他国の脱炭素化への貢献にも期待(カンボジア、ラオス、ミャンマー)
メコン地域の気候変動対策(2)

2023年4月17日

メコン諸国でも、カンボジア、ラオス、ミャンマーは後発開発途上国だ。これら各国の気候変動対策では、農業・林業など、土地利用分野の温室効果ガス(GHG)削減が注目される。また、他のASEAN諸国と比べ、電源構成で化石燃料の割合が低いのも特徴だ。

本稿では、前稿(タイ・ベトナム編)に続き、前出3カ国に焦点を当ててメコン地域の脱炭素化の取り組みについて紹介する。また、各国の気候変動対策を踏まえ、地域全体の脱炭素化に向け3カ国が貢献できる可能性を探る。特に、各国の「国が決定する貢献(NDC)」や国際機関の分析を基に読み解いていきたい。

中長期的に脱炭素目標を設定

世界銀行によると、メコン地域5カ国の温室効果ガス(GHG)総排出量のうち、カンボジア、ラオス、ミャンマーが占める割合は2割弱にすぎない(2019年時点)。内訳を見ると、多い順にミャンマー12.4%、カンボジア3.7%、ラオス2.7%だ。しかし、これら3カ国も国連気候変動枠組み条約の下、「国家が決定する貢献(NDC)」を策定。中長期的なGHG削減計画を立てている。

まず、各国のGHG削減目標を見てみよう。

  • カンボジア:
    2020年に国連に提出したNDCPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.2MB)によると、カンボジアは2030年時点で、2016年を基準にBAU(注1)比でGHGを42.0%削減する。
    加えて、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、長期戦略を策定。2021年12月には、「カーボンニュートラル長期戦略(LT4CN)」として国連に提出した。こうした動きは、後発開発途上国として初だった。
  • ラオス:
    ラオスは、NDCPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(829KB)を2021年に提出した。その中で、(1) 2030年時点のGHG排出量は、無条件目標(主に自助努力)として、2000年を基準にBAU比で60.0%削減する、(2) 2050年にはネット排出ゼロを目指す、とした。
  • ミャンマー:
    2021年に提出したNDCPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.3MB)で、GHGの削減計画が示された。2030年までに、無条件目標(自助努力)として、2億4,452万トン二酸化炭素換算量(CO2e)を削減する。また、条件付き目標(国際支援あり)として、4億1,475万トンCO2eを削減するという。

この連載の前稿(2023年3月15日付地域・分析レポート参照)では、タイやベトナムのGHG排出量削減に向けた取り組みを追った。そこでも触れたとおり、新興国が気候変更対策に取り組む理由の1つが、気候変動による自然災害が経済に与える影響だ。例えばカンボジアでは、農業がGDPの約24%(2020年、注2)を占め、重要産業とされる。それを反映して、同国のNDCには、気候変動による洪水や干ばつが農産物の収穫量低下や不作につながる懸念について言及がある。何も対策を講じない場合、今後、気候変動がカンボジアのGDP成長率を年平均6.6%押し下げる可能性があると指摘したのだ。ミャンマーもNDCで、気候変動に起因する自然災害への対策として、防災・減災インフラ開発の重要性に触れている。

GHG削減、土地活用や農業がカギ

タイやベトナムでは、産業別に見て、電力分野のGHG排出量が最も多い。いきおい、脱炭素の取り組みも同分野が中心になる。カンボジア、ラオス、ミャンマーでも、電力は重要分野だ。ただしそればかりではなく、農業や林業などの土地利用での取り組みも注目される。

