新段階へ、シンガポール、マレーシア、インドネシア越境経済圏

2026年3月5日

シンガポールと国境を接するマレーシア南部・ジョホール州および、インドネシアのバタム島を含むリアウ諸島州では近年、内外からの投資が急拡大している。データセンターの新規設置に加え、米中対立を背景とした中国企業による製造拠点設置の動きも活発化している。新たな段階を迎えたシンガポール、マレーシア、インドネシアの越境経済圏における投資拡大の背景を探る。

経済連携が新段階、コネクティビティーも改善へ

シンガポール、ジョホール州、そしてリアウ諸島州を含む経済圏構想は、1990年代に「成長の三角地帯(SIJORI)」として注目を集めた政府間の取り組みにさかのぼる。多国籍企業の地域統括拠点が集積するシンガポールは、経営コストの高さに加え、土地が限られるという課題がある。一方、近接する対岸のジョホール州と、バタム島などのリアウ諸島州では、豊富な土地と安価な労働力を確保できる。この構想は、シンガポールをハブとし、周辺地域が機能を補完することで、越境経済圏の構築を目指すものだ(2019年3月27日付地域・分析レポート参照)。

近年、政府間の連携は新たな段階を迎えている。シンガポールとマレーシアは2025年1月、ジョホール州に「ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)」を設置することで最終合意した(2025年1月9日付ビジネス短信参照)。特区の設置により、ワンストップ型の投資窓口である「マレーシア投資促進センタージョホール支所(IMFC-J)」が同年2月に設置された(2025年2月20日付ビジネス短信参照)。また、対象分野については、法人税5%を最長15年間適用するなどの優遇措置を含む、新たな税制優遇も導入された。

さらに、シンガポール北部とジョホール州を結ぶ全長約4キロの高速輸送システム(RTS)鉄道は、2026年中の完成が予定されている。現在、両国は2本の橋で結ばれており、越境通勤や通学者は1日約30万人に上る。RTSが2027年に開通すれば、1時間当たり最大1万人超の輸送が可能となる。さらに、両国双方で乗車時に出入国手続きが一括して行えるようになり、国境の混雑が大幅に緩和されることが見込まれている。


シンガポールから見るマレーシア・ジョホール州を結ぶ橋の1つ、コーズウェイ橋(ジェトロ撮影)

インドネシア側との移動時間も短縮する見通しだ。シンガポールのフェリー運航会社であるバタムファストは2026年下半期に、複合企業STエンジニアリング傘下の企業が開発した地面効果翼機「エアフィッシュ・ボエジャー」の運航を開始する予定だ。同機は揚力を利用して水面近くを飛行する。シンガポールとバタム島の移動時間は現行の約45分から約25分に短縮されるという。

データセンターが投資拡大を牽引

ジョホール州やリアウ諸島州への投資は近年拡大する中、その投資内容は大きく変化している。マレーシア投資開発庁(MIDA)によると、ジョホール州への外国投資認可額は2022年に587億8,600万リンギ(約2.3兆円、1リンギ=約39円)となり、前年(40億190万リンギ)を大きく上回った(図1参照)。投資を牽引したのは、シンガポールを拠点とする欧米系や中国系企業によるデータセンターの建設ラッシュである。

その背景には、シンガポール政府が2019年から2022年にかけて、エネルギーや水の使用、電力網への負荷などへの懸念から、新規データセンターの建設を事実上停止(モラトリアム)したことがある。さらに、その後の新規建設に対しても厳しい環境規制が課された。その結果、代替地として広大な用地の確保が可能なジョホール州への立地が加速した。

米国の不動産会社クシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W)の最新レポートによると、ジョホール州におけるデータセンターの電力総容量は、建設中〔合計:315メガワット(MW)〕および計画分(2,099MW)の案件を含めると2025年時点で3,311MWに達する見込みだ。これは、シンガポールの電力総容量1,300MWの約3倍に相当する(注1)

図1:マレーシア・ジョホール州への投資認可額推移
ジョホール州への外国投資認可額は2021年400億1,900万リンギ、2022年、587億8,600万リンギ、2023年310億220万リンギ、2024年296億8,650万リンギ。

