2022年の米対内直接投資残高は4.3%増も、13年ぶりの低い伸び
日本が4年連続で首位、EV・半導体投資続く

2023年8月23日

米国商務省が2023年7月に発表した2022年末時点の米国の対内直接投資残高は、前年比4.3%増の5兆2,548億ドルとなった(2023年7月20日付・米国商務省ニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。外国からの対内直接投資残高は前年に比べ2,168億ドル増加したものの、その伸び率は前年(9.2%増)を下回り、2009年(1.1%増)以来13年ぶりの低水準だった。国別では4年連続で日本が最大の直接投資残高を計上し、日本企業による電気自動車(EV)や半導体関連の投資発表が続いた。

米国の対内直接投資残高は2010~2022年の間、年平均7.2%の伸びを遂げており、2022年の伸び率(4.3%増)は新型コロナ禍の2020年(4.9%増)をも下回る水準となった。例年、投資残高増加への寄与度が大きい、外国企業による米国企業を対象とした買収(対米M&A)が、高金利・ドル高の進行による資金調達環境の悪化、欧州などでの地政学的な不確実性の高まり、世界的な景気後退への懸念などを背景に大幅減少したことなどが要因として指摘できる(注1)。英国調査会社のリフィニティブによると、2022年に完了した外国企業による対米M&Aは、前年比55.3%減の計2,263億ドルとなり、このうち、1回当たりの取引額が10億ドル以上の大型案件は56件で、前年(85件)を大きく下回った。100億ドル以上のM&Aは、オーストラリアの投資会社などがデータセンターの設計・運営を行うスイッチを買収(110億ドル)した案件のみだった(前年は8件)。

投資元上位5カ国をみると、日本が前年比0.8%増の7,752億ドルとなり、2019年以降、4年連続で首位を維持した。日本に次いでカナダ(6,838億ドル)、英国(6,606億ドル)、ドイツ(6,188億ドル)、フランス(3,602億ドル)が続いた(図参照)(注2)。前年から上位5カ国の順位に変動はなかったが、日本の増加幅が63億ドルと小幅だったのに対し、カナダと英国はそれぞれ547億ドル、435億ドルと大きく増加した。この結果、米国の対内直接投資残高に占める国別シェアでは、日本が前年の15.3%から14.8%に低下する一方、カナダは13.0%(前年:12.5%)、英国は12.6%(12.2%)に上昇した。両国のシェアが拡大した一因には、対米M&Aがある。10億ドル以上の対米M&Aに関して、日本が2件(後述)だったのに対し、カナダは8件、英国は9件だった。カナダ企業では、資産運用会社のブルックフィールド・アセット・マネジメントが自動車小売り向けにITサービスを展開するCDKグローバルを83億ドル、サイエンティフィック・ゲームズの宝くじ部門を61億ドルで買収した案件があった。英国企業では、衛生サービス大手のレントキル・イニシャルが同業のターミニックスを74億ドルで買収した案件がみられた。

図:米国の対内直接投資残高推移(UBOベース)
図は2010年から2022年までの米国の対内直接投資残高の推移を縦棒で、また、2022年末時点の残高国別上位5カ国の残高の推移を折れ線で示したグラフ。米国の対内直接投資残高は2010年以降一貫して上昇を続けるが、2021年から2022年の伸びは低い。残高国別には日本が4年連続で1位も、2位のカナダ、3位の英国との差が縮まる。4位はドイツ、5位はフランス。

注:投資主体を最終的に所有またはコントロールしている事業体(最終的な実質所有者(UBO:Ultimate Beneficial Owner))が所在する国を基準とした集計値。
出所:米商務省経済分析局統計(BEA)からジェトロ作成

業種別では、製造業が対内直接投資残高の42.4%を占め、引き続き最大の投資先となった。製造業向けの対内直接投資残高は、前年から1,071億ドル増加したものの、伸び率は5.0%と前年(10.3%)を下回った(表1参照)。製造業の中では、最も残高の多い化学が225億ドル増の8,413億ドル、これに次ぐ輸送機械は101億ドル増の1,983億ドルに増加した。非製造業では、最も残高の大きい金融・保険業が664億ドル減の5,575億ドルとなる一方、これに次ぐ卸売業は539億ドル増の5,119億ドルに増加した。主要業種では、一般機械、その他製造業、卸売業、情報産業において、全業種平均(4.3%増)を上回る2桁の伸びを記録した。

