欧米企業が撤退し市場縮小も、中国車がシェアを伸ばす(ロシア)
2022年の自動車販売・生産動向と2023年の見通し

2023年10月4日

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、2022年の自動車産業は販売・生産ともに大幅な落ち込みを記録した。日本や欧州などの西側企業が撤退・事業停止する中で、売却・譲渡された工場や設備を使ってロシア国産車の製造が始まり、ロシア市場における中国メーカーのプレゼンスも高まりつつある。

販売台数は大幅減、西側企業撤退の一方、中国メーカーが奮闘

自動車市場調査会社アフトスタトによると、ロシアの2022年の乗用車新車の販売台数は前年比60.5%減で、特に西側企業の販売台数の減少が目立った(図1参照)。一方、中国メーカーの中には前年比で販売台数を伸ばしているメーカーもあり、対照的な結果となった。

2022年の販売台数減少は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を大きく受けた形となった。2021年の販売台数は、新型コロナ禍を受けたロックダウンの影響により販売が急激に落ち込んだ2020年の反動増で、3.3%増加しており、2022年は前年から一転して大幅な減少となった。ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、多くの外国自動車メーカーがロシア向け出荷を見合わせたり、物流の混乱などから国内での組み立て生産を停止したりしたことが影響した。2022年の販売台数をブランド別にみると、ロシア国内で1位だったラーダ(アフトワズ)は前年比46.2%減(18万2,000台)、2位の起亜が67.9%減(6万6,000台)、3位の現代は67.4%減(5万4,000台)だった。日系メーカーでは、トヨタが80.0%減(2万台)、日産が71.4%減(1万5,000台)と軒並み大幅減少した。

図1:ロシアにおける乗用車新車の販売台数推移
2022年は大幅に減少。2017年は147.6万台、2018年は167.2万台、2019年は163.2万台、2020年は148.7万台、2021年は153.6万台、2022年は60.6万台。

出所:アフトスタト「ロシアの自動車市場 - 2023」のデータを基にジェトロ作成

ロシアにおける販売台数の減少が著しかった西側ブランド車と対照的だったのが中国ブランド車だ。ハバル、ジーリーの販売台数はそれぞれ前年比10.9%減(3万4,000台)、0.7%減(2万4,000台)だったものの、チェリー、エクシードはそれぞれ3.7%増(3万8,000台)、3.6倍(1万4,000台)となり、軒並み減少を記録した西側企業とは対照的に、一部中国メーカーが躍進した。アフトスタトによると、ロシアにおける2022年の中国ブランドの乗用車新車販売台数は12万3,000台となり、前年比で6.2%増となった。また、中国ブランドの新車販売台数におけるシェアは、2021年にはロシア市場の7.5%を占めるのみであったが、2022年には20.3%まで躍進した。

生産も大幅減、売却・譲渡された工場でロシア国産車の生産が開始

2022年は、生産台数についても前年比66.9%減となり、大幅な減少を記録した(図2参照)。ロシアによるウクライナ侵攻直後から、ロシア国内の自動車工場が軒並み生産を停止したほか、同じく侵攻の影響により、西側企業が相次いで撤退や事業停止を表明し、生産台数が極端に減少したことが響いた。また、ロシアの地場企業による生産活動においても、物流の混乱などから国内での組み立て生産に影響が及ぶなどし、生産活動が滞った。

図2:ロシアにおける乗用車の生産台数推移
2022年は大幅に減少。2017年は133.8 万台、2018年は155.5万台、2019年は151.3万台、2020年は124.9万台、2021年は135.0万台、2022年は44.7万台。

出所:アフトスタト「ロシアの自動車市場 - 2023」のデータを基にジェトロ作成

ロシアによるウクライナ侵攻直後、ロシア国内にある外国自動車メーカーの工場はそろって生産を停止した。例を挙げると、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は侵攻直後の2022年3月3日、ロシアにおける自動車の生産停止を発表した。日系企業では、トヨタ自動車が同年3月4日、部品調達が困難になったとして操業を停止。日産自動車も同じく3月に、サプライチェーンの混乱を理由としてサンクトペテルブルク工場での生産を停止した。その後、ウクライナ侵攻が長期化の様相を呈すと、西側企業は撤退や事業停止を相次いで表明した。フランスの自動車大手ルノーは同年5月16日、ルノーのロシア事業をモスクワ市政府に、また保有していた67.69%のアフトワズ株式を自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に売却する契約が承認されたと発表した。また、VWも2023年5月19日、カルーガ工場を含む全資産を売却したと発表。日系企業では、日産自動車が2022年10月11日にロシア市場からの撤退を発表、サンクトペテルブルク工場をNAMIに譲渡することを決定した。また、トヨタ自動車も2023年3月31日付でサンクトペテルブルク工場をNAMIに売却した。これらの事例のように、侵攻直後に西側企業が相次いで生産を停止したことが、生産台数の大幅な減少に響いた。地場自動車メーカーについても、海外からの部品調達が困難になり、断続的な生産停止を余儀なくされた。

