部品産業強靭化の動きが広まる
2024年のメキシコ自動車産業(2)

2025年7月3日

2024年のメキシコの自動車部品生産額は、3年連続で過去最高額を更新した。メキシコと米国の双方で完成車の生産・販売が増加し、自動車部品産業についても、新型コロナ禍での生産の落ち込みを乗り越えて、成長が続いた。米国のドナルド・トランプ新政権による追加関税や保護主義的な貿易政策の影響が見通せない状況で、2025年もこの伸びが続くかは見通しが困難だ。国内では、鉄鋼製品を中心とした輸入手続き遅延などの課題の改善策や、クラウディア・シェインバウム政権による「プラン・メキシコ」が示す、メキシコ国内でのサプライチェーン拡充政策の行方にも注目が集まる。

伸びは鈍化も、3年連続で最高生産額を更新

メキシコ自動車部品工業会(INA)が2025年3月に発表した2024年の自動車部品生産額は1,216億9,300万ドルだった(図1参照)。コロナ禍直後の2022~2023年の高い成長率と比べると若干見劣りするものの、3年連続で過去最高の生産額を記録した。INAの推定では、2025年も緩やかに成長し、生産額は1,240億1,400万ドルに達する見込みだ。一方で、近年の人件費高騰の流れの中で製造工程の自動化も進展し、自動車部品製造業における雇用は、前年から3万人弱減少した。

図1:メキシコの自動車部品生産額、雇用の推移
2012年の自動車部品生産額は775億6,400万ドル、雇用者数は58万3,000人。2013年の自動車部品生産額は819億1,300万ドル、雇用者数は63万7,000人。2014年の自動車部品生産額は867億9,100万ドル、雇用者数は69万2,000人。2015年の自動車部品生産額は878億6,100万ドル、雇用者数は73万7,000人。2016年の自動車部品生産額は896億700万ドル、雇用者数は77万2,000人。2017年の自動車部品生産額は909億7,800万ドル、雇用者数は83万5,000人。2018年の自動車部品生産額は933億7,000万ドル、雇用者数は88万6,000人。2019年の自動車部品生産額は944億2,900万ドル、雇用者数は86万7,000人。2020年の自動車部品生産額は777億4,900万ドル、雇用者数は86万2,000人。2021年の自動車部品生産額は926億5,300万ドル、雇用者数は83万6,000人。2022年の自動車部品生産額は1,039億7,900万ドル、雇用者数は87万7,000人。2023年の自動車部品生産額は1,211億5,700万ドル、雇用者数は88万3,000人。2024年の自動車部品生産額は1,216億9,300万ドル、雇用者数は85万4,000人。2025年の自動車部品生産額予測値は1,240億1,400万ドル。

注:2025年の数値は推定値。
出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

メキシコ国内の地域別の自動車部品生産額は、大きい順に北部(520億6,500万ドル)、中央高原地帯(通称バヒオ、439億300万ドル)、中部(189億2,900万ドル)となった。この3地域に位置する15州で、総生産額の約95%を占める。北部では2022年以降、自動車部品関連企業の投資発表が盛んに行われたが、2024年は前年比で生産額が約1%縮小した。一方のバヒオは、4%近くの成長を見せた。州別にみると、生産額上位は北部国境コアウィラ州(179億7,400万ドル/全体の14.8%)、バヒオ・グアナファト州(167億5,000万ドル/同13.8%)、北東部ヌエボレオン州(155億6,600万ドル/同12.8%)と例年通りの結果となった(表参照)。上位を占める地域・州の構成に変化はないものの、INAによると、ユカタン州(前年比8.3%増)、サカテカス州(同6.6%増)などの上記主要地域には含まれない州でも、少しずつ生産額が伸びている様子だ。製品分野別では、生産額の大きい順に(1)電子部品、(2)トランスミッション・クラッチ関連部品、(3)座席・カーペット関連部品、(4)エンジン関連部品となった。

