動き始める日・米・中の商流
挑戦、新ホタテ回廊構築(1)

2024年4月10日

中国による日本産水産品の禁輸措置は、中国向けの輸出の減少にとどまらず、同国で加工・輸出される日本産ホタテ貝のサプライチェーンが一気に崩れるという影響を及ぼした。ホタテ貝の輸出量の8割が中国向けという商流は、集中的かつ効率的であった反面、有事の際へのリスクヘッジの観点は小さかったと言える。ホタテを巡る日本、米国、中国の貿易の動きに注目する。

諸刃の剣だったホタテ貿易

農林水産省によると、日本から輸出される農林水産物・食品は、2021年時点で1兆2,382億円。うち、水産品が3,015億円(24.3%)だった。2022年に1兆4,140億円のうち3,873億円(27.4%)になり、2023年は1兆4,547億円のうち3,901億円(26.8%)になった。農林水産物・食品輸出のうち、約4分の1を水産物が占めていることになる。

その中で、輸出額最大なのがホタテ(調整品を除く)だ。農林水産物・食品の輸出総額のうち、5%程度を占めている(表1参照)。

表1:農林水産物・食品 輸出額の推移 (単位:億円)
項目 2021年 2022年 2023年
輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア
農産物 8,041 64.9 8,862 62.7 9,064 62.3
水産物 3,015 24.3 3,873 27.4 3,901 26.8
階層レベル2の項目ホタテ 639 5.2 911 6.4 689 4.7
階層レベル2の項目真珠 171 1.4 238 1.7 456 3.1
階層レベル2の項目ブリ 246 2.0 362 2.6 418 2.9
階層レベル2の項目カツオ・マグロ類 204 1.6 179 1.3 227 1.6
階層レベル2の項目その他 1,755 14.2 2,183 15.4 2,111 14.5
林産物 570 4.6 638 4.5 621 4.3
少額貨物 756 6.1 767 5.4 961 6.6
全体 12,382 100.0 14,140 100.0 14,547 100.0

出所:農林水産省

調整品を除く日本のホタテの輸出額の推移を見ると、2019~2022年に右肩上がりに増加した。2022年は2019年比で約2倍の910億5,200万円になった。仕向け先国別では、中国向けが最大。2019年には全体の6割に及んだ。2020~2022年を通して、約5割を占めた(表2参照)。輸出量では、2022年は2019年比約1.5倍の12万7,806トン。2019~2022年の中国向けシェアは約8割だった(表3参照)。

対中輸出がこれほど多かったのは、中国国内の消費市場向け〔主に片貝(片方の殻をむいた商品)が人気〕だけでなく、再輸出用の原料(原貝)を中国企業に供給していたためだ。なお、再輸出先は主に米国だった。

しかし、2023年8月に様相が一変する。同月24日に、東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水の海洋放出を開始。そのすぐ翌日に、中国政府が日本産水産品の全面輸入禁止を発表したのだ。2023年の中国向け輸出額は前年比44.6%減の258億7,800万円、輸出量は47.7%減の5万3,717トンになった。

なお、中国に追随するように、複数国・地域が同様の措置を発表している。

表2:日本のホタテ(調整品除く)輸出額の推移(単位:100万円、%)(△はマイナス値)
国・
地域名
2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 変化率
23/22年
輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア
中国 26,822 60.0 14,564 46.4 33,665 52.6 46,724 51.3 25,878 37.6 △ 44.6
米国 2,276 5.1 1,588 5.1 6,010 9.4 7,816 8.6 11,921 17.3 52.5
台湾 5,351 12.0 5,695 18.1 8,686 13.6 11,166 12.3 10,042 14.6 △ 10.1
韓国 2,804 6.3 3,235 10.3 4,629 7.2 7,540 8.3 6,639 9.6 △ 11.9
香港 3,234 7.2 3,091 9.8 4,324 6.8 4,801 5.3 5,084 7.4 5.9
その他 4,185 9.4 3,224 10.3 6,630 10.4 13,006 14.3 9,306 13.5 △ 28.4
合計 44,672 100.0 31,397 100.0 63,943 100.0 91,052 100.0 68,871 100.0 △ 24.4

