日本の地方自治体とベトナムの関係が深化
人材、経済、観光など多様化

2024年5月20日

日本の地方自治体は、ベトナムとの関係強化に向けて、同国の中央政府や地方省などの関係機関との間で多数の取り組みを推進し、それらに関する覚書などを締結している。内容は、県内企業進出支援(調査レポート「自治体が対越進出を後押し」参照)などの経済分野をはじめ、教育機関との連携による人材確保、観光インバウンド(2020年3月30日付地域・分析レポート「日本の地方自治体とベトナム、交流が多様化」参照)など、多岐にわたる。

新型コロナウイルス感染症対策として実施された水際対策(入国時の陰性証明書などの提示)は、ベトナム政府側は2022年5月に、日本側は2023年4月に撤廃された。日本とベトナム間の往来のハードルがなくなり、かつ2023年は日本・ベトナム外交関係樹立50周年の節目を迎えたことから、同年は多くの日本の地方自治体がベトナムを訪問した。

そこで、本稿では、2023年に日本の自治体、とりわけ都道府県がベトナムで実施した活動や取り組みの事例をいくつか紹介し、地方自治体とベトナムとの関係を探っていきたい。

日本の労働力不足や企業のベトナム展開意欲などが背景に

自治体がベトナムへの関心を高めた背景には、次のような地方の課題や産業界のニーズが根底にある。

  1. 日本の労働力不足
  2. 地元企業の海外進出
  3. 農林水産品など地場産品の輸出拡大
  4. 地元への企業誘致
  5. 外国人観光客の受け入れ拡大

これらの課題解決や振興事業推進に当たり、人口が多く、経済が目覚ましく成長し、日本からのアクセスも良いベトナム向けの施策が効果的と捉える自治体が多かったといえる。各都道府県がウェブサイトなどで公表している限りでは、2023年は少なくとも全国の半数を超える24都道府県がベトナムを訪れ、外国人材確保目的のジョブフェアや採用面接会、県産品や観光のプロモーションイベントなど、さまざまな取り組みを行った(表1参照)。