表:メキシコの地域・州別の自動車部品生産額とその構成比(100万ドル)(△はマイナス値)
地域・州名 生産額(2023年) 生産額(2024年) 構成比(2024年) 2023年⇒2024年
北部 52,704 52,065 42.8% △1.2%
コアウィラ州 18,355 17,974 14.8% △2.1%
ヌエボレオン州 14,655 15,566 12.8% 6.2%
チワワ州 10,648 10,632 8.7% △0.2%
タマウリパス州 5,094 5,074 4.2% △0.4%
ソノラ州 3,314 3,458 2.8% 4.3%
中央高原地帯(バヒオ) 42,301 43,903 36.1% 3.8%
グアナファト州 15,782 16,750 13.8% 6.1%
ケレタロ州 9,452 9,605 7.9% 1.6%
サンルイスポトシ州 8,242 8,639 7.1% 4.8%
アグアスカリエンテス州 5,096 5,313 4.4% 4.3%
ハリスコ州 3,729 3,595 3.0% △3.6%
中部 19,336 18,929 15.6% △2.1%
プエブラ州 8,084 8,064 6.6% △0.2%
メキシコ州 7,803 7,659 6.3% △1.8%
モレロス州 1,717 1,493 1.2% △13.0%
トラスカラ州 990 967 0.8% △2.3%
メキシコ市 743 747 0.6% 0.5%

注:2023年の生産額は2023年末時点から数値の修正が発生していることから、2024年7月3日付地域・分析レポートの数値とは必ずしも一致しない。
出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

2024年のメキシコの自動車部品の輸出額は、1,060億7,000万ドルを記録した。国内全体の生産額のうち、輸出向けが占めた割合は87.2%(図2参照)。そのうち、86.8%は米国向けで、2位のカナダ(3.9%)、3位のブラジル(1.7%)に大差をつけている。また、2024年の自動車部品輸入額686億3,500万ドルのうち、米国からの輸入は52.2%を占めた。2位の中国(14.1%)、3位の日本(6.2%)との開きが大きいことからも、米国がメキシコにとって確固たる貿易相手国であることに変わりはない。

図2:メキシコの自動車部品生産内訳と輸出比率の推移
2012年の輸出比率は67.1%。2013年の輸出比率は70.6%。2014年の輸出比率は74.5%。2015年の輸出比率は77.9%。2016年の輸出比率は79.0%。2017年の輸出比率は80.7%。2018年の輸出比率は84.9%。2019年の輸出比率は85.9%。2020年の輸出比率は83.4%。2021年の輸出比率は84.7%。2022年の輸出比率は85.8%。2023年の輸出比率は87.1%。2024年の輸出比率は87.2%。

出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

成長する対内直接投資、日系企業による拡張投資も

メキシコの2024年の対内直接投資額(フロー)は、368億7,200万ドルで、2006年以降で最高額となった。その内訳は新規投資31億6,900万ドル、利益再投資287億1,000万ドル、親子間勘定49億9,400万ドルで、8割近くを利益再投資が占めた。投資額全体の約半分を占める198億8,100万ドルの製造業関連投資のうち、自動車産業は93億9,200万ドルを受け入れた(図3参照)。2024年は完成車製造関連の投資が好調で、自動車関連産業全体では過去最高の投資額を記録した。

図3:自動車分野における対メキシコ直接投資額(フロー)の推移
2010年は完成車製造で8億6,700万ドル、自動車部品製造で9億2,900万ドル。2011年は完成車製造で5億1,600万ドル、自動車部品製造で13億2,000万ドル。2012年は完成車製造で11億7,500万ドル、自動車部品製造で19億4,300万ドル。2013年は完成車製造で18億2,600万ドル、自動車部品製造で24億5,900万ドル。2014年は完成車製造で28億9,400万ドル、自動車部品製造で19億9,000万ドル。2015年は完成車製造で32億8,200万ドル、自動車部品製造で24億4,700万ドル。2016年は完成車製造で28億1,500万ドル、自動車部品製造で26億8,300万ドル。2017年は完成車製造で40億6,700万ドル、自動車部品製造で33億700万ドル。2018年は完成車製造で34億8,100万ドル、自動車部品製造で31億5,000万ドル。2019年は完成車製造で43億1,100万ドル、自動車部品製造で32億2,000万ドル。2020年は完成車製造で32億2,100万ドル、自動車部品製造で6億200万ドル。2021年は完成車製造で16億5,200万ドル、自動車部品製造で24億4,300万ドル。2022年は完成車製造で30億2,200万ドル、自動車部品製造で9億4,400万ドル。2023年は完成車製造で50億9,100万ドル、自動車部品製造で20億3,000万ドル。2024年は完成車製造で69億2,500万ドル、自動車部品製造で24億6,700万ドル。

注:2025年4月末確認分。
出所:メキシコ経済省外資局のデータから作成

日系企業による投資もこの例に漏れず、過去最高額を達成した。完成車製造では29億9,100万ドル、自動車部品製造では6億3,300万ドルだった(図4参照)。日系企業による2024年の主要な自動車関連産業投資は、以下の通り。

