アジアにない強みを探る(メキシコ)
挑戦、新ホタテ回廊構築(2)
2024年4月11日
中国の日本産水産物の禁輸措置で、日本産ホタテを中国で加工し米国に再輸出する供給網は崩壊した。日本で加工して米国に輸出するのが難しい国内事情は根深い。2024年は輸出先の多角化をさらに進めていく必要がある。一方、代替地として挙げられるメキシコ北西部エンセナダ市の水産物輸出エコシステムは非常に貴重だ。アジアにはない、ホタテ加工拠点の優位性を示唆している。
輸出ピーク後だった中国による禁輸措置
日本の冷凍・冷蔵ホタテの輸出総額は、2022年に2019年比で約2倍の910億5,200万円だった。最大の輸出先国は中国で、2021年と2022年は5割超を占めた。輸出量に関しても中国向けが最大で、2019~2022年のシェアは約8割に達し、2022年は2019年比約1.5倍の12万7,806トンに至った。
もっとも、統計データを見る際には注意が必要だ。当該品目は、貝殻が付いたままの原貝と貝柱だけの2種が含まれ、両者が区別できないからだ。中国向けは原貝なのに対し、米国向けは貝柱だけになる。中国に輸出された原貝の一部は、主に米国へ再輸出するための加工原料として中国企業に供給されていた。
しかしそうした輸出も、2023年8月から様相が一変した。同月24日に東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が開始され、翌日に中国政府が日本産水産品の全面輸入禁止を発表したためだ。2023年の中国向け輸出額は前年比44.6%減の258億7,800万円、輸出量は47.7%減の5万3,717トンになっている。
冷凍ホタテ(HS0307.22)だけに限ると、禁輸措置の影響で、2023年の中国向け輸出量は前年比47.3%減の5万2,897トン、輸出額は前年比44.0%減の254億3,365万円だった。ただし、中国向けの輸出のピークは4月で、禁輸措置前に多くの冷凍原貝ホタテが輸出されていた。そのため、年間平均の輸出キロ単価は2022年からほぼ変わりない。
片や、2023年の米国向け輸出量は前年比95.5%増の3,804.6トン、輸出額は50.1%増の117億5,312万円だった。米国向けの輸出が増えた時期は、中国の禁輸措置後だ。これは、日本国内で、ホタテの取引価格が下がった時期に当たる。その影響から、輸出キロ単価が2022年の4,007円から3,089円に下落した(表1、表2、図参照)。
順位 | 国・地域名 | 輸出量 | 輸出額 | キロ単価 |
---|---|---|---|---|
1 | 中国 | 100,401.9 | 45,437.6 | 452.6 |
2 | 台湾 | 2,927.2 | 10,637.3 | 3,634.0 |
3 | 米国 | 1,945.7 | 7,796.6 | 4,007.1 |
4 | オランダ | 1,421.8 | 5,296.3 | 3,725.1 |
5 | 香港 | 1,007.8 | 3,420.3 | 3,393.8 |
6 | ベトナム | 733.0 | 574.7 | 784.0 |
7 | 韓国 | 663.0 | 903.2 | 1,362.3 |
8 | オーストラリア | 616.9 | 2,062.0 | 3,342.4 |
9 | タイ | 414.2 | 1,192.0 | 2,878.0 |
10 | シンガポール | 244.8 | 968.7 | 3,957.0 |
その他 | 1,016.2 | 2,810.9 | 2,766.1 | |
全世界 | 111,392.4 | 81,099.5 | 728.1 |
注1:当該品目には、(1)原貝と(2)貝柱の両方が含まれる。ただし、(1)と(2)を区別して把握することはできない。また、輸出先国・地域ごとに(1)と(2)の構成比が異なる。
注2:HSコードは0307.22。
出所:財務省貿易統計
順位 | 国・地域名 | 輸出量 | 輸出額 | キロ単価 |
---|---|---|---|---|
1 | 中国 | 52,897.0 | 25,433.6 | 480.8 |
2 | 米国 | 3,804.6 | 11,753.1 | 3,089.2 |
3 | 台湾 | 3,480.7 | 9,613.4 | 2,761.9 |
4 | ベトナム | 1,700.5 | 818.8 | 481.5 |
5 | タイ | 1,081.7 | 1,223.5 | 1,131.1 |
6 | 香港 | 1,047.0 | 3,435.6 | 3,281.4 |
7 | インドネシア | 576.4 | 130.0 | 225.6 |
8 | オーストラリア | 532.3 | 1,640.8 | 3,082.7 |
