柿(KAKI)で起こす米国のフードイノベーション
ブランド果物の新戦略

2026年3月25日

日本有数の柿の産地である岐阜県。岐阜大学発のスタートアップ、Umai Japan(ウマイジャパン)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが、米国でフードイノベーション(注1)を起こしつつある。同社は、2023年に杉本稜太代表取締役が同学在学期間中に学生起業家として創業した。皮を剥かずに「丸ごとかぶり付ける」柿をブランド展開して、米国市場への進出を加速している。杉本氏にこれまでの取り組みや今後の展望などを聞いた(取材日:2026年2月4日)。

柿の食べ方のイノベーション

同社が米国展開を進める上で注力するのが「Umai KAKI ミニ」だ。直径3センチほどの手のひらに収まるサイズだが、糖度は従来の柿より高く平均糖度20度を誇る。何より、種が無く、皮を剥かずに食べられることが特徴だ。杉本氏は「かぶり付いて食べることができ、欧米人のライフスタイルに合致する食べ方」と魅力を説明する。実際、2025年秋に米国市場で試験的に販売したところ、瞬く間に数十箱が売れた。加えて、品質が認められ、ニューヨークのスイーツ店からも声がかかった。手ごたえを感じた杉本氏は、岐阜県の自社農場の大半を「Umai KAKI ミニ」に転換し、本格的に米国市場を見据える。

同社の「Umai KAKI ミニ」は、皮を剥く手間をなくし、サイズも小さく、ヘタをつまんで丸ごと食べることができる。手軽で、美味しく、フードロスを最小限にした新たな食べ方の提案は、「ある種のイノベーション」と杉本氏は語る。


北米を狙う「Umai KAKI ミニ」(Umai Japan提供)

杉本氏と柿農家(Umai Japan提供)

岐阜県産の富有柿のブランド展開

杉本氏は、岐阜大学の応用生物科学部在学中に、同県瑞穂市発祥の富有柿(ふゆうがき)を生産する農家で働いていた。海外市場における国産富有柿の可能性を感じる一方で、日本同様に柿を食べる文化のある東南アジアへ渡航し、現地の青果市場を回り、ジェトロの各事務所と情報交換するなどして調査を重ねた(注2)。結論として、杉本氏は「岐阜県の富有柿の大きさや糖度は、世界各地の柿に比べても戦えるだけの競争力がある。箱や包装にこだわってブランド化すれば、ブランド果物としてのポテンシャルがある」と考えた。そこで、大学を休学して岐阜県産の富有柿をブランド化して販売することを決意する。

2023年7月に「Umai Japan」(名古屋市)を設立し、自社の畑で年間5トンを生産した。農家での経験とネットワークを活かし、高齢化、担い手不足、属人化、販路の固定化といった課題解決にも重点的に取り組んだ。また、同社はスタートアップとして、スマート農業機器の開発・実証も行っている。岐阜県が進める「ぎふプライムスタートアップ」(注3)の支援を受けて、小規模農家のサプライチェーンにおける中間コストを見直し、より効率的な生産体制を構築する取り組みを進めた。

その半面、品質向上には手間を厭わなかった。残留農薬検査、微生物検査などの厳格な基準を策定。徹底して安全に配慮した商品「Umai KAKI 富有」として販路に乗せた。杉本氏によると、ジェトロの貿易投資相談などを活用して国内外へ展開を始めると、すぐに効果が出たという。起業後まもなく、羽田発の国際線ファーストクラスで高級フルーツプレートの提供が決まり、シンガポールなどでブランド果物として人気を集めた。国内でも、独特の強い甘みが支持され、時には相場の5倍の価格で取り引きされた。

高品質を売りに、東南アジアよりも検疫や検査の厳しい米国での販売に目標を移した。杉本氏は、「カリフォルニア周辺では、柿を食べる習慣があって柿農家もある。展示会で米国出身者によく声をかけられた。そこで、現地のスーパーの柿を調べると、参入の余地は十分あると思った」と振り返る。同社は、瑞穂市の柿農家だけでなく、岐阜県農業技術センター(岐阜市)とも連携して、米国の検疫と検査の基準を達成。2026年2月時点で、柿を扱う業者としてほぼ唯一、米国向けの供給体制を整えている。


選果の様子(Umai Japan提供)

スマート農業機器の開発などに取り組む
(Umai Japan提供)