注:HSコードは030721および030722。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

表3:日本のホタテ(調整品除く)輸出量の推移 (単位:トン、%)(△はマイナス値)
国・
地域名
2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 変化率
23/22年
輸出量 シェア 輸出量 シェア 輸出量 シェア 輸出量 シェア 輸出量 シェア
中国 69,693 83.0 60,622 78.2 94,188 81.4 102,799 80.4 53,717 66.3 △ 47.7
韓国 6,298 7.5 9,062 11.7 10,630 9.2 12,722 10.0 11,080 13.7 △ 12.9
米国 853 1.0 681 0.9 1,872 1.6 1,948 1.5 3,821 4.7 96.1
台湾 2,078 2.5 2,500 3.2 3,015 2.6 3,005 2.4 3,554 4.4 18.3
香港 2,996 3.6 2,881 3.7 3,119 2.7 2,865 2.2 3,305 4.1 15.4
その他 2,085 2.5 1,812 2.3 2,876 2.5 4,467 3.5 5,576 6.9 24.8
合計 84,004 100.0 77,558 100.0 115,701 100.0 127,806 100.0 81,054 100.0 △ 36.6

注1:HSコードは030721および030722
注2:輸出先により原料か貝柱に分かれるため比較には注意を要する
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

日本からのホタテ輸出を月別に確認すると、2021~2023年のいずれの年も、中国向けの輸出が4月に急増する傾向が読み取れる(図1~3参照、注)。また、5~10月の対中輸出量は、概ね4月の輸出量の5~6割程度で推移するのが通例だった。既述の通り、2023年通年の輸出は前年比で5割程度の減少になった。ただし、2023年は中国による日本産水産物の輸入禁止措置(8月25日発表)前に中国向けの輸出ピークを迎えていたことからすると、2024年は輸出がさらに落ち込むと考えられる。

では、2023年のホタテ輸出量を上位輸出先の中国向けと米国向けを比較して見るとどうだろうか。中国による禁輸の影響が表れた9月以降、同国への輸出は、量・額ともにゼロになった(図3参照)。その一方で、米国向けの輸出量・額は8月に急伸した。7月の米国向け輸出量は106トン、輸出額3億7,893万円にとどまっていた。それが、8月は輸出量が668.6トン、輸出額は20億9,752万円と、それぞれ6.3倍、5.5倍になった。8月以降の米国向け輸出量・額は12月まで横ばいが続いた。なお、12月に輸出額が632億2,316万円まで増加した要因は、台湾向けが前月比約1.6倍の20億7,199万円に達したことによる。

図1:日本のホタテ輸出量・額の推移(2021年)
全世界向け輸出量は、1月160万トン、2月260万トン、3月750万トン、4月1830万トン、5月1330万トン、6月1280万トン、7月1240万トン、8月1220万トン、9月1110万トン、10月1150万トン、11月740万トン、12月450万トン。中国向け輸出量は、1月80万トン、2月140万トン、3月570万トン、4月1680万トン、5月1180万トン、6月1140万トン、7月1060万トン、8月1090万トン、9月870万トン、10月910万トン、11月510万トン、12月190万トン。全世界向け輸出額は、1月7億1700万円、2月21億2860万円、3月38億3090万円、4月61億9670万円、5月44億6010万円、6月46億3030万円、7月57億3070万円、8月72億720万円、9月71億9990万円、10月84億470万円、11月61億5260万円、12月61億6850万円。中国向け輸出額は、1月2億4830万円、2月6億530万円、3月19億1490万円、4月43億2500万円、5月29億7400万円、6月32億2980万円、7月38億5780万円、8月46億8780万円、9月38億6610万円、10月41億5950万円、11月24億6370万円、12月12億3440万円。

