健康志向や日本食への関心の高まりを背景に、抹茶を含む粉末茶の需要が拡大している。こうした動きに加えて、海外での抹茶ブームもあり、国内の供給が追い付かない状況が続いている。

表:日本茶の輸出額・数量の年別推移(単位:トン、100万円)(△はマイナス値)注1:2025年の輸出額上位10カ国(地域)を抽出。 注2:HSコード090210、090220(日本茶に該当)。 注3:「-」:単位に満たないもの。「…」:分類のないもの、または品目によって単位が異なるため合計できないもの。
順位 国・地域名 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 前年比伸び率(%)
数量 金額
1 米国 2253.9 10300.9 2123.3 10484.6 2936.4 15689.2 2852.2 16068.9 4430.6 29338.6 55.3 82.6
2 ドイツ 505.5 2021.0 438.0 1756.2 429.5 1879.0 712.6 3399.8 877.3 5759.3 23.1 69.4
3 英国 59.6 309.8 50.7 286.1 72.0 447.5 163.4 927.9 454.4 4675.6 178.2 403.9
4 タイ 201.1 463.8 283.7 638.0 275.6 700.3 477.9 1147.8 906.7 2948.9 89.7 156.9
5 台湾 1496.8 1703.2 1477.3 1884.8 1715.9 2202.2 1690.7 2278.9 1589.4 2564.6 △ 6.0 12.5
6 カナダ 211.9 824.5 301.9 1303.1 224.4 964.7 269.0 1393.7 388.4 2460.4 44.4 76.5
7 オランダ 40.0 180.2 49.9 178.6 60.4 263.4 83.6 377.9 303.1 2245.7 262.3 494.3
8 オーストラリア 87.8 309.2 81.1 348.0 100.9 425.7 166.9 771.5 321.3 2026.0 92.6 162.6
9 マレーシア 216.2 467.6 287.9 589.6 288.8 690.7 470.7 1247.0 506.3 1940.1 7.6 55.6
10 フランス 111.6 378.4 115.1 371.2 142.7 524.1 163.1 954.6 248.3 1913.0 52.2 100.4
世界 6179.0 20418.2 6265.9 21890.6 7579.2 29185.7 8798.0 36379.9 12611.7 72093.5 43.3 98.2

注1:2025年の輸出額上位10カ国(地域)を抽出。
注2:HSコード090210、090220(日本茶に該当)。
注3:「-」:単位に満たないもの。「…」:分類のないもの、または品目によって単位が異なるため合計できないもの。

出所:財務省貿易統計

図:日本茶の輸出額・数量の年別推移
主要輸出国・地域の動向をみると、1位の米国は、金額が前年比82.6%増の293億円、数量が同55.3%増の4,430トン、シェアでは金額で40.6%、数量で35.1%を占めた。2 位はドイツで、金額が同69.4%増の57億円、数量は同23.1%増の877トンであった。3位は英国で、金額が同403.9%増の46億円、数量は同178.2%増の454トンと急増した。その他の国も、台湾以外(数量のみ減)、金額、数量とも増加している。緑茶は、輸出額、数量とも近年は右肩上がりで推移、健康志向や日本食への関心の高まりなどを背景に、抹茶を含む粉末茶の需要が拡大、一方で、海外での抹茶ブームにより、国内の供給が追い付かない状況が続いている。

出所:財務省貿易統計

松田製茶が所在する茨城県は、2023年の農業産出額全国3位を記録するなど、日本有数の農業県だ。本稿のテーマである日本茶は、2020年時点で荒茶を約260トン生産している。一方で、生産者の高齢化や廃園により収穫量は年々減少している。さらに、県内事業者の事業承継が危ぶまれているほか、輸出にあたっては海外の残留農薬規制への対応も求められている。これらの要因から、茨城県における日本茶の輸出量は少ない状況にある。こうした状況の中、松田製茶は近年の抹茶ブームに着目し、抹茶の輸出に取り組み始めた。詳細は後段で説明する。

年々輸出最高額更新中―茨城県の支援制度

松田製茶は、輸出にジェトロや茨城県の支援制度を多く活用している。茨城県は、2024年の農産物・加工食品の輸出が過去最高の73億円に達するなど、食品輸出を伸ばしている。県内では、農家や輸出を検討する事業者への支援が充実しており、国・県・市町村が連携して事業者の支援に取り組んでいる。

一例として、2019年度から毎年、「いばらきチャレンジ基金」という海外販路開拓を支援する補助金の活用を希望する事業者を募集している。展示会出展費用や渡航費を補助する制度で、松田製茶も、本基金を活用して海外展開に取り組む事業者の一社だ。さらに、2026年は、国内外で需要が拡大する抹茶の産地育成に向けた支援も新たに追加される予定だ。育成に乗り出すのは本年度が初めてであり、抹茶の世界的な需要と県内事業者への期待がうかがえる。

歴史ある日本茶を再び海外へ

松田製茶は、自社で日本茶の栽培・加工・販売を行っている。同社が栽培するのは、地域の特産品である「さしま茶」だ。さしま茶は、江戸時代から下総国の名産として多くの人々に親しまれており、日本で初めて米国に渡ったお茶という歴史も持っている。

