回復する米国コメ生産、中西部での日本産米普及に向けた課題

2024年8月7日

日本政府は、農林水産物・食品の輸出額目標を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円と定め、各種施策を実行している。牛肉、茶、コメ、ぶり、たい、ホタテ貝、酒類などの品目については、輸出拡大を重点的に目指すターゲット国の1つに米国を定めている。

日本の主要な農林水産物・食品の中で、コメについては、日本国内の自給率が唯一ほぼ100%で、十分に生産余力があるものの、人口動態などを背景として、国内の年間需要量は毎年約10万トンずつ減少しており、輸出をはじめとした需要の開拓が喫緊の課題となっている。一方、輸出量は2023年で対世界約3万7,000トン/対米国約6,900トンで、さらなる輸出拡大が求められる状況にある。本レポートでは、米国向けの日本産米輸出を取り巻く諸情勢を踏まえ、米国中西部での日本産米普及に向けた課題について考察する。

図1:日本産米輸出金額の推移(対世界、対米国)
米国向けの日本産米輸出金額の対前年比増加率は、2022年は87%、2023年は51%となった。対世界での対前年比増加率は、2022年は24%、2023年は27%となった。

出所:農林水産省 米の輸出をめぐる状況について、2025年7月発表データを基にジェトロ作成

米国向け日本産米輸出の状況

日本産米の米国向け輸出金額は、2023年の輸出額全体約94億円の約2割を占める約18億円となっている(図1参照)。これは、香港(約26億円)に次ぐ2番目の輸出金額となっている。米国向け輸出金額の対前年比増加率は、2022年は87%、2023年は51%と急伸している。輸出額全体が2022年は24%、2023年は27%の増加率で推移していたことを踏まえると、特に米国向けが伸びたことが分かる。卸などの関係者への聞き取りによると、急伸の要因は円安や米国の好景気などのほか、該当期間の米国産米の価格高騰が大きな要因の1つと考えられる。以下に関連する情報を紹介する。

米国産米価格の見通し

米国農務省(USDA)は2024年6月16日、最新のコメの作付け動向に関するレポート(Rice Outlook: June 2024PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.3MB))を発表した。同レポートによると、2024/2025年期(2024年8月1日~2025年7月31日)の中粒種・短粒種の季節平均生産価格は、米国産米の生産量増などを背景に、前期から20%低下し、1ショートハンドレッドウエート(約45.4キロ)当たり19.8ドルになるとしている(図2参照)。2022/2023年期は、一大産地カリフォルニア州での深刻な干ばつにより33.8ドルまで上昇したが、2024/2025年期は2023/2024年期に続いて2期連続の価格下落となる見通しで、干ばつの影響を受ける前の2020/2021年期を下回る見込みだ(2022年6月7日付ビジネス短信参照)。

図2:米国産中粒種・短粒種の価格推移
米国産中粒種・短粒種の2024/2025年期の価格は、1ショートハンドレッドウエート当たりで19.8ドルと、干ばつの影響を受ける前の2020/2021年期の20.21ドルを下回る見込みだ。

出所:USDA U.S. rough and milled rice prices, monthly and marketing year、2024年3月発表データを基にジェトロ作成

日本産米の2023年の米国向け輸出金額は、米国産米の価格上昇も一因として、対前年比約51%増の約18億円と大幅に伸びたことから、今後の減少が懸念される。直近2024年1~5月の日本産米の米国向け輸出金額は、対前年比48%増と好調に推移しているものの、米国産米の価格下落が見込まれる2024/2025年期(2024年8月1日~2025年7月31日)以降の動向が注目される。

