陸路国境の今
バングラデシュとインド北東地域の連結性(2)

2023年8月1日

バングラデシュとインド北東地域(以下、北東地域)の連結性を理解する上では、両地域をつなぐ陸路国境(図1参照)の状況を整理しておきたい。そこで、ジェトロ・ダッカ事務所は2023年3月、実際にバングラデシュ・北東地域間の2カ所の陸路国境(タマビル―ダウキ国境、アカウラ―アガルタラ国境)に赴いてみた。

本編では、この調査結果をもとに、両地域間の陸路国境を通じた貿易の現況や課題などについて紹介する。

図1:各陸路国境の位置関係
バングラデシュの主要な陸路国境の位置関係を表した地図。バングラデシュ西部の国境のうち、最も南側のボムラ国境を1とし、時計回りに18までの18の国境の位置を図示している。1から8の国境は、インドの西ベンガル州と接する。9から18の国境はインド北東地域に含まれるアッサム州、メガラヤ州、トリプラ州と接する。

注:全陸路国境のうち、本稿においてデータなどを掲載している陸路国境の位置関係を図示。
出所:freemapからジェトロ作成

陸路国境を通じた貿易概況

個別の国境での調査結果について言及する前に、まず、バングラデシュの各陸路国境を通じた輸出入の状況について概観しておく。現在バングラデシュには、各陸路国境や河川港、プロジェクトサイトなどに、全部で57の陸上税関が設置されており、トラック、鉄道、船舶による輸出入が行われている。これらのうち、24の陸路国境が陸上港湾局管轄のもと重点的なインフラ整備および運用を行っていく「陸上港」として指定されており、そのうち15港が「陸上港」としての運用を既に開始している。

図2、3は、各陸路国境(陸上税関)を通じた2020/2021年度(2020年7月~2021年6月)の輸出入額を示したものだ(上位8国境を抽出)。輸出入ともに、ベナポール国境(バングラデシュ西部、インドの西ベンガル州ペトラポールに隣接)での取扱量が圧倒的に多いことが見てとれる。また、輸入が多い国境は、上位8カ所全てが西ベンガル州に接していることもわかる(図1参照)。一方で、輸出が多い国境としては、トリプラ州に接するアカウラ(輸出第3位)、アッサム州に接するシェオラ(輸出第6位)がランクイン。輸出では、北東地域と接する国境での取引の占める割合が輸入に比べて比較的高いことがわかる。

なお、最大の陸路国境であるベナポール国境では、非効率な通関手続きと輸入量の増加により深刻な滞留が発生(インド物流実態調査PDFファイル(16.3MB)参照)。国境の通過に時間を要することが問題視されている。バングラデシュの物流関係者によると、この問題は近年、改善傾向にある。それでも、ベナポール国境での滞留を懸念し、別ルート(海上輸送を含む)での輸送を検討するケースも見られるという。いずれにせよ、インドとバングラデシュの連結性を語る上で、依然として大きな課題の1つであることに変わりない。

図2:バングラデシュの主要な陸路国境における輸入額(2020/2021年度)
バングラデシュの全陸路国境のうち、国境を通じた輸入額の多い順に上位8ヶ所の2020/21年度の輸入額を表したグラフ。最も多いのが、ベナポール国境の約2,460億タカで、2番目に多いボムラ国境の約560億タカを大きく引き離している。3番目以降にショナマスジッド国境、ダルシャナ国境、ヒリ国境、ブリマリ国境、バングラバンダ国境、ビロール国境と続き、8位まですべてがインドの西ベンガル州との国境となっている。

注1:全57の陸上税関のうち、輸入額上位8カ所(河川港やプロジェクトサイトなどを除く)のデータ。
注2:各年度の期間は7月~6月。
出所:バングラデシュ国税庁資料を基にジェトロ作成

図3:バングラデシュの主要な陸路国境における輸出額(2020/2021年度)
バングラデシュの全陸路国境のうち、国境を通じた輸出額の多い順に上位8ヶ所の2020/21年度の輸出額を表したグラフ。最も多いのが、ベナポール国境の約490億タカで、2番目に多いボムラ国境の約180億タカを大きく引き離している。3番目にトリプラ州の州都アガルタラと接するアカウラ国境約70億タカ、6番目にアッサム州と接するシェオラ国境約30億タカがランクインしている。その他、4番目にブリマリ国境、5番目にバングラバンダ国境、7番目にヒリ国境、8番目にショナマスジッド国境となっている。

注1:全57の陸上税関のうち、輸出額上位8カ所(河川港やプロジェクトサイトなどを除く)のデータ。
注2:各年度の期間は7月~6月。
出所:バングラデシュ国税庁資料を基にジェトロ作成

ここで、北東地域との国境に限定して輸出入状況を確認してみる。輸入では、タマビル国境やボロチャラ国境など、メガラヤ州と接するバングラデシュ北部に位置する地点での実績が目立つ(図4参照)。これに対し、輸出は、アカウラ国境やシェオラ国境など、トリプラ州やアッサム州と接するバングラデシュ東部で多い(図5参照)。輸入額についてはおおむね横ばい、輸出額については増加傾向が見られる(注1)。

