日系企業との意見交換から見えた中国企業5社のASEAN展開
2026年3月12日
ASEAN主要国において中国企業の進出が加速しており(2026年3月10日付地域・分析レポート参照)、在ASEAN日系企業にとって競合相手としての存在感が高まっている。一方で、中国企業とのビジネス連携を模索する動きもみられる。このような状況を踏まえ、ジェトロは、在シンガポール日系企業とともに、在ASEANの中国企業関係者に対し、当該企業のASEANでの事業方針や体制などの取り組みについて聞いた。「インドネシア中心の市場開拓」「本社主導の強い統制」「価格+流通+デジタル」といった市場攻略、「高報酬+昇進・昇給の早さ」といった人材戦略などがキーワードとして挙がった。
インドネシア市場に注目
中国企業のASEANにおける活動に関心のある在シンガポール日系企業9社(注1)に対し、面談先として関心のある中国企業についてヒアリングを実施し、約70社を抽出した。これらの中国企業について、米国の制裁リストへの掲載の有無などのスクリーニングを行った上で、日系企業の希望が多い順に意見交換会への参加を依頼した。スケジュールなどの調整が整った5社と、2025年11月から2026年2月にかけて意見交換を実施した。参加した中国企業は、ITインフラA社(発表者拠点:シンガポール)、衛生用品製造B社(同インドネシア)、デジタル・プラットフォーマーC社(同インドネシア)、スマート・デバイス製造D社(同ベトナム)、化粧品製造E社(同インドネシア)(注2)の5社。以下では、各社の発表や質疑応答から得られた主なポイントを紹介する。
ASEAN市場について、A社はシンガポールに中国を除くアジア全体のハブ拠点を構え、人口・ビジネスともに成長著しいインドネシアを重要市場として位置付けている。B社は中国からの輸入ではなくインドネシアでの現地生産へと段階的に移行している。今後はインドネシア市場に加え、同国の製造拠点から周辺ASEAN諸国へ輸出する体制に転換する方針だ。C社も、インドネシアは所得水準が必ずしも高くないものの、購買行動が活発でプロモーションへの反応が高い市場であると指摘しており、最優先市場として位置付ける。
中国本社が強い統制力を維持しながら、ASEANにおける事業運営を行っている事例も確認された。D社ではインドネシアの市場規模が大きいことから、日本やインドなどと同様に、中国本社がインドネシアの事業を直接管理する。一方、東ティモールを除くその他ASEAN9カ国の事業のうち、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムは各国現地法人が事業を担う。比較的市場規模が小さいカンボジア、ラオス、ミャンマーは外部ディストリビューターが販売している。E社はインドネシア拠点をASEANにおける事業の実質的な地域統括拠点と位置付ける。マレーシア、シンガポール、タイなどの各国拠点はオペレーションを担うが、意思決定・統括はインドネシア拠点が中心となっている。ただし、最終的な統制・コントロールは中国本社が行う。
中国本社によるトップダウン型の経営体制の一端がうかがえる一方で、現地法人の運営を現地スタッフに比較的任せている例も確認できた。例えば、A社では、各国のカントリーマネジャーは基本的に現地採用のローカル人材が担う。本社からのローテーションによる駐在体制とは異なる。近年は、グローバル展開の推進に向けて、ローカル人材を登用して事業拡大を図る方針を明確にしている。また、E社の担当者は、特にオフライン流通においては、ディストリビューター選定などの流通体制をゼロから短期間で構築する必要があるため、過去にFMCG企業での実務経験のある人材が活躍していると指摘した。人材面について、中途採用者の多くに対し、前職比で約1.5〜2倍の報酬水準を提示されていることに加え、事業拡大スピードが速く、短期間での昇進や裁量拡大の機会が得られる点が人材の確保および定着に寄与しているとの見方を示した。
ASEAN市場での競争優位構築
