テキサス州で食品添加物規制導入の動き(米国)
2025年8月12日
米国テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は2025年6月22日、一定の食品に警告表示を義務付ける内容の州上院議会法案(SB25)に署名した。対象になるのは、染料添加物や合成着色料など44種類の規制対象成分のうち1種類以上を使用する食品。該当食品を2027年1月1日以降、テキサス州内で販売する場合、警告ラベルを表示しなければならない(表1参照)。
項目 | 概要 |
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成立日 | 2025年6月22日 |
適用期日 | 2027年1月1日 |
内容 |
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警告ラベル | 規制対象の添加物が使用される製品のパッケージの見やすい位置に、FDAが規定するサイズより小さくない文字で「警告:この製品には、オーストラリア、カナダ、EU、英国の関係当局により人的消費が勧められない成分が含まれている(WARNING: This product contains an ingredient that is not recommended for human consumption by the appropriate authority in Australia, Canada, the European Union, or the United Kingdom)」と表示する。 |
規制対象外の製品 |
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罰則 |
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注:本法には警告ラベル表示規制のほか、幼稚園や小学校での毎日の体育授業の導入、高校や高等教育機関での栄養学の授業の導入、テキサス州栄養諮問委員会の設立などを含む。
出所:テキサス州上院議会法案(SB25)テキストに基づき作成
子供の健康に有害な添加物の規制導入に本腰
SB25は、2025年5月27日に成立した。なお、当州では先立って公立学校で無償または低価格で提供される学校給食への合成着色料「赤色3号(Red Dye 3)」や臭素化植物油(BVO)などの使用を禁止する州上院議会法案(SB314)が成立している。またSB314には、既述の警告ラベル表示のほか、幼稚園や小学校で体育授業を毎日導入する規定も盛り込んだ。同州が子供の健康を重視していることがよくわかる。
指定した44種類の添加物(44.3KB)には、オーストラリア、カナダ、EU、英国のいずれかの当局が使用禁止やラベル表示など何らかの規制を講じている。警告ラベルには、「警告:この製品には、オーストラリア、カナダ、EU、英国の関係当局により人的消費が勧められない成分が含まれている」との文言を記載することが求められる。加えて、規制対象の食品製造者あるいは取り扱う小売業者には、インターネット上で上記の成分の使用に関する情報を開示する義務が生じる。
本規制は、米連邦政府の「米国を再び健康に(Make America Healthy Again、以下MAHA)」運動(後述)に連動している。ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉(HHS)長官は、とりわけ子供の健康について、添加物の影響を強く懸念。連邦政府レベルでの規制の導入に積極的に動いている。その動きを踏まえ、2025年9月1日以降に米食品医薬品局(FDA)や米農務省(USDA)が導入する連邦法・規則で、テキサス州が規制対象にする44種類の添加物について、(1)使用禁止にする、(2)警告ラベルや警告の開示などの条件を付ける、あるいは(3)人間の消費に安全と決定する場合には、本規制の対象から外れると規定した。
本規制に違反する製造業者には、州法務長官による製品の差し止め命令に加えて、(1)違反製品ごとに1日5万ドルを超えない額の罰金、や(2)当局による調査にかかる費用の支払い命令など、厳しい罰則が科せられる可能性がある。
勢い増すMAHA運動に連動
前述のとおり、テキサス州の警告ラベル表示義務の導入は、ケネディHHS長官が率いるMAHA運動に沿った動きといえる。MAHA運動は、2期目のトランプ政権発足以降に活発になった。2025年2月13日には子供の慢性病の蔓延(まんえん)を抑えることを目的として、MAHA委員会を発足させる内容の大統領令を公布。5月22日には同委員会が子供の慢性病の原因などを特定した「われわれの子供を再び健康に」と呼ばれる評価報告書が発表された。同委員会は、評価報告書に基づき戦略を策定し、8月22日にトランプ大統領に提出する予定になっている。
HHSとFDAは、「国内食品供給からの石油を原料とした合成着色料使用の段階的な廃止」と呼ばれる方針を4月22日に発表した。本方針では、石油を原料としたすべての合成着色料の使用を段階的に廃止していくための一連の措置を提案している。