製造業では、半導体やEVに関連した投資の発表が続いた。半導体関連では、受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が2022年12月、アリゾナ州でウエハーを製造する第2工場の建設開始を発表した(2022年12月8日付ビジネス短信参照)。建設中の第1工場と合わせた同社の投資総額は400億ドルに上る。同じく台湾企業のグローバルウェーハズも2022年6月に、テキサス州にウエハー工場を建設すると発表した。米国におけるシリコンウエハー工場の新設は、20年以上ぶりとなる。EV関連では、韓国の現代自動車グループが2022年5月に、ジョージア州でEVとEV用バッテリーの工場を新設すると発表したほか(2022年5月23日付ビジネス短信参照)、現代自動車グループと韓国のSKオンが2022年12月、同州でEV用バッテリー合弁工場を新設すると明らかにした。本件では、40億~50億ドルの巨額投資が見込まれている。このほか、ベトナム自動車メーカーのビンファストも2022年3月、最大20億ドルを投じてノースカロライナ州にEV工場を新設すると発表した。

表1:業種別対内直接投資残高(100万ドル)(△はマイナス値)
業種 2020年 2021年 2022年 構成比(%) 前年比(%) 前年差
製造業 1,924,468 2,122,795 2,229,918 42.4 5.0 107,123
階層レベル2の項目食品 112,432 112,593 101,627 1.9 △ 9.7 △ 10,966
階層レベル2の項目化学 728,731 818,786 841,254 16.0 2.7 22,468
階層レベル2の項目金属 85,183 94,113 98,566 1.9 4.7 4,453
階層レベル2の項目一般機械 95,507 103,901 117,780 2.2 13.4 13,879
階層レベル2の項目コンピューター・電子製品 168,324 188,145 187,225 3.6 △ 0.5 △ 920
階層レベル2の項目電気機械・部品 64,614 72,119 74,664 1.4 3.5 2,545
階層レベル2の項目輸送機械 166,527 188,162 198,279 3.8 5.4 10,117
階層レベル2の項目その他製造業 503,150 544,977 610,523 11.6 12.0 65,546
卸売業 447,756 457,913 511,857 9.7 11.8 53,944
小売業 141,680 174,543 188,912 3.6 8.2 14,369
情報産業 182,913 251,183 278,278 5.3 10.8 27,095
預金取扱機関 217,272 207,143 201,822 3.8 △ 2.6 △ 5,321
金融(預金取扱機関を除く)・保険 585,749 623,962 557,516 10.6 △ 10.6 △ 66,446
不動産・リース 168,392 206,772 221,771 4.2 7.3 14,999
専門サービス 206,403 216,089 227,413 4.3 5.2 11,324
その他産業 738,848 777,625 837,330 15.9 7.7 59,705
合計 4,613,481 5,038,025 5,254,816 100.0 4.3 216,791

出所:米商務省経済分析局統計(BEA)からジェトロ作成

EV・半導体関連で日本企業による投資の発表相次ぐ

日本からの直接投資残高は、前年比63億ドル増の7,752億ドルとなった。内訳をみると、最大のシェア(21.6%)を占める化学の直接投資残高が13億ドル増の1,673億ドルとなった(表2参照)。化学の直接投資残高は2010~2022年の間、年平均で23.5%の成長率を記録し、日本の直接投資残高の増加を牽引してきた。他方、2022年単年でみると、成長率は0.8%とほぼ横ばいだった。例年と異なり、大型の対米M&Aが少なかったことが一因に挙げられる。日本企業の主な動きとしては、富士フイルムが2022年11月、1億9,000万ドルを投じてノースカロライナ州に細胞培養の培地の生産拠点を新設すると発表した。同社は2021年3月にも、同州で20億ドルを投じてバイオ医薬品の製造拠点を建設すると発表している。そのほか、花王によるテキサス州での生産拠点の新設(2022年2月)、AGCの製造・開発受託子会社AGCバイオロジクスによるコロラド州での製造設備能力増強(2022年5月)などが明らかになった。

