2024年の自動車販売、ハイブリッド車への需要高まる(オーストラリア)

2025年5月26日

オーストラリアの2024年の新車自動車販売台数は、122万台だった。過去最高を記録したことになる。もっとも、年後半はインフレによる生活費高騰や金利上昇の影響を受けて伸び悩んだ。

2022年や2023年に急増していた電気自動車(EV)の販売台数は、2024年に入って落ち着いた。代わって、ハイブリッド車(HEV)が前年比75.4%増加し、プラグインハイブリッド車(PHEV)も約2倍に急増した。この傾向は2025年も続きそうだ。

運輸部門の排出削減を進めるため、連邦政府が2024年に策定した「新車効率性基準(NVES)」が2025年1月1日に発効。制度運用を同年7月1日から予定しているが、各自動車メーカーは、その対応に向け準備し、影響を分析している。

2024年の新車販売台数、過去最高の122万台記録

オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)によると、2024年の新車販売台数は、前年比0.3%増の122万607台と、2年連続で過去最高記録を達成した。一方で、前年からの伸び率は2022年や2023年と比較すると、低下した(表1参照)。2024年上半期の販売は好調だったものの、下半期から伸び悩んだ。FCAIは、2024年後半からインフレによる生活費高騰や金利上昇が家計消費に影響を及ぼしたと分析した。

タイプ別にみると、乗用車は前年比3.8%減となった。一方、スポーツ用多目的車(SUV)は、前年から2.4%増加した(オーストラリアは国土が広いため、人気が高い)。総販売台数に占めるSUVの割合は57.0%と、前年同様に過半数を占め、2023年(55.8%)から1.2ポイント上昇した。

表1:オーストラリアにおける新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
タイプ 2022年 2023年 2024年 前年比
台数 増減率
乗用車 203,056 211,361 203,384 △ 7,977 △ 3.8
SUV 574,632 679,462 695,566 16,104 2.4
その他自動車 303,741 325,957 321,657 △ 4,300 △ 1.3
合計 1,081,429 1,216,780 1,220,607 3,827 0.3

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)発表資料からジェトロ作成

新車販売台数をメーカー別にみると、日本メーカーでは、上位10社のうち5社がランクインした(表2参照)。

トヨタが前年比12.1%増の24万1,296台で、前年に続いて首位だった。また、ここ5年でみても、連続の首位となった。新車販売台数に占める同社のシェアは前年の17.7%から19.8%へ増加した。トヨタオーストラリアのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2024年の年間販売台数のうち、ハイブリッド車(HEV)が半数近くを占めた。乗用車や小型SUVのカテゴリーで、同社が特定のモデルについて内燃機関搭載車からHEVへの切り替えを進めてきたためだ。同社は2025年もHEVのシェア増加が続くとしている。

2位のフォードは前年比14.1%増の10万170台だった。2022年から販売台数が伸び続け、シェアも少しずつ拡大している(2024年は8.2%)。

3位のマツダは4.0%減の9万5,987台。シェアは7.9%で、前年(8.2%)からやや縮小した。

2023年に販売台数を最も伸ばしたテスラは、2024年は上位10位には入らなかった。一方で、中国自動車メーカーの長城汽車が前年比17.5%増の4万2,782台になり、上位10位へ躍り出た。

表2:メーカー別新車販売台数(上位10社) (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 メーカー名 2022年 2023年 2024年 前年比
台数 増減率
1 トヨタ 231,050 215,240 241,296 26,056 12.1
2 フォード 66,628 87,800 100,170 12,370 14.1
3 マツダ 95,718 100,008 95,987 △ 4,021 △ 4.0
4 起亜 78,330 76,120 81,787 5,667 7.4
5 三菱自動車 76,991 63,511 74,547 11,036 17.4
6 現代自動車 73,345 75,183 71,664 △ 3,519 △ 4.7
7 MGモーター 49,582 58,346 50,592 △ 7,754 △ 13.3
8 いすゞUTE 35,323 45,341 48,172 2,831 6.2
9 日産 26,491 39,376 45,284 5,908 15.0
10 長城汽車 25,042 36,397 42,782 6,385 17.5

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)発表資料からジェトロ作成

モデル別新車販売台数をみると、SUVに加え、ピックアップトラックも人気なことがうかがえる。

前年に引き続き、フォードの「レンジャー」が6万2,593台で、2024年に最も売れたモデルになった(表3参照)。トヨタの「RAV4」は、前年比98.2%増の5万8,718台に急増し、前年の4位から2位に順位を上げた。「RAV4」の販売台数のうち95.2%の5万5,902台がハイブリッド型で、オーストラリア国内のHEVとして最多の販売台数を記録した。

前年に6位だったテスラの「モデルY」は、トップ10位にランクインしなかった。なお、前述の10モデルのうち6モデルが日本のメーカーで、メーカー別(表2参照)でも10社中5社が日本企業だった。

表3:モデル別新車販売台数(上位10モデル) (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 モデル名(メーカー名) 車種 2022年 2023年 2024年 前年比
台数 増減率
1 レンジャー(フォード) ピックアップトラック 47,479 63,356 62,593 △ 763 △ 1.2
2 RAV4(トヨタ) SUV 34,845 29,627 58,718 29,091 98.2
3 ハイラックス(トヨタ) ピックアップトラック 64,391 61,111 53,499 △ 7,612 △ 12.5
4 ディーマックス(いすゞ) ピックアップドラック 24,336 31,202 30,194 △ 1,008 △ 3.2
5 アウトランダー(三菱自動車) SUV 19,546 24,263 27,613 3,350 13.8
6 エベレスト(フォード) SUV 15,071 26,494 11,423 75.8
7 カローラ(トヨタ) セダン 25,284 19,986 24,027 4,041 20.2
8 CX-5(マツダ) SUV 27,062 23,083 22,835 △ 248 △ 1.1
9 ZS(MG) SUV 22,466 29,258 22,629 △ 6,629 △ 22.7
10 スポーテージ(起亜) SUV 18,792 15,747 22,210 6,463 41.0