表1:2023年の都道府県の主なベトナムでの取り組み
時期 都道
府県
訪問先 ベトナムでの主な活動内容や成果
2023年1月 新潟県 北部ハノイ市 花角英世知事とグエン・スアン・フック​国家主席(当時)、グエン・ティ・ビック・ゴック計画投資副大臣との会談​や、県産品のトップセールなどを実施。
2023年1月 青森県
(県農林水産物輸出促進協議会)
北部ハノイ市、南部ホーチミン市 ハノイ市の現地果物店30店舗、ホーチミン市のスーパーマーケットなど16店舗で、青森リンゴフェアを実施。
2023年2月 福島県 南部ホーチミン市 Japan Vietnam Festival(JVF)で福島県ブースを設置し、福島へのインバウンドプロモーションを実施。2023年は複数のベトナム~福島空港間チャーター便が運航した。
2023年2月 静岡県・山梨県 北部ハノイ市 高度人材の日本での雇用を目的とした採用面接会を開催。募集対象者は在留資格「技術・人文知識・国際業務」など。日本企業は日本人と同じ給与、雇用条件を提示する。
2023年5月 山梨県 北部ハノイ市、中部クアンビン省、中部タインホア省 長崎幸太郎知事がレー・ミン・ホアン農業農村開発相にベトナムにおける日本産ブドウの輸入解禁に向けたPRを実施。クアンビン省と姉妹友好県省の締結を見据えた協議を実施。
タインホア省で開催された「ベトナムと日本をつなぐタインホア会議2023」に登壇し、県内観光をテーマに講演。
2023年7月 宮崎県 北部ハノイ市、北部ナムディン省 河野俊嗣知事が農業人材確保などに向け、ナムディン省(連携合意締結済み)を訪問。たい肥づくりの技術支援や人材交流などの連携合意締結後の取組状況をフォローアップし、同省の人民委員長や人民評議会議長らと今後の展開に向けて意見交換を実施
2023年7月 鹿児島県 北部ハノイ市、北部ハイズオン省 塩田康一知事とファム・ミン・チン首相との会談、ベトナムの航空会社(ベトジェットエア・ベトナム航空)、ハイズオン省(連携協定締結済み)訪問、県産品トップセールス、ベトナム国立農業大学との連携協定締結など。
2023年7月 茨城県 南部ロンアン省 大井川和彦知事とグエン・バン・ウット・ロンアン省人民委員長が相互協力に関する共同声明を発出。2019年に協力関係を構築していた労働分野に加え、経済、貿易、投資、観光などさまざまな分野で協力を推進することとした。
2023年7月 和歌山県 北部ハノイ市、中部ダナン市、中部フーイエン省 南紀白浜空港とダナン空港を結ぶチャーター便で岸本周平知事が訪越。関係省庁と 「文化および観光に関する覚書」「ベトナムから和歌山県への人材の送出し・受入れに係る覚書」締結。和歌山県ジョブフェア、和歌山信愛大学とフーイエン大学とのオンライン日本語教室開講式など開催。
2023年8月 新潟県 北部ハノイ市 日本酒オンライン商談会を実施。本商談会は、農林水産省の実証事業に採択された県の「GFPフラッグシップ輸出産地形成プロジェクト」の一環。
2023年8月 長崎県 南部ホーチミン市、北部ハノイ市、中部ダナン市、中部クアンナム省 大石賢吾知事が人材送出機関、県内現地進出企業を訪問。ブイ・タイン・ソン外務相、レー・チュン・チン・ダナン市人民委員長、レー・チー・タイン・クアンナム省人民委員長らと意見交換。
2023年9月 山口県 南部ビンズオン省 村岡嗣政知事が訪越し、山口県とビンズオン省との介護分野の協力に関する覚書締結。物産関連イベント、トレードフエアなどで山口県ブース(観光・物産)出展など。
2023年10月 山口県 南部キエンザン省(フーコック島) 製氷機などの設備整備を含む、漁獲物の鮮度保持に係る実証開始に伴うイベントの実施。
2023年10月 宮城県 南部ホーチミン市 市内和食レストランで流通業者・飲食店関係者と宮城県産カキ・ホタテ・日本酒の商談会を実施。
2023年10月 群馬県 北部ハノイ市、北部ハナム省 山本一太知事と群馬県内企業団(29社)が訪越。ファム・ミン・チン首相との会談、現地デジタル企業との意見交換、ハナム省訪問、IT人材養成大学訪問、国家イノベーションセンター落成式出席など。
2023年10月 大分県 南部ホーチミン市 別府市旅館ホテル組合連合会とホーチミン市の3大学(ホーチミン市工業大学、バンラン大学 、ホーチミン市外国語・情報技術大学)が、市内旅館・ホテルへの人材確保の連携・協力に関する覚書を締結。
2023年11月 滋賀県 北部ハノイ市 三日月大造知事がベトナムを訪問、ハノイ工科大学で開催するジョブフェアに県内企業12社が出展。
2023年11月 三重県 南部ホーチミン市 知事がベトナムとタイを訪問、南部ホーチミン市人民委員会訪問、ホーチミン日本商工会議所などとの交流会開催など。
2023年11月 神奈川県 北部ハノイ市、中部ダナン市 「KANAGAWA FESTIVAL in DANANG」を開催。黒岩祐治知事からベトナム人学生に対して神奈川県への留学や就労に関する情報や観光、 文化など、さまざまな面での魅力を発信。なお、日本では9月に「ベトナムフェスタin神奈川」を開催している。
2023年11月 京都府 中部トゥアティエン・フエ省 西脇隆俊知事とグエン・バン・フオン・トゥアティエン・フエ省人民委員長との会談。両者協力に関する覚書を更新し、教育や遺跡保存、観光、都市開発、さらに留学生など若い世代を中心にした両地域の人材交流を深める内容を覚書に追加。
2023年11月 栃木県 北部ビンフック省、北部ハノイ市 福田富一知事が、2022年12月に締結した「工業団地優遇措置に関する協定」 を基に投資環境の調査を行うため、ビンフック省を訪問。さらに、ハノイ工科大学や地場大手IT企業FPT(2023年5月に栃木に拠点を設置)傘下のFPT大学へ、高度人材確保に向け視察。
2023年11月 北海道 北部クアンニン省 ベトナム航空が新千歳空港と同省バンドン空港を結ぶ初の直行チャーター便で250人の訪問団が訪越。
鈴木直道知事とクアンニン省のグエン・スアン・キー省党員会書記ら幹部が今後の協力について協議し、書面締結。
クアンニン・日本投資促進カンファレンス2023の開催。
2023年11月 福井県、茨城県、徳島県、鹿児島県 北部ハノイ市 ベトナム国内最大級の食品展示会「Food & Hotel Hanoi(FHH)2023」で水産品など各県産品のプロモーションの実施
2023年12月 兵庫県 南部ホーチミン市 齋藤元彦知事が、訪越し、外国人材受け入れの促進のため、現地の労働市場の現況や海外就職に関するニーズ、 県内企業の人材受け入れにあたっての課題などについて、現地企業関係者や現地学生との意見交換を実施。 また、双方向の経済交流を促進するために、第5回兵庫県・ホーチミン市経済促進会議を開催。

