2022年の米対内直接投資(フロー)は前年比減も、対外は増(米国)
半導体やEVで大規模投資

2023年9月11日

2022年の米国の対内直接投資は、フローで前年比12.0%減の3,451億ドル、残高(ストック)で前年比4.3%増の5兆2,548億ドルだった(2023年8月23日付地域・分析レポート参照)。対外直接投資は、フローで前年比32.3%増の3,659億ドル、ストックで3.3%増の6兆5,810億ドルだった。

本稿では、米国の対内・対外直接投資のフローについて、国・地域別および業種別の内訳や、具体的な買収・合併(M&A)やグリーンフィールド投資の事例から、トレンドを紹介する(注1)。

対内直接投資は前年比減も、半導体やEV関連で大型投資

2022年の米国の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー。対外投資も同様)は、前年比12.0%減の3,451億ドルだった(図1参照)。

図1:米国の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)
2022年は前年比12.0%減の3,451億ドルだった。国・地域別には欧州が64%を占めた。

出所:米商務省経済分析局(BEA)公表数値からジェトロ作成

国・地域別にみると、欧州が12.5%減の2,193億ドル(寄与度マイナス8.0ポイント)と全体を押し下げた。このうち、アイルランドが80.9%減の80億ドル、ドイツが43.9%減の301億ドル、英国が17.3%減の582億ドルだった。一方、フランスは31.3%増の210億ドル、スイスは4.2倍の161億ドルだった。アジア大洋州は39.4%減の453億ドル(寄与度マイナス7.5ポイント)となり、中でも日本が大きく減少した。中国は65億ドルの引き揚げ超過だった前年に引き続き、13億ドルの引き揚げ超過だった。カナダは18.7%増の550億ドル、中南米は20.8%増の232億ドルだった(表1参照)。

表1:米国の国・地域別対内直接投資 (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2021年
フロー
2022年 2022年末 2022年末
(UBOベース/注3)
フロー 前年比 残高 前年比 残高 前年比
欧州 250,558 219,286 △ 12.5 3,396,499 4.4 2,907,614 5.4
階層レベル2の項目英国 70,322 58,155 △ 17.3 663,369 6.4 660,570 7.1
階層レベル2の項目オランダ 35,396 36,032 1.8 617,076 2.3 212,400 △ 1.6
階層レベル2の項目ドイツ 53,624 30,108 △ 43.9 431,449 6.5 618,814 3.7
階層レベル2の項目フランス 15,973 20,975 31.3 297,637 5.6 360,165 6.6
階層レベル2の項目スイス 3,836 16,111 320.0 307,231 2.3 227,377 △ 1.1
階層レベル2の項目スウェーデン 16,268 14,982 △ 7.9 94,146 19.4 97,867 26.3
階層レベル2の項目ルクセンブルク 6,644 11,536 73.6 323,661 0.3 39,909 32.4
階層レベル2の項目アイルランド 42,223 8,044 △ 80.9 295,001 0.2 344,048 4.0
階層レベル2の項目ノルウェー 2,134 5,770 170.4 36,872 12.3 37,430 12.3
階層レベル2の項目デンマーク 1,078 5,591 418.6 39,428 15.8 40,071 15.0
階層レベル2の項目イタリア 3,240 5,446 68.1 39,752 16.3 46,181 15.1
アジア大洋州 74,725 45,249 △ 39.4 1,002,087 3.1 1,128,107 2.6
階層レベル2の項目日本 62,721 27,598 △ 56.0 711,963 1.5 775,247 0.8
階層レベル2の項目オーストラリア 8,659 6,076 △ 29.8 106,519 8.8 111,660 8.7
階層レベル2の項目シンガポール 1,512 5,346 253.6 36,880 23.4 57,527 19.2
階層レベル2の項目韓国 9,565 4,687 △ 51.0 74,696 5.8 74,620 6.6
階層レベル2の項目中国 △ 6,452 △ 1,294 28,659 △ 7.2 44,786 △ 5.4
カナダ 46,289 54,945 18.7 589,288 7.3 683,798 8.7
中南米 19,237 23,238 20.8 211,876 0.8 198,238 △ 5.8
階層レベル2の項目メキシコ 5,965 5,012 △ 16.0 33,787 21.5 54,049 12.2
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 6,362 7,621 19.8 97,739 △ 4.0 27,788 △ 1.6
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 2,176 7,032 223.2 35,008 △ 8.4 38,779 △ 18.0
アフリカ 834 611 △ 26.7 11,160 6.8 7,610 20.2
中東 491 1,809 268.4 43,907 4.6 77,673 2.4
合計(その他含む) 392,134 345,138 △ 12.0 5,254,816 4.3 5,254,816 4.3

