電動車輸入増加への懸念と新自動車政策の段階的な実施(ブラジル)
2024年のブラジル自動車産業の動向
2025年6月10日
ブラジルの自動車産業は、中資系メーカーの台頭と連邦政府の新自動車政策「MOVER」の実施により、大きな変化の渦中にある。本稿では、ブラジルの全国自動車製造業者協会(Anfavea)およびブラジル電気自動車協会(ABVE)の統計に基づき、2024年のブラジルの自動車市場動向について報告する。
自動車業界の顕著な成長
Anfaveaが2025年4月に発表した年次報告によると、2024年の自動車(乗用車、小型商用車、バス、トラックの合計)生産台数は、前年比9.7%増の254万9,595台だった。国内販売台数(新車登録ベース)は14.1%増の263万4,904台、輸出台数は1.3%減の39万8,484台であった。Anfaveaは、2025年の生産台数を275万台(前年比7.8%増)、国内販売台数を280万台(6.3%増)、輸出台数を42万8,000台(7.4%増)と予測している(図1、図2参照)。

注:小型商用車は、総重量3.5トン以下の小中型車。ピックアップトラックやバン、救急車などの特殊車両などが該当する。一方で、スポーツ用多目的車(SUV)などは乗用車に分類される。
出所:Anfaveaからジェトロ作成

注:小型商用車は、総重量3.5トン以下の小中型車。ピックアップトラックやバン、救急車などの特殊車両などが該当する。一方で、スポーツ用多目的車(SUV)などは乗用車に分類される。
出所:Anfaveaからジェトロ作成
世界自動車工業会(OICA)の統計によれば、ブラジルは生産台数ベースで2024年にスペインを抜き、世界第8位の自動車生産国となった。同年の販売増加率14.1%は、世界の自動車生産国の平均増加率(2.7%)を大きく上回る。Anfaveaのマルシオ・レイテ会長(当時)は2025年1月14日の記者会見で、「この成長の大きな要因として、金融機関による融資の提供が挙げられる。2024年には自動車ローンの提供が36%増加し、総額は2,000億レアル(約5兆円、1レアル=約25円)以上に達した」と説明した。
ブラジルの全国自動車販売業者連盟(Fenabrave)によると、2024年の中古乗用車・中古小型商用車の国内販売台数は前年比9.4%増加の1,167万5,936台に達し、現行の統計方法を開始した2004年以降で過去最高を記録した。なお、Anfaveaによると、2024年の新車の乗用車・小型商用車の国内販売台数は248万7,536台だった。両方の統計を合わせると、新車と中古車の販売台数合計は1,416万3,472台となり、過去最高を記録した。
電動車市場における中資系メーカーの台頭
パワートレイン別の新車登録台数をみると、ガソリンとサトウキビ由来のエタノールを混合する燃料で走行するフレックス燃料車が196万7,275台(シェア74.7%)で大宗を占め、次いでディーゼル車38万6,651台(同14.7%)、ガソリン車10万2,484台(同3.9%)と続く。内燃機関を有する車両が国内販売の約93%を占める。一方、電動車〔バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HEV)の合計〕は17万8,183台(同6.8%)だった(表参照)。
燃料の種類 | ガソリン | エタノール | フレックス燃料 | 電気 | ガス | ディーゼル | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
台数 | 102,484 | 20 | 1,967,275 | 178,183 | 291 | 386,651 | 2,634,904 |
シェア | 3.89% | 0.001% | 74.66% | 6.76% | 0.011% | 14.67% | 100% |
出所:ANFAVEA 2025年ブラジル自動車産業年次報告からジェトロ作成
ABVEの統計によると、近年、電動車の国内販売台数が急増している。2024年の販売台数は過去最多を更新し、2023年と比べて約90%増加した。そのうち、BEVとPHEVの増加幅が特に大きく、BEVは前年比3.2倍、PHEVは1.9倍に増加した(図3参照)。