県産品の日本茶で世界市場を狙う松田浩一氏(代表取締役)は、国内での需要減退をきっかけに、海外展開に関心を持つようになった。海外展開について情報収集する中で、初めて米国に輸出した日本茶がさしま茶であることを知った。そのタイミングで「さしま茶生産者輸出協議会」の一員となり、もう一度さしま茶を輸出しようと一念発起した。茨城県の担当者とともに渡米し、現地の展示会に出展した。しかしその後は、米国をはじめシンガポールやマレーシアにさしま茶を輸出したが、単発の取引に終わった。

転機―抹茶の世界需要に着目

米国での展示会出展を機にジェトロとの接点を持った松田製茶は、ジェトロ主催の国内商談会への出展やジェトロ海外事務所によるブリーフィングなどを通じて市場調査を行った。その後、専門家による伴走支援に申し込み、本格的に輸出に取り組み始めた。

そうした中、健康志向や日本食への関心の高まりを背景に、世界中で「抹茶」の需要が拡大していることを知った同社は、抹茶の仕入れを開始した。以前から「抹茶を海外で販売できないか」という相談を受けていたこともあり、抹茶の輸出にも着手した。ジェトロが運営するオンラインカタログサイト「Japan Street」にも商品を登録し、国内商談会でもPRを行い、徐々に引き合いを増やしていった。

抹茶ブームの波に乗り、EU諸国を中心に引き合いが増加した。2025年のうちにオランダ、ポーランド、デンマーク、米国、インドネシアなど多くの国のバイヤーと成約した。現在は、国内よりも海外での売り上げが勝っている状況だという。伴走支援の専門家への相談やジェトロ海外事務所のブリーフィングにより情報を収集し、抹茶の需要が高い国をターゲットとするなど、ジェトロの海外展開支援サービスをフル活用している。

また、一口に「抹茶」といっても品質によってグレードが分かれる。同社は、手頃なグレードからカフェやレストラン向けの最上級品質まで、多様な品質の抹茶を取りそろえているほか、有機抹茶の仕入れも可能だ。業務用から小売り用まで柔軟に対応し、バイヤーのニーズに応じた提案が成約につながっていると松田氏は語る。

同社が海外バイヤーとのやり取りで意識している点の1つに、レスポンスの速さがある。展示会などでコンタクトしたバイヤーに対しては、当日中、遅くとも翌日までに見積もりを送付するなど、スピードを重視している。ただ、国内での製造作業と海外バイヤーとのやり取りを1人で担うのは難しい。松田氏は、自社の社員と作業を分担し、迅速な対応を実現している。

また、同社はバイヤーと直接取引を行うことも多い。EU向けに有機抹茶を輸出する際には、TRACESというシステムから証明書を発行する必要がある。TRACESは、有機JASなどの有機認証を取得した事業者がEU向けに有機農産物を輸出する際、EU有機との同等性を示すための証明書を発行するシステムだ。輸出者と輸入者、日本国内の認証機関が連携して登録作業を行う。直接取引の際は、同社が輸出者となり登録を行ったが、認証機関との連携がうまくいかず、証明書の発行が遅れることもあった。そのため、輸入者や認証機関と事前に綿密な打ち合わせを行い、迅速に対応することが重要となる。


インタビュー中の様子(ジェトロ撮影)

抹茶ブームへの期待の裏に隠れた懸念と日本茶普及への一歩

松田社長によると、抹茶ブームは始まったばかりで、今後も一定の需要が見込めるという。ただ同時に、中国産の安価な抹茶の流通拡大を懸念している。中国産の抹茶は、日本産の約3分の1程度の価格で確保でき、日本産と遜色ないほど品質も安定しているという。こうした中、価格や品質以外での差別化や、日本の抹茶ならではの魅力の訴求が必要だと考えている。同社は、フルーツ風味のフレーバーを加えた一味違う抹茶(いちご抹茶)を開発するなど、商品開発に力を入れている。

日本茶輸出は江戸時代にさしま茶で隆盛となったが、明治期に入り、米国での「贋製茶輸入禁止条例」の制定による輸入制限や、中国産の安価な製茶の台頭が、日本茶輸出に影を落とした。その後、さまざまな浮き沈みを経て、幕末の日本茶輸出から300年ほど経過した現在、日本茶の輸出を巡る状況は、米国の関税措置をはじめ、中国産の安価な製品の流通などもあり先が読めない。このような状況は、くしくも明治期と似ている。日本茶は今後、「高付加価値化」と「供給制約対応」の両立が競争力のカギとなる。

こうした懸念を抱えつつ、松田製茶は抹茶生産と海外展開の両立を目指し、支援サービスの活用などを通じて販路拡大に取り組んでいる。昨今の抹茶ブームの波に乗り、特産品の「さしま茶」を再び海外で普及させるためのPRにも力を入れていきたいと松田社長は語る。幕末の輸出拡大から約300年、日本茶は再び海外市場への挑戦局面を迎えている。

執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部市場開拓課
新井 剛史(あらい たけし)
1995年、ジェトロ入構。輸入促進、開発途上国支援、貿易投資相談業務などに従事、ハノイ事務所、三重事務所、北九州事務所に勤務。2024年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ茨城
野田 和希(のだ かずき)
2024年、茨城県を拠点とする総合商社に入社。2025年4月よりジェトロ茨城に出向し、民間研修生として勤務。