注1:フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
注2:英領カリブ海諸島は、アンギラ、英領バージン諸島、ならびにモントセラトの合計値。
注3:投資主体を最終的に所有またはコントロールしている事業体〔最終的な実質所有者(UBO:Ultimate Beneficial Owner)〕が所在する国を基準とした集計値。
出所:米商務省経済分析局(BEA)公表数値からジェトロ作成

業種別では、製造業が前年比28.7%減の1,429億ドルで、寄与度はマイナス14.6ポイントだった。中でも、化学が66.1%減の316億ドルだった。非製造業では、マイナスの寄与度が大きい順に、不動産業が62.0%減の136億ドル、小売業が59.2%減の135億ドル、預金取扱機関を除く金融・保険業が36.6%減の189億ドルだった。他方、卸売業は64.5%増の468億ドル、情報通信業は50.2%増の276億ドル、預金取扱機関は44億ドルの引き揚げ超過だった前年から102億ドルに増加した(表2参照)。

表2:米国の業種別対内直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
業種 2021年
フロー
2022年
フロー 前年比
製造業 200,318 142,917 △ 28.7
階層レベル2の項目食品 3,162 1,378 △ 56.4
階層レベル2の項目化学 93,106 31,568 △ 66.1
階層レベル2の項目金属 7,643 4,944 △ 35.3
階層レベル2の項目機械 4,141 18,374 343.7
階層レベル2の項目コンピュータ・電子機器 25,203 8,423 △ 66.6
階層レベル2の項目電気機器、家電製品・部品 7,523 2,461 △ 67.3
階層レベル2の項目輸送機器 17,601 10,179 △ 42.2
階層レベル2の項目その他製造業 41,940 65,590 56.4
卸売業 28,476 46,837 64.5
小売業 33,081 13,498 △ 59.2
情報通信業 18,377 27,601 50.2
預金取扱機関 △ 4,420 10,236
預金取扱機関除く金融・保険業 29,875 18,931 △ 36.6
不動産業 35,856 13,634 △ 62.0
専門・科学・技術サービス 10,868 12,496 15.0
その他産業 39,703 58,988 48.6
合計 392,134 345,138 △ 12.0

出所:米商務省経済分析局(BEA)公表数値からジェトロ作成

2023年第1四半期は、前期比53.4%増の1,042億ドルだった。国・地域別にみると、カナダが5.9倍の487億ドル、アジア大洋州が22.5%増の154億ドルだった。中でも、日本が43.8%増の119億ドルと押し上げた。一方で、欧州は7.0%減の377億ドル、中南米は60.4%減の23億ドルだった。

M&Aでは、情報通信業の取引額が大きかった。デジタルインフラに投資を行う米国のデジタルブリッジとオーストラリアのIFMインベスターズは2022年12月、データセンター企業のスイッチを105億ドルで買収した。スウェーデンの通信機器大手エリクソンは2022年7月、クラウドサービスを手掛けるボネージを61億ドルで買収した(表3参照)。一方、資産規模全米38位(2022年12月末時点)のファースト・ホライズン銀行は、2022年2月にカナダのトロント・ドミニオン(TD)銀行から134億ドルで買収されると発表していたが、規制当局による承認のめどが立たないことを理由に、2023年5月に買収中止を発表した。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が2023年3月に、ファースト・リパブリック銀行が同年5月に経営破綻したことなどから、米国では規制当局による金融セクターへの監督と規制強化が検討されている。

表3:米国企業が関わるクロスボーダーM&A取引額上位5社(2022年に取引成立した案件)

