中国ラオス鉄道、旅客動向と経済波及効果
開通4年目の現状分析

2025年10月21日

中国ラオス鉄道は、中国雲南省の昆明南駅とラオスの首都ビエンチャン駅を結ぶ、全長1,035キロの国際標準軌(軌間1,435ミリメートル)による国際鉄道だ。2021年12月3日の開通以来(2021年12月9日付ビジネス短信参照)、中国とインドシナ半島の都市間移動の利便性を飛躍的に向上させるとともに、ヒト・モノの流通を迅速かつ効率的にするインフラとして注目されている。

本稿では、開通から4年目を迎えたラオス区間に焦点を当て、旅客の動向と経済波及効果を分析する(注1)。物流については改めて報告する。


中国側国境のモーハン駅(ジェトロ撮影)

旅客数の着実な増加、高速鉄道や国際列車などの増備が寄与

中国ラオス鉄道は、中国とラオスの都市部を結ぶ幹線として機能するほか、タイ国鉄との接続で、広範な国際的な旅客輸送ルートとしても成長を遂げている(2024年7月29日付ビジネス短信参照)。ラオス区間の運行開始から2025年6月末までの乗客数の月別の推移は、2022年は139万5,600人だったが、2023年は270万5,400人(前年比93.9%増)、2024年は423万1,000人(前年比56.4%増)と大幅に増加し、2025年上半期には193万3,900人(前年同期比2.4%増)に達した(表1参照)。

旅客数の増加は、人々の移動や観光需要の高まりに加え、運行車両の段階的な増備による影響が大きい。ラオス区間を運営するラオス中国鉄路(LCRC)は、2021年の運行開始以降、高速鉄道車両(EMU)や普通列車を順次導入し、2023年には国際旅客列車の運行も開始した(2023年4月26日付ビジネス短信参照)。

  • 2021年12月:EMU2編成で運行開始
  • 2022年2月:普通列車1編成を導入
  • 2022年10月:EMU1編成を追加導入
  • 2023年4月:国際列車開始(中国籍列車のラオス区内走行開始)
  • 2023年9月:EMU1編成を追加導入
  • 2025年6月:EMU1編成を追加導入

しかし、現在も満席状態が続いており、運行車両数が旅客数の制約要因となっている。運行本数の拡充が、旅客数のさらなる伸びに直結するとみられる。新規車両の導入には多額の投資を要するが、今後は需要に応じた柔軟なダイヤ調整と増便が期待される(注2)。

表1:中国ラオス鉄道(ラオス区間)の月別乗車数の推移(単位:人)(ーは値なし)
2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
1月 56,678 202,737 338,414 390,137
2月 60,500 214,637 337,894 349,350
3月 67,398 257,215 355,900 349,796
4月 82,214 239,165 336,317 312,606
5月 98,110 190,579 268,823 270,716
6月 116,036 188,316 256,813 266,340
7月 170,242 220,302 288,769
8月 147,282 210,807 313,975
9月 112,092 174,499 403,531
10月 154,248 228,676 426,469
11月 151,558 256,853 433,000
12月 41,504 179,240 321,638 471,000
合計 41,504 1,395,598 2,705,424 4,230,905 1,938,945

出所:ラオス公共事業運輸省鉄道局を基にジェトロ作成

「観光回廊」としての鉄道、ラオス人観光客の伸びがより顕著に

中国ラオス鉄道は、中国雲南省の昆明、西双版納(シーサンパンナ)、普洱(プーアル)、ラオス北部のルアンパバーンやバンビエンなど、両国の主要観光都市を結ぶ「観光回廊」としての性格を強く有している。いずれも内陸の山岳地帯に位置し、特にラオス北部では長らく交通インフラの整備が遅れていた。これまでの主要な接続手段は、低規格の国道やメコン川の航路に依存しており、都市間および国境を越えた旅客の移動は著しく制約されていた。本鉄道の開通で、こうした制約が大きく緩和され、沿線都市間の移動が飛躍的に容易になった。とりわけ観光分野では、アクセス改善が直接的な需要喚起につながっていると考えられる。