9 | 韓国 | 530.4 | 882.6 | 1,664.1 |
10 | オランダ | 463.6 | 1,607.6 | 3,467.6 |
その他 | 1,212.4 | 3,831.3 | 3,160.0 | |
全世界 | 67,326.5 | 60,370.4 | 896.7 |
注1:当該品目には、(1)原貝と(2)貝柱の両方が含まれる。ただし、(1)と(2)を区別して把握することはできない。また、輸出先国・地域ごとに(1)と(2)の構成比が異なる。
注2:HSコードは0307.22。
出所:財務省貿易統計

注:HSコードは030721および030722。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成
米国へ日本産二枚貝を直接輸出できないのは
日本産のホタテを米国向けに輸出することを考える上では、米国側で貝柱としてしか輸入が認められないことに留意する必要がある。すなわち、原貝のままでは輸出できない。全米貝類衛生プログラム(National Shellfish Sanitation Program:NSSP)と、州間貝類衛生会議(Interstate Shellfish Sanitation Conference:ISSC)の存在が、そうした規制の根拠になっている。
NSSPは食用として生産・販売される貝類の衛生管理を目的として、連邦と州が協力して運営する制度だ。外国から米国に輸入される二枚貝を規制する機能も持ち、NSSP登録リスト(Interstate Certified Shellfish Shippers List : ICSSL)に掲載されている企業のみ、米国に二枚貝を輸出することができる。日本はNSSPに参加できていないため、本来なら米国への二枚貝輸出は一切不可になってしまうが、ホタテの貝柱には貝毒の蓄積がないとされ、NSSPの規制対象外になる。そのため、その貝柱に限っては輸出可能ということになる。従って、日本の貿易統計上、米国向けの輸出量は貝柱の重量にほかならない。一般的に、貝柱の重量は両貝ホタテの10%程度になる。そこから逆算すると、米国に両貝ホタテとして輸出が可能と仮定した場合、2023年の両貝重量ベースでは3万8,046トンになっていたと想定される。
中国の措置で、ホタテのサプライチェーン崩壊
米国で流通するホタテのほとんどは、貝柱をトリポリ・リン酸ナトリウム(STPP)に浸して加水処理(膨潤化)したものになっている。STPPは水分損失を防ぐために、冷凍前の魚介類に広く使用されている一般的な手法だ。加工に伴い、身が柔らかくなる。一方で、膨潤化により、貝柱自体は甘みやうまみを失い、色が真っ白になる。用途も、加熱調理用に限られる(生食できなくなる)。加熱時に大量の水分が流れ出し、その結果として小さくなってしまう。また、加水されている状態だと味が薄くなるため、基本的に調味料やソースなどで味付けしなければならない。
中国の日本産水産品の禁輸実行前は、(1)日本から輸出された冷凍原貝ホタテを、中国内の加工工場で貝柱とそれ以外に分別する、(2)加工用の貝柱を膨潤化された後に再冷凍する、(3)それを米国向けに玉冷として再輸出する、というサプライチェーンが確立されていた。これには、大きく5つの理由がある。
- 1つ目は、米国市場でニーズのある加水ホタテ(Wet Scallop)は、食品衛生法により日本国内の流通が認められていないことだ。そのため日本では、STPPに浸す膨潤化加工のノウハウを持ち合わせる企業の数が非常に少ない。対照的に中国企業の中には、米国マサチューセッツ州周辺のホタテ加工企業から加水加工ノウハウを得ているところもある。
- 2つ目は、ホタテ水揚げ地の深刻な労働力不足だ。例えば、海底でほぼ自然と同じ条件のもとで2~4年間かけて自力で成長したものを取る地撒(ま)き式と呼ばれる手法で漁獲されるホタテは、貝柱が筋肉質のため、STPPの加水率が高く、米国で人気がある。しかし、その全てがオホーツク海や根室海峡地区で水揚げされる。この地区では少子高齢化が進んだ。その結果、水揚げ時期の季節労働者を加えても、殻むきするのに十分な熟練作業員を確保することが非常に難しくなっている。
- 3つ目は、米国向け輸出にはFDA(米食品医薬品局)食品施設登録が必要なことだ。そのためのHACCP認定取得が難しい。HACCP認定を取得するためには工場設備への投資や衛生管理システムの導入が必要になり、小規模水産企業にとってハードルになる。
- 4つ目は、労働力不足対策として、ホタテの殻を自動でむく機械(自動脱殻機)の導入も困難なことだ。初期費用が高く、減価償却負担もある。
- 5つ目は、中国で加工して輸出しても、米国に「日本産」として輸出ができることだ。輸入品の原産性を判断する米国税関・国境警備局(CBP)がその見解を示している(当連載(1)参照)。
