青果から加工品へ、果実輸出の多層展開
広がる日本の果物輸出(1)

2025年11月28日

日本産の青果物(野菜やフルーツ)は風味の良さ、強い甘さ、外観の美しさなどから海外でも高品質と評価され、近年、輸出が増えている。しかし、生鮮品であることから、収穫時期や収穫量など供給面での課題、リードタイムなどの輸送の課題、また輸出先国の輸入手続きにおける検疫の課題などを避けることができない。

そこで、地域の特産である青果物をフルーツジャムやゼリーに加工することで活路を見いだすことが、日本の食品事業者に着目されている。日本のジャムやゼリーは、使われる青果物の種類が多く、見た目やフレーバーが豊富で味も良いと評価されている。日本産の青果物に対する安心、安全、おいしいというイメージも相まって、海外市場でも受け入れられる可能性がある。前編では、輸出統計をもとに青果物やフルーツジャム・ゼリーの輸出状況について解説し、輸出可能性について分析する。

青果物の輸出状況

2024年の野菜・果実などの輸出は、前年比9.1%増の732億円で過去最高額だった。果実の中でも、輸出額が多い順に、リンゴ(201億円、構成比27.5%)、ブドウ(59億円、同比8.1%)、イチゴ(54億円、同比7.4%)、モモ(30億円、同比4.0%)が続く(図1、表1参照)。また、主な青果物の輸出先国(2024年)を見ると、輸出先上位国では台湾、香港、タイ、シンガポールが多く、輸出額の大半を占める(表1参照)。

図1:輸出する主な青果物品目の内訳(2024年)

注:HSコード=0808.10、0806.10、0810.10、0714.30、0809.30、0714.20、0808.30、0805.21/0805.22/0805.29、0810.70。
出所:財務省貿易統計および農林水産省資料からジェトロ作成

表1:主な青果物の輸出先国・地域(2024年)(単位:億円)
品目 第1位 輸出額 第2位 輸出額 第3位 輸出額 全体
輸出額
政府目標
(2030年)
リンゴ 台湾 156.0 香港 36.4 タイ 3.8 201.4 279.0
ブドウ 台湾 34.8 香港 19.9 シンガポール 2.2 59.3 380.0
イチゴ 香港 38.6 台湾 5.8 シンガポール 4.0 54.0 253.0
かんしょ タイ 11.8 香港 10.6 シンガポール 6.8 36.0 69.0
ながいも(注2) 台湾 17.9 米国 11.0 シンガポール 3.0 33.6 240.0
モモ 香港 21.1 台湾 5.9 シンガポール 1.4 29.5 180.0
かんきつ 香港 6.8 台湾 4.8 シンガポール 1.6 14.9 130.0
メロン 香港 10.2 シンガポール 0.9 マカオ 0.4 12.7 輸出重点品目ではない
カキ(注3) 台湾 4.8 香港 3.8 タイ 1.7 11.3 54.0
ナシ 香港 7.2 台湾 2.2 ベトナム 0.2 10.2 100.0

注1:HSコード=0808.10、0806.10、0810.10、0809.30、0714.30、0714.20、0805.21/0805.22/0805.29、0807.19、0810.70、0808.30。
注2:たまねぎ等を含む。
注3:カキ加工品も含む。
出所:財務省貿易統計および農林水産省資料からジェトロ作成

リンゴ、ブドウ、イチゴ、かんしょ、ながいも、モモ、かんきつ類、カキ・カキ加工品、ナシ、は、農林水産省の輸出拡大実行戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(952KB)(2025年5月)において輸出重点品目として選定され、今後輸出拡大が期待される。同戦略によると、海外で評価される日本の青果物の強みは、「甘くておいしい食味や外観の良さなど高品質」な点だ(注1)。

特に、台湾や香港では、旧正月などでの贈答用や自分へのご褒美用として日本産フルーツは人気だ。2024年8月に台湾の高雄市で開催された日台高雄フルーツ夏祭りの来場者アンケートによると、よく食べる日本のフルーツとして、モモが最も人気で、リンゴ、ブドウ、イチゴが続く。日本のフルーツに対する関心の高さがうかがえる(注2)。