対内
買収企業 国・地域名 被買収企業 国・地域名 被買収企業の業種 取引額 完了日
デジタルブリッジ、IFMインベスターズ 米国、オーストラリア スイッチ 米国 情報通信 105億ドル 2022年12月
ブルックフィールド・アセット・マネジメント カナダ CDKグローバル 米国 ITコンサルティング 83億ドル 2022年7月
レントキル・イニシャル 英国 ターミニクス・グローバル 米国 サービス 74億ドル 2022年10月
エリクソン スウェーデン ボネージ 米国 情報通信 61億ドル 2022年7月
ブルックフィールド・アセット・マネジメント カナダ サイエンティフィック・ゲームズ 米国 サービス 61億ドル 2022年4月
対外
買収企業 国・地域名 被買収企業 国・地域名 被買収企業の業種 取引額 完了日
S&Pグローバル 米国 IHSマークイット 英国 ITコンサルティング 435億ドル 2022年2月
ブロック(旧スクエア) 米国 アフターペイ オーストラリア 金融 277億ドル 2022年1月
ゴアズ・グッゲンハイム 米国 ポールスター・パフォーマンス 香港 自動車、自動車部品 197億ドル 2022年6月
ブラックロック・リアル・アセッツ 米国 アラムコ・ガス・パイプラインズ サウジアラビア 石油・ガス 155億ドル 2022年2月
パーカー・ハネフィン 米国 メギット 英国 航空宇宙 98億ドル 2022年9月

注:ワークスペース(2023年7月13日時点)データ、各発表・報道から作成

グリーンフィールド投資では、半導体や電気自動車(EV)に関連する大規模投資が複数みられた。2022年8月に成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)では半導体に関連する対米投資への助成制度が設けられ、同月に成立したインフレ削減法(IRA)ではEV購入時の税額控除において米国内での生産や調達割合を高めるような要件が設定されている。具体的には、台湾積体電路製造(TSMC)は、2022年11月に280億ドルを追加投資し、アリゾナ州に半導体の第2工場を新設すると発表した。TSMCは、2020年5月にも120億ドルを投じて同州に半導体工場を建設すると発表していた。TSMCのサプライヤーの長春グループが2022年10月に同州での工場新設を発表するなど、台湾企業による米国進出が続いている2022年6月28日付地域・分析レポート参照)。EV関連では、韓国の現代自動車グループが2022年5月に、ジョージア州へ55億ドルを投じてEVとバッテリー工場を新設すると発表した。同じく韓国のLG化学は2022年11月に、テネシー州へ32億ドルを投じ、バッテリー材料の正極材の工場を新設すると発表した。これらは、いずれも2025年の生産開始を見込んでいる。

なお、2022年の直接投資の受け入れ先を州別にみると、カリフォルニア州が290億ドルと最も多く、テキサス州(207億ドル)、イリノイ州(109億ドル)、ペンシルベニア州(106億ドル)、ニュージャージー州(103億ドル)が続いた。

外資系(非米系)企業による2022年に新規に創出した雇用者数(注2)は14万2,700人で、州別では、カリフォルニア州とフロリダ州(それぞれ1万3,400人)が最も多く、テキサス州(1万3,300人)、イリノイ州(1万1,200人)、ペンシルベニア州(8,500人)が続いた。また外資系企業による雇用者数を投資国別(UBOベース)でみると、カナダ(3万4,300人)が最も多く、英国(2万2,800人)、フランス(1万1,000人)、スウェーデン(8,700人)、英領バミューダ諸島(6,100人)が続いた。日本は3,800人だった。

対外直接投資は前年比増、コロナ禍に拡大した分野で再編

米国の2022年の対外直接投資は、前年比32.3%増の3,659億ドルだった(図2参照)。

図2:米国の対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)
2022年は前年比32.3%増の3,659億ドルだった。国・地域別には欧州が51%を占めた。

