インドでテレマティクス型保険、三井住友海上の現法チョラMSに聞く

2026年6月18日

インドの損害保険(以下、損保)市場は、外資企業を含む民間企業の参入が自由化された2000年以降、着実に拡大している。国内の2024年度(2024年4月~2025年3月)の総元受保険料収入(Gross Direct Premium Income:GDPI)は、338億4,000万ドルだ。市場規模で言えば日本の損保市場の約半分だが、飽和状態にある日本市場とは異なり、堅調な経済成長や自動車販売台数の増加などを背景に、成長が十分に見込まれる。

日系大手損保の三井住友海上火災保険(以下、三井住友海上)の現地法人チョラマンダラムMS社(以下、チョラMS)は、2024年にインド国内で初めて、車載通信機器(DCM)から直接走行データを取得するテレマティクス型保険「Pay How You Drive」を展開した。チョラMSアソシエイトバイスプレジデントの黒井俊宏氏、山本拓磨氏に、インド損保市場の実態および同社の事業内容について聞いた(取材日:2026年4月21日)。


右から黒井氏、山本氏(同社提供)

医療・自動車保険を中心に過去10年で着実に成長

現在、インドの損保会社は国内に計35社存在する。内訳は、一般損保会社が25社(国営4社、民間21社)、医療保険を専業とするスタンドアロン医療(SAHI)が8社、政府系の固有損保(農業・輸出信用)2社で構成される。図1は、インドにおけるGDPIの推移を示している。2024年度のGDPIは、2015年度(106億ドル)から10年間で約3倍にまで拡大した。また、図2は2024年度のGDPIのカテゴリー別内訳を示しており、医療保険(41.4%)と自動車保険(32.2%)で全体の7割超を占めている。

図1:インドにおけるGDPIの推移
2015年度106.0億ドル、2016年度140.9億ドル、2017年度165.7億ドル、2018年度186.4億ドル、2019年度207.8億ドル、2020年度218.6億ドル、2021年度242.8億ドル、2022年度282.6億ドル、2023年度318.6億ドル、2024年度338.4億ドル。

注:1ルピー=0.011ドルに換算。各年度の期間は4月~翌3月を指す。
出所:インド保険規制開発局「Hand Book on Insurance Statistics 2024-2025」を基にジェトロ作成

図2:2024年度GDPIのカテゴリー別内訳
医療保険41.4%、自動車保険32.2%、火災保険7.9%、海上保険1.8%、その他16.7%。

出所:インド保険規制開発局「Hand Book on Insurance Statistics 2024-2025」を基にジェトロ作成

保険引受利益は各社赤字も、運用収益で黒字化

インドの損保市場が拡大する一方、損保会社の本業の利益を示す保険引受利益(注1)は、過去10年間マイナス(赤字)が続いている(図3参照)。会社単位で見ても、地場・外資を含む全ての損保会社が保険引受利益で赤字の状況だ。日本の損保会社の場合、火災保険などの商品によっては赤字も見受けられるが、全体で見ると黒字となる場合が多い。チョラMSによれば、保険引受利益の赤字化は構造的な要因であり、「厳しい価格競争」が影響しているという。インドでは、保険商品を購入する際、補償内容(サービス)よりも保険料(価格)を優先する傾向が著しく強い。また、一部の保険商品を除いて保険料率は自由に設定することができる。そのため、過度に競争原理が働き、リスク量に見合った保険料の確保よりも、シェアの拡大・維持の観点から、各社とも保険料の引き上げに踏み出すことができない状況にある。また、損保商品はブローカーや代理店経由での販売が中心だが、シェア拡大のために保険会社同士による仲介手数料引き上げ競争も発生している。これらの理由から、保険金支払費用や事業費に係るコストが増幅し、保険引受利益は赤字になるという。

しかし、保険会社の利益は保険引受利益だけでなく、保険料を運用することで得られる運用収益も存在する。運用収益については、インド国内の金利が高水準であるため、得られる利回りも高い。その結果、運用収益のプラスが保険引受利益のマイナスをカバーするかたちとなり、最終的に各社とも黒字となっている。