ASEAN市場での競争優位として、B社は、製品そのものの品質、価格ならびに市場浸透の方法を挙げた。このうち、品質については、同社は他社に先駆けてインドネシア市場で初となる商品を市場に投入した点を指摘。また、競合製品と比較して5〜10%低い価格設定をすることで、消費者が試しやすい価格で提供している点にも言及した。さらには、伝統的市場や地方などの小規模店から参入し、ローカルの信頼を得てから都市部のモダントレードに商圏を広げるボトムアップの戦略を展開していることを紹介。小売側からB社の商品を置きたいという要望が生まれ、メーカーが新商品を小売店の棚に陳列するために支払う手数料(リスティングフィー)などの条件交渉を有利に進めているとした。価格競争力の具体的な実現手段については、詳細な回答は得られなかったものの、まずは事業規模の拡大を優先し、損益分岐点に近い水準で市場開拓を進める姿勢がうかがえた。
また、E社は、ASEAN市場では中国企業の商品に対してこれまで、「模倣」や「低品質」というネガティブなイメージが根強く存在していたと指摘した。一方、消費者は入手のしやすさや機能性を重視する傾向が強く、中国企業であること自体が市場参入や販売拡大において大きな障害にはなっていないとの見方を示した。さらに、高い利益配分や積極的な店頭販売支援などを通じて、流通側からの強い支持を獲得している、と分析した。
E社はソーシャルコマースを通じて急成長を遂げている。ソーシャルコマースでは、販売額の5〜10%程度のプラットフォーム手数料が発生するため、本来はソーシャルコマースでの販売価格が上昇する構造にある。しかし、実際には割引原資の多くがプラットフォーム側から提供されており、販売価格がオフライン小売価格を下回る場合があると指摘した。一方、オフライン小売に対しては、プロモーション費に加え、小売店への割戻金(リベート)、美容部員(ビューティーアドバイザー)の配置などを含め、総合的に15%前後の投資をしている。こうした総投資額の違いについてオフライン小売側に説明することで、チャネル間における販売価格の違いについて理解を得ているとしている。
協業可能性とボトルネック
今回意見交換を行った中国企業からは、日系企業との協業に対する関心が示されるも、意思決定にあたっては中国本社の承認が必要となるケースもある。例えば、B社からは、共同研究開発、品質・プロセス改善(日本企業の品質管理・生産性向上ノウハウの取り込み)、OEM・プライベートブランド(PB)供給(B社が日本企業向けにOEMやPB形態で供給)、ディストリビューションパートナー(日本企業がASEAN域内のディストリビューターとして参画し、B社製品の販売を拡大)などについて関心が示された。ただし、これらの取り組みの意思決定には中国本社の承認が必須であり、現地(インドネシア)拠点の単独では決められないと指摘した。
その他、C社やD社からも、各社の協業戦略や、日系や地場企業などとの協業事例、具体的な協業分野や条件などが紹介された。このうちD社では、日系企業との協業事例が比較的少なかった。D社はこの点について、日本企業を排除しているわけではないとしつつも、中国企業同士のネットワークが強いという現実もあると指摘した。
意見交換において座長を務めたGLOBIS Asia Campusの堤崇士CEOは今回の一連の意見交換を通じて、グローバル展開においては現地化と標準化という相反する要素のバランスについて、産業によって採る戦略は異なると指摘した。特に、消費者向けビジネスでは現地化を進められる傾向にあるものの、今回発表のあった中国企業では、営業・販売面のみをローカライズし、それ以外の機能は標準化する運営がみられた。例えば、E社のソーシャルコマースでもコンテンツは本国から供給するなど、細部までの現地対応を行わない方針が特徴的であったと述べた。また、中国企業の特徴として、本社を巻き込みながらも迅速に意思決定を行い、成果がみられない場合には速やかに撤退するなど、スピードを重視した経営が挙げられるとした。さらに、取り組む領域と取り組まない領域を明確に選択できる点は、日本企業には必ずしもみられない強みである、と総括した。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・シンガポール事務所次長
朝倉 啓介(あさくら けいすけ) - 2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、国際経済研究課、公益社団法人日本経済研究センター出向、ジェトロ農林水産・食品調査課、ジェトロ・ムンバイ事務所、海外調査部国際経済課を経て現職。






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