国際連携を通じてハブ競争力強化
シンガポールのMICE都市戦略(2)

2025年6月13日

シンガポール政府観光局(STB)は、国際会議・展示会・報償旅行(MICE)ハブとしての国家競争力強化を狙う。そのため、海外との連携拡大を目指す方針で、日本も視野に入っている。

その戦略などについて、STBのシンガポール展示会・会議局(SECB)、ポー・チーチュアン局長に書面インタビューした(回答受信:2025年5月15日)。


SECBのポー局長(STB提供)
質問:
2020~2022年の新型コロナ禍以降、MICE開催件数が大きく回復した。その背景は。
答え:
まず、新型コロナ禍の最中に、ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますインダストリー・トランスフォメーション・アジアパシフィック(ITAP)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〔ハノーバー・メッセ(ドイツ)の関連イベント〕などを開催した。こうした機会を通じて安全に国際イベントを実行する新たな方法を模索でき、他国に先んじて大規模MICEイベントを再開できた。
次に、経済成長を支える主要産業とMICEが密接に連携していることにより、イベントが成功しやすい土壌があることだ。7,000社以上の多国籍企業が拠点を置き、約4,200社が地域統括拠点をシンガポールに設置しているため、世界中の意思決定者と人材が集まる。また、官民連携で、シンガポール国際アグリフード・ウィーク(SIAW)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますシンガポール国際エナジー・ウィーク(SIEW)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの大規模なイベントを開催し、業界リーダーの参加を通じて、域内から多くの参加者を集めている。
質問:
MICE開催地としてのシンガポールの強みは。
答え:
信頼性の高いMICE開催地として、シンガポールには、地理的優位性や、国内移動の利便性、整備されたイベント会場インフラなど、さまざまな強みがある。
まずシンガポールからは、アジアの約40億人に4時間以内でアクセス可能だ。戦略的な位置にあると言えるだろう。シンガポール航空と全日本空輸(ANA)は2025年4月、共同事業(ジョイントベンチャー)契約を締結した。共同運賃で両国間のチケットを発売する予定だ。日本との便数増加も見込める。
チャンギ空港の利用旅客も増加見込みだ。2024年時点で約7,000万人。2030年代半ばには第5ターミナルが完成、50%増加する見込みだ。
また、国内移動の利便性、イベント会場インフラにも強みがある。都市国家のコンパクトさから、空港から市内までの移動が短い。会場とのアクセスが快適だ。
マリーナベイ・サンズなどMICE会場では、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)機能を活用したハイブリッド・スタジオを整備。対面とオンラインを交えた融合型イベントに最適だ。
加えて、ASEANの他国と比較し、法制度や規制により透明性があり、安定したビジネス環境が整っていることも強みの1つだ。
質問:
STBは2040年までの観光ロードマップ「ツーリズム2040」で、MICEによる観光収入を3倍にすると掲げた。具体的な戦略は。
答え:
2024年は、観光客数が大きく伸び、観光収入が過去最高を記録した。
ロードマップ「ツーリズム2040」では、高い成長と質の高い来訪者が見込める分野を追求する方針を掲げた。その中には、MICEを含む。レジャー客に比べ、MICE参加者は支出額が大きく、経済波及効果も高い。このため、新たな機会や提携を求めてネットワークを拡大している。
目標を達成するために、MICEの施設拡張やテクノロジーの導入と人材の育成で労働生産性の向上に取り組む。そうして、MICEの次世代基盤を築いていく。
質問:
STBは、2050年までに二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにすること(ネットゼロ)を目指している。MICE分野で、環境面の取り組みをどう進めるのか。
答え:
そうした取り組みはSTB単独で進められるわけではなく、業界団体「シンガポール展示会・会議主催者・サプライヤー協会(SACEOS)」やMICEパートナーとの協力が不可欠だ。
2024年には「MICEサステナビリティ認証制度(MSC)」を開始した。MSCは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)が認定した初のMICEの環境認証だ。現在、国内MICE施設6カ所のうち4カ所で、MSC取得済みだ。また、2050年までのネットゼロと廃棄物削減のため、MICE施設6カ所のCO2排出量のベースライン調査も完了した。
このほか、MICE関係者の環境イニシアチブをサポートするための「観光サステナビリティ・プログラム(TSP)」などの補助金やプログラムもある。
質問:
都心部で新たにMICE施設「MICEハブ」を計画中と聞いた。どういった施設になるのか。
答え:
アジアでは、経済成長と中間層の拡大、インフラ整備が進展している。今後は、アジアが世界のMICE需要を牽引するだろう。シンガポールはそのアジアのハブとして、イベント需要拡大の恩恵を享受するためにも、都心部に新しいMICE施設を整備する。現在、民間デベロッパーや施設の運営事業者と詳細を話し合っており、準備ができ次第、発表する。
質問:
日本企業との連携について、STBはどのような期待を寄せているか。
答え:
ICEは、世界各国の企業が集まり、知見を共有したり連携したりする場として非常に重要なプラットフォームだ。国家小売協会(NRF)主催の「2025年アジア大洋州小売りビッグ・ショー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「シンガポール・エアショー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「シンガポール・フィンテック・フェスティバル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「フード・ホテル・アジア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「メディカル・フェア・アジア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」など、多くの展示会に日本企業が既に多く参加している。
今後、ジェトロとの連携を深めながら、日本企業のさらなる参加を促していきたい。また、サステナビリティやイノベーション、デジタル化といった分野で、一層の連携を期待している。

シンガポールのMICE都市戦略

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執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。