  • カンボジア:
    NDCで、2030年までに産業別に削減するGHG排出量を示した。その中で最も大きいのは「林業・その他土地利用」(注3)だ。削減量全体のうち、59.1%(約3,810万トンCO2e)を占める。
  • ラオス:
    同様に、NDCから、林業などの重要性が浮かび上がってくる。条件付き目標として2030年までに削減するGHG排出量は、年間4,569万トンCO2e。そのうちほとんどが、「林業・その他土地利用」(注4)で占められた(同4,500万トンCO2e)。当該目標に基づく削減量全体のうち、実に98.5%を占めることになる(注5)。
  • ミャンマー:
    「農林業・その他土地利用」(注6)の存在が大きい。この分野で2030年までに削減するGHG排出削減量は、1億2,362万~2億6,697万トンCO2eに設定された。これが、全削減量のうち51~61%を占める。

農業や土地利用・林業に起因する排出量が当該3カ国で多くを占めることは、国際機関の統計でも裏付けられる。同じ基準年(2019年)で分野別のGHG排出量を見ると、実際、他国に比べて軒並み大きな比重を占める(表1参照)。

表1:ASEAN各国の分野別GHG排出量(2019年時点、100万トンCO2e、%)(△はマイナス値)
国名 産業別GHG排出量の割合(%) 総量(mtCO2e)
建築物 電力 製造
建設
輸送 産業プロセス 農業 土地利用・変化および林業(LUCF) 廃棄物 その他
ブルネイ 1 50 4 14 6 1 4 2 19 10
インドネシア 2 13 8 8 2 9 49 7 3 1,960
カンボジア 2 7 2 8 6 30 44 1 1 72
ラオス 1 36 2 6 4 24 26 1 0 39
ミャンマー 2 5 4 3 1 36 45 2 3 243
マレーシア 1 33 9 16 6 4 21 5 5 396
フィリピン 5 31 6 16 8 25 1 6 1 237
シンガポール 1 39 21 10 23 0 0 5 2 67
タイ 2 25 13 17 18 15 3 3 4 437
ベトナム 1 35 17 10 14 16 △ 3 5 5 438

注:太字は、各国でGHG排出割合の多い上位2位または20%以上を占める分野。
出所:世界資源研究所データからジェトロ作成

そのため、これら3カ国のNDCには、農業や土地利用分野の具体的な脱炭素プログラムが記載されている。

例えば、カンボジアでは、森林資源や土地利用の管理監視の強化、森林伐採の削減などにより、同分野からのGHG排出を2030年までに半減させるという。

ラオスでは、森林保全や持続可能な管理により、森林地域を国土の70%〔1,658 万ヘクタール(ha)〕まで拡大。森林の炭素蓄積量を増加させる。

ミャンマーも、2030年までに、国内の農地27万5,000haに植林する計画だ。そのほか、年間の森林伐採率を2019年比で25~50%削減することになっている。

省エネや電源脱炭素化はどう進む

土地利用や農業に続いてGHG排出量が多いのが電力分野だ。そのため、3カ国とも、省エネや再生可能エネルギー(再エネ)活用に関して、方針を公表している。

  • カンボジア:
    「エネルギー効率と保全に関するマスタープラン(2020年)」の下、エネルギー消費量を2035年までにBAU比で20%削減する(注7)。電源の脱炭素化については、太陽光などの再エネ利用を拡大させる一方、石炭火力発電事業の新規許認可を停止することを発表済みだ(2022年12月1日付ビジネス短信参照)。
    関連して、2021年に施行された「新投資法」では、グリーンエネルギーを用いた事業に優遇措置を付与。脱炭素型の投資誘致を図る。
  • ラオス:
    NDCで、2030年までの条件付き目標として、BAU比でエネルギー消費を10%削減することが示された。また、2025年までに、エネルギー消費で再エネ(大型水力発電を除く)割合を30%に拡大するとした。
    ラオスでは、メコン川の主要な支流が国内を走る。こうした環境から、電源構成上、水力の割合が高い。そのため、主に自助努力による取り組みでは、2030年までのGHG排出量削減目標(年間398万トンCO2e)のうち、水力活用による削減量を年間250万トンCO2eとした。分野別で、最も多く設定したかたちだ。
  • ミャンマー:
    電源構成で石炭発電を徐々に減少させ、2050年にゼロを目指す。一方、太陽光・風力発電の割合を増やす。
    気候変動対策を講じない場合、2030年時点の太陽光・風力発電割合は9%にとどまる見込みだ。対策を進めることで、両発電を無条件目標で11%、条件付き目標で17%に増やす。

