湖北省進出日系企業、中期的な事業展望では「現状維持」が最多に(中国)
2023年は事業縮小を企図する企業の割合が増加

2023年5月9日

ジェトロでは年に数回、中国の武漢日本商工会の協力の下、湖北省進出日系企業を対象に、同省のビジネス環境に関する実態把握を行っている。今回は2023年3月27日から31日にかけて実施、108社から回答を得た(武漢日本商工会の会員企業は161社、回答率は約67.1%)。本稿では、2022年に実施した実態把握の結果と比較しながら(2022年8月17日付2022年12月21日付地域・分析レポート参照)、2023年3月時点の同省進出日系企業の実態や事業展開の意向などを紹介する。

2023年事業について「規模を縮小」と回答した企業が大幅に増加

今回の回答企業の属性をみると、企業所在地別では武漢市が多く、全体の83.3%を占めた(図1参照)。企業規模別では、大企業が58.3%と半数を超え(図2参照)、業種別では製造業が65.7%を占めた(図3参照)。

図1:企業所在地(n=108)
武漢市が83.3%、孝感市7.4%、襄陽市3.7%、その他5.6%であった。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

図2:企業規模(n=108)
大企業が58.3%、中小企業36.1%、その他5.6%だった。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

図3:業種(n=108)
製造業65.7%、非製造業34.3%だった。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

「今年の事業について」(注1)は、55.6%が「おおむね年初計画通り」と回答した一方、「当初予定から規模を縮小」とした企業の割合は36.1%だった。2022年3月の回答と比較すると、「おおむね年初計画通り」が18.0ポイント減少し、「当初予定から規模を縮小」が20.6ポイント増加した。新型コロナにかかる規制が大幅に緩和された後も、足元ではビジネスが復調していないことが事業計画に大きく影響しているようだ(図4参照)。

図4:今年の事業について
おおむね年初計画通り55.6%(2022年11月は54.5%、2022年7月は55.0%、2022年3月は73.6%)、当初予定から規模を拡大5.6%(2022年11月は6.5%、2022年7月は3.0%、2022年3月は8.2%)、当初予定から規模を縮小36.1%(2022年11月は35.1%、2022年7月は37.0%、2022年3月は15.5%)、その他2.8%(2022年11月は3.9%、2022年7月は5.0%、2022年3月は2.7%)であった。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

中期的な事業展望は「現状維持」が36.1%で最多に

「2025年以降の中期的な事業展望について」は、回答企業の36.1%が「現状を維持する(見込み)」、31.5%が「規模を拡大する(見込み)」、7.4%が「規模を縮小する(見込み)」と回答した(図5参照)。2022年3月の回答と比較して、「規模を拡大する(見込み)」とした企業が15.8ポイント減少しているが、約7割の企業が現状維持や規模拡大を選択したことから、湖北省進出日系企業の中期的なビジネス展開の方針に大きな変化は生じていないと考えられる。

図5:2025年以降の中期的な事業展望について
現状を維持する(見込み)は36.1%(2022年11月は27.3%、2022年7月は41.0%、2022年3月は32.7%)、規模を拡大する(見込み)31.5%(2022年11月は45.5%、2022年7月は37.0%、2022年3月は47.3%)、規模を縮小する(見込み)7.4%(2022年11月は6.5%、2022年7月は15.0%、2022年3月は0.9%)、まだ分からない22.2%(2022年11月は19.5%、2022年7月は6.0%、2022年3月は19.1%)、その他2.8%(2022年11月は1.3%、2022年7月は1.0%、2022年3月は0.0%)だった。

注:2022年3月に実施した実態把握では「その他」の項目を設けていない。
出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

2022年11月の実態把握から選択肢を一部追加・修正して行った「今後の中国事業での改善・見直しについて」(複数回答可)では、「工場の自動化、倉庫の自動化」と回答した企業が43.5%で最多となった(図6参照)。また、「現地調達率のさらなる引き上げ」「部品や部材などの調達先のさらなる多様化」「事業のさらなる多様化」と回答した企業はいずれも37%となった。また、「日本人駐在員の縮小、現地職員への切り替え」と回答した企業は25.9%だった。

