連邦政府とともに進む保守派政策
トランプ米政権下のテキサス州議会(1)
2025年11月7日
米国の第89回テキサス州議会の第2回特別議会は9月4日に閉会した。通常議会で提出された8,719件の法案のうち、1,155件が成立した。同州議会は隔年の奇数年に開催される。通常会期は1月から6月までの140日間のところ、今期は特別議会が2回延長され、6週間半追加で開催された。
テキサス州憲法で、通常議会開催中に予算決議は必ず成立させなければならない。2027年までの向こう2年間の予算は合計約3,380億ドルとなり、余剰金は約240億ドルが計上された。予算の約40%は教育、30%は保健福祉、14%はビジネス・経済開発に充てられる。
同州を含む南部5州では、共和党が圧勝した2024年11月の選挙を経て、テキサス州議会の共和党の下院議員数は150議席中88人、上院議員数は31議席中20人だ。連邦も共和党政権という中で行われた今期の州議会では、おのずと保守派に有利な展開が予想された。結果は言うまでもなく、共和党支持傾向が強く「赤い州」と呼ばれるテキサスは、さらに色を深めた。
トランプ政権に追従するテキサス州
テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は2024年の米国大統領選挙以前から、ドナルド・トランプ氏(共和党)への支持を表明している。トランプ政権の発足と同時に開催された今期のテキサス州議会でも、連邦と足並みをそろえた州法が複数成立した。
Texas DOGE(89R-SB14)
連邦政府が新設した「政府効率化省(DOGE)」に倣い、テキサス州でも4月23日、「Texas DOGE」と称する同州の規制や支出の見直しを行う機関を州知事室内に設立する州法(SB14)が成立した。
多様性、公平性、包摂性(DEI)の撤廃(89R-SB12)
テキサス州では2023年に、州立高等教育機関でDEI事務局の設置や、DEI活動を行う従業員の雇用、雇用訓練としてのDEI活動などを禁止する州法(88R-SB17)が成立し、翌2024年1月1日に発効している。今期の州議会では、6月20日にSB12が成立し、公立の小・中・高等学校での職員雇用や訓練、学校の活動やプログラムにDEI理念を用いないことを制定した。また、2025年1月20日に連邦でDEIを撤廃する大統領令が発令された直後の1月31日にも、アボット知事は「人種を問わず全ての人を平等に扱う」として、州立機関でDEI方針を全面的に撤廃する行政命令を発令した。
米移民税関捜査局(ICE)への協力(89R-SB8)
米国とメキシコの国境のうち、3分の2近くを占めるテキサス州では、不法移民対策は重要な課題で、不法移民の強制送還の強化に重点を置くトランプ大統領を支持している。今期の州議会では、地方自治体がICEと協力して移民法の執行を可能にする「287(g)プログラム」の下、拘置所を所管する郡の保安官に連邦移民法を執行する権限を与える州法(SB8)が成立した。
食品添加物の規制(MAHA運動)(89R-SB25)
食品染料添加物や合成着色料など44種類を含む食品に警告表示を義務付ける州法(SB25)が6月22日に成立した。米連邦政府の「米国を再び健康に(Make America Healthy Again:MAHA)」運動(後述)に連動している(2025年8月12日付地域・分析レポート参照)。
議席過半数を占め、保守的な政策推進
選挙区割りの見直し (89(2)-HB4)
アボット知事は、第1回特別議会を7月21日から開催するとの発表と同時に、議題として選挙区の改正法案を選定した。共和党が過半数を占める今期の州上院・下院議会では、圧倒的に不利な立場の民主党の州議員ら50人以上が第1回特別議会の後半2週間にわたり州外へ退避するなどして、決議に必要な定足数3分の2を満たさない状況をつくり、激しく反発した。第1回特別州議会の閉会後、すぐに第2回が招集されたため、8月18日にはテキサス州に戻った。
8月29日に成立した新しい選挙区画制度(89(2)-HB4)で、2026年の中間選挙では連邦下院の共和党支持の議席が5席増える見込みだ。アボット氏はX(旧Twitter)に投稿した動画の中で、新しい選挙区画をトランプ政権の「大きく美しい1つの法(One Big Beautiful Bill, OBBB)」になぞらえて「One Big Beautiful Map」と呼び、「代議制はより公平になる」と述べた。
(左:2022年-2024年の選挙区画、右:新しい選挙区画)
出所:Texas Legislative Council
(原典については、左画像「planc2193_map_report_package
(18.03MB)」、右画像「planc2333_map_report_package
(18.61MB)」参照)
経済の強さを最先端の試みに生かす
同じ党派として連邦政府に寄り添いながら、テキサス州の経済力をもって先端分野への投資を進める動きもある。
戦略的な暗号資産準備(89R-SB21)
「テキサス戦略的ビットコイン準備金法(SB21)」が6月20日に成立した。公的資産を投入して暗号資産を長期的な戦略資産として保有する州の独立機関を設立する。準備金は州の一般財源とは独立して運用し、テキサス州会計監査官が所管する。2026年度の初期投資額は1,000万ドル。テキサス州の2026年度の予算は約 1,759億ドルで、ビットコインの初期投資額はその約0.00568%に留まる。年収5万ドルに例えると、投資額2ドル84セントで、投資の規模感は極めて小さいことがわかる。
テキサス州よりも先に、ニューハンプシャー州とアリゾナ州でデジタル資産に関する類似の州法が成立しているが、いずれも州の資金をデジタル資産に投資することには慎重だ。
テキサス州が暗号資産産業の育成に前向きなのは、連邦政府への追従目的だけではなく、ましてや新しい流れでもない。同州では2021年にブロックチェーン技術に関するワーキンググループを設立したほか、米国統一商事法典(Uniform Commercial Code: UCC)に暗号資産を規定する州法を施行している。さらに、フォートワース市議会が2022年、ビットコインのマイニング(採掘)・パイロットプロジェクトの実施を承認し、採掘を開始した。これは、米国の自治体が自らビットコインのマイニング採掘を行う、初めての試みとなった(2022年5月2日付ビジネス短信参照)。
なお、第89回テキサス州議会では、ビットコイン法のほかにも、先端分野に対する州法が複数成立している(表参照)。
| 法案番号 | 成立日 | 発効日 | 要旨 |
|---|---|---|---|
| HB150 | 6月2日 | 9月1日 | 1億3,500万ドルを歳出して、州所管のサイバーセキュリティー統括部門「テキサス・サイバー・コマンド」をサンアントニオに設立する |
| HB149 | 6月22日 |
2026年 1月1日 |
Texas Responsible Artificial Intelligence Governance Act (TRAIGA) :人工知能(AI)を使用する上での規制や、政府機関の情報開示義務、レギュラトリー・サンドボックスの設置など、AI関連の管理に関する州の枠組みを制定。 |
| HB4751 | 6月20日 | 9月1日 | TEXAS QUANTUM INITIATIVE:量子コンピューティングにおける州の戦略的計画や産業促進のため、州所管の諮問機関や助成金の設立。 |
出所:Texas Legislature Online
トランプ米政権下のテキサス州議会
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヒューストン事務所
キリアン 知佳(きりあん ちか) - 2022年9月からジェトロ・ヒューストン事務所勤務。




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