国際社会・企業との連携が必要

各国の目標達成には、関連政策の執行や制度構築、技術開発が必要になる。同時に、国際社会や産業界の協力が大切だ。そのため、先述の農業・土地利用やエネルギー分野では、外国企業との連携や、国際基金を活用した事例が既に見られる。

例えば、カンボジアでは「緑の気候基金(GCF)」(注8)による支援の下、農業から発生するGHGを削減、農業の気候変動への強靭(きょうじん)性を強化する事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が進行中だ。具体的には、農家の生産性向上や農業インフラ開発が行われている。

ラオスでは2022年、発電由来のGHG排出量を削減するプロジェクトが採択された。より具体的には、日本政府が進める「二国間クレジット制度(JCM)」を活用し、ラオスの配電網に高効率変圧器を導入。配電時の電力ロスを低減させるというものだ(注9)。

期待される再エネ、地域の脱炭素に貢献

ASEAN全体では、「ASEANエネルギー協力行動計画(APAEC)」の下、2025年までに発電容量の35%を再エネにする目標がある。国際機関の統計・分析を踏まえると、今後の再エネ普及に向け、当該地域では太陽光の拡大余地が高いとみられる。赤道付近に位置するASEANでは、豊富な日射量が期待できるからだ。

他方、先述のラオスに加え、カンボジア、ミャンマーにも共通するのは、他のASEAN加盟国と比較し、電源構成で水力発電の割合が高いことだ。これら3カ国では、水力を含めた場合、既に電源上での再エネ割合が5割以上に達している(2020年時点、注10)。また、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)やASEANエネルギーセンター(ACE)の試算によると、再エネを利用した3カ国の発電容量は、国内電力需要を上回る発電能力を有する(2018年時点、表2参照)。

将来の電力需要についても同様だ。IRENAによると、当該3カ国では、2050年までに増加する電力需要を水力で賄えるポテンシャルがある。特にラオスとミャンマーは、ピーク時の電力需要を大きく超える水力発電容量を有する可能性があるという(表2参照、注11)。

一方で、その他の再エネ発電容量についてはどうか。太陽光発電では、地理的・環境的要因から、ミャンマーがASEAN内で最もポテンシャルが高い。また、風力は、ベトナムに次いでカンボジアが高いという試算になっている。

表2:各国の電力需要と再生可能エネルギー(水力)発電容量(単位:GW)(-は値なし)
国名 現在 将来予測
最大電力需要
(2018年)
再エネによる
最大発電容量(2018年)
最大電力需要予測(~2050年)(*) 水力による
最大発電容量
(ポテンシャル)
ブルネイ 0.7 1.0 4.2 0.1
インドネシア 35.9 9.8 261.0 94.6
カンボジア 0.9 1.4 6.0 10.0
ラオス 0.9 5.5 6.6 26.0
ミャンマー 2.3 3.4 17.2 40.4
マレーシア 24.1 7.5 62.9 29.0
フィリピン 12.3 6.6 89.5 10.5
シンガポール 6.9 0.5 17.9
タイ 27.7 7.0 116.2 15.0
ベトナム 21.3 20.1 126.4 35.0

注:(*)は、産業革命前に比べ世界の平均気温上昇を1.5度に抑えるべく、各国が脱炭素に向け取り組んだ場合の予測。
出所:国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、ASEANエネルギーセンター(ACE)からジェトロ作成