出所:ABVEからジェトロ作成
電動車市場において、中資系メーカーはBEVで85.1%、PHEVで80%と圧倒的なシェアを握る。ブラジルで販売されているBEVおよびPHEVは、小型トラックなどを除き、全て輸入車である。このため、国内に生産拠点のある自動車メーカーを傘下企業に持つAnfaveaは、中資系メーカーの台頭に繰り返し懸念を表明してきた。2024年9月には、ブラジル貿易審議会(CAMEX、注1)に対し、電動車の輸入関税減免措置の即時廃止を正式に要求した。CAMEXは現在、この要求について審議中である(2024年12月13日付地域・分析レポート参照)。
Anfaveaのイゴール・カルベ会長は、現地紙エスタード(2025年4月30日付)のインタビューで、「中資企業による不当廉売の可能性についても調査中」と述べた。
一方、中国大手BYDは2025年2月23日にCAMEXに対し、BEVおよびPHEVのノックダウン用(CKD)およびセミノックダウン(SKD)用の輸入部品に対する関税を、2028年までにそれぞれ5%と10%へ引き下げるよう要請した(注2)。CAMEXはこの要請も審議中だが、Anfaveaは、SKDおよびCKD生産の国内産業への貢献は限定的だとして、反対を表明している。カルベ会長は「これは屈辱だ。ブラジルに対して失礼だ。数十年間ブラジルでの現地生産のために投資し続けた我々に対しても労働者に対しても屈辱だ」と、同インタビューで強い不快感を示している。
CAMEXがいずれの要請に対して先に結論を出すかは不透明だが、Anfaveaと中資系メーカー間の緊張は、引き続き注視すべき重要な点である。
新自動車政策「MOVER」の進展
2023年12月30日付大統領暫定措置令1205号および2024年6月27日付法律第14902号を通じ、新自動車政策(Mobilidade Verde e Inovação:通称「MOVER」)が導入された。これは、車両の脱炭素化や、技術開発、国際競争力強化、自動車および部品のイノベーション支援を柱とし、ブラジル自動車産業の持続可能な成長を目指すプログラムである。MOVERの発表を受け、ホンダ、三菱自動車、ステランティス、トヨタ、現代自動車、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)、ルノー(Renault)、日産などの主要メーカーが相次いでブラジル国内への投資計画を発表した。投資総額は1,300億レアルを超える。各社の投資発表をみると、フレックスハイブリッドエンジン車(注3)や電動車の生産など、脱炭素化に向けた車両の開発や生産が中心となっている(2024年9月2日付地域・分析レポート参照)。
連邦政府は、本プログラムの具体的な内容を段階的に発表している。例えば、MOVERでは国内で研究開発(R&D)投資を行う企業へのタックスクレジット付与措置があり、その優遇措置を受けるための要件は2024年3月に発表された(2024年4月16日付ビジネス短信参照)。クレジット付与上限額は、2024年は35億レアル、2025年は38億レアル、2026年は36億レアル、2027年は40億レアル、2028年は41億レアルと設定されている。自動車業界情報サイト「オートデータ」(2024年10月22日付)によると、当該インセンティブへの関心は高く、2024年10月時点で121社がMOVERの承認を得ており、2024年分のクレジット総額は既に上限に達した。
また、2025年4月16日には、MOVERのうち自動車の燃費効率や二酸化炭素(CO2)排出量、リサイクル率などに関する詳細要件を規定した政令が公布された(2025年5月1日付ビジネス短信参照)。2025年6月1日以降、新車販売には、製造事業者または輸入事業者がCO2排出量基準の達成を証明する必要があり、未達成の場合、罰金が科される。さらに、2027年1月1日からは、車両タイプごとに定められたリサイクル可能材料の利用率基準を満たすことも義務付けられる。満たしていない場合は販売が認められない。
MOVERでは、燃費効率・CO2排出量に関する義務的要件を達成した車両に対し、工業製品税(IPI)の減税が適用されることになっているものの、具体的な基準や減税率などの詳細規定は、本稿執筆時点では未発表である。その理由として「オートデータ」(2025年4月2日付)は、財務省が減税による財政への影響を懸念している点を挙げる。加えて、2023年12月公布の消費税制簡素化に向けた憲法改正法第132号により、2027年以降IPIが事実上廃止されるため(2024年3月21日付地域・分析レポート参照)、財務省は新税制とMOVER減税措置との整合性を図る方法を模索中とみられる。Anfaveaのマルシオ・レイテ会長(当時)は2025年4月8日の記者会見で、減税措置の詳細決定の遅れがビジネス環境の不透明感を招き、発表済みの投資計画が見直される可能性への懸念を表明した。
中資系メーカーの急速な台頭とMOVER政策の進展により、ブラジル自動車産業は構造変化を迫られている。特に、輸入関税を巡る攻防とIPI減税措置の決定遅延は、市場の先行き不透明感を高めている。これらの課題解決と政策の具体化が、今後の投資判断と市場競争の方向性を左右するだろう。
- 注1:
- ブラジル国内で課される関税率を決定する権限を持つ開発商工サービス省傘下機関。
- 注2:
- 現時点の関税では、BEVのCKDが5%、PHEVのCKDが7%、BEVのSKDが18%、PHEVのSKDが20%となっているが、2023年11月に決定された輸入関税減免措置の段階的廃止(2023年12月5日付ビジネス短信参照)により、2025年7月以降、BEVのCKDが10%、PHEVのCKDが14%、BEVのSKDが25%、PHEVのSKDが28%となる予定。
- 注3:
- フレックスハイブリッドエンジン車の場合、内燃機関はガソリンとバイオエタノールとの組み合わせで走行できる。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンパウロ事務所
エルナニ・オダ - 2020年、ジェトロ入構。現在に至る。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンパウロ事務所
中山 貴弘(なかやま たかひろ) - 2013年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、ジェトロ三重、ジェトロ・サンティアゴ事務所、企画部海外地域戦略班(中南米)、内閣府などを経て、2023年7月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。