こうした条件がそろい、日本から中国への冷凍原貝ホタテの輸出は2020年以降急増していた。しかし、2023年8月に中国が日本産水産物に禁輸措置を課したことにより、中国で米国向けに加工しようにも原貝の輸入ができなくなった。実際、同年9月以降の中国向け水産品の輸出額はゼロが続いている。2024年は、輸出先の多角化と輸出量の分配に本腰を入れる必要が出てくるだろう。そのため、日本政府は2023年9月に「水産業を守る政策パッケージ」を発表。輸出先の転換対策費として207億円の予備費を出動した。目下、日本産水産物の輸入を禁止した一部の国以外の市場を広げていくため、さまざまな販路拡大プロモーションを実施している。
確かに、海外で消費拡大を喚起することは必要だ。しかし、米国向け再輸出用に中国に輸出されていた原貝を振り向け、加工できる第三国を確保する必要性も間違いなくある。そこで、ジェトロは2024年1月、農林水産省、経済産業省、在日米国大使館などと協力して、ベトナムの水産加工施設を視察するミッション団を派遣。日本の生産者や加工業者、商社など12社が参加した。同国は(1) ASEANの中で人件費が比較的安価、(2)エビやカキなど水産物の加工実績を持つ企業が多い、(3)再輸出向け製品の輸入が容易、といった特徴を持つ(2024年2月7日付ビジネス短信参照、注1)。ベトナムのほかインドネシアなども、東南アジアの中で加工地候補として挙げられている。ただし、それら各国に共通するのは、加水技術・ノウハウを確立してきた中国企業が見え隠れしていることだ。日本のホタテ事業者の多くは、中国に原貝を輸出する一方で、輸出先での具体的な加工技術を研究することがほとんどなかった。そのため、技術と設備投資費用の両面で、中国資本企業と関係を持たざるを得なくなる可能性がある。
そうしたこともあり、ジェトロはベトナムなどと同時並行で、メキシコの可能性を探ることにした。当地は最終消費地の米国に近接し、それがホタテ加工する上でも利点になると考えられたからだ。
「ニアショアリング」の概念をホタテ加工に
「ニアショアリング」は、2023年のメキシコで最も重要なビジネス潮流といえる。米中の政治的対立により米国が中国製品に課している追加関税(25%)を回避するため、中国からメキシコに製造拠点を移すのが、その一例になる。あるいは、新型コロナウイルスの世界的流行に端を発した物流コストの急上昇や半導体不足、ロシアのウクライナ侵攻による食料の不安定供給や世界的インフレなどの対策としても有用だ。そうした事由で世界中のサプライチェーンにさまざまなゆがみが生じた場合、最終消費地に近接した場所で最適なかたちで製造して輸出できると解決になる。アジア(特に中国)からメキシコに拠点を再配置する流れが、その典型例と言えるだろう(2023年10月20日付地域・分析レポート参照)。
今般、中国が日本産水産物を輸入禁止にする事象が発生した。最終消費地は米国であり続けながら、輸出するために中国で加工するのが困難な状況になったわけだ。この時点で筆者は、メキシコへホタテ加工拠点の再配置(米国市場ニアショアリングに基づくホタテ加工拠点の移転)の可能性があるのではと考えた。さらにその後、東南アジア諸国が加工地候補として挙げられるようになった際、禁輸措置前までに中国で開発されていた加水技術がアジアに導入され、米国輸出に向けた商品に利用されると予想した。これは、当該商品が再冷凍の加熱用になることを意味する。
それと同時期に、「米国の一部の高級レストランやハイエンドスーパーマーケットなどでは、加水ホタテ(Wet Scallop)が使用・販売されないことがある」という市場情報を得た。そこで、まずはメキシコの地理的特性(米国市場に近接する)を生かし、冷凍回数を北海道での1回限りにして生食で消費可能な冷蔵貝柱の開発を目指てはどうかと考えた。メキシコで製造するホタテ貝柱を、うまみを残し生食可能なドライ・スキャロップ(Dry Scallop)にして、新たに米系のハイエンドバイヤーにアプローチすることができると、日本産ホタテが新しい販路につながる可能性が見えてくる。
エンセナダに水産物輸出加工業クラスターあり
バハカリフォルニア州エンセナダ市は、米国カリフォルニア州との国境都市ティファナ市から南に100キロ(車で1時間半)に位置する。ここには、メキシコ最大級の水産物加工クラスターがある。マグロやカキなどが水揚げされてから冷蔵のままトラック輸送され、24時間以内にロサンゼルスやラスベガスなど米国の大消費地のレストランに届けることできる。そのため、商品の鮮度面で高い優位性を持つ。また、エンセナダ港のコンテナ取扱量がメキシコ第5位に当たる。アジア太平洋航路のコンテナ船やクルーズ船の寄港地になっていて、横浜港から直行便がある。