「見向きもされなかった柿」

「Umai KAKI 富有」の販路が拡大する中、2023年9月、杉本氏は岐阜県農業技術センターで小さな柿を目にした。当時、同センターの職員に「小さな渋柿の、“渋”を抜くことはできたが、扱い方がわからない」と紹介されたという。この柿は突核無柿(とつたねなしかき)という種無し柿の品種で、希少で風変わりなため面白がって作る柿農家もいるが、通常大きさを競う柿農家の間では特に注目されていなかった。同センターは「渋抜き」することに成功したものの、日本の消費者が柿1個に払うのはせいぜい200円程度だが、コストが掛かって単価が高くなるため、高い品質や技術はあっても、大きく展開できない状態だった。

しかし、この「見向きもされなかった柿」に杉本氏はイノベーションの可能性を感じた。パリッとした皮の食感と高い糖度による強い甘みがあるだけでなく、既存の柿の10分の1程度の大きさで、種が無いため、さっと洗ってかぶり付くことができる。手間が掛からない上に、食後の残りかすが少なくSDGs(目標12)にもつながる。懸案だった渋抜きのコストは、自身が培ってきた自社のブランド化戦略でカバーできると判断した。

同社は、富有柿の生産を、連携してノウハウを共有してきた柿農家に委託した。そして、自社の畑を次々と「Umai KAKI ミニ」用に変えた。杉本氏は「迅速な事業転換を、しがらみなくできるのがスタートアップ企業のいいところ」と笑顔をみせる。

米国での反応

2025年秋、商社とともに米国へ「Umai KAKI ミニ」約30箱を試験的に輸出した。杉本氏は「1箱約150ドルで並べたところ、2~3日で全て売れた。一瞬だった」と振り返る。欧米の大手卸売りから声が掛かったものの、安定した供給を考えて、断念せざるを得なかったほどだという。品質についても、試食やレビューで「世界一美味しい」と高評価を得ることができた。こうした米国での状況を受け、杉本氏は「味の評価以外にも、商品を『かわいい』といって撮影する人も多く、ぜひ岐阜県まで調査に行きたいという経営者もいた。これは、『勝ち筋がある』」と捉えた。


手のひらに収まるサイズのKAKI(Umai Japan提供)

北米で出展した際の様子(Umai Japan提供)

世界中を「Umai(ウマイ)」でつなぐ

米国での反応を岐阜県の柿農家に伝えると、たくさんの喜びの声があがった。杉本氏は、丹精込めて高品質の農産物をつくる人たちへ、しっかりとフィードバックできる生産体制を整えることにもこだわっている。その成果か、提携農家の数は2025年の1年で5倍に増えた。同社の事業規模も、前年度比2.5倍で成長していると語る。

近年、日本の果物輸出は青果物、加工品ともに注目されている(2025年11月28日付地域・分析レポート「広がる日本の果物輸出(1)青果から加工品へ、果実輸出の多層展開」参照)。同社は、「Umai KAKI ミニ」のフードイノベーションを機に、最終的には、大きな富有柿や加工品の販路を広げることを目指している。目標に掲げるのは、柿を食べる文化のさらなる浸透と、日本の美味しいものを「Umai」体験で世界につなげることだ。既存の枠に収まらないスタートアップとして、日本産農産物で世界中を「うまい」の声で満たそうと意気込んでいる。


注1:
「食」を意味する「Food(フード)」と「革新」を意味する「Innovation(イノベーション)」を組み合わせた概念であり、食に関わる仕事や仕組みに新たな技術や工夫を取り入れて、便利で安心、環境に配慮した価値を生み出すことを意味する。 本文に戻る
注2:
日本国内の県別の富有柿の生産量は、2025年3月発表の農林水産省の特産果樹生産動態など調査によると、奈良県874.6トン、岐阜県427.2トン、福岡県390.7トン。 本文に戻る
注3:
産学金官が一体的にスタートアップの創出・成長を支援する「ぎふスタートアップ支援コンソーシアム」により、他のスタートアップの模範となり得る優れたスタートアップを「ぎふプライムスタートアップ」として認定し、重点支援する取り組み。当該スタートアップの成長促進を図り、県内の起業機運の醸成、スタートアップの発展を目指すもの。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ名古屋 中部エコシステム拠点都市コーディネーター
渡辺 広樹 (わたなべ ひろき)
民間テレビ局で報道デスク、デジタルデスクを経験。2025年から現職。スタートアップ支援のほか、海外メディアのプレスツアーを担当。