業務改善AI
台頭するバングラデシュのスタートアップ(2)

2023年5月30日

バングラデシュのスタートアップ(SU)企業の紹介を行う本連載。1社目に紹介するのが、AI(人工知能)を活用した業務改善ソリューションを企業向けに提供しているインテリジェント・マシンズ(Intelligent Machines)だ。同社も第1回記事で紹介した政府系ベンチャーキャピタルのSUバングラデシュから出資を受けているSUのうちの1社である。モハマド・オリ・アハドCEO(最高経営責任者)とプロダクト・グループ・リードのイナム・ウズ・ザマン氏に話を聞いた(取材日:4月12日)。

質問:
事業内容、これまで開発してきた商品について。
答え:
当社はこれまで、バングラデシュ国内、ミャンマー、オーストラリア、米国の合計10社の顧客企業に28のAIモデルと4つのパーサー(注1)を提供してきた。例えば、ビー・キャッシュ(bKash)には、パパママショップ(伝統的な小売店)の各小売店舗に掲示する同社のプロモーションステッカー(注2)を画像分析するソリューションを提供した。これは、各店舗につき3枚の写真を撮影すると、AIがその店舗に掲示されている同社のプロモーションステッカーの種類、競合となるサービスのプロモーションステッカーの情報、視認性などを瞬時に認識・分析するものだ。このソリューションを活用することで、各小売店で適切なステッカーを適切な場所に掲示できるようになるとともに、余分なステッカーの在庫を減らすことが可能になった。
その他にも、ユニリーバ・バングラデシュに提供した、手書きのレシートをAIが解読し、同時に購入される商品を分析するソリューションや、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・バングラデシュに提供した、営業代理人(セールスレップ)による営業電話の録音を分析し、パフォーマンスの低いセールスレップの改善につなげるためのソリューションなど、各顧客企業の業務改善につながるようなソリューションを提供してきた。

プロモーションステッカーを認識するAIソリューション(インテリジェント・マシンズ提供)
質問:
世界的に見ると、同様のAIソリューションを提供可能な競合は多いと思うが、貴社の強みは。
答え:
個別の案件ごとにモデルをカスタマイズできる小回りの良さと、圧倒的なコスト競争力が当社の強みだ。例えば、ミャンマーの通信サービス企業テレノール・ミャンマー(現アトム・ミャンマー)に、ナショナルIDカードやパスポートの読み取りソリューションを納入した際には、グーグルや華為技術(ファーウェイ)のソリューションが競合となった。しかしながら、これらの大手企業のソリューションは汎用ソリューションのため、読み取り精度が80~85%程度であった。それに対し、当社の商品はこの案件のためにカスタマイズしたソリューションであったため、読み取り精度が93%と、大手競合のそれを上回った。さらに、価格面でも、ファーウェイよりも92%も安い価格を提示することができた。価格を安く抑えることができる要因として、エンジニアの人件費が安いことがあげられる。また、AIを開発する際には、AIの先生の役割を果たすアノテーションというプロセスが必要となる。アノテーションは単純作業のため、特別なスキルは必要としないが、人手は必要となるため、ここでも、バングラデシュの人件費の安さがプラスに働く。当社では、基礎的なトレーニングを受けた267人のアノテーター人材をプールしており、案件に応じて適宜仕事を依頼することができる体制を整えている。
質問:
どのような人材をエンジニアとして採用しているか。
答え:
当社では、他社で経験を積んだ人材に加え、ダッカ大学やバングラデシュ工科大学(BUET)といった、国内トップレベルの大学を卒業した新卒の人材の採用も行っており、現在、当社の社員のうち約3割は新卒採用の社員となっている。これらの国内トップレベルの大学のコンピュータサイエンス分野の学生は、卒業論文のテーマにAIやディープラーニングを選択するケースが多く、元々AIへの関心が高い。一方、トップレベルの学生の一部は卒業後すぐに米国の大手IT企業に就職するケースもみられるとともに、それ以外の学生も将来的に海外で就職することを目指している場合が多い。そのため、採用できても定着させることは容易ではないが、たとえ短期間であっても、このような優秀な若手エンジニアに当社で働いてもらうことは有意義であると考えている。
質問:
現在の課題は。
答え:
バングラデシュ企業の多くは、自分たちがAIを活用できる、もしくは、AIが自分たちの役に立つものであるという発想すらないのが現状だ。そういった意味で、国内でのAIを活用したソリューションの認知度向上、AIソリューション市場の活性化を行うことが課題といえる。
質問:
今後のターゲット顧客は。
答え:
前述のとおり、現時点では、AIソリューションの国内での認知度は高くないが、我々がこれまでサービスを提供してきたbKash、ユニリーバ・バングラデシュなどの大手企業については、業務がより複雑でAIソリューションの利用価値が高いことに加え、ソリューション導入にかかる財政面での負担も可能であるケースが多い。そのため、同様の国内の大手企業がまずは一番のターゲット顧客になると考えている。また、すでに取り組んでいるが、海外顧客との取引についても、将来的には拡大していきたい。

モハメド・オリ・アハドCEO(左から3人目)ほか同社のメンバー(ジェトロ撮影)

注1:
コンピュータプログラムのソースコードやXML(拡張可能なマークアップ言語、eXtensible Markup Language)文書など、何らかの言語で記述された構造的な文字データを解析し、プログラムで扱えるようなデータ構造の集合体に変換するプログラムのこと。
注2:
ビー・キャッシュでの決済を促すために、同社のロゴや、期間限定のキャンペーン情報(ビー・キャッシュでの決済を利用することによるキャッシュバックなど)などを小売店の店先に掲示するステッカーのこと。

台頭するバングラデシュのスタートアップ

執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
薄木 裕也(うすき ゆうや)
2020年、ジェトロ入構。市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て、2022年から現職。