ラオスを訪れる外国人観光客数は、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ禍)の影響を受けて一時的に減少したが、鉄道開通後の数年間で着実に回復を遂げた。2019年は479万1,000人だった外国人観光客はコロナ禍で減少したが、2023年には341万8,000人(前年比2.6倍)、2024年には412万1,000人(前年比20.6%増、注3)、2025年1~8月には300万人(前年同期比15%増)に回復した。ラオス人観光客も、2019年の235万1,000人から、2023年には192万7,700人(前年比14.4%増)、2024年には390万4,500人(前年比2.0倍)、2025年第1四半期(1~3月)では146万7,900人(前年同期比2.0倍)と大幅に増加している(図1参照)。

図1:ラオスにおける外国人およびラオス人観光客数の推移(2017~2024年)
外国人観光客は、2017年3,868,838人。2018年4,186,432人。2019年4,791,065人。2020年886,447人。2021年0人。2022年1,294,365人。2023年3,417,629人。2024年4,120,832人。ラオス人観光客は、2017年2,236,914人。2018年2,818,576人。2019年2,350,851人。2020年1,581,100人。2021年828,892人。2022年1,685,359人。2023年1,932,912人。2024年3,904,483人。

出所:ラオス観光統計および各種報道を基にジェトロ作成

ルアンパバーンへの影響、世界遺産都市の活性化

中国ラオス鉄道のラオス区間開通が、観光面で顕著な効果をもたらした都市の1つがルアンパバーンだ。ラオス北部の盆地にある同市は、1995年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録され、ラオス伝統建築とフランス植民地時代の建築が融合した独特の街並みが高く評価されている。


ルアンパバーン国立博物館(ジェトロ撮影)

従来、ルアンパバーンへのアクセスは航空機に限られ、陸路では長時間を要していた(表2参照)。しかし、鉄道開通で、安価で短時間の移動が可能となり、観光需要が拡大している。

表2:主な交通機関にかかるビエンチャンからルアンパバーンまでの所要時間と運賃
交通機関 所要時間 運賃
中国ラオス鉄道 1時間46分 2,672円(39万3,000キープ)
飛行機 45分 8,099円(55.55ドル)
バス 約8時間 2,040円(30万キープ)

注:1キープ=約0.0068円、1ドル=約145.8円で算出。
出所:各社の公開情報およびヒアリングを基にジェトロ作成

ルアンパバーンを訪れる観光客数は、コロナ禍が明けた2022年以降に急増した(図2参照)。中国ラオス鉄道は、外国人観光客とラオス人旅行者の双方のアクセス向上に貢献し、ルアンパバーン訪問を後押ししている。報道によれば、2024年の約10カ月間でルアンパバーン駅の乗降者数は約100万人に達し、ラオス区間全体の利用者数(約332万人)の3割を占める沿線最大級の拠点となっている。

図2:ルアンパバーンにおける外国人およびラオス人観光客数の推移
(2017~2025年8月)
外国人観光客は、2017年472,942人。2018年576,610人。2019年638,101人。2020年142,435人。2021年0人。2022年256,896人。2023年764,596人。2024年1,555,000人。2025年1,486,341人。ラオス人観光客は、2017年182,470人。2018年178,409人。2019年221,934人。2020年133,212人。2021年69,731人。2022年280,823人。2023年259,327人。2024年354,000人。2025年925,599人。

注:2025年は1~8月まで。
出所:ラオス観光統計および各種報道を基にジェトロ作成

ラオス中国間の観光・人的交流を促進、魅力ある国際列車へ

中国ラオス鉄道の国際列車は、旅客に新たな移動手段を提供し、両国間の観光・人的交流を大きく促進している。昆明南駅とビエンチャン駅を結ぶ直通列車は、コロナ禍で運行開始が延期された後、2023年4月に運行を開始した。従来の航空機や長距離バスよりも安価で快適な選択肢となった。当初の所要時間は約10時間30分だったが、2023年7月以降、国境駅での出入国手続きが短縮され、現在では約9時間26分となっている。本鉄道を利用して両国間を越境した旅客数は、2023年4~12月は約10万人、2024年は30万1,000人、2025年上半期は14万5,000人に達し、国境を越えた観光需要の高まりを反映している(注4)。

さらに、ラオスと中国の両政府が2025年9月に「一地両検」制度に関する協定を締結した(2025年9月16日付ビジネス短信参照)。本制度は、出入国審査および税関手続きを1カ所で共同実施するため、導入されれば国境通過時間のさらなる短縮が期待される。加えて、中国政府は2025年2月に、ASEANから西双版納への団体観光客に対するビザ免除措置を開始し、域内観光の活性化に寄与している。