中西部での日本産米に対する受け止め

ジェトロ・シカゴ事務所は2023年10月、同地で現地シェフ向けの日本産米セミナー・商談会を開催した。商談会では、日本から招聘(しょうへい)した専門家による日本産米と米国産米の違いに関するセミナーのほか、卸3社が提供した日本産米と米国産米の食べ比べを行った。参加したシェフ26人のほとんどが非アジア系で、その際のアンケート結果によると、回答者の全てが日本産米の方が、甘さ・しっとり感・ふんわり感などを理由に、米国産米よりもおいしいと回答した(表参照)。日本産米をどういった料理に活用するかについては、約7割の回答がすしやおにぎりといった日本食だった。また、商談会で成約した商談先のほとんどがすしや和食関係のレストランや卸だった。以上を踏まえると、コメに対してなじみが比較的薄いと思われる非アジア系の人々も、日本産米と米国産米の味の違いを認識できる一方で、活用方法は日本食に限られる傾向にあると推察される。

表:日本産米セミナー・商談会参加者アンケート結果

日本産米と米国産米とでどちらの方がおいしいか (回答数17)
項目 回答数
日本産米 17
米国産米 0
違いが分からない 0
米国産米と比べて日本産米にはどのような特徴があったか(複数回答可)
項目 回答数
食味が時間が経っても変わらない
The consistency does not change
5
ふんわり感
Fluflly
10
もちもち感
Glutinous
5
甘い
Sweetness
11
しっとり感
moist
11
どのように日本産米を使いたいか(複数回答可)
項目 回答数
すし 12
ポケ・ボウル(ハワイ料理) 5
おにぎり 8
その他 5
日本産米の新規購入または銘柄変更をしたいか(複数回答可)
項目 回答数
価格次第 7
価格にかかわらず新規購入または銘柄の変更をしたい 6
いいえ 1
その他 3

出所:ジェトロ

中西部までの輸送費

先述のシカゴでの日本産米セミナー・商談会で、アンケートに回答した約4割が価格次第で購入すると回答しており、価格は日本産米の輸出拡大に当たって重要な要素の1つと推察される。コメは、他の日本産食材に比べて「重く」「かさばる」品目で、輸送費がかかりやすい品目なことから、中西部までの輸送費について、卸などへの聞き取りを通じて分析を行った。日本産米の主要な輸送手段である西海岸からシカゴまでの鉄道運賃について、小売りで一般に流通している日本産米の容量の11ポンド(約5キログラム)当たりに換算すると、約1ドル程度だった。日本産米は小売りベースで11ポンド当たり20ドル後半から50ドル程度でシカゴでは販売されており、価格に占める中西部までの輸送費の割合は大きくないように思われる。一方で、業務用向けはより安く販売されており、価格に占める輸送費の割合は小売価格より大きいと考えられる。よって、中西部までの輸送費は日本産米の中西部での広がりに影響があるものと考えられる。

中西部での日本産米普及に向けて

2024年は、米国産米の生産量増加と価格下落が見込まれ、日本産米にとっては逆風が吹くことが想定される。日本産米は米国産米と比べて食味面で優位性がある一方、日本食のみで用いられるケースが多く、日本食の普及拡大を図ることが必要と考えられる。中西部では、米国の州別GDPトップ10に2州(イリノイ、オハイオ)、人口トップ10に3州(イリノイ、オハイオ、ミシガン)が位置し、購買力があって日本食が普及するポテンシャルを有している。一方、日本食店については、州別でトップ10にはイリノイ州のみが10位に入り、続くミシガン州は19位にとどまっている。その傍ら、先述の商談会で日本産米の商談が成立したように、既存の日本食店の中には、日本産米の特徴に触れる機会を設けることで、取引拡大につながる可能性もあると考えられる。

中西部での日本産米の普及・拡大に向けては、以下が求められると考えられる。

  • 中長期的には、C(消費者)向けに日本食を訴求し、日本産米がB(卸、レストラン、小売店)から必要とされる下地を形成していくこと。
  • 短期的には、日本産食材関連のB向けの商談機会の創出や、日本産米の特徴の訴求を通じて、日本産米の取引拡大を図ること。
執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所
冨樫 達也(とがし たつや)
ジェトロ・シカゴ事務所調査および農林水産関係担当ディレクター。2022年8月から現職。