出所:マレーシア投資開発庁(MIDA)

JS-SEZの設置発表後も、ジョホール州への投資は一段と加速している。2026年1月26日付の英字紙ビジネス・タイムズによると、マレーシアのアクマル・ナスルッラー経済相は同紙のインタビューで、2025年1~9月のJS-SEZへの投資認可額が680億リンギと、ジョホール州全体の投資認可額(911億リンギ)の75%を占めたと述べた。さらに、IMFC-Jへの問い合わせ件数は、これまでに約1,000件に達したという。

リアウ諸島州でも、投資が拡大している。インドネシア投資調整庁(BKPM)によると、投資実績額が2024年に前年比1.3倍、2025年も27.8%増となった(図2参照)。投資を牽引している分野の1つが、データセンターだ。バタム島北部の情報通信技術(ICT)分野の専門団地「ノングサ・デジタル・パーク(NDP)」には2025年12月時点で、建設中を含め16カ所のデータセンターが集積する。2028年までに全てが完成すれば、電力総容量は600~700MWに達する見込みだ。NDPは合計13本の海底通信ケーブルの陸揚げ地点に近接しており、データセンターの集積を後押ししている。

図2:リアウ諸島州への投資実績額の推移
リアウ諸島州への外国投資実績額は2021年10億4,370万米ドル、2022年9億3,400万米ドル、2023年7億6,410万米ドル、2024年24億8,300万米ドル、2025年27億1,470万米ドル。

出所:インドネシア投資調整庁(BKPM)

バタム島全体では、自由貿易地区(FTZ)として、原材料などの輸入関税や付加価値税が免除される。これに加え、NDPは2021年に経済特区(SEZ)として正式に認定された。これにより、法人税の免除などの優遇措置が適用されるようになり、新たな投資の呼び込みにつながっている。

加速する中国からの投資

さらに、米中対立に伴う関税リスク分散を目的とした投資の動きも、一段と加速している。バタム島で地場パンビル・グループが開発したパンビル工業団地では2023年時点で中国企業の入居はゼロだった。しかし、2025年11月時点では入居企業全41社中13社を中国のエレクトロニクス関連の企業などが占め、国・地域別で最多となった。シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所のレポート(注2)によると、バタム島への外国投資の国・地域別での順位で、中国は2019年の10位から、2025年にはシンガポールに次ぐ2位に浮上した。中国との貿易が拡大する中、バタム島のバトゥ・アンパー港では2024年3月から、中国への直行定期コンテナ航路も開設されている。

新たな工業団地開発の動きもある。シンガポールの大手複合企業セムコープ・インダストリーズは、再びバタム島で工業団地の開発に乗り出している。同社はインドネシアの財閥サリム・グループと合弁で、1990年からバタム島でバタミンド工業団地、1993年からビンタン島でビンタン工業団地の開発を進めてきたが、2019年にこれら両団地の開発事業から撤退していた。セムコープは2024年8月、パンビル・グループと、バタム島における環境配慮型の「テンビシ・イノベーション・ディストリクト(用地面積:100ヘクタール)」の開発に関する覚書(MOU)を締結している。

人件費上昇などへの懸念も

ジョホール州やバタム島などの投資環境が大きく変わる中、既存の進出企業からは今後、人件費が一段と上昇することへの懸念の声もある。ジェトロの調査では2025年3月時点で、ジョホール州には日系企業159社が拠点を置く。バタム島の日本人会には2025年11月時点で、日系企業23社が登録している。

ただ、ジョホール州とリアウ諸島州は、従来の労働集約的な作業を担う拠点からの脱却を進めている。今後は、人工知能(AI)の普及を背景に、両地域におけるデータセンター設置の動きがさらに加速する可能性もある。シンガポールを取り巻く越境経済圏地域では、新たな産業集積モデルへの転換が進みつつある。


注1:
C&Wの「2025年下半期アジア太平洋地域データセンター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、シンガポールのデータセンターの総容量は稼働中が合計1,043MW、建設中が20MW、計画分が237MW。 本文に戻る
注2:
ISEASユソフ・イシャク研究所、2025年12月発表レポート「新型コロナ禍後のバタムPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.35MB)本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。