図6:今後の中国事業での改善・見直しについて(複数回答可)
工場の自動化・倉庫の自動化が43.5%(2022年11月は41.6%、2022年7月は47.0%、2022年3月は45.5%)、現地調達率のさらなる引き上げ37.0%(2022年11月は41.6%、2022年7月は42.0%、2022年3月は47.3%)、部品や材料などの調達先の更なる多様化37.0%(2022年11月は41.6%、2022年7月は43.0%、2022年3月は44.5%)、事業のさらなる多様化37.0%、環境対策強化32.4%、日本人駐在員の縮小、現地職員への切替え25.9%、在庫水準の引き上げ5.6%(2022年11月は15.6%、2022年7月は7.0%、2022年3月は9.1%)、その他8.3%(2022年11月は14.3%、2022年7月は16.0%、2022年3月は17.3%)という結果になった。

注1:2023年3月の実態把握から選択肢に「事業のさらなる多様化」を追加した。
注2:「環境対策強化(工場のグリーン化など)」については、単純な比較はできないものの2022年11月の実態把握までは「カーボンピークアウト、カーボンニュートラルへの対応(工場のグリーン化など)」という質問項目で調査を実施し、回答割合は2022年3月が35.5%、2022年7月が51%、2022年11月が37.7%となった。
注3:「日本人駐在員の縮小、現地職員への切替え」について、単純な比較はできないものの、2022年11月の実態把握までは「新型コロナに伴う隔離リスク回避などを理由とする駐在員の現地職員への切替え」という質問項目で調査を実施し、回答割合は2022年3月が27.7%、2022年7月が25%、2022年11月が23.4%となった。
出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

現地政府への要望については「日本との直行便再開」が最多に

2022年11月の実態把握から選択肢を一部削除して行った「湖北省政府、地元政府への要望」(複数回答可)については、「日本との定期航空便の早期再開」(94.4%)と回答した企業が圧倒的に多かった(図7参照)。

2020年に新型コロナの感染拡大が深刻化して以降、一定の時を経て、湖北省武漢市から海外への直行便は徐々に再開しつつあるが(2022年10月26日付ビジネス短信参照)、日本との直行便は2023年4月時点で再開していない。日本から武漢市へ移動する場合は、上海市、広東省広州市、山東省青島市、遼寧省大連市など中国の他都市を経由するか、または香港やシンガポール、ソウルなどを経由する必要がある。依然として、中国への渡航にかかるコストや所要時間がビジネスを行う上での大きな足かせとなっているものとみられる。

また、「人件費上昇に対する支援(減税、補助金等)」(50.9%)や「外国人の中国駐在にかかる就労許可、査証・居留証取得にかかる柔軟な対応」(49.1%)、「日本国総領事館の設立にかかる支持」(47.2%)と回答した企業も多かった。

図7:湖北省政府、地元政府への要望(複数回答可)
日本との定期航空便の早期再開94.4%(2022年11月は84.4%、2022年7月は88.0%、2022年3月は86.4%)、人件費上昇に対する支援(減税、補助金等)50.9%(2022年11月は44.2%、2022年7月は57.0%、2022年3月は54.5%)、外国人の中国駐在にかかる就労許可、査証・居留証取得にかかる柔軟な対応49.1%(2022年11月は46.8%、2022年7月は45.0%、2022年3月は40.0%)、日本国総領事館の設立にかかる支持47.2%(2022年11月は46.8%、2022年7月は45.0%、2022年3月は38.2%)、工場運営、生活維持のための電力等エネルギーの安定供給39.8%(2022年11月は42.9%、2022年7月は37.0%、2022年3月は23.6%)、法規執行の安定性・透明性・利便性の維持・確保37.0%(2022年11月は33.8%、2022年7月は38.0%、2022年3月は37.3%)、工場のグリーン化、スマート化に伴う湖北省の助成政策(補助金等)の説明会開催31.5%(2022年11月は20.8%、2022年7月は36.0%、2022年3月は31.8%)、現地職員確保に対する支援23.1%(2022年11月は16.9%、2022年7月は37.0%、2022年3月は32.7%)、夏季集中豪雨に伴う浸水被害防止の徹底23.1%(2022年11月は11.7%、2022年7月は29.0%、2022年3月は28.2%)、武漢新港(陽羅港)の取扱い貨物の範囲拡大(電池、化学品等)16.7%(2022年11月は14.3%、2022年7月は19.0%、2022年3月は10.9%)、鄂州花湖空港(アジア最大の貨物空港)の早期利用開始13.9%(2022年11月は15.6%、2022年7月は16.0%、2022年3月は0.0%)、その他1.9%(2022年11月は0.0%、2022年7月は10.0%、2022年3月は22.7%)という結果になった。新型コロナに係る規制措置の撤廃を受け、2023年3月の実態把握から削除した「新型コロナ感染症対策(隔離措置等)の緩和」は2022年11月が90.9%、2022年7月が80.0%、2022年3月80.9%