IRENAは、こうした需要を超えた余剰電力を他国に供給することで、メコンやASEAN全体へのクリーンエネルギー供給に大きく貢献できる可能性があると指摘する。特に水力は、太陽光や風力に比べて安定して稼働し、急激な発電増加にも対応できる。ASEAN各国が再エネ普及を計画する中で、大きな魅力と言えるだろう。そのため、天気や時間帯によって変動する電力需要・供給に対応し、安定した低炭素型電力を地域に提供できるとした。

実際、シンガポールは2022年6月、タイとマレーシアを経由して、ラオスの水力発電所から最大100メガワット(MW)の電力輸入を開始すると公表した。ちなみにこの輸入は、将来の低炭素電力輸入に向けた取り組みの一環だ。シンガポールのエネルギー市場監督庁(EMA)は、合計4ギガワット(GW)の低炭素電力を輸入することを計画。2035年までにその目標を実現することを目指している。

また、日本エネルギー経済研究所は、将来的にこの3カ国が豊富なグリーン⽔素の供給地になるポテンシャルを有すると分析した。余剰分の再エネを活用することが見込めるためだ(注12)。実際、日立造船とレノバは日本政府の協力の下、ラオスで生じる未使用の再エネからグリーン水素を製造。将来は、これをグリーンアンモニアに転換したい考えだ。その事業化に向け、2021年に調査を開始している(注13)。

地域ぐるみの取り組み課題も

国際機関や研究機関の分析から、ASEANの中長期的な脱炭素目標達成に向け、再エネの普及が目下のカギとなるになることが見えてきた。また、カンボジア、ラオス、ミャンマーが地域全体の安定したクリーンエネルギー供給に貢献できる可能性もうかがえる。

しかし、そのためには、なおも課題含みだ。例えば、(1)スマートグリッドなどの送電網敷設、(2)再エネの供給・消費を促す制度整備など、脱炭素にむけたエネルギー転換の取り組みが求められる。しかも、このような取り組みが3カ国の中にとどまっていては十分な結果が期待しにくい。メコン地域、場合によってはASEAN地域全体で、着実に実現していくことが求められそうだ。


注1:
BAUとは、「追加的な対策を講じなかった場合の温室効果ガスの排出量」、いわば経常的排出量を意味する。Business as Usualの略。
注2:
アジア開発銀行(ADB)「アジア大洋州の主要指標(2021)」参照。
注3:
カンボジアのNDCで、「林業・その他土地利用」は、FOLUと記載された。
注4:
ラオスのNDCで、「林業・その他土地利用」は、LUCFと記載された。
注5:
無条件目標では、水力発電を中心に、エネルギー分野のGHG排出削減量が年間287万5,000トンCO2eと設定された。当該目標上は、LUCFの目標値(年間110万トンCO2e)より多い。
注6:
ミャンマーでは、「農林業・その他土地利用」をAFOLUと表現している。
注7:
ジェトロ「ASEANの気候変動対策と産業・企業の対応に関する調査(2022)」(241頁)参照。
注8:
GCFは、国連の枠組みの中で設立された基金。気候変動に対応する目的で開発途上国を支援するため、積まれた。金融メカニズムの運営組織としても機能する。
注9:
日本の環境省によると、当該プロジェクト事業では、日本企業が実施主体になっている。具体的には、電気・空調の制御システムを開発する裕幸計装だ。
注10:
ジェトロ「ASEANの気候変動対策と産業・企業の対応に関する調査(2022)」、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)「Energy Outlook and Saving Potential East Asia 2020」参照。
注11:
IRENA「Renewable energy outlook ASEAN 2022」参照。 他方、ミャンマーのNDCでは、環境保護のため、大規模水力発電所の開発は制限される方針。実際どれほど水力発電が拡大するかは、各国の方針や今後の状況によると考えられる。
注12:
日本エネルギー経済研究所「グリーン水素によるアジアの脱炭素化の可能性について(2023年1月)」参照。
注13:
出所は、日立造船のプレスリリース。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
田口 裕介(たぐち ゆうすけ)
2007年、ジェトロ入構。アジア大洋州課、ジェトロ・バンコク事務所を経て現職。