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)発表資料および現地報道からジェトロ作成

PHEVとHEVの伸びがBEV上回る

これまでは、バッテリー式電気自動車(BEV)の販売台数が急速に拡大してきた(2024年6月19日付地域・分析レポート参照)。しかし、2024年に伸びが落ち着いた。

オーストラリア自動車協会(AAA)のEVインデックス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2024年のBEVの新車販売台数は前年比4.7%増の9万1,293台(注1)で、伸び率が大幅に鈍化した。一方、同年にHEVやPHEVが増加した。PHEVは前年比約2.0倍の2万2,980台に急増。HEVも、前年比75.4%増の17万2,630台と大幅に増加した(表4参照)。内燃機関搭載車を含む全新車販売台数に占める低排出ガス車の燃料別の割合は、HEV14.1%、BEV7.5%、PHEV1.9%だった。

この背景には、(1) HEVやPHEVがBEVに比べて、一般的に購入費用が安いことや、(2)標準的な内燃機関車に比べると燃費が良く、燃料代が節約できること、(3)国内の公共充電ステーションがまだ不足していること、(4) BEVの航続距離について、一部の消費者が懸念持っていること、がある。なお、PHEVの急増には、駆け込み需要も影響したとみられる〔連邦政府によるフリンジ・ベネフィット税(FBT、注2)の免税制度は、2025年4月1日を限りに終了予定になっていた〕。

この傾向は2025年も続きそうだ。FCAIによると、1月単月の新車販売台数に占めるHEVの割合は17.1%、PHEVは2.2%へと拡大した一方で、BEVは4.4%にとどまった。

ちなみにBEVなどの普及には、EV充電設備がカギになる。その整備に向け現在、政府と民間企業が連携して取り組んできた(2024年10月30日付地域・分析レポート参照)。ただし業界は、整備の遅れや資金不足などを目下の課題に挙げている。

表4:オーストラリアにおけるEVなど販売台数(新車・普通乗用車)(単位:台、%)
項目 2022年 2023年 2024年 前年比
台数 増減率
BEV 33,410 87,217 91,293 4,076 4.7
PHEV 5,937 11,219 22,980 11,761 104.8
HEV 81,786 98,439 172,630 74,191 75.4
FCEV 15 6 10 4 66.7
合計 121,148 196,881 286,913 75,733 62.5

注:この表にいう「EVなど」は、普通乗用車(light vehicle)に限る。
なお、普通乗用車とは、連邦政府が規定するオーストラリア・デザイン・ルール(Australian Design Rules:AD)で言う(1) Mカテゴリー(乗用車)、またはNカテゴリー(貨物車)の一部に該当すること、(2)重量3.5トン以下、の両方を満たす車両。
出所:オーストラリア自動車協会 (AAA)「EVインデックス」からジェトロ作成(2025年4月15日時点)

新基準施行にもかかわらず、EV普及に懸念

連邦政府は、「新車効率性基準」(New Vehicle Efficiency Standard:NVES、2024年6月19日付地域・分析レポート参照)を1月1日から施行した。これは、運輸部門の排出削減を進め、EVを含む低排出ガス車を国内に普及するために策定した政策だ。自動車の二酸化炭素(CO2) 排出量の算出などの制度運用は、2025年7月1日から予定している。

これに対し、各自動車メーカーはその対応に向けた準備を進め、影響を分析している。FCAIは2025年3月のプレスリリースで、オーストラリア市場でEV(注3)の供給が増加していると指摘。同時に、NVESの基準を達成する観点から、EV普及率の低さが重大な懸念と表明した。すなわち、新製品を求めるアーリーアダプター(初期採用層)の購入が一段落し、次なる購入者が現れない状態という。

NVESで定めた排出上限値(目標)内かどうかを計算する際には、自動車メーカーが年間に販売した全台数を加重平均したCO2排出量を使う。つまり、消費者の需要が目標達成に影響することになる。そのためFCAIは、NVESを制度運営するに当たり、消費者の実需要を考慮すべきとの考えを示した。


注1:
2024年の1年間で最も販売台数が多かったBEVのモデルのトップ3は、1位がテスラの「モデルY」(BEV、2万1,253台)、2位がテスラ「モデル3」(BEV、1万7,094台)、3位が上海汽車傘下のMGモーターの「MG4」(BEV、6,934台)。これら3モデルで、BEV販売台数の約半数を占めた。
注2:
フリンジ・ベネフィット税(FBT)とは、雇用主が従業員に支給する福利厚生に対して雇用主が支払う税金。FBT免税対象のEVは、高級車(新車に限る)にかかる奢侈(しゃし)自動車税(Luxury Car Tax)の課税対象外にもなる。
EVがFBTの免税待遇を受けるためには、(1)車種要件と(2)車両価格要件などを満たす必要がある。このうち(1)では従前、BEVとPHEVの両方を対象にしていた。しかし2025年4月1日から、PHEVが対象から外れた。
なお(2)は、2024年度時点で9万1,387オーストラリア・ドル未満(約840万7,604豪ドル、豪ドル、1豪ドル=約92.1円)。
注3:
FCAIのプレスリリースでは、「プラグインで充電できるあらゆる自動車」を電気自動車(EV)と定義した。すなわち、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)を含むとみられる。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
青島 春枝(あおしま はるえ)
2022年6月からジェトロ・シドニー事務所勤務(経済産業省より出向) 。