出所:BEA公表数値からジェトロ作成

国・地域別にみると、欧州ではオランダが2.4倍の675億ドル、英国が48.6%増の858億ドルとプラスに寄与した。アジア大洋州は3.2倍の626億ドルで、寄与度はプラス15.5ポイントだった。中でも、シンガポールが倍増の348億ドル、中国は11億ドルの引き揚げ超過だった前年から120億ドルとなった。そのほか、カナダは40.7%増の491億ドル、中南米は2.7倍の654億ドルだった。一方、欧州は全体では3.3%減の1,883億ドルで、寄与度はマイナス2.3ポイントとなり、押し下げ要因になった。特に、アイルランドが77.6%減の111億ドルとなり、ルクセンブルクは158億ドルだった前年から130億ドルの引き揚げ超過だった(表4参照)。

表4:米国の国・地域別対外直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
国・地域名 2021年
フロー
2022年 2022年末
フロー 前年比 残高 前年比
欧州 194,760 188,339 △ 3.3 4,026,811 4.5
階層レベル2の項目英国 57,754 85,842 48.6 1,077,519 4.9
階層レベル2の項目オランダ 28,664 67,508 135.5 944,604 11.0
階層レベル2の項目ドイツ 15,340 13,855 △ 9.7 190,237 9.0
階層レベル2の項目アイルランド 49,472 11,102 △ 77.6 574,323 6.9
階層レベル2の項目フランス 241 6,584 2,632.0 112,017 4.0
階層レベル2の項目スイス 8,140 2,537 △ 68.8 212,235 △ 3.7
階層レベル2の項目ノルウェー 11,172 586 △ 94.8 13,484 △ 14.7
階層レベル2の項目ルクセンブルク 15,839 △ 13,034 605,304 △ 1.8
アジア大洋州 19,789 62,581 216.2 951,153 0.0
階層レベル2の項目シンガポール 17,123 34,756 103.0 309,441 8.7
階層レベル2の項目中国 △ 1,088 12,021 126,104 9.0
階層レベル2の項目インド 2,158 8,217 280.8 51,553 15.1
階層レベル2の項目日本 5,905 7,104 20.3 77,489 △ 29.3
カナダ 34,889 49,100 40.7 438,766 10.1
中南米 24,102 65,412 171.4 1,037,998 △ 0.1
階層レベル2の項目メキシコ 10,737 16,031 49.3 130,274 7.6
階層レベル2の項目ブラジル 1,766 7,555 327.8 80,963 12.0
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 29,708 20,937 △ 29.5 430,395 1.1
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 △ 17,326 14,402 206,389 △ 12.7
アフリカ △ 119 1,340 46,169 2.5
中東 3,059 △ 915 80,148 △ 1.0
合計(その他含む) 276,482 365,857 32.3 6,581,044 3.3

注1:フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
注2:英領カリブ海諸島は、アンギラ、英領バージン諸島、ならびにモントセラトの合計値。
出所:米商務省経済分析局(BEA)公表数値からジェトロ作成

業種別では、製造業が前年比77.2%増の913億ドルで、寄与度はプラス14.4ポイントだった。中でも、コンピュータ・電子機器が2.5倍の290億ドルと大きく増加した。非製造業では、寄与度が大きい順に、情報通信業が3.7倍の799億ドル、鉱業が3.4倍の192億ドル、ノンバンクの持ち株会社が14.3%増の916億ドルだった。一方で、卸売業は87.7%減の25億ドル、預金取扱機関を除く金融・保険業は31.2%減の325億ドルと減少した(表5参照)。

表5:米国の業種別対外直接投資 (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
業種 2021年
フロー
2022年
フロー 前年比
鉱業 5,620 19,151 240.8
製造業 51,510 91,288 77.2
階層レベル2の項目食品 1,427 6,498 355.4
階層レベル2の項目化学 18,451 20,593 11.6
階層レベル2の項目金属 133 1,781 1,239.1
階層レベル2の項目機械 2,655 2,878 8.4
階層レベル2の項目コンピュータ・電子機器 11,730 28,970 147.0
階層レベル2の項目電気機器、家電製品・部品 2,707 2,173 △ 19.7
階層レベル2の項目輸送機器 2,516 11,917 373.6
階層レベル2の項目その他製造業 11,892 16,477 38.6
卸売業 20,472 2,526 △ 87.7
情報通信業 21,454 79,884 272.4
預金取扱機関 1,283 △ 2,640
預金取扱機関除く金融・保険業 47,204 32,484 △ 31.2
専門・科学・技術サービス 13,921 22,121 58.9
持株会社(ノンバンク) 80,126 91,593 14.3
その他産業 34,891 29,452 △ 15.6
合計 276,482 365,857 32.3