注:新型コロナに係る規制措置の撤廃を受け、2023年3月の実態把握から「新型コロナ感染症対策(隔離措置等)の緩和」を削除した。
出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

カーボンニュートラルに向けた取り組みでは「電力利用の効率化」が最多

今回から新設した「カーボンニュートラルに向けた取り組み、今後の計画」(複数回答可)という設問では、「電力利用の効率化」と回答した企業が44.4%と最も多かった(図8参照)。また、「オペレーションの効率化」(38.0%)、「他社の取り組みの研究」(34.3%)、「工場の自動化、IOTサービスの導入」(31.5%)、「太陽光パネル設置」(30.6%)と回答した企業もそれぞれ3割を超えた。

カーボンニュートラルについて、湖北省では、電力会社以外でも二酸化炭素(CO2)排出量の多い企業には排出枠が設定された。例えば、湖北省生態環境庁は2022年11月11日に「湖北省2021年度炭素排出権割当プラン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を発表し、総エネルギー消費量が年間で石炭1万トン以上となった企業(鉄鋼やセメント、化学工業、医薬、自動車製造などの16業種、外資を含む339社)を「炭素排出割当管理対象企業」に組み入れ、企業ごとに排出枠を設定した(注2)。対象となった企業が排出枠を超過した場合は、排出権取引市場などで超過分の排出権を充当する必要がある(2023年3月23日付ビジネス短信参照)。湖北省進出日系企業も今後、さらにこうした環境規制への対応が求められていくことが予想される。

図8:カーボンニュートラルに向けた取り組み、今後の計画
電力利用の効率化が44.4%、オペレーションの効率化が38.0%、他社の取り組みの研究が34.3%、工場の自動化、IOTサービスの導入が31.5%、太陽光パネル設置が30.6%、使用電力の再生可能エネ由来電力への切り替えが21.3%、自社の炭素排出量の測定が16.7%、グリーン金融の活用が6.5%、排出権取引所の活用、外部クレジット(中国認証排出削減量(CCER)等)の取得が5.6%、その他が7.4%という結果になった。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

新型コロナ関連規制は撤廃されるも、ビジネス展開に慎重な見方も

今回の実態把握では、2023年の事業方針について「おおむね年初計画通り」と回答した企業の割合が、前年同月より18.0ポイント減、また「当初予定から規模を拡大」と回答した企業の割合が2.6ポイント減になるなど、目下のビジネス展開には慎重な姿勢が見られた。新型コロナにかかる防疫規制は2023年1月までにほとんど撤廃され、経済活動は正常化してきた。しかし、サービス消費の回復の一方で、製造分野、不動産分野が力強さを欠いているとの指摘があるほか、米中対立の長期化といった中国の国際関係に潜む不確実性もある。こうした背景から、依然として中国経済の先行きは不透明な印象が強く、湖北省進出日系企業へのヒアリングなどでも「中国市場のリスクを恐れる本社の姿勢が現地でのビジネス展開の方針に大きく影響している」といった声も聞かれた。また、コロナ禍以降、中国への渡航が厳しく制限され、本社の担当者が現地を視察できない状況が長く続いていたことから、「日本との円滑な往来ができてこそ新たな投資の検討が進む」といった声も多く聞かれた。湖北省進出日系企業の投資拡大に向けて、中国経済の安定的な成長、日本と武漢市を結ぶ直行便の早期再開などにも期待がかかる。


注1:
2022年の実態把握は2022年の事業について、2023年の実態把握は2023年の事業について聞いている。
注2:
排出枠はさまざまな計算方法があり、例えば、2021年の排出量×排出制御係数(産業により異なる、0.9176~0.9888)などで算出される方法がある。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・ワルシャワ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課などを経て2021年10月から現職。