このように、日本産青果物は海外で注目を集めている。その背景に生産者、事業者および品目団体、各自治体などの積極的なプロモーションや営業活動がある。

青果物輸出の課題

まず、青果物の輸出では、生産量の課題が挙げられる。リンゴ、ミカンなど多くの青果物は栽培面積および生産量が減少もしくは横ばい傾向にある中、輸出向けの果実を確保することが課題となる。海外でのニーズが高まったとしても、生産量を急増させることはできない。収穫時期にも制限があるため、青果物の旬や季節、時期によってそもそも供給できないケースもある。

また、青果物の場合、鮮度を保持することも課題となる。新鮮さを売りにする青果物の輸出においては、近隣国・地域を除き、航空輸送でリードタイムを最短にする必要がある。航空輸送ではコスト面でハードルが高い。言うまでもなく、長期保存もできない。

加えて、青果物の場合、輸入国側の植物検疫(侵入を警戒する病害虫対策)や残留農薬基準などの規制によって、輸出できる国・地域が限定的だ。輸出できる場合も、日本と輸出先国との二国間の輸出検疫条件によって、登録生産園地での栽培、登録選果梱包(こんぽう)施設での選果の実施とともに、輸出検査を受ける必要がある(注3)。新規市場への販路拡大は、ハードルが高いのが現状だ。

農林水産省では、これらの課題など、海外の規制やニーズに対応して継続的に輸出に取り組み、輸出取り組みの手本となる産地を「フラッグシップ輸出産地外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」として認定する制度が始まった(注4)。こうした産地の取り組みを横展開し、輸出産地の形成を促進していくとともに、輸出産地の成長段階に応じたこまやかな支援をする。なお、2024年12月時点で、青果物で29産地が認定されている。

青果物加工品であるフルーツジャム、ゼリーの可能性

課題を解決する1つの方策として事業者から期待が高まっているのが、青果物の加工だ。青果物加工品では、摘果(生産過程で摘み取る果実)や、大きさや形の問題で市場に流通しない規格外品、余剰生産品を使って、菓子や果汁、ジャムやゼリーなどに加工することが多い。従来捨てられていたものを加工品として活用することで、生産量の伸びしろや農家の収入増加が期待できる。サステイナビリティー(持続可能性)の観点からも環境にやさしい。また、加工品にすることで収穫時期、収穫量による影響を緩和して、生産調整がしやすくなる。

特に、海外への輸出の観点で、フルーツジャムやゼリーは、添加物や産地証明書など一部規制があるものの、一般的に青果物で輸出する場合より規制が少ない。瓶詰めや袋詰めにすることで長期保存が可能となり、商品や輸出先国によるが、常温での船便輸送も可能になる。

一般的に、日本のフルーツジャムやゼリーは甘さが控えめで素材や酸味を感じるおいしさが特徴だ。使われる青果物の種類が多く、他国産では見られない青果物を使ったものもあり、美しいパッケージやフレーバーのバリエーションの多さなどは日本独特だ。加えて、他の食品と同様に、日本産ということで安心、安全なイメージがあるため、フルーツジャムやゼリーの輸出拡大の可能性はあると考えられる。

フルーツジャム、ゼリーの輸出は数量、金額とも増加傾向

フルーツジャムとゼリー(HSコード:20.07)(注5)の2020年から2024年までの輸出動向を年別に図と表でまとめた(図2、表2参照)。輸出量、輸出金額ともに緩やかに増加傾向で、2024年は輸出量485トン、輸出額4億1,578万円だった。5年前の2020年(284トン、2億4,539万円)から輸出量、輸出額ともに着実に増加していることがわかる。

図2:フルーツジャム、ゼリーの年別輸出動向(2020~2024年)
2020年の輸出数量は284トン、輸出金額は245386円でした。2021年には輸出数量が436トンに増加し、輸出金額も391535円に上昇しました。2022年は輸出数量がほぼ横ばいで457トン、輸出金額は396342円となっています。2023年には輸出数量がピークの548トン、輸出金額も460847円で最も高い水準を記録しました。2024年はやや減少し、輸出数量は485トン、輸出金額は約415780円となっています。このグラフから、輸出数量と輸出金額は2020年から2023年にかけて増加傾向にあり、2024年にはやや減少していることがわかります。

