OTTサービス
台頭するバングラデシュのスタートアップ(3)

2023年5月30日

バングラデシュのスタートアップ(SU)を紹介する連載。2社目として、地場の動画ネット配信(オーバー・ザ・トップ・メディアサービス、Over the Top:OTT)プラットフォームの先駆け的存在であるボンゴ(Bongo)を紹介する。ジェトロの調査によると、2022年時点でのバングラデシュにおけるOTTの市場規模は3,000万ドル、年率20%という高いペースで成長している。ネットフリックス(NetFlix)などの国際的なプラットフォームに加え、バングラデシュ独自のプラットフォームも徐々に台頭してきており、その中でもボンゴは最も人気のあるプラットフォームの1つだ。チーフ・コンテンツ・オフィサーのムシュフィクール・ラーマン氏とライセンシング&ディストリビューション・ヘッドのカロライン・ホップナー氏に聞いた(取材日:2023年1月17日)。

質問:
ボンゴのビジネスの概要は。
答え:
当社は、2014年にYouTube上でチャンネルを開設するところから事業を開始した。当時はビー・キャッシュ(B-Kash) などのモバイルマネーも一般的ではなく、自社プラットフォームで課金システムを作りたくても決済手段がない状況だったことも、この形式を取った理由の1つだ。その後、携帯電話やPC(パソコン)、アンドロイドTV(テレビ)など、あらゆるネット接続のあるデバイスからアクセス可能な独自のビデオストリーミング・プラットフォーム「BongoBD.com」を開設し、無料で視聴可能な1万5,000時間分のコンテンツに加え、課金者向けのプレミアムコンテンツの提供を行っている。さらに、1つのOTTプラットフォーマーの枠を超えて、バングラデシュ最大の通信キャリアであるグラミンフォンが持つOTTプラットフォーム「バイオスコープ(Bioscope)」など、他のOTTプラットフォーマーやテレビへのコンテンツ配給、技術インフラの提供を行っている。技術インフラを自社で整備することで、データの収集・分析をスピーディーに実施できる点が強みの1つだといえる。また、著作権の専門家も在籍し、コンテンツのライセンス管理も確実に行っている。
質問:
ターゲット層、現在の利用者の状況は。
答え:
30歳以下の若い世代、かつ幅広い所得層をターゲットにしている。現時点で利用者の70%が30歳以下だ。男女比でみると、データ上は86%が男性となるが、携帯電話の契約を男性名義で行う事例が多いため、実際には女性の視聴者も多いと推測する。新型コロナ禍後のアクティブユーザー数は300万人程度だが、そのうち課金者は2万人程度にとどまっている。今後はいかに課金者を増やしていけるかが、1つの課題といえる。
質問:
どのようなコンテンツを配信しているか。
答え:
ヒット映画、ドラマ、テレビショー、子供向けなど様々なジャンルの配信を行っている。ドラマなどオリジナルコンテンツの制作にも力を入れている。また、海外のコンテンツも積極的に取り扱っており、これまで、トルコ、韓国、米国、タイなどのコンテンツの配信実績がある。トルコのコンテンツはイスラームという文化的な共通点があるため、バングラデシュでは人気が高い。最近では、中国の大手コンテンツ・プロバイダーと新規に契約を締結した。
質問:
日本のコンテンツの配信に関心はあるか。
答え:
日本のアニメはすでにバングラデシュでも一定の知名度があるためもちろん関心があるが、それ以外ではドラマなどにも可能性を感じている。当社では自社で吹き替え用スタジオを所有しており、ベンガル語の吹き替えで配信することも可能だ。これまで、日本のアニメは英語の堪能な一部の高学歴層のみに消費される傾向が強かったが、吹き替えを行えば、当社がターゲットとする幅広い所得層へコンテンツを届けることができる。機会があれば、今後ぜひトライしたい。

吹き替えスタジオでの収録の様子(ボンゴ提供)

ムシュフィクール・ラーマン (チーフ・コンテンツ・オフィサー、右)とカロライン・ホップナー(ライセンシング&ディストリビューション・ヘッド、左)
(ジェトロ撮影)

台頭するバングラデシュのスタートアップ

執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
薄木 裕也(うすき ゆうや)
2020年、ジェトロ入構。市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て、2022年から現職。