出所:米商務省経済分析局(BEA)公表数値からジェトロ作成

2023年第1四半期は、前期比28.5%増の1,008億ドルだった。国・地域別にみると、欧州が55.8%増の424億ドル、中南米が4.8%増の280億ドル、アジア大洋州が57.3%増の213億ドルになった。一方、カナダは35.9%減の73億ドルだった。

M&Aでは、新型コロナ禍を機に市場が急拡大した分野で事業再編の動きがあった。決済サービス企業のブロック(旧スクエア)は2022年1月、後払い決済サービスを提供するオーストラリアのアフターペイを277億ドルで買収した(表3参照)。フードデリバリーサービス大手のドアダッシュは2022年6月に、フィンランドのウォルトを81億ドルで買収した。

グリーンフィールド投資では、アマゾンウェブサービス(AWS)が2022年11月、59億ドルを投じて、スイスにデータセンターを新設すると発表した。ファイザーは2022年12月、計25億ドル超を投じて、アイルランドとベルギーの自社工場を拡張すると発表した。テスラは2023年3月に、メキシコにEV工場を新設すると発表している。同社にとって、米国(カリフォルニア州・テキサス州)、中国、ドイツに次ぐ5カ所目のEV工場となる。

半導体関連分野で日本企業の対米投資が相次ぐ

2022年の日本からの対米投資額は、前年比56.0%減の276億ドルだった。個別案件をみると、バイオや半導体産業での投資が複数みられた。

バイオ分野では、大鵬薬品工業が2022年5月に、抗がん剤を開発するため、バイオ製薬企業のカリナンパールを最大4億500万ドルで買収すると発表した。武田薬品工業も2022年12月に、免疫介在性疾患の医薬品を開発するため、ニンバス・セラピューティクス子会社のニンバス・ラクシュミを最大60億ドルで買収すると発表した。買収は2023年2月に完了した。

日本企業による対米グリーンフィールド投資では、半導体分野で複数みられた。富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズは2022年3月、アリゾナ州に8,800万ドルを追加投資し、既存工場の半導体製造プロセス事業を強化すると発表した。JX金属の米国法人のJXニッポンマインニング&メタルズUSAも同月、アリゾナ州に半導体用スパッタリングターゲット事業を強化するため、工場を新設すると発表した。住友化学は2022年9月、100%子会社の東友ファインケム(韓国)を通じて、テキサス州に新会社を設立し、半導体用プロセスケミカル工場を新設すると発表した。

ジェトロが在米日系企業を対象に2022年9月に実施したアンケート調査「2022年海外進出日系企業実態調査(北米編)」(回答企業数:787社)によると、2022年の景況感を示すDI(改善-悪化)は17.5だった。DIは新型コロナウイルス禍からの反動で大きく上昇した前年度(34.7)と比べ低下したが、プラスを維持した。また、今後1~2年に事業を「拡大する」と回答した企業の割合が48.7%と、前年度(48.1%)を上回った。米国市場の「成長性、潜在性の高さ」が筆頭要因だった。

米国の対日投資額は、前年比20.3%増の71億ドルだった。大型M&Aでは、投資ファンドのベインキャピタルが2022年11月に発表した、アパレル大手マッシュの2,000億円(約14億ドル)での買収がある。グリーンフィールド投資では、メモリー半導体大手のマイクロン・テクノロジーが2022年9月に、広島県の生産拠点を拡大すると発表した。経済産業省は、国内主要産業に半導体を安定供給することなどを目的に、特定の半導体生産施設に助成金を提供しており、同社の投資計画(投資額約1,394億円)には最大で465億円を助成すると明らかにした(2023年5月19日付ビジネス短信参照)。


注1:
本稿は、ジェトロ世界貿易投資動向シリーズ 米国編 2023年版の対内・対外直接投資、対日関係部分をベースに加筆・修正したもの。
注2:
被買収企業の既存雇用者数13万9,000人を含む。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ北九州を経て、2022年5月から現職。