  1. 1月にペガサスが自動車用ダイカスト部品を生産するヌエボレオン州内の工場拡張を発表。
  2. 3月に横浜ゴムがコアウィラ州に乗用車用タイヤの新工場設立を発表。
  3. 3月にJSPがコアウィラ州に発泡ポリプロピレン材料の生産工場の建設開始を発表。
  4. 6月にリョービがグアナファト州のアルミダイカスト部品生産工場拡張を発表。
  5. 7月にタマウリパス州政府がニデックの工場拡張を発表。
  6. 11月にトヨタがバハカリフォルニア州とグアナファト州でのハイブリッドのピックアップトラック「タコマ」の生産投資を発表。

2024年11月以降、米国でトランプ氏が大統領候補となり、北米の自動車産業に不透明感が漂い始めてからは、日系企業に限らず、新規・追加投資発表の波が落ち着いている。今後は、米国政府による関税政策などが出揃って以降の完成車メーカーおよび自動車部品メーカーの動向に注目が集まっている。

図4:自動車分野における日系企業の対メキシコ直接投資額(フロー)の推移
2010年は完成車製造で2億1,800万ドル、自動車部品製造で200万ドル。2011年は完成車製造で3億3,600万ドル、自動車部品製造で1億1,400万ドル。2012年は完成車製造で7億4,400万ドル、自動車部品製造で5億3,400万ドル。2013年は完成車製造でマイナス2億500万ドル、自動車部品製造で7億9,100万ドル。2014年は完成車製造で11億1,100万ドル、自動車部品製造で6億1,600万ドル。2015年は完成車製造で6億9,500万ドル、自動車部品製造で5億4,400万ドル。2016年は完成車製造で4億5,300万ドル、自動車部品製造で5億2,400万ドル。2017年は完成車製造で11億7,900万ドル、自動車部品製造で4億7,300万ドル。2018年は完成車製造で8億300万ドル、自動車部品製造で6億7,100万ドル。2019年は完成車製造で3億1,900万ドル、自動車部品製造で4億4,300万ドル。2020年は完成車製造で8億8,000万ドル、自動車部品製造でマイナス2,200万ドル。2021年は完成車製造で2億4,300万ドル、自動車部品製造で5億1,100万ドル。2022年は完成車製造で12億8,600万ドル、自動車部品製造で4億1,300万ドル。2023年は完成車製造で16億8,800万ドル、自動車部品製造で8億900万ドル。2024年は完成車製造で29億9,100万ドル、自動車部品製造で6億3,300万ドル。

注:2025年4月末確認分。
出所:メキシコ経済省外資局のデータから作成

鉄鋼製品を巡る措置がビジネスへ大きく影響

2024年のメキシコ自動車部品産業における主要トピックを振り返ると、まず4月中旬に、鉄鋼や同製品の輸入に先立って経済省に行う輸入自動通知に関する制度が改正された(2024年4月17日付ビジネス短信参照)。輸入時に製鋼所の登録が義務付けられるなどの変更が生じたが、制度導入から1年以上経過した本稿執筆時点でも、手続きの遅延や度重なる申請却下による倉庫保管手数料の支払い、客先への納品遅延、さらには生産ライン停止の危機にさらされている企業が少なくない。これは、制度名称が「Aviso(通知)」であるにもかかわらず、実質は「Permiso(許認可)」のような位置づけであり、輸入者からの事前通知に対して経済省からの許可が降りなければ、輸入通関が完了しないためだ。経済省側の処理遅延の背景には、担当部署の人員不足や、担当者の知識・能力不足といった要素が指摘されている。一方、申請却下の理由には必要書類の不足や、ミルシート・品質証明書のスペイン語訳の不備などが散見される。当局側の対応を注視するのみならず、全ての要件を漏れなくカバーした内容で申請を行うことが肝要だ。いずれにせよ、関連製品を輸入する企業の負担が増している状況だ。

4月下旬には、鉄鋼・アルミニウム製品を中心とした多くの品目に対する一般(MFN)関税率が引き上げられた(2024年4月25日付ビジネス短信参照)。これにより、メキシコと自由貿易協定(FTA)を締結していない国から対象品目を輸入する際には、鉄鋼・同製品の場合は平均25~35%、品目によっては50%の一般関税を支払う必要が生じている。対象品目の輸入について、中国や韓国、タイといったFTA非締結国から、日本やベトナムなどFTA締結国の原産品へ調達ラインを切り替える以外の対策としては、PROSEC(注1)を有する企業であればPROSEC税率の適用、あるいはレグラ・オクターバ(注2)の申請で、税率を下げるというアプローチが存在する。しかし、このレグラ・オクターバの利用にあたっても、特にセンシティブ品目(鉄鋼・アルミ・繊維製品など)の一時輸入時には申請や更新ができない、または却下されるといった事例が相次いでおり、当該品目の輸入者にとっての大きな負担となっている(2025年3月17日付地域・分析レポート参照)。

