古野電気に聞く、マレーシアにおける事業展開と現地化戦略

2026年7月17日

兵庫県には、世界トップシェアを誇る技術を持つ企業や、国内有数の流通ネットワークを持つ企業が数多くある。ASEAN諸国の中でも安定した成長を続けるマレーシアにおいて、独自の戦略で事業を拡大している兵庫県企業・古野電気の取り組みを紹介する(取材日:2026年3月3日、4日)。

高度なマリンテクノロジーでマレーシアの海洋産業をリード

マレーシアは、ASEAN諸国の中でも安定した経済基盤と高い購買力を有する市場だ。マレーシア中央銀行(2026年3月時点)によれば、同国の2026年の実質GDP成長率は4.0~5.0%と予測されており、堅調な内需と製造業への投資認可額の増加が経済を牽引している。人口は3,400万人を超え、マレー系、中華系、インド系から成る多民族国家特有の多様な消費文化が形成されているのが特徴だ(注)

また、2026年度同国の予算案では過去最高規模の歳出が計上され、デジタル経済の促進やエネルギー移行、半導体後工程の集積地としての存在感を高めるなど、産業構造の高度化が急速に進んでいる。こうしたダイナミックな環境において、兵庫県に本拠を置く古野電気は、専門領域で独自のローカライズ戦略を展開し、確固たる地位を築いている。

船舶用電子機器の世界的大手である古野電気(西宮市)は、2018年4月18日に現地法人「Furuno Malaysia」を設立した。それまでは、シンガポール拠点からマレーシア市場を管轄していたが、顧客への即応と市場への理解深化のため、現地法人の設立に至った。現地ディレクター(取材当時)であるリー・キアット・セン(Lee Keat Seng)氏の下、財務マネージャー、サービスコーディネーター、そして各製品ラインにひも付く専門エンジニア陣で構成されている。 同社の特筆すべき体制は、製品カテゴリーごとに1人のマネージャーに対して3人のエンジニアを配置する専門特化型の人員配置だ。これにより、複雑化する船舶用電子機器のメンテナンスにおいて、高度な専門性を維持している。

リー氏によれば、同社の主力事業であるマリンソリューション事業は、マレーシアで圧倒的なシェアを有している。特に漁業用PPIソナーのシェアは約90~95%に達し、中小型漁船向け機器でも40~50%を占めるなど、「ソナーといえばFURUNO」というブランドイメージを確立している。海上事業の主力商品には、スキャニングソナー、PPIソナー、魚群探知機、無線通信機器、レーダーなどがある。海上事業以外では医療機器を展開しているものの、現時点では補完的な事業にとどまっている。


国際VHF無線電話装置
同社ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますより引用)

現場主義による差別化戦略

同社によれば、競合する中国や欧州メーカーとの最大の差別化は、製品のスペック以上に「サービス」にあるという。同社の社員は、修理、設置指導やトラブルシューティングのみならず、操作説明や映像調整のために直接船に乗り込むこともある。マレーシアの漁業現場では、機器の故障が休業と収益機会の損失に直結する。同社はこうしたニーズに対応し、船が港に戻る短い時間内に確実に修理を完遂させるスピード感と、対面での技術サポートによって、地元の漁業者やディーラーとの強固な信頼関係を築いている。

マレーシアの漁業市場は地理的に見ると、西海岸は海が深く、漁業が非常に活発なエリアだ。パンタイレミス(Pantai Remis)、スンガイ・ブサル(Sungai Besar)、ランカウイ(Langkawi)などの地域が主要な漁業拠点となっており、同社の高性能機器への需要が集中している。一方、東マレーシア(ボルネオ島)のミリ(Miri)やシブ(Sibu)といった市には、多数の造船所が存在し、新造船への機器パッケージ導入の重要な窓口となっている。

現在(本稿執筆時点)、同社はマレーシア国内に3社、ブルネイに1社の主要ディーラーを抱える。同社によれば、以前は地場や中国系ブランドなどとの価格競争が激しかったが、現地法人設立後は、顧客と「顔の見える関係」を重視し、安価な製品にはまねできないアフターフォローの付加価値を浸透させている。

一方で、ここ2年ほどは市場環境の変化に直面しており、大きく4つの課題がある。1つ目は、補助金制度の変更だ。マレーシア政府による漁業者向けの補助金が近年削減傾向にあり、高額な電子機器の新規購入が抑制されているという。2つ目は、労働力不足だ。背景には、マレーシアで漁業従事者の多くを占める外国人労働者に対する就労規制の強化がある。その結果、操業自体が困難になる漁業関係者が増えている。3つ目は違法漁業の影響だ。ベトナムなど第三国からの違法漁業船の頻繁な侵入により、現地の漁業資源が脅かされ、漁業者の収益性が悪化している。4つ目は顧客側の新規投資の冷え込みだ。コスト負担を抑えるため、新製品への買い替えではなく、修理による「延命」を選択する層が増え、販売サイクルの長期化が課題となっている。

同社はこれらの課題に対応するため、単に製品を販売するだけでなく、養殖場の遠隔監視システムなど省人化・効率化を可能にする新たなソリューションの提案を進めている。従来の「漁業機器販売」から、顧客にとっての「海洋デジタル・トランスフォーメーション(DX)パートナー」へと転換することを図っている。


Furuno Malaysia Directorのリー・キアット・セン(Lee Keat Seng)氏(左側)、
Sales Managerのアルウィン・ウォン(Alwin Wong)氏(右側)(ジェトロ撮影)

古野電気のマレーシアにおける取り組みから、「現地の商習慣を深く理解し、現地にマネジメントを任せること」が成功要因の1つであることが分かる。それは、「日本流の商習慣の押し付け」を行わない柔軟な適応力だ。製品の質や管理体制には日本の基準を維持しつつ、商品ラインアップやサービス体制は現地の市場ニーズや宗教的背景に合わせて大胆に変容させている。兵庫県企業が持つ「誠実な商い」と「確かな技術」は、この変化の激しい市場において、持続的な成長を実現するための何よりの武器となるに違いない。


注:
外務省ウェブサイト:マレーシア基礎データ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ神戸(執筆当時)
長田 悠作(おさだ ゆうさく)
2021年、ジェトロ入構。市場開拓・展示事業部市場開拓・展示事業課を経て、2023年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課、ジェトロ・ビエンチャン事務所、調査部アジア大洋州課を経て2025年11月から現職。