ケネディ長官自身も、合成着色料の使用禁止に向けて積極的に動いている。同氏は3月10日に食品大手企業の幹部と会談。その後、大手食品メーカー(ペプシコ、ジェネラルミルズ、ネスレUSA、コナグラ・ブランズ)などが相次いで特定の合成着色料の使用を中止すると発表した(2025年7月1日付ビジネス短信参照)。
テキサス州の警告ラベル規制を提案したロイ・コークホースト州上院議員(共和党)は、アボット知事による同法案への署名直後、自身のX(旧ツイッター)で「『テキサスを再び健康に』が署名された」「テキサス州はMAHA運動を先導している」と喜びを示した。ケネディ長官はコークホース議員のこのメッセージをリポストし、「テキサス州がリードしている」「全米の州知事にわれわれのMAHA運動に加わるよう呼びかける」と述べた。連邦政府のMAHA運動が、テキサス州での同法の実現につながったといえる。
添加物使用を規制する動きは元々、カリフォルニアやニューヨークなど民主党支持層が多い州(ブルーステート)で特徴的だった。しかし、トランプ政権2期目には共和党支持層が多い州(レッドステート)で目立つようになった。ハーバード大学法律学部健康法・政策改革センターの2025年6月25日付発表によると、2025年に入り、35州で93にのぼる食品添加物に関する法案を提出済みだ。うち、9法案が6月24日までに成立している。その成立州は、(1)テキサスのほか、(2)アリゾナ、(3)デラウェア、(4)テネシー、(5)ユタ、(6)バージニア、(7)ウエストバージニア。ブルーステートの(3)と激戦州の(6)を除いて、いずれもレッドステートだ。これ以外にも、6月27日にはルイジアナ州(テキサス州の東隣り)で、学校給食で人工食品染料や保存料の使用を禁止する内容のルイジアナ版「MAHA法案」(SB 14)が成立した。このように、レッドステートの添加物規制をめぐる動きが勢いを増している(表2参照)。
州名 | 内容 |
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バージニア州 |
2025年3月21日、州下院議会法案HB1910が成立。 7種類の合成着色料のいずれかを使用する食品・飲料を公立学校で2027年7月1日以降に提供することを禁止。 |
ウエストバージニア州 |
2025年3月24日に州下院議会法案HB 2345が成立。 学校給食向けの食品向けに特定染料の使用を同年8月1日以降に禁止。さらに、2028年1月1日以降には特定有害食品染料を使う食品を同州で販売することを禁止。 |
ユタ州 |
2025年3月27日に州下院議会法案HB402が成立。 2026年‐2027年学期以降に公立学校で特定染料を使用する食品・飲料を提供することを禁止。 |
アリゾナ州 |
2025年4月16日に州下院議会法案HB 2165が成立。 2026年-2027年学期以降に公立学校で特定11成分を使用する超加工食品の提供を禁止。 |
テネシー州 |
2025年5月21日に州下院議会法案HB0134が成立。 特定染料を使用する食品・飲料を公立学校で2027年8月1日以降に提供することを禁止。 |
デラウェア州 |
2025年5月22日に州上院議会法案SB 69が成立。 特定染料を使用する食品・飲料を公立学校で提供することを禁止。 |
ルイジアナ州 |
2025年6月20日に州上院議会法案SB14が成立。 学校給食で人工食品染料や保存料の使用を禁止。食品製造者に対する特定成分の使用を警告するQRコードラベルの貼付を義務化。 |
出所:ハーバード大学資料、各州議会資料、各紙報道に基づき作成
添加物規制の動きは、トランプ政権が進めるMAHA運動の流れを受け、テキサス州をはじめ各州に広がっていくと予想される。
製造業者は早目の対応を
2027年1月1日以降にテキサス州内で食品を販売する食品製造業者は、警告ラベルを商品のパッケージに表示するか、代替成分の利用などで規制対象成分を除いた食品を製造するか、などの選択に迫られる。さらには、テキサス州での販売をあきらめるといった考え方もあるかもしれない。しかし、それは得策でないだろう。全米2位の経済規模を誇るテキサス州の市場を逃すだけでなない。勢いを増すMAHA運動の流れを受けて、同様の規制が他州に広がっていくと仮定すると、どこで販売しようと何らかの対応を迫られる可能性を排除できない。
食品製造業者には、(1)食品で使われている成分の特定などの調査、(2)代替成分の検討や試験、(3)サプライチェーン上の事業者(ディストリビューターや小売業者など)との協力、(3)(警告ラベルを貼り付ける場合には)文字のサイズ、色合いや貼付位置など、本規制に準じたラベルのデザイン、といった多くの取り組みが必要になろう。
また、本規制はFDAやUSDAの規制と連動している。連邦政府レベルでの規制の動きを把握することも重要だ。加えて、本規制の具体的な規則はテキサス州厚生委員会が2025年12月31日までに確定することになっている。それまでに、要望書の提出や公聴会への参加などを通じて、能動的に当局に働きかけるのも有効な策かもしれない。
食品製造業者は、早目の対応が求められそうだ。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヒューストン事務所
キリアン 知佳(きりあん ちか) - 2022年9月からジェトロ・ヒューストン事務所勤務。