注:HSコードは030721および030722。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

図2:日本のホタテ輸出量・額の推移(2022年)
全世界向け輸出量は、1月270万トン、2月350万トン、3月1070万トン、4月2040万トン、5月1390万トン、6月1150万トン、7月1530万トン、8月1210万トン、9月1070万トン、10月1380万トン、11月870万トン、12月450万トン。中国向け輸出量は、1月80万トン、2月210万トン、3月870万トン、4月1880万トン、5月1190万トン、6月920万トン、7月1310万トン、8月1070万トン、9月810万トン、10月1100万トン、11月650万トン、12月210万トン。全世界向け輸出額は、1月33億5830万円、2月36億400万円、3月66億4580万円、4月106億9860万円、5月75億1300万円、6月69億1380万円、7月82億7790万円、8月80億6120万円、9月100億216万円、10月117億2720万円、11月80億7370万円、12月61億5700万円。中国向け輸出額は、1月3億5850万円、2月8億1100万円、3月32億7020万円、4月79億9890万円、5月47億4670万円、6月34億1180万円、7月54億510万円、8月53億7660万円、9月48億8220万円、10月56億9300万円、11月35億840万円、12月12億5140万円。

注:HSコードは030721および030722。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

図3:日本のホタテ輸出量・額の推移(2023年)
全世界向け輸出量は、1月220万トン、2月360万トン、3月1020万トン、4月1660万トン、5月1380万トン、6月1010万トン、7月770万トン、8月400万トン、9月280万トン、10月260万トン、11月300万トン、12月470万トン。中国向け輸出量は、1月50万トン、2月180万トン、3月770万トン、4月1520万トン、5月1220万トン、6月830万トン、7月560万トン、8月240万トン、9月0トン、10月0トン、11月0トン、12月0トン。米国向け輸出量は、1月10万トン、2月10万トン、3月20万トン、4月10万トン、5月10万トン、6月10万トン、7月10万トン、8月70万トン、9月70万トン、10月50万トン、11月60万トン、12月60万トン。全世界向け輸出額は、1月33億340万円、2月39億2150万円、3月73億7290万円、4月95億2440万円、5月78億1950万円、6月63億2690万円、7月59億5830万円、8月50億350万円、9月47億150万円、10月41億3180万円、11月44億5460万円、12月63億2320万円。中国向け輸出額は、1月6億3430万円、2月7億9360万円、3月37億4600万円、4月71億2830万円、5月54億9040万円、6月36億1900万円、7月32億7830万円、8月11億8840万円、9月0円、10月0円、11月0円、12月0円。米国向け輸出額は、1月5億1330万円、2月4億8910万円、3月7億4620万円、4月2億5670万円、5月4億2930万円、6月4億4590万円、7月3億7890万円、8月20億9750万円、9月19億5370万円、10月13億8530万円、11月15億250万円、12月17億1580万円。

注:HSコードは030721および030722。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

以上のように、2023年は中国向け輸出の減少の一部を代替するかたちで、米国向けが増加した。では、米国向けの輸出が増えたのは、同国内で日本産玉冷(貝柱だけを急速冷凍した生食用)の消費量が増加したからだろうか。もちろん、日本政府・機関が日本産水産品を守るための支援パッケージの下、米国内での消費拡大プロモーションを行ったことも要因だろう。しかし、この理由で禁輸が始まった8月から輸出が急増するとは考えにくい。

米国国際貿易委員会(USITC)のデータから冷凍ホタテ(HS0307.22)の税関別輸入量を確認してみると、マサチューセッツ州ボストン港税関で通関された2023年の輸入が、前年比2.3倍(2,561.5トン増)の4,531トンに達していた。米国への総輸入量は前年比6.9%減の6,863.3トンだったことから、全体が減少した中でもボストンで集中的な輸入があったことが分かる(表4参照)。他方、財務省貿易統計の輸出統計によると、米国向け輸出量は前年比約2倍(1,873トン増)の3,821トンだ。このことから、増加分のほとんどがボストン経由で輸入されたと推定できる。