出所:各都道府県公表資料など

1.労働力不足解消に向けたベトナム人材への期待

厚生労働省によると、2023年10月時点で、日本で働く外国人労働者204万8,675人のうち、ベトナム人は最も多い51万8,364人だ。2020年にベトナムが中国を抜いてトップとなり、その後も増加が続いている(図1参照)。この約52万人を在留資格別にみると、最も多いのは「技能実習」で約20万9,300人だ。2番目は、エンジニアや海外事業担当などを行う「技術・人文知識・国際業務」の資格で、約8万4,700人だ。同資格による在日ベトナム人は中国(約11万3,000人)に次いで多く、2013年の3,550人から10年で20倍以上に増加した(2024年3月21日付地域・分析レポート「深刻化する人材確保の課題、多様な人事施策の検討がカギ」参照)。単純労働だけではなく、専門性を求める業務においても、ベトナム人の働き手を求める傾向が高まっているといえる。

図:外国人労働者数(国籍別トップ5)
2023年10月時点、日本で働く外国人労働者204万8,675人のうち、ベトナム人は最も多い51万8,364人だ。2020年にベトナムが中国を抜いてトップとなり、その後も増加が続いている。

出所:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ

実際に、訪越するほとんどの都道府県が、人口減少や高齢化に伴う人手不足対策として、豊富で優秀な人材確保を目的の1つとしている。農業、介護、観光、IT、製造業、建設など多岐にわたる産業分野で人材の需要が高く、求める人材の要件やステータスは、留学生、技能実習、高度外国人材(注1)など各都道府県の産業構造や動態に応じてさまざまである。

滋賀県の三日月大造知事は、2023年11月に同県経済産業協会長らと訪越し、地方政府要人との会談、ハノイ工科大学で開催された日系企業とのマッチングを目的としたジョブフェアに参加し、滋賀県が提供する同大学の日本語講座受講生との意見交換を行った。訪越後、三日月知事は、高度な技術者や工場責任者などのベトナム人材育成、滋賀県企業のベトナム進出支援を両輪で進めていく方向性を示した(滋賀県ウェブサイト2023年11月8日)。

静岡県は2023年2月に、ハノイ市内のホテルで高度人材の採用面接会を開催した。過去2回(2021年と2022年)の開催は新型コロナ禍の影響でオンライン開催となり、3回目で初の会場開催となった。この採用面接会は、国の地方創生交付金を活用し、隣接する山梨県と「ふじのくに」として合同で実施した。県をまたいだ広域連携の点で先導的な取り組みと言え、12 社(静岡県企業10社、山梨県企業2社)が参加した。企業側は、採用する人材が中長期的にベトナム現地法人の幹部として活躍することも視野に入れ、日本人正社員と同じ待遇で採用する。団長の一般社団法人ふじのくにづくり支援センターの矢野弘典理事長は開会式で、「参加企業は、内定者に対して在留資格申請や日本への渡航費などの負担を一切求めない。安心して面接に臨んでほしい」と参加者に呼びかけた。静岡県担当者によると、これまで3回の開催で計14人のベトナム人が採用され、両県の企業で活躍している。また、県担当者が採用企業を訪問の上、雇用環境を確認するなど、採用後のアフターフォローもしているという(ジェトロによるヒアリング)。


ハノイ市内で開催された静岡県・山梨県合同の高度人材採用面接会の様子(ジェトロ撮影)

