小規模分散型発電の規則変更案では中圧電力利用者の恩恵が減少

(メキシコ)

メキシコ発

2022年11月21日

メキシコのエネルギー規制委員会(CRE)は、太陽光パネルなどを用いた小規模分散型発電事業に関する規則変更を計画している。10月28日から国家規制改善委員会(CONAMER)のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公開され、パブリックコメント公募中の草案をみると、同規則は発電容量が0.5メガワット(MW)未満の分散型発電を行う事業者が、公共電力の配電網に接続する場合の技術的要件や基礎サービス供給事業者(電力庁:CFE)との間の契約形態、電力料金の清算や余剰電力の売電対価の計算方法などを定めるものだ。この中で最も大きな変更とみられるのは、中圧電力利用者に対するネットメータリングの廃止だ。

メキシコでは、発電能力が0.5MW以上の発電事業には、CFEが与える発電事業者としての許認可が必要。ただし、0.5MW未満の発電には許認可が必要ないため、日系進出企業も含め、比較的多くの企業が自社の工場や倉庫の屋根に太陽光パネルなどを設置し、小規模な自家発電を行うことでCFEから購入する電力の消費を減らし、電力コストの削減を進めてきた。従来は、低圧、中圧を問わず、分散型発電を行う事業者には、CFEとの間の電力料金の清算において、以下の3つの選択肢が与えられていた。

(1)ネットメータリング

(2)ネットビリング

(3)全量売電

(1)は、CFEの電力消費量から自家発電量を控除した電力量について、CFEとの契約単価に基づき電力代を支払う制度だ。1カ月単位で発電余剰が出た場合は、その後12カ月間はクレジットとしてCFEからの購入量と相殺する権利を保持できる。12カ月後に余った分は、市場価格(注1)でCFEに売却する。(2)は、CFEからの電力購入とCFEへの売電に異なる単価を用い、双方を金額ベースで相殺した上で清算する。前者はCFEの料金体系に基づく単価、後者は市場価格となる。(3)は、電力消費がない純粋な発電事業者が全発電量をCFEに市場価格で売電する制度。

新規則が正式に公布されると、商業施設や工場などの中圧電力利用者については(1)が廃止され、(2)か(3)のみが選択肢となる。余剰電力のCFEへの売電単価が相対的に低いため、分散型発電事業の収益性が下がることが懸念される(注2)。2022年11月時点のCFEの中圧電力料金は1キロワット時(kWh)当たり2.5~3ペソ(約18~21.6円、1ペソ=約7.2円)(基本料金なども加味した単価)だが、CFEへの売電単価は1.2ペソ程度(注3)になる見通しだ。

現行契約の内容は規則改定後も有効

アグアスカリエンテス州経済開発労働局の協力を得て、地場コンサルティング会社トップエナジーが11月15日に開催したウェビナーによると、太陽光パネルを工場の屋根に設置することで92%の電力コスト削減を今まで達成できた事例でも、新規則体系下では46%のコスト削減効果しか生まれないという。しかし、新規則の付則第6条に基づき、規則公布前にCFEとの間で締結された契約については、契約有効期限内は引き続き有効なため、既存の分散型発電事業におけるネットメータリングの活用は引き続き可能だ。

(注1)現行規則では、分散型発電を行う地域のリアルタイム市場(マージナル)価格で売電する。新規則では、CFE基礎サービス供給部門の電力調達コストの過去3年間の平均に送電料金と送配電ロスを加味した価格となる。

(注2)ネットメータリングが廃止された場合、工場などが操業を停止する際や、機械の稼働率が低い時間帯に発電された余剰電力がクレジットとして保持できず、CFEに売電することとなるが、購入単価と売電単価の開きから、電力購入量を減らす方が、売電量を増やすより収益性が高い。規則改定後は、購入量を減らすためのクレジットが得られなくなる。

(注3)CFEが発表するCFE基礎供給部門の2022年1~10月の電力調達コストの平均値は、1kWh当たり1.16ペソ。これに送電経費や送配電ロスを考慮すると約1.2ペソ程度になる見通し。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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