2024年10月にはクラウディア・シェインバウム新政権が発足。これに先駆け、2024年5月には大統領候補者に向けて自動車関連業界の4団体(注3)が「自動車業界との対話を(Dialogo con la Industria Automotriz)」と題されたレポートを提出し、自動車産業の重要性と課題を訴えた(2024年5月27日付ビジネス短信参照)。新政権下での自動車産業の強化が期待される。

米国を警戒しつつも、国内サプライチェーンの強靭(きょうじん)化が進行

第2次トランプ政権の発足以降、各国への追加関税賦課をはじめとする米国ファーストの政策が、密接に絡み合った北米の自動車サプライチェーンを揺るがすのではないかという不安が広がっている。確かにトランプ大統領による米国への製造業回帰を目指す政策がメキシコ自動車産業へおよぼすマイナスの影響に対する懸念の声は少なくない。だが一方で、これまで何年もかけて築き上げられたサプライチェーンを急速に改編する動きについて、金銭的・人的コストの問題から実現性を疑問視する声があるのも事実だ。

一方、メキシコのシェインバウム大統領は、国内投資計画「プラン・メキシコ」を打ち出し、自動車や航空宇宙などの分野のグローバルサプライチェーンにおいて、国産品のシェアを拡大する方針を示した(2025年1月17日付2025年4月11日付ビジネス短信参照)。2025年2月には、半導体の開発・製造を目指したプロジェクト「Kutsari(クツァリ、注4)」を発表した。プエブラ州、ハリスコ州、ソノラ州の3カ所に国家半導体設計センターを設立し、自動車部品や家電、医療機器向け半導体の設計・製造を推進する計画だ。

USMCA域内調達率上昇に向けた取り組みが進行

トランプ政権が適用した、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税(注5)や、1962年通商拡大法232条に基づく自動車部品に対する追加関税が免除されるためには、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たすことが必要だ。ところが、INAによると、2025年第1四半期(1~3月)にメキシコから米国に輸出された自動車部品のうち、USMCAを利用している割合は約5割にとどまる。同利用率を高めることで追加関税の影響を軽減すべく、INAは世界銀行グループの国際金融公社(IFC)とともに、自動車分野におけるサプライヤー支援プログラムを立ち上げた。人員や資金の不足で同分野のサプライチェーン参入に必要な体制や生産設備が整備できていなかったサプライヤーに対し、研修やコンサルティングサービスの提供、仕入れ先や客先の多角化に向けたネットワーク構築支援などを行う計画だ。

目下、自社が生産・供給・納入拠点を持つ国に今後起こりうるあらゆる状況に柔軟に対応できるよう、関税の影響などを踏まえた加工方法、仕入れ方法、在庫管理方法をシミュレーションする在メキシコ企業が増えている。メキシコに集積する多様な産業や、成長の途にある国内市場、そして50を超える国・地域とのFTAなどを活用し、仕入れ先の多角化や参入市場の多様化を想定することの重要性が今後さらに増していくだろう。


注1:
メキシコ政府が国内生産を促進することを目的に指定する24の業種で生産活動を行う企業が登録を行い、特定の部品・原材料、機械設備を優遇関税で輸入できるプログラム。
注2:
PROSECの優遇関税の対象になっていない品目について、国内生産がない、あるいは不十分であることなどを理由に、PROSEC登録企業が経済省から特別輸入許可を個別に取得し、承認された数量枠内に限り、原則無関税で輸入を認める制度。
注3:
メキシコ自動車ディーラー協会(AMDA)、メキシコ自動車工業会(AMIA)、全国バス・トラック・トレーラー工業会(ANPACT)、メキシコ自動車部品工業会(INA)の4団体。
注4:
メキシコ先住民族の言語であるプレペチャ語で「砂」の意味。
注5:
合成麻薬と不法移民の米国への流入が発動の根拠となっている。

2024年のメキシコ自動車産業

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執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
渡邊 千尋(わたなべ ちひろ)
2017年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ・マドリード事務所海外実務研修、ジェトロ茨城での勤務を経て、2022年9月から現職。