メキシコ最大のマグロ畜養業が発達しているのも特徴だ。日本企業の投資も見られる。日本のスーパーマーケットなどで販売されているメキシコ産クロマグロのほぼ全てがエンセナダ産だ。既に、日本向けクロマグロの輸出拠点になっていることがわかる。 (1)バハカリフォルニア州はソノラ州に次いで第2位のイワシ漁獲量があること(注2)や、(2)太平洋側を年間平均水温16.6度の寒流が流れることも、質の良いマグロを生産できる要因になっている。
また、エンセナダ周辺では、カキやアワビ、ムール貝といった貝類も非常に多く取れる。
当地には、米国に商品を輸出して外貨を獲得することを昔からの生業(なりわい)にしている企業が多い。前述したNSSP登録リスト(Interstate Certified Shellfish Shippers List : ICSSL)に掲載されている二枚貝の米国向け輸出が許可されているメキシコ企業も、ほとんどが在エンセナダだ(表3参照、注3)。冷蔵・冷凍・加工食品として、米国をはじめ各国へ輸出しているエコシステムの存在は非常に貴重と言える。
企業名 | 所在地 | 州名 | |
---|---|---|---|
1 |
アテネア・エン・エル・マル Atenea en el mar |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
2 |
バハ・マリン・フーズ Baja Marine Foods |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
3 |
アクアクルトゥーラ・インテグラル・デ・バハカリフォルニア Acuacutura Integral de Baja California |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
4 |
アグロマリーノス AGROMARINOS |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
5 |
アグロペスカ・デ・メヒコ Agrompesca de México |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
6 |
マル・ビビエンテ・デル・パシフィコ Mar Viviente del Pacífico |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
7 |
モロ・サント・ドミンゴ Morro Santo Domingo |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
8 |
U&Aグルメ U&A GOURMET |
エンセナダ市 | バハカリフォルニア州 |
9 |
ソル・アスル SOL AZUL |
ムレヘ市 | 南バハカリフォルニア州 |
注:登録は1年更新で、上記9社の認定期間は2024年12月31日まで。更新すれば延長記載可能。
出所:Interstate Certified Shellfish Shippers List (ICSSL)
このようにエンセナダは、ニアショアリングと水産加工業クラスターという2つの要因を兼ね備えていることがわかる。こうしたことから日本産ホタテを加工する立地候補に定め、ジェトロは2023年11月、現地を訪問した(2023年11月14日付ビジネス短信参照)。
- 注1:
- ベトナムミッションのために現地水産企業を発掘するに当たっては、どのベトナム企業がFDA施設登録済みで米国に輸出が可能なのか、調べるのに苦労があった。最終的には、在日米国大使館から日本政府が登録済み工場リストの提供を受け、絞り込むことができた。
- 注2:
- マグロを1キロ太らせるためには、一般的に20キロのエサが必要になると言われる。イワシは、そのためのエサに好適だ。
- 注3:
-
2024年3月時点でNSSP参加国は、メキシコ、カナダ、スペイン、韓国、オランダ、ニュージーランドの6カ国。
メキシコでの貝類加工施設の認定は、連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)が担っている。COFEPRISが実施する衛生プログラム(NSSPと同等水準)を順守し認可を得ることで、メキシコ企業は米国向けの二枚貝の輸出認定を得たとみなされる。
挑戦、新ホタテ回廊構築

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ) - 2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。