表2:日本からの業種別対内直接投資残高(UBOベース)(100万ドル)(△はマイナス値)
業種 2020年 2021年 2022年 構成比(%) 前年比(%) 前年差
製造業 342,715 362,247 370,323 47.8 2.2 8,076
階層レベル2の項目食品 5,680 5,818 6,898 0.9 18.6 1,080
階層レベル2の項目化学 162,907 166,082 167,345 21.6 0.8 1,263
階層レベル2の項目金属 9,561 11,144 11,755 1.5 5.5 611
階層レベル2の項目一般機械 19,212 20,482 21,836 2.8 6.6 1,354
階層レベル2の項目コンピューター・電子製品 36,506 38,244 40,184 5.2 5.1 1,940
階層レベル2の項目電気機械・部品 2,388 2,699 3,662 0.5 35.7 963
階層レベル2の項目輸送機械 61,444 66,919 64,325 8.3 △ 3.9 △ 2,594
階層レベル2の項目その他製造業 45,017 50,858 54,318 7.0 6.8 3,460
卸売業 117,714 125,257 132,717 17.1 6.0 7,460
小売業 11,336
情報産業 10,967 17,860 18,462 2.4 3.4 602
預金取扱機関 30,378 32,534 32,995 4.3 1.4 461
金融(預金取扱機関を除く)・保険 115,326 121,958 103,961 13.4 △ 14.8 △ 17,997
不動産・リース 28,041 33,965 31,641 4.1 △ 6.8 △ 2,324
専門サービス 14,646 14,632 14,778 1.9 1.0 146
その他産業 23,101
合計 694,223 768,902 775,247 100.0 0.8 6,345

注:表中の「-」は個別企業のデータ保護のため非公表。
出所:米商務省経済分析局統計(BEA)から作成

製造業で、日本からの直接投資残高が化学に次ぐ輸送機器(8.3%)は、26億ドル減の643億ドルとなった。半導体不足などに伴う車両生産・販売の減少を背景に、2022年の米国事業が赤字に陥る企業もあった。米国法人の内部留保の取り崩しや日本の親会社からの資金借り入れが進んだことが、減少の一因と推測される。個別企業の動きでは、米国政府が推進するEVの普及に関連した投資の発表が相次いだ。ホンダは2022年10月、韓国のLGエナジーソリューションと、オハイオ州にEV用バッテリー工場を設立すると発表した(2022年10月18日付ビジネス短信参照)。投資総額は44億ドルに達する見込みだ。同社は同月、オハイオ州内の3つの既存工場に7億ドルを投じ、北米におけるEV生産のハブ拠点とする構想も明らかにした。そのほかの完成車メーカーでは、トヨタが2022年8月にノースカロライナ州に建設予定のバッテリー工場に25億ドルを追加投資すると発表したほか(2022年9月1日付ビジネス短信参照)、日産自動車が2022年2月にミシシッピ州の既存工場に5億ドルを投じて2車種のEVを生産することを明らかにした。自動車メーカー以外では、パナソニックエナジーが2022年10月に、約40億ドルを投じてカンザス州にEV用バッテリー工場を新設すると発表した(2022年11月2日付ビジネス短信参照)。同社は2022年11月に建設を開始し、2025年3月末までの量産開始を目指している。さらに、輸送機器関連では、ブリヂストンによるトラック・バス用タイヤの生産能力の増強(テネシー州、約700億円)、トヨタによるハイブリッド車用を含むエンジン生産能力の拡張(アラバマ州など4州、約4億ドル)、クボタによるトラクタ用作業機器の生産拠点の新設(ジョージア州、約180億円)、帝人による炭素繊維複合材料の工場拡張(インディアナ州、1億ドル)などがあった。

そのほかの主要業種では、コンピュータ・電子製品の直接投資残高が19億ドル増の402億ドルとなった。同業種では、半導体関連の投資が続いており、富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズは2022年3月、アリゾナ州で8,800万ドルの拡張投資を行うと発表した。JX金属も同月、アリゾナ州で半導体用スパッタリングターゲット事業の強化と新規事業のために投資を行うと発表した。住友化学は2022年9月に、テキサス州で新会社を設立し、半導体用プロセスケミカル工場を建設すると明らかにした。新工場は2024年度の稼働を予定している。

非製造業では、最大のシェア(17.1%)を占める卸売業の直接投資残高が75億ドル増の1,327億ドル、次いで直接投資残高が多い金融・保険(13.4%)は180億ドル減の1,040億ドルとなった。日本企業による対米M&Aの買収額上位をみると、非製造分野の案件が多くを占めている。ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるゲーム会社バンジー(37億ドル)の買収や、森トラストによる首都ワシントンのオフィスビル(約5億ドル)の取得などがあった(表3参照)。2022年中の日本企業による対米M&A件数は165件と、前年(185件)からの減少幅が1割減に限られる一方、金額ベースでは90億ドルと前年(472億ドル)の2割弱の水準にとどまった。前年に実行されたセブン&アイ・ホールディングスによるコンビニエンスストア事業の取得(210億ドル)や、パナソニックによるソフトウエア企業の株式取得(71億ドル)のような大型のM&Aが、2022年にはみられなかった。