表4:米国の税関別の日本産冷凍ホタテ(玉冷)の輸入量の推移 (単位:トン、%)(△はマイナス値)
税関名(州名) 2021年 2022年 2023年 変化率
23/21年
変化率
23/22年
ボストン(マサチューセッツ州) 1,794.0 1,969.5 4,531.0 152.6 130.1
ロサンゼルス(カリフォルニア州) 1,177.0 1,075.8 1,108.7 △ 5.8 3.1
ニューヨーク(ニューヨーク州) 955.7 3,617.2 791.0 △ 17.2 △ 78.1
シアトル(ワシントン州) 116.7 62.8 122.0 4.5 94.3
ノーフォーク(バージニア州) 266.8 288.4 112.4 △ 57.9 △ 61.0
その他 480.7 357.2 198.2 △ 58.8 △ 44.5
合計 4,790.9 7,370.8 6,863.3 43.3 △ 6.9

出所:米国国際貿易委員会(USITC)

マサチューセッツ州は米国産海ホタテ(Sea Scallop、大型のイタヤガイ科の貝)の水揚げ量で、全米の約8割を占めている。同州の港湾には、貝柱の個数当たりの歩留まりを高めるため加水加工(膨潤化加工)を行う工場が多く存在する。米国で流通するホタテのほとんどは、トリポリ・リン酸ナトリウム(STPP)により加水処理(膨潤化)される。STPPは水分損失を防ぐために、冷凍前の魚介類に広く使用されている一般的な手法だ。中国の日本産水産品の禁輸実行前は、日本から輸出された冷凍原貝ホタテが中国内の加工工場で貝柱とそれ以外に分けられ、貝柱は膨潤化されたのち再冷凍され、米国向けに玉冷として再輸出されるというサプライチェーンが確立されていた。この中国経由で再輸出される加水ホタテが米国に届かなくなることが予想されたため、米国の輸入者が日本からの無加水玉冷の輸入を増やしたと予想できる。

なお、オホーツク海や根室海峡地区のホタテは、人工育成1年の稚貝が海に放たれ、海底でほぼ自然と同じ条件の下、2~4年間かけて自力で成長したものが漁獲されている〔地撒(ま)き式と呼ばれ、米国の小売店の販売パッケージ上「Wild Caught」と記載〕。そのため、稚貝をかごの中に入れて海中で1~2年間育成させる垂下式(北海道の日本海側や噴火湾、東北太平洋沿岸での育成方法)のホタテよりも、弾力のある筋肉質な貝柱になる(加水率が高い)。加水率の高さは、膨潤化する際の歩留まりを高めることができるため重要視されている。

他方で、加水用玉冷の輸入が増加したのは、日本からだけではない。中国で漁獲されて玉冷にされたホタテ類も同様だ。ボストン港では2023年、前年比約2.2倍の2,112.6トンが通関された。中国産冷凍ホタテの米国への総輸入量が同年に、前年比15.2%減の4,286.2トンだったことからすると、玉冷の輸入はボストンに集中したと理解できる。

表5:米国の税関別の中国産冷凍ホタテ(玉冷)の輸入量の推移 (単位:トン、%)(△はマイナス値)
税関名(州名) 2021年 2022年 2023年 変化率
23/21年
変化率
23/22年
ボストン(マサチューセッツ州) 1,919.7 972.4 2,112.6 10.0 117.2
ロサンゼルス(カリフォルニア州) 1,069.3 1,022.8 893.7 △ 16.4 △ 12.6
ニューヨーク(ニューヨーク州) 470.4 1,751.2 423.0 △ 10.1 △ 75.8
サバンナ(ジョージア州) 944.7 885.5 282.6 △ 70.1 △ 68.1
ノーフォーク(バージニア州) 223.7 119.5 165.8 △ 25.9 38.7
その他 675.8 304.9 408.5 △ 39.5 34.0
合計 5,303.6 5,056.3 4,286.2 △ 19.2 △ 15.2

