脱炭素を支える蓄電池(世界)
燃料電池・蓄電池市場の展望(前編)

2026年8月31日

世界的な脱炭素化の流れが加速する中、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大やモビリティーの電動化、水素エネルギーなどの活用が重要な課題となっている。

本稿では、ジェトロが2026年6月30日に実施したウェビナー「カーボンニュートラル促進に向けた燃料電池/蓄電池の活用」の内容(2026年7月10日付ビジネス短信参照)を基に、両技術の特徴や市場動向、日本政府の政策、今後の展望について、前後編に分けて概観する。前編では蓄電池を取り上げる。蓄電池市場は電気自動車(EV)向け需要が成長を牽引してきたが、近年は再エネ導入拡大や人工知能(AI)向けデータセンター(DC)需要の増加を背景に、系統用蓄電池を中心とする定置用蓄電池の重要性が高まっている。

多様な用途で広がる蓄電池需要

蓄電池は電気を貯蔵し、必要なときに利用できる技術であり、脱炭素化を支える基盤技術の1つだ。最大の用途はEV(注1)向けの車載用蓄電池であり、世界各国で進む自動車の電動化を背景に市場が急速に拡大している。また、再エネの導入拡大や電力需要の増加に伴い、系統安定化や電力の有効活用を支える技術としても重要性が高まっている。

太陽光発電や風力発電は、天候や時間帯によって発電量が左右される変動性再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy:VRE)であるため、安定的な電力供給には需給調整が欠かせない。これまでその役割は主に火力発電や揚水発電(注2)が担ってきた。しかし、再エネ比率の上昇に伴い、火力発電などによる従来型の需給調整だけでは対応が難しい場面が生じている。電力需要や送電容量を上回る発電が見込まれる場合、発電事業者に一時的な出力抑制を求める「出力制御」も増加している。こうした課題に対し、蓄電池は余剰電力を蓄え、不足時に放電することで、再エネの有効活用と電力系統の安定化に貢献している。

蓄電池は、主な用途別に、(1)移動手段として利用されるとともに蓄電機能を備える「車載用蓄電池」、(2)電力系統の安定化を目的とする「系統用蓄電池」、(3)家庭における電力の有効活用を目的とする「家庭用蓄電池」などが挙げられる。

車載用蓄電池は、EVの動力源として利用される。EVにはバッテリー式電気自動車(BEV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)などが含まれる。このうちBEVは、駆動エネルギーを全て蓄電池から供給するため、他の電動車と比べて大容量の蓄電池を必要とする。そのため、各国で脱炭素化に向けた規制強化や電動化政策が進む中、BEVの普及拡大は車載用蓄電池需要を大きく押し上げており、蓄電池市場全体の成長を牽引する最大の要因の1つとなっている。

系統用蓄電池は、送配電事業者や発電事業者が導入する大規模設備であり、需給バランスや再エネの出力変動に応じて充放電を行うことで、余剰電力の有効活用や電力系統の安定運用に貢献する。家庭用蓄電池は、太陽光発電設備と組み合わせて導入されることが多く、日中に発電した電力を蓄えて夜間に利用することで、電力購入量の削減やエネルギー自給率の向上を可能にする。

再エネ導入拡大で定置用蓄電池の需要も増加

蓄電池市場は世界的に急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)によると、リチウムイオン電池の世界導入量は2025年時点で1,600ギガワット時(GWh)を超え、2020年比で約6倍に成長したとされる(図参照)。EV向けが需要の中心であるものの、再エネ導入拡大を背景に、定置用蓄電池の需要も着実に増加している。

図:リチウムイオン電池の用途別導入量(2015~2025年)
リチウムイオン電池の用途別世界導入量について、2015年から2025年までの推移。リチウムイオン電池の世界導入量は、2015年80ギガワット時(Gwh)、2016年104Gwh、2017年133Gwh、2018年181Gwh、2019年212Gwh、2020年270Gwh、2021年470Gwh、2022年710GWh、2023年990GWh、2024年1260GWh。2025年の推計値は1,600GWhを超え2020年比で約6倍に成長したもよう。2024年の用途別内訳は、EV用が75%、定置用蓄電池向けが13%、携帯電子機器用が5%、その他が7%。