中国とラオス間では、定期便に加え、観光需要に応じた魅力ある特別国際列車も運行されている。例えば、2024年5月には貴州省からビエンチャンまでを8日間で往復する観光特別列車「パンダ特別列車」、2024年9月には昆明駅発の6泊7日で西双版納やルアンパバーンを経由して、ビエンチャンまで往復する高級寝台列車「星光・メコン号」が運行を開始した。これらは、沿線の自然・文化遺産を活用した観光商品で、富裕層や長期滞在型旅行者をターゲットとしている。

中国ラオス鉄道の成長とホスピタリティ産業への波及

中国ラオス鉄道は前述のとおり、人々の移動や観光客の増加に大きく貢献しており、ラオス国内のホスピタリティ産業も、活発な投資を通じて、その需要の取り込みを進めている。特にホテル業界では、2024年以降、ビエンチャンやルアンパバーンで国際的なホテルチェーンの進出が顕著だ。これらの新規・建設中のホテルは、鉄道によるアクセス向上と観光需要の拡大を見越したもので、都市部の宿泊施設の質的・量的向上が期待される。

2024~2025年に新規開業した主なインターナショナルブランド
ホリデー・イン(ビエンチャン)
ダブルツリー・バイ・ヒルトン(ビエンチャン)
ラサボン・ワンダ・ビスタ(ビエンチャン)
コージー(COSI)(ビエンチャン)
ユー・ルアンパバーン(ルアンパバーン)
現在建設中のホテルブランド
アバニ(ビエンチャン)
ラディソン・レッド(ビエンチャン)
オレンジ(ビエンチャン)
錦江酒店(ルアンパバーン)

飲食業では、観光客のみならず地元住民を対象とした店舗展開が進み、2022年以降はフランチャイズブランドの進出が著しい。カフェやコンビニなど多様な業態が展開し、都市部の商業環境が急速に変化しつつある(2022年11月16日付2023年9月8日付ビジネス短信参照)。また、交通分野では、配車アプリ「LOCA(2018年9月13日付ビジネス短信参照)」や電気自動車(EV)を活用する「Xanh SM」などの新規参入で、都市内移動の利便性が向上している。

ラオス・中国両政府は2023年11月、「中国ラオス鉄道国際文化観光経済ベルト共建イニシアチブ」を策定した。両国の鉄道沿線に広がる世界自然遺産9カ所、世界文化遺産26カ所を含む計565カ所の観光地を対象に、観光ビザ制度の改善、出入国手続きの簡素化、駅から観光地へのアクセス強化、地域間のプロモーション連携などを進める。また、中国政府は2025年9月、「中国ラオス鉄道沿線総合開発3カ年行動計画(2025~2027年)」を発表し、今後3年間で越境旅客数140万人以上を目標に、越境観光列車の拡充やラオスとの観光ルート開発を進める。

中国雲南省は中国国内でも有数の観光資源を有しており、2024年の滞在型観光客(注5)は389万7,700人(前年比20.7%増)だった。中国ラオス鉄道を通じて、この需要をラオス側に誘導できれば、地域経済へのさらなる波及効果が期待される。

中国ラオス鉄道は、ホスピタリティ、交通、飲食、商業といった多様な分野に波及効果をもたらしている。今後は、鉄道サービスの高度化に加え、地方都市の駅周辺における商工業や観光資源の開発、持続可能な観光政策との連携、雇用創出などが重要な課題となる。鉄道インフラを軸とした地域経済の活性化は、引き続き注目すべき動向だ。


注1:
ラオス区間を運営するラオス中国鉄路(LCRC)は財務諸表を開示しておらず、現時点ではその収益性に関する定量的分析を実施することは困難なため、本稿ではその分析・言及を控える。
注2:
2025年の観光業の非繁忙期(5~8月)では1日2~3往復のEMU、1往復の普通列車、および1~2往復の国際列車が運行された。
注3:
国連観光機関(UNWTO)によれば、2024年の外国人観光客訪問者数の前年増加率で、ラオスは世界第13位だった。
注4:
国際列車の越境者用の座席は1編成あたり350~400席程度に限定されており、長期にわたり満席状態が続いている。
注5:
滞在型観光とは、複数の観光目的地を駆け足で巡る周遊型観光とは異なり、1カ所あるいは一定の地域に宿泊し、文化や自然を観光する旅行のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員