国内での生産台数の減少を受け、ロシア政府も対策を打ち出している。対策の一例としては、安全基準や環境基準の緩い「簡易版」自動車の生産を認めたことが挙げられる。2022年5月12日付政府決定第855号「特定の車両に対する必須要件の適用ならびに適合性評価の実施に関する規則の承認について」によって、エアバッグやアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)などが搭載されず、排ガス規制も受けない車両の生産が認められた。当初、この規制緩和は2023年1月末までの措置だったが、延長を重ね、2023年8月現在、この規則は2024年1月31日まで有効である。ウクライナ侵攻後に発生した物流の混乱などによって、国内メーカーは部品調達が難しくなったが、この規則の承認は部品調達難の緩和が狙いとみられ、産業商務省も2023年1月31日付プレスリリースの中で、「ロシアの自動車メーカーから多数の要望を受けて延長を決めた」と言及している(2023年2月8日付2023年6月2日付ビジネス短信参照)。

西側企業が撤退し、残された工場などの施設はどうなったのか。譲渡・売却された工場などは、地場企業などが入り、ロシア・ブランド車の組み立て生産を始めるなどして活用されている。モスクワ市は2022年11月23日、旧ルノー工場においてロシア・ブランド車の組み立て生産が始まったと発表(2022年11月25日付ビジネス短信参照)。また、日産自動車の旧サンクトペテルブルク工場も、ロシア乗用車最大手アフトワズによって再稼働されている。旧ルノー工場における生産が開始した折には、モスクワ市のセルゲイ・ソビャニン市長が「ルノーが撤退した際に人々はこれでロシアの自動車産業は終焉(しゅうえん)を迎えたと思ったが、実際には自動車産業の再生のきっかけとなった。ソ連時代のブランドである「モスクビッチ」の名のもとで、新たなモデルの生産を開始できたのは歴史的な出来事だ」とコメントしており、西側企業が残した施設などを活用することで、ロシアにおける自動車産業の盛り上がりを期待する声もある。

そんな中、販売部門にとどまらず、ロシアの自動車製造分野でも中国の存在感が高まりつつある。例えば、旧ルノー工場で生産されるクロスオーバータイプの自動車「モスクビッチ3」は中国の安徽江淮汽車(JAC)のクロスオーバー車をモデルに設計された。組み立て用部品の多くは中国から輸入される(「ロシア24」2022年11月23日)(2022年11月25日付ビジネス短信参照)。

2022年の日本からの中古車輸出は好調

中古車販売台数は前年比で減少するも、下げ幅は新車販売・生産台数に比べ小さかった。日本勢も販売台数で上位に食い込んだが、日本政府の制裁強化により、今後は減少が見込まれる。2022年の中古車販売台数は、486万5,000台で前年比18.8%減にとどまった。ブランド別でみると、販売台数首位のラーダは17.8%減(116万8,000台)、2位のトヨタは17.3%減(54万2,000台)、3位の現代も19.7%減(26万9,000台)だった。

2022年の全体の販売台数のうち、日系企業ではトヨタが11.1%、日産が5.2%、ホンダが3.0%を占めるなど奮闘をするものの、今後もこの状況が続くとは限らない。2022年の日本のロシア向け中古車輸出は前年比33.5%増(20万4,672台)と好調だったが、日本政府は2023年8月9日にロシアに対する輸出禁止措置を拡大。新たに排気量1900cc超の自動車(ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車)、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)なども輸出禁止品目として追加されたことから、2023年以降のロシア中古車市場における日本車のシェアは減少が見込まれる(2023年8月14日付ビジネス短信参照)。

2023年の自動車市場は一転し拡大か

2022年の減少から一転、2023年の乗用車新車販売台数は増加が見込まれている。ロシア自動車販売店協会のアレクセイ・ポドシェコドリン会長は2023年8月、年末までに前年より26万3,000台多い95万台の乗用車新車が販売される予測を発表(「イズベスチヤ」紙2023年8月23日)。アフトスタトによると、直近の1~7月の乗用車新車販売台数も49万7,000台で、前年同期比28.2%増と好調だった。生産面でも、増加が見込まれている。連邦国家統計局によると、2023年1~7月の乗用車生産台数は24万4,000台となり前年同期比で18.6%減少したものの、7月単月の生産台数は前年の大幅減からの反動増となり、前年同月比2.1倍を記録した。また、中国車の影響力も、より一層強くなることが予想される。大手自動車ディーラーであるアフトドム・グループのアンドレイ・オリホフスキー社長は3月、「イズベスチヤ」紙(2023年3月20日)のインタビューに対して、「2023年には、新車販売における中国車のシェアは60%以上になるかもしれない」「ロシア国産車にも、中国からの部品が多く使われている。したがって、(中国の)サプライヤーが提供する自動車のインターフェースやパラメーターに慣れなければならないだろう」との見方を示しており、新車のみならず、部品の面においても中国メーカーの影響力が強まると予測される。

執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班
後藤 大輝(ごとう だいき)
2021年、ジェトロ入構。2022年12月から現職。