注:2025年のデータは、利用可能な最新データに基づく推計値。
出所:IEA「Global battery markets are growing strongly – and so are the supply risks」を基にジェトロ作成

一方で、2030年の需要予測は約1,600~約2,900GWhと、調査機関により幅が大きい。市場の成長性が高い反面、将来需要には不確実性も残る。

こうした中、日本政府は蓄電池産業の競争力強化を進めている。2025年2月に閣議決定されたGX2040ビジョンPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.1MB)では蓄電池を重要物資と位置付け、2026年6月には「蓄電池・電源産業戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.98MB)」を発表(注3)した。2030年から2030年代半ばまでに、年間150GWhの国内製造基盤の確立を目指すとともに、高付加価値なニーズに応えられるよう、蓄電池を中心とした総合的な蓄電ソリューションを提供する産業競争力の強化を重視している。一方で、蓄電池の主要原材料であるリチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛などの重要鉱物は特定国への依存度が高く、地政学リスクや輸出規制による供給不安が懸念されている。調達先の多角化や海外鉱山権益の確保、リサイクルの推進などを通じたサプライチェーン強靱(きょうじん)化を重要課題に位置付けている。

ウェビナーでは、蓄電池の活用事例として、ベトナムのスタートアップ、アルテルノ(Alterno)(2025年11月27日付ビジネス短信参照)が紹介された。同社は茨城県つくば市に日本拠点を設立し、砂の蓄熱能力を活用した熱エネルギー貯蔵技術「サンドバッテリー(砂電池)」を開発している。再エネ由来の余剰電力を熱に変換し、熱エネルギーを砂に蓄える仕組みだ。どこでも入手できる砂を利用し、化石燃料由来の熱利用を代替することで、低コストかつ二酸化炭素の排出削減が期待できる。また、従来の可燃性電解液を用いるリチウムイオン電池と異なり、発火リスクが低いことも特徴として挙げられる。

拡大するDC向け蓄電池需要

昨今、AIの普及やデジタル化の進展に伴い、DC向けの電力需要が世界的に急増している。DCは社会や経済活動を支える重要なデジタルインフラであり、24時間365日の安定運用が求められることから、信頼性の高い電力供給が不可欠だ。

非常時のバックアップ電源としてはディーゼル発電機などが主流で、蓄電池は停電時に非常用発電機へ切り替わるまでのバックアップ電源として利用されてきた。しかし近年は蓄電池の大容量化が進み、停電対策に加えて、再エネの活用拡大や電力コストの最適化、事業継続計画(BCP)の強化、さらには脱炭素化への対応を目的とした蓄電池導入の動きが少しずつ広がっている。従来の非常用電源としての役割だけでなく、再エネ由来電力の有効活用や需要ピークの平準化にも活用できるため、DC運営の効率化と脱炭素化の両立に貢献する設備として注目されている。

また、AI向けDCは大量の電力を消費する。GX2040ビジョンでは、脱炭素電源が豊富な地域への立地を促進する方針を示している。電力供給とDC立地を一体的に計画する「ワット・ビット連携」(注4)を通じて、クリーンエネルギーの有効活用と地域分散型の産業集積を実現し、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素の同時達成を目指している。また、前述の「蓄電池・電源産業戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.98MB)」においても、AI向けDC需要の拡大が重要な市場機会として挙げられている。DCの新設・増設が進む中、定置用蓄電池は電力の安定供給や再エネ活用を支える設備として、その役割が増していくとみられる。


注1:
本稿ではEV=電動車全般を指す用語として用いる。 本文に戻る
注2:
夜間など電気の使用量が少ない時間帯に余剰電力で揚水ポンプを動かし、水を低い場所から高い場所へくみ上げ、日中など電気が多い時間帯にその水を落として水車を回し、発電する方式。 本文に戻る
注3:
「蓄電池産業戦略」(2022年8月)を「蓄電池・電源産業戦略」(2026年6月)へ改訂。 本文に戻る
注4:
脱炭素電源の発電設備や電力系統などの電力インフラの整備、DCの立地、通信インフラの整備などについて、全体最適を考慮しながら効率的に進め、電力と通信を効果的に連携させていくこと。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロイノベーション部戦略企画課(執筆当時)
齋藤 碧(さいとう あおい)
2023年、ジェトロ入構。2023年から現職。