表3:日本企業による対米クロスボーダーM&A上位10件(2022年)(-は値なし)
実施
年月
(完了ベース)
買収企業 被買収企業 金額
(100万ドル)
買収後出資
比率(%)
企業名 業種 企業名 業種
2022年7月 Sony Interactive Entertainment LLC 電子・電気機器 Bungie Inc ソフトウェア 3,700 100.0
2022年6月 Sony Corp of America 電子・電気機器 Epic Games Inc ソフトウェア 1,000
2022年9月 森トラスト株式会社 不動産賃貸、仲介業 Boston Properties Inc-Office Building 不動産賃貸、仲介業 530 100.0
2022年6月 大鵬薬品工業株式会社 医薬品 Cullinan Pearl Corp ビジネスサービス 405 100.0
2022年1月 株式会社ネクソン ソフトウェア AGBO Films Studios LLC 映画 400 38.0
2022年3月 Murata Electronics North America Inc 電子・電気機器 Resonant Inc 電子・電気機器 302 100.0
2022年4月 Softbank Vision Fund II 投資会社、証券業、信託 Remote Technology Inc ビジネスサービス 300
2022年4月 Rakuten Symphony 電気通信 Robin Systems Inc ソフトウェア 257 100.0
2022年8月 Pacific Woodtech Corp 木製品、家具・装備品 Louisiana-Pacific Corp-engineered wood products business 木製品、家具・装備品 210 100.0
2022年1月 SoftBank Vision Fund LP 投資会社、証券業、信託 Alto Pharmacy Inc 医薬品 200

注1:買収企業の国籍は最終的な親会社の国籍。
注2:1回の取引金額によるランキング。
出所:Refinitiveから作成

2023年のM&A回復は見通せず、製造業投資の実行に期待

2022年は低い伸びにとどまった米国の対内直接投資だが、2023年に入ってからも明確な回復を見通せない状況が続いている。上半期(1~6月)に実行された外国企業による対米M&Aは、件数、金額ともに前年同期並みの水準にとどまったほか、前年から継続するドル高や主要投資元の欧州などでの高金利、政治・経済両面におよぶ世界的な不確実性の高まりは投資家心理を冷やし、下半期のM&Aに対する逆風となっている。英国フィナンシャル・タイムズのデータベース「fDi Markets」によると、製造業を中心とした外国企業の対米グリーンフィールド投資は2022年に件数、金額ともにデータ遡及(そきゅう)可能な2003年以来の過去最高を記録した。今後は、2022年に発表された半導体やEV関連の大型投資が順次実行に移されることが期待される一方、短期的には半導体需要の停滞や消費の鈍化が予想されている。

半導体やバッテリーなど重要製品の国内サプライチェーン強化を図るバイデン政権が、2021年以降に相次ぎ成立させたインフラ投資雇用法(2021年11月)、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法、2022年8月)、インフレ削減法(IRA、2022年8月)に基づく補助金や税額控除などの投資インセンティブは、外国企業の対米投資マインドを活性化させている。ただ、投資家の間では、国内の人手不足や生産コスト高など構造的課題に対する懸念も根強く残る。こうした投資家の懸念を払拭(ふっしょく)すべく、バイデン政権は産業人材の育成やインフレの抑制に取り組んでいるが、製造基盤の強化につながる外国企業の投資が今後着実に実行されるのか、その行方が注目される。


注1:
これら以外にも、政策に起因する要因として、米連邦取引委員会(FTC)や司法省による反トラスト法(独占禁止法)の運用強化やM&A審査の厳格化、外国から米国への投資が安全保障に脅威をもたらすかどうかを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の執行強化などが挙げられる。CFIUSの2022年報告書によると、未申告取引に対する捜査強化により、審査件数は同年に過去最多を更新した。
注2:
上位5カ国が、米国の対内投資残高全体の59.0%を占める。これら5カ国に次ぐ主要投資元として、アイルランド、スイス、オランダなど欧州諸国が続き、アジア地域ではオーストラリアが9位、韓国が12位、中国が17位に位置している。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
米山 洋(よねやま ひろし)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ北海道、ジェトロ・マニラ事務所、海外調査部国際経済課長などを経て、2020年9月から現職。共著『ジェトロ世界貿易投資報告総論編 各年版』『南進する中国とASEANへの影響』『ASEAN経済共同体』『FTAガイドブック2014』『分業するアジア』(ジェトロ)など。