出所:米国国際貿易委員会(USITC)

米国に、3つの「日本産ホタテ」

ここで、USITCの貿易データベースから、(1)米国への冷蔵ホタテ(HS0307.21)と(2)冷凍ホタテ(HS0307.22)の輸入額・量を確認してみる。(1)は3,069.5トンしか輸入されておらず、そのほぼ全てがカナダ産だ。日本産から直送される冷蔵ホタテは、米国内の一部の高級すし店で使用されている程度で、2023年は10.6トンしかなかった。しかし、輸入キロ単価は42.2ドルと、統計のある他の4カ国(カナダ、メキシコ、ペルー、英国)よりも高かった(表6参照)。

表6:米国への冷蔵ホタテ(HS0307.21)輸入額・量の推移(単位:1,000ドル、トン、ドル)(—は値なし)
原産国 2021年 2022年 2023年
金額 数量 キロ単価 金額 数量 キロ単価 金額 数量 キロ単価
カナダ 59,426.7 2,452.1 24.2 72,525.9 3,085.5 23.5 81,849.9 2,970.4 27.6
メキシコ 6,535.0 865.1 7.6 971.7 80.1 12.1 1,199.0 87.1 13.8
日本 934.7 31.4 29.8 1,120.3 42.2 26.5 446.4 10.6 42.2
ペルー 44.0 1.5 29.9 125.2 3.5 35.4 45.0 1.4 33.2
英国 10.5 0.4 25.3 0.0 2.2 0.1 27.8
合計 66,950.9 3,350.5 20.0 74,743.1 3,211.4 23.3 83,542.5 3,069.5 27.2

注:米国に二枚貝を輸出可能なカナダとメキシコの数値は、殻付きの重量である可能性がある。
出所:米国国際貿易委員会(USITC)

次に、(2)冷凍ホタテの統計を見ると、日本産の輸入量は、中国による禁輸前の2022年が最大。玉冷重量で7,371トンだった。輸入キロ単価は16.6~19.0ドルと、中国産の約3倍、アルゼンチン産の約2倍だった。カナダ産は日本産より約10ドル高い単価になっている(表7)。

表7:米国への冷凍ホタテ(HS0307.22)輸入額・量の推移 (単位:100万ドル、トン、ドル)
原産国 2021年 2022年 2023年
金額 数量 キロ
単価
金額 数量 キロ
単価
金額 数量 キロ
単価
日本 79.6 4,790.9 16.6 140.1 7,370.8 19.0 127.9 6,863.3 18.6
中国 26.0 5,303.6 4.9 29.9 5,056.3 5.9 26.3 4,286.2 6.1
アルゼンチン 24.3 2,981.3 8.2 32.5 3,876.0 8.4 33.1 3,785.1 8.7
カナダ 26.0 966.2 26.9 24.2 800.9 30.2 45.2 1,574.0 28.7
フィリピン 5.1 1,079.2 4.7 4.1 794.4 5.2 3.0 581.4 5.2
ペルー 35.0 2,979.6 11.7 9.5 543.0 17.5 5.4 317.5 17.0
メキシコ 4.3 381.0 11.4 6.0 535.6 11.3 2.5 99.1 25.5
その他 1.0 91.0 10.7 1.7 82.7 20.1 1.8 128.8 14.2
合計 201.5 18,602.1 10.8 248.1 19,063.9 13.0 245.3 17,635.3 13.9

