インドTier2都市における教育環境の特徴
2026年10月8日
これまでインドの高等教育のトップ校は、デリーやムンバイ、ベンガルールといった大都市(Tier1都市)に集中し、就職競争を勝ち抜くにはTier1都市の大学への進学が有利と考えられてきた。インド教育省が発表する「インド国内大学ランキング(NIRF)」でも、上位の大学はTier1都市に集中している。
一方で、昨今のインドでは、大都市以外の中堅都市(Tier2都市)にも有力な高等教育機関が存在しており、地方においても質の高い高等教育を受ける環境が整備されつつある。本稿では、Tier2都市における教育環境の特徴と、それを支える社会・政策的背景について考察する。
インドでは、都市の規模や経済発展に応じて、Tier1、Tier2、Tier3(地方都市)という区分が広く用いられている。しかし、統一的な定義は存在せず、政府機関や民間調査会社によって分類基準が異なる。本稿では、客観性および比較可能性を確保するため、インド政府のHRA(住宅手当)制度上の都市分類を採用し、Xクラス都市をTier1、Yクラス都市をTier2、Zクラス都市をTier3として整理する。なお、Yクラス都市は主に人口50万~500万人規模の都市を指す。
Tier1都市の教育負担とTier2都市の生活環境
近年、Tier1都市では住宅費や生活費、学費の上昇が続いており、教育に伴う経済的負担が増大している。加えて、名門校や有力大学への進学競争が激化しており、学生の心理的負担やストレスの増大が教育上の課題として指摘されている。こうした状況の中、同等レベルの教育をより低コストで受けられるとして、Tier2都市が新たな進学先として注目を集めている。
また、生活インフラの観点から見ても、インド住宅都市開発省(MoHUA)が2021年に公表した「生活のしやすさ指数(EOL:Ease of Living Index)」では、人口100万人以上部門でスーラト(5位)、コインバトール(7位)など、また100万人未満部門でブバネーシュワル(2位)、セーラム(5位)などがランクインしており、生活環境の面でも高い評価を得ていることが分かる。
インド政府による高等教育の地域的拡充
Tier2都市の教育環境が注目される背景には、インド政府による高等教育機会の地方分散に向けた取り組みがある。政府は、高等教育機会の地域格差是正や地方経済の活性化を目的として、インド工科大学(IIT)、インド経営大学院(IIM)、全インド医科学研究所(AIIMS)、インド情報技術大学(IIIT)などの国家的重要高等教育機関を地域中核都市へ設置してきた。その結果、近年はTier2都市にも有力な高等教育機関が所在しており、地域における高等教育機会の拡充につながっている(表参照)。なお、ジェトロではTier2都市にキャンパスを置くIITグワハティを取材し、その特徴や採用動向をまとめたレポートを公表している(2026年2月24日付地域・分析レポート参照)。
また、2020年に打ち出された国家教育政策(NEP2020)もこの流れを後押ししている。NEP2020では、各地域への高等教育機関の整備や研究機能の強化、オンライン・デジタル教育の制度化、高等教育機関の自治化・ガバナンス改革などを重視しており、地域間の教育格差を縮小するとともに、教育の質や成果を重視する方向性を示している。
| 大学名 | キャンパス名 |
|---|---|
| インド工科大学(IIT)(注) | ジャンムー(2016)、ダンバード(2016) 、ダルワード(2016)、ビライ(2016) |
| インド経営大学院(IIM) | ティルチラーパッリ(2011)、アムリトサル(2015)、ヴィシャカパトナム(2015)、ナグプール(2015)、ジャンムー(2016)、グワハティ(2025) |
| 全インド医科学研究所(AIIMS) | ナグプール(2018)、ゴーラクプル(2019)、グワハティ(2020)、ラージコート(2020) |
| インド情報工科大学(IIIT) | ナグプール(2016)、ラーンチ(2016)、スーラト(2017)、ボパール(2017) |
注:過去10年間で設立されたキャンパスを抽出、カッコは設立年。
出所:各大学のウェブサイトを基にジェトロ作成
EdTech産業がデジタル化を牽引
新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、インド政府はPM e-VIDYA
をはじめとするデジタル教育施策を推進し、テクノロジーを活用した教育機会の公平な確保を目指している。PM e-VIDYAは、オンライン学習プラットフォーム(DIKSHA)や教育専門テレビチャンネルを活用し、地域や所得による教育格差の縮小を図る政府主導の施策で、VIDYAはヒンディー語で「教育」を意味する。
インドは約6億人の25歳未満人口を抱えるほか、急速に拡大するインターネット環境や、政府による積極的な教育投資を背景に、世界のEdTech企業から有望市場として注目されており、米国、中国とともに、世界有数のEdTech市場として急成長を続けている。インドでは、BYJU'S(バイジュース)に代表されるEdTech企業が動画教材を活用したオンライン学習や対面指導を組み合わせたハイブリッド型学習を展開し、教育のデジタル化および学習機会へのアクセス向上に寄与してきた。
こうした動きを背景に、オンライン教育やハイブリッド型学習が急速に普及し、Tier2都市の学生でも全国トップ水準の講師や教材にアクセスできるようになり、特にJEEやNEET(注1)などの受験対策、英語教育やSTEM分野(注2)の学習では、地理的な教育格差が大幅に解消されつつある。
こうした流れを受け、質の高い初等・中等教育を受けた学生がTier2都市にも増え、その受け皿として、Tier2都市における高等教育の質も高まってきたと考えられる。
日本企業にとっても注目が高まるTier2都市
日本企業によるインド高度人材の採用に目を向けると、従来のTier1都市の有名大学に依存した人材獲得モデルは、採用コストの上昇や人材獲得競争の激化といった課題に直面している。こうした状況を踏まえると、今後はTier1以外の都市にも目を向け、より広い視野で人材確保の選択肢を広げていく必要がある。
前述したとおり、インドにおけるTier2都市では、生活インフラの高度化、高等教育機関の拡充、EdTech産業の急成長を背景に、質の高い教育を受けられる環境が着実に整いつつある。
一方で、Tier2都市は今後の有望な人材供給源として期待されるものの、依然として、大学や都市によって教育環境やインフラ水準にはばらつきがある。したがって、採用活動や教育機関との連携に当たっては、各地域の実情を踏まえた慎重な見極めが求められる。
Tier2都市における教育環境の向上は、日印間の人材交流をさらに発展させる上で重要なテーマだ。今後は、Tier2都市の大学や教育機関、そしてそこから輩出される優秀な学生にも目を向け、インドの教育環境の発展に一層注目していく必要がある。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
中尾 隆宏(なかお たかひろ) - 2010年、南都銀行入行。2025年、ジェトロ奈良貿易情報センター勤務(出向)。2026年4月から現職(出向)
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ジェトロ・ニューデリー事務所
川崎 宏希(かわさき ひろき) - 2020年、ジェトロ入構。総務部総務課を経て、2023年6月から現職。
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ジェトロ・ニューデリー事務所
ジェニカ・カルラ - 2022年からジェトロ・ニューデリー事務所に勤務。特許、知的財産部門の担当を経て、2024年9月より映画・映像、アニメ、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツのインド展開支援やプロモーションを担当。





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