2.企業の海外進出先としてのベトナム

各都道府県は、地域経済のための働き手の確保だけでなく、地方企業の海外展開を支援する上でもベトナムに注目している。日本企業が海外進出を検討する際、ベトナムを進出先候補に挙げることが多く、ジェトロが日本企業に対して実施した「2023年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、今後の事業拡大先としてベトナムが7年度連続2位になった(注2)。中小企業に限った回答でも、ベトナムは2位である。企業がベトナムを選択する理由の上位には、「市場規模・成長性」「人件費の安さ、豊富な労働力」「顧客(納入先)企業の集積」などが挙がり、生産拠点と消費市場の両面で事業展開をできる国としての期待がうかがえる。

富山県は2023年7月、県内企業のベトナムでのビジネス展開をサポートするため「富山デスク」をベトナム計画投資省外国投資庁内に開設した。このデスクは、現地での許認可手続きの相談対応や、市場動向などの現地情報提供などを行う。設置の要因としては、同県企業向けの2022年3月時点のアンケート調査で、今後の新たな海外進出先国としてベトナムの回答が最多であったこと、経済成長が著しく労働人口も多いことなどから今後の企業進出先や市場としての可能性が非常に高いこと、サプライチェーン強靭(きょうじん)化のために進出先や取引先の国を見直す動きが見られることなどを挙げている(富山県ウェブサイト2023年7月28日)。なお、愛知県、埼玉県、新潟県も、同様に外国投資庁内に相談窓口デスクを設置している。

群馬県は2023年10月、山本一太知事と県内企業29社などで構成する訪問団をベトナムに派遣した。ファム・ミン・チン首相との会談や、ハノイ市に隣接する北部ハナム省の要人や同省に進出する群馬県企業の訪問、地場IT企業との情報交換会などを行った。山本知事は「今回の訪越の最大の特徴は、群馬銀行を中心とした29社の県内企業も一緒に訪問したことだ」と述べ、チン首相との会談では県内企業がベトナムに多額の投資をしていると伝えた上で、相互投資の重要性について意見交換をした(群馬県ウェブサイト2023年11月2日)。

外国企業誘致を最優先課題の1つと位置付けて各国の政府・企業に投資を呼びかけるベトナムに対し、自治体と地元企業が一体となって投資意欲を示すことは、ベトナム政府や関係機関とのネットワーク構築や進出時の行政手続きなどの円滑化のため、効果的な手段といえる。

また、地方企業の事業を支える金融機関のベトナム進出も相次いでいる。中小企業を主な顧客とする商工中金は2023年10月にハノイ市に、日本政策金融公庫(日本公庫)は翌11月にホーチミン市に、相次いで駐在員事務所を開設した。百十四銀行(香川県)は2023年10月、ホーチミン市に中国・四国地方で初となる地方銀行による日本企業向けのコンサルティング事業を主とした現地法人を設立した。いずれの金融機関も、高い経済成長性や豊富な労働力などから、顧客企業のベトナム進出ニーズは増加傾向にあるとみている。

3. 農林水産物・食品の輸出市場としてのベトナム

2023年の日本の農林水産物・食品の輸出額実績では、ベトナムは世界6位の輸出相手国・地域である。ベトナムの経済成長と相まって、日本の農林水産物・食品のベトナム向け輸出額は、2013年の293億円から2023年の697億円まで2倍以上に拡大した。農林水産物や食品、日本酒の高付加価値化を進める日本の自治体は、ベトナムを有望な海外市場の1つと捉え、販路拡大を推進している。

青森県農林水産物輸出促進協議会は、贈答品などの需要が1年で最も高い旧正月(例年1月下旬から2月上旬、2023年は1月20~26日が祝日)の前後に青森産リンゴのプロモーションをベトナムで実施した。2023年1月末にハノイ市内の果物店30店舗で、1~2月の間の旧正月前後の一定期間にはホーチミン市内のスーパーマーケットなど16店舗で、リンゴを試食提供し、青森産リンゴの品質の高さをPRした。同会のレポートによれば、贈答品需要が落ち着く旧正月後でも十分な売り上げを得られることを確認したという(日本青果物輸出促進協議会ウェブサイト)。