注:HSコードは、2007.10-000/2007.91-000/2007.99-000。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

台湾が輸出先首位。近隣国中心、北米やオーストラリアへ拡大

フルーツジャムとゼリーの2024年の輸出額を国・地域別に見ると、輸出先の1位が台湾で1億958万円(前年比30.6%増)だった(表2参照)。2位は香港で9,855万円(29.6%減)、3位が米国で8,631万円(5.0%増)となっている。2022年、2023年は香港が1位だった。青果物と同様に、近隣の台湾や香港への輸出が目立つが、米国への輸出も同様に多い。そのほか、シンガポール、タイなどの近隣の東南アジア諸国以外に、カナダやオーストラリアも多く、輸出先国の広がりを感じることができる(注6)。

表2:フルーツジャム、ゼリーの輸出額(単位:1,000円、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年 2024年 対前年比
(22/23)
対前年比
(23/24)
台湾 72,074 83,914 109,584 16.4 30.6
香港 125,196 140,044 98,553 11.9 △ 29.6
米国 54,945 82,217 86,315 49.6 5.0
シンガポール 61,768 58,798 64,039 △ 4.8 8.9
カナダ 4,948 19,756 11,107 299.3 △ 43.8
タイ 7,590 8,367 7,719 10.2 △ 7.7
インドネシア 9,403 6,338 7,627 △ 32.6 20.3
中国 33,749 37,565 5,935 11.3 △ 84.2
マレーシア 1,868 1,736 5,035 △ 7.1 190.0
オーストラリア 1,600 2,264 4,472 41.5 97.5
その他 23,201 19,848 15,394 △ 14.5 △ 22.4
総計 396,342 460,847 415,780 16.3 △ 9.8

注:HSコード=2007.10-000/2007.91-000/2007.99-000。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

青果物のフルーツゼリーやジャムへの加工は、輸出拡大に貢献するのみでなく、地元産品や規格外品を使用することで地元活性化にも資する。後編では企業事例を取り上げて輸出状況や海外展開の取り組みなどを紹介する。


注1:
リンゴ、ミカン、イチゴ、ナシ、ブドウ、モモ、カキのそれぞれの品目の輸出状況、海外事情などの詳細は、ジェトロ「輸出品目別レポート」2025年7月を参照。
注2:
台湾輸出支援プラットフォーム「日台高雄フルーツ夏祭り」でのアンケート結果に関するレポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.5MB)」(2024年8月)
注3:
植物検疫関係施設や各国の検疫条件の詳細は、植物防疫所「植物検疫関係施設(輸出関係)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますや、植物防疫所「輸出入条件詳細情報」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。また、日本からの輸出に関する規制や手続きに関しては、ジェトロ「日本からの輸出に関する制度」を参照。
注4:
今後、一層の輸出拡大を図るための取り組み。輸出先国・地域のニーズや規制に対応して、農林水産物を求められる量で継続的に輸出する産地を見える化し、海外バイヤーとのマッチングなどを通じてその商流の拡大を図る。また、これから輸出に取り組もうとする産地の手本として、こうした産地の取り組みを横展開し、輸出産地の形成の促進を目指す。
注5:
輸出統計品目表で、HSコード20.07 ジャム、フルーツゼリー、マーマレード、果実又はナットのピューレー及び果実又はナットのペースト(加熱調理をして得られたものに限るものとし、砂糖その他の甘味料を加えてあるかないかを問わない)。
注6:
中国には、現時点で実質的に輸出できない。東京電力福島第一原発事故に伴う輸入規制において、10都県以外の野菜、果実、茶および乳(各加工食品を含む)の放射性物質検査証明書の検査項目が合意されておらず、証明書を発行できないため(詳細は、農林水産省「中国向け輸出に必要な手続きについて」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。統計上のフルーツジャム、ゼリーの中国向け輸出は、個人利用を目的として越境EC(電子商取引)で輸出されたものである可能性が高い。

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執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
庄田 幸生(しょうだ こうき)
2025年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査を担当。