注1:日本産ホタテの統計は、日本から直接輸入される玉冷と、中国等の第三国で加工されて日本産として輸入される玉冷の合計数値。
注2:米国に二枚貝を輸出可能なカナダとメキシコの数値は、殻付きの重量である可能性がある。
出所:米国国際貿易委員会(USITC)

またここで注目すべきは、日本産冷凍ホタテの輸出量(財務省貿易統計)と輸入量(USITC貿易統計)の差だ。2022年の輸出量は1,948トンで、輸入量は7,371トン。その差、5,423トンだ。一方、日本から中国への冷凍原貝ホタテの輸出量は10万402トン。農林水産省の推計によると、そのうち両貝重量ベースで4割が米国向けに再輸出量されている。原貝ホタテに対する貝柱の歩留まり重量を10%とすると、無加水貝柱重量で4,016トン。前述の5,423トンとの差は1,407トンになり、これが加水分の重量と推定できる。だとすると、平均加水率は35.0%になる。同様に2023年の数値を用いて計算すると、平均加水率は43.8%だ。

表8:中国で膨潤化された日本産ホタテの加水率予測(単位:トン、%)
項目 2022年 2023年
(1)米国の日本産玉冷の輸入統計 7,371 6,863
(2)日本の玉冷輸出量 1,948 3,821
(3)差分[(1)-(2)](単位:トン) 5,423 3,042
(4)日本の中国への冷凍原貝ホタテ輸出量 100,402 52,897
(5)中国で加工されて米国に再輸出される玉冷の両貝ベース重量(輸入量の4割とする) 40,161 21,159
(6)冷凍原貝ホタテに対する貝柱の歩留まり重量(10%とする) 4,016 2,116
(7)加水率予測[(3)/(6)] 35.0 43.8

注:対象HSコードはHS0307.22。
出所:(1)米国国際貿易委員会(USITC)、(2)(4)財務省貿易統計、(5)農林水産省の推計

このように、米国に輸入される日本産ホタテは、(1)日本から直接輸入される無加水玉冷(Dry Scallop)と、(2)中国で加水されてから輸入される玉冷(Wet Scallop)の2つが存在している。これに加え、(3)マサチューセッツ州など米国内で加水される日本産玉冷が考えられる。結局、消費者に届く「日本産ホタテ(Japanese Scallop)」は、大きく分けて3種類になる。米国の日本産ホタテの取り扱い業者の中には、「同じ日本産ホタテ(Japanese Scallop)でありながら全く違う商品で、生食に向かないWet Scallopを日本産と表示したくない」という意見もある。

では、中国で加工されるホタテの原産国が日本とされる理由は何か。それは、「原貝から貝柱を取り出して加水加工の後に再冷凍をするという加工処理では、原産国を変更するに値する実質的変更(Substantial transformation)とはみなされない」という米国税関・国境警備局(CBP)の見解があるためだ。ちなみに、2024年3月時点で「中国で加水加工されて再輸出される玉冷の原産国が日本なのはなぜか」という一般質問と、それに対する回答が3件公開されている〔2022年6月23日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2023年10月10日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2024年1月29日付米国税関・国境警備局(CBP)ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。3件とも「実質的変更とみなされないため」と明示的に記されている。

中国産ホタテには25%の追加関税

ここまで見てきたように、輸入される玉冷の状態が異なっていたとしても、通商法上の解釈からすると日本原産品として扱うことができる。

では、もし中国で加工する玉冷を中国産として米国に輸入する場合、どうなるのか。米国の関税分類(USHTS)上、冷凍ホタテの番号は03070.22だ。日本に適用される最恵国税率(MFN税率)は、0%と規定されている。しかし中国産だと、1974年通商法301条に基づき追加関税率25%が課されてしまう。


注:
図1と図2では、全世界向け輸出では10月に、月別最高額を記録したことが読み取れる。これは2021年と2022年の両年、冷凍貝柱(玉冷)がオランダ向けに輸出された結果だ。玉冷は、ホタテの中で輸出単価が高いことで知られる。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。