新潟県は2023年8月、ハノイ市内で日本酒の商談会を実施した。来場したバイヤー(インポーターや飲食店)に、日本酒を試飲提供し、バイヤーが関心を持った銘柄があれば、オンライン上で待機している県内酒蔵がすぐに質問や取引条件など商談対応できるよう、実施方法を工夫した。本事業は、農林水産省「GFPフラッグシップ輸出産地形成プロジェクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の採択案件だ。商談が成立した日本酒を大ロットで混載貨物として、新潟港からベトナムへ輸送することで、販路拡大を図るとともに、物流の効率化やコスト削減を実現することが狙いだ。


ハノイ市内で開催された新潟県の日本酒オンライン商談会の様子(ジェトロ撮影)

4.ベトナム企業の日本への誘致

海外企業の誘致(対日投資)は、地域の雇用を生むだけでなく、地域を支える新たな産業やイノベーション創出の効果も期待できる。ベトナムでは、海外に進出できるだけの競争力をもつ地場企業はまだ多くないが、日本からのシステムやソフトウェアなどのオフショア開発需要の増加を受け、オフショア事業の拡大や新たな事業領域の確立を目指し、複数の企業が日本に進出している。こうした企業の誘致に成功したのが神奈川県で、過去複数のベトナム企業の誘致事例があるほか、2023年にはゴーライン・コーポレーション(Goline Corporation)、SYパートナーズ、B&KソフトウェアのIT分野3社が、同県内に日本法人を設立した(表2参照)。

神奈川県は、「ベトナムフェスタin神奈川」を2015年から同県内で、「KANAGAWA FESTIVAL」を2018年からハノイ市内で毎年開催している(2020年、2021年は新型コロナの影響で開催なし)。両国でイベントを開催し、交流を深めていくことにより、さまざまな分野で相互理解を促進し、将来にわたる両地域の継続的な成長と発展を図ることが目的だ。2023年11月のハノイ市でのイベントには、黒岩祐治知事が訪越し、ベトナム企業に神奈川県進出を呼びかける「神奈川投資セミナー」でトップセールスを行った。この企業誘致の取り組みは、2017年から延べ5回実施されており、継続的な取り組みが成果につながっている様子だ。

表2:2023年に神奈川県内に日本法人を設立したベトナムIT企業一覧
設立
時期
日本法人名 ベトナム本社の事業概要
2023年5月 ゴーライン グローバル ジャパンテクノロジー 社名:Goline Corporation
事業内容:コンピュータシステムの企画・設計・開発・保守運用および販売など
所在地:ハノイ、設立:2010年
2023年5月 エス・ワイ・パートナーズジャパン 社名:SY PARTNERS Co.,Ltd
事業内容:システム開発・販売およびITコンサルタント事業など
所在地:ハノイ、設立:2022年
2023年6月 ビーアンドケー ジャパン 社名:B&K SOFTWARE COMPANY LIMITED
事業内容:コンピュータシステムおよびソフトウェアの企画・設計・開発、コンサルティングなど
所在地:ホーチミン市、設立:2018年

出所:神奈川県ウェブサイト

5.双方向で観光客の拡大へ

日本政府観光局(JNTO)によると、ベトナムから日本への2023年の訪日外客数は57万3,900人(注3)に達し(新型コロナ渦前の2019年比15.9%増)、過去最高となった。電子ビザ発給開始に伴う団体ビザ申請手続きの簡易化、円安による旅行代金の相対的な低下などを背景に、ベトナム人の訪日旅行需要への期待が高まっている(2023年10月16日付ビジネス短信参照)。しかし、外国から日本へのインバウンド旅客を拡大させるには、外国人呼び込みのプロモーションだけを強化するのではなく、日本から外国へのアウトバウンド旅客需要も喚起し、国際線を商業的に運航させる必要がある。そこで、多くの自治体は、新型コロナ禍の影響で運休した便の復活や路線の新規就航など、地方空港における国際線運航を精力的に拡大し、訪日観光客の地方への呼び込みと日本人の海外旅行を両輪で促進する。

和歌山県の岸本周平知事は2023年7月、初運航となった南紀白浜空港~ダナン国際空港の双方向国際線チャーター便でダナンを訪問。南紀白浜空港の国際線運航は、コロナ禍をはさみ5年半ぶりだった。ベトナムでは、観光や文化・青少年交流の促進などを中心とした「文化および観光に関する覚書」をベトナム文化・スポーツ・観光省と締結した。岸本知事によれば、両国の高校生などの若年層の往来を重視しているという(和歌山県ウェブサイト2023年8月1日)。和歌山県以外にも、2023年には新潟、松山、新千歳とベトナムの間で双方向のチャーター便が運航した。2024年3月には静岡、鹿児島、福島とベトナムとの間で双方向のチャーター便が運航した。2024年5月からは広島空港とハノイ間の定期便の運航が開始予定である(表3参照)。