図3:インド損保会社の保険引受利益の推移
2015年度マイナス16.5億ドル、2016年度マイナス21.6億ドル、2017年度マイナス16.9億ドル、2018年度マイナス24.6億ドル、2019年度マイナス26.1億ドル、2020年度マイナス22.0億ドル、2021年度マイナス35.0億ドル、2022年度マイナス36.1億ドル、2023年度マイナス31.4億ドル、2024年度マイナス33.3億ドル。

注:1ルピー=0.011ドルに換算。各年度の期間は4月~翌3月、「△」はマイナスを示す。
出所:インド保険規制開発局「Hand Book on Insurance Statistics 2024-2025」を基にジェトロ作成

テレマティクス型保険をインドに導入

チョラMSは、三井住友海上とチェンナイに本拠地を置く財閥「ムルガッパ・グループ」の合弁会社として2003年に設立された。現在の出資割合は三井住友海上40%、ムルガッパ・グループ60%となっている。主な商品チャネルは、個人向けの自動車保険と医療保険で、全体の7~8割を占めている。2024年には、自動車事故の発生率の低減と、それに伴う損害率の改善を目的としたテレマティクス型保険「Pay How You Drive」をインド国内に導入した。この保険は、自動車に設置した通信機器(DCM)から得られる急加速・急ブレーキ・急ハンドルの回数や速度超過などの運転データを基に、保険料を算出する。具体的には、運転ごとに運転結果を100点満点でスコア化し、年間平均が100点の場合は次回更新時の保険料を25%割引、96~99点の場合は20%割引、75点以下の場合は5%の割り増しをする内容(注2)であり、現在は一部の自動車メーカーに対象を限定した実証段階にある。今後は、テレマティクス機能を基にした「走行距離に応じた保険料の設定」や「衝撃検知時の保険会社への自動通報機能の導入」など、サービス内容のさらなる向上を図る方針だという。

インドローカルに呼応した対応方針を

チョラMSの取締役会長はムルガッパ・グループの会長が務める。また、経営の執行役員(CxO)もインド人のみで構成されており、チョラMSはインド人主体で経営されている。三井住友海上は直接関与を、重要事項の決定やガバナンス領域などに限定し、インド特有の商習慣(高い価格感応度や強い競争社会、地域ごとに異なる文化など)や目まぐるしく変わる業界情勢への対応に柔軟性と迅速性を持たせている。これにより、グローバルプレーヤーでありながら、ローカルに呼応した対応を可能にしている。

加えて、ムルガッパ・グループから三井住友海上へは、パートナーとして「保険技術の提供」も期待されている。三井住友海上は、「Pay How You Drive」や自動車保険の損害査定力向上を企図した「社内損害査定人資格・研修制度」の導入などを通じて、その期待に応えている。三井住友海上は、現在41カ国に拠点を構えているが、日本や他国の基準(スタンダード)がそのまま当該国で通じるとは限らない。そのため、インドにおいても現地市場に合わせたシナジーの創出に努めている。


自動車保険担当チームと山本氏(同社提供)

インド市場での今後の展望

インドのGDPは、「国内需要の堅調な拡大」と「安定的な金融政策」などを背景に、高い成長率が見込まれている。加えて、インドの損保普及率(注3)はわずか1%(世界平均:4.3%)にとどまる。このため、今後も市場拡大の余地は十分にあると考えられる。

三井住友海上はインドを「アジアの主要拠点」の1つとして、今後さらなるプレゼンス向上を目指していく。インドでは交通渋滞が常態化しており、2024年の交通事故による年間死亡者は約18万人と、世界で最も多い。チョラMSは、交通事故発生リスクの低減や、運転手の安全運転促進に向け、「Pay How You Drive」の本格展開を進めていく方針だ。加えて、2026年6月に新社長を迎え、新たな体制のもと、三井住友海上グループとのシナジーの強化と技術移転の拡大を目指していく。厳しい価格競争を強いられるインド損保市場において、チョラMSの取り組みは、当地市場に新たな風を吹き込む可能性がある。また、インドの安心・安全な自動車社会の実現に向けた革新的な一歩となり得る。


注1:
保険会社が契約者から受け取る保険料(正味収入保険料)から、保険金支払・損害調査費などの「保険引受費用」と、事業費に当たる営業費および一般管理費を差し引き、その他収支を加減算して算出される。 本文に戻る
注2:
汎用商品の割引率であり、実際の割引率は異なる場合がある。 本文に戻る
注3:
GDP総額に占める損保正味収入保険料の割合を指す。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。