表3:2023年以降の日越双方向航空機運航一覧
運航時期 地方空港 運行区間・航空会社
2023年5月 新潟空港 (ベトナム発着)ホーチミン-新潟1往復
(日本発着)新潟-ダナン1往復
ベトジェットエア
2023年7月 南紀白浜空港
(和歌山県)
(ベトナム発着)ハノイ-南紀白浜1往復
(日本発着)南紀白浜-ダナン1往復
ベトジェットエア
2023年8月 松山空港
(愛媛県)
(ベトナム発着)ホーチミン-松山1往復
(日本発着)松山-ダナン着1往復
ベトジェットエア
2023年11月 新千歳空港
(北海道)
(ベトナム発着)ハノイ-新千歳1往復
(日本発着)新千歳-バンドン1往復
ベトナム航空
2024年3月 富士山静岡空港 (ベトナム発着)ニャチャン-静岡1往復
(日本発着)静岡-ダナン1往復
ベトジェットエア
2024年3月 鹿児島空港 (ベトナム発着)ハノイ-鹿児島1往復
(日本発着)鹿児島-ハノイ1往復
ベトナム航空
2024年3月 福島空港 ダナン-福島
ベトラベル航空
2024年5月 広島空港 広島-ハノイ間定期便運行開始予定(週2便)
ベトジェットエア

出所:各都道府県、空港、航空会社、旅行会社ウェブサイトなど

相互補完的かつ継続的な取り組みを

これまで、日本の各都道府県の取り組みをみてきたが、ベトナムの地方省が日本との関係構築を強化する活動も増えている。インフラや産業などで未発達な点が多いこれらの地方省は、省内の工業化、雇用創出と人材育成、インフラ基盤整備などの課題解決のため、人的および物的支援を要望し、日本の自治体の来訪を歓迎する傾向がある。 

日本側は、日本の課題解決に向けた協力を求めるだけではなく、ベトナムの地方省が地域の経済成長や発展のために望んでいる連携や協力の在り方などを理解した上で、継続的に、粘り強く対話していく必要がある。ジェトロも両国地方間の相互理解と経済交流の促進を後押ししており、たとえば2023年は、中部タインホア省や北部クアンニン省などで経済投資誘致セミナーを開催した(2023年5月10日付2023年11月28日付ビジネス短信参照)。

また、日本の都道府県は、単独で相手側を訪問することが多いが、ベトナム側は日本の大都市以外の地名や地域の特徴について十分知らない場合もある。近隣地域と一体となった取り組みや、県・組織を超えた連携などを一層推進すると、ベトナムに対する発信力の強化や理解の促進につながるだろう。

日本の各自治体、地方企業が発展させてきた産業や技術、人材育成のノウハウなどを生かし、ベトナムの課題解決に貢献する余地は十分にあるだろう。日越相互の強みと弱みを補完できる具体的な取り組みが日越地方間で増えることを期待する。


注1:
高度外国人材とは、次の1~3を同時に満たす人材を指す。
  1. 在留資格「高度専門職」と「専門的・技術的分野」に該当するもののうち、原則、「研究」「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」「法律・会計業務」に該当するもの。
  2. 採用された場合、企業において、研究者やエンジニアなどの専門職、海外進出などを担当する営業職、法務・会計などの専門職、経営に関わる役員や管理職などに従事するもの。
  3. 日本国内または海外の大学・大学院卒業同等程度の最終学歴を有している。
注2:
設問の内容は7年間で若干変わっているため、必ずしも正確な比較にはならない。
注3:
ベトナムは 2019 年以前も留学、技能実習などを含むその他の客の割合が多い点に留意が必要。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所(執筆当時)
山梨 彰彦(やまなし あきひこ)
2011年、静岡県庁入庁。2021年ジェトロビジネス展開・人材支援部ビジネス展開支援課、2022年4月から2024年3月まで現職(出向)。