図4:インド北東地域と接するバングラデシュの各陸路国境における輸入額の変化
インド北東地域と接するバングラデシュの主要な陸路国境を通じた輸入額について、2018/19年度から2020/21年度までの3年間の変化を示したグラフ。最も輸入額が多いのはタマビル国境で、2020/21年度は約13億タカとなっている。その他、シェオラ国境やボロチャラ国境、ボラガンジ国境などが比較的多い傾向にある。一方で、アカウラ国境やビビルバザール国境などは少なくなっている。合計でみると、2018/19年度が約57億タカ、2019/20年度が約41億タカ、2020/21年度が約54億タカとなっており、概ね横ばいの傾向。

注1:バングラデシュとインド北東地域を結ぶ各陸路国境のデータ(当該各年度で輸出額もしくは輸入額がいずれも5億タカ未満の陸路国境は除く)。
注2:各年度の期間は7月~6月。
出所:バングラデシュ国税庁資料を基にジェトロ作成

図5:インド北東地域と接するバングラデシュの各陸路国境における輸出額の変化
インド北東地域と接するバングラデシュの主要な陸路国境を通じた輸出額について、2018/19年度から2020/21年度までの3年間の変化を示したグラフ。最も輸入額が多いのはアカウラ国境で、2020/21年度は約70億タカ、2番目に多いのがシェオラ国境で2020/21年度は約34億タカとなっている。一方で、ボロチャラ国境やボラガンジ国境、タマビル国境などでは輸出額は極めて少ない、もしくは0となっている。合計でみると、2018/19年度が約64億タカ、2019/20年度が約96億タカ、2020/21年度が約144億タカとなっており、増加傾向がみられる。

注1:バングラデシュとインド北東地域を結ぶ各陸路国境のデータ(当該各年度で輸出額もしくは輸入額がいずれも5億タカ未満の陸路国境は除く)。
注2:各年度の期間は7月~6月。
出所:バングラデシュ国税庁資料を基にジェトロ作成

今回現地を視察した国境2地域の状況について、以下に報告する。

1.タマビル国境

インフラ開発で建設用石材の輸入が旺盛に

バングラデシュ北東部に、第3の都市シレットがある。ここからさらに北東に約50キロメートル(km)に位置する町がタマビルだ。一方、インドのメガラヤ州州都シロンから南に約80kmに位置するのがダウキ。この両者をつなぐのが、タマビル―ダウキ国境(以下、タマビル国境)ということになる。この陸路国境を利用した貿易に関して、タマビルとダウキ、両税関に聴取した。

2021/2022年度、インドからバングラデシュへの輸入は約316万トン(t)あった。これに対し、バングラデシュからインドへの輸出は年間約1,700t(約1,400万タカ)。輸入が輸出を圧倒的に上回っている。輸入品目のうち、約90%は石材。そのうち約半分が石灰石、残りの半分が巨礫だ。トラック500台程度が連日、インド側から運んでくる。バングラデシュでは近年、インフラ開発が急激に進んでいる。それに伴い建設材の需要が拡大したことがこれら石材の旺盛な輸入につながっている(ちなみに、石材は主にメガラヤ州内で採掘される。片や、バングラデシュはデルタ地帯に位置するため、供給が乏しい)。

一方で、輸出品目としては、菓子類などの加工食品や家庭用のプラスチック雑貨などがある。もっとも、その金額はまだ小さい。

両国側でインフラ整備に課題

タマビル国境のインド側で、統合チェックポスト(Integrated Check Post:ICP)が設置された。ICPとは、入国管理局、税関、国境警備局などの機関を1つの建物に集約し、ワンストップ・ソリューションを提供する国境施設だ。折しもジェトロが視察した2023年3月21日、開業した。本格的な運用開始にはまだ時間がかかるものの、貿易・入管手続きの円滑化が期待できる(注2)。

一方で、バングラデシュ側では、現時点で、ICPの開発は進められていない。それだけでなく、貨物用・手荷物用のスキャナーがない、頻繁に停電が発生する、インターネット環境が脆弱(ぜいじゃく)など、多々課題含みになっている。

道路については、インド側の課題が大きい。ダウキとシロンを結ぶ国道206号線には、いまだに未舗装区間が残されている(一部区間では改修工事中)。特に、(1)同国境近くの区間ではすれ違いに苦労するほど道幅が狭いこと、(2)ダウキ橋は交互通行で、車両・積載物に重量制限(9t)がかかる、と言った点は深刻だ。そのほか、濃霧で立往生が発生しやすい区間などもある。

当地では、シレットを北東地域への供給拠点として活用することに期待する声がある(2022年6月16日付ビジネス短信参照)。その場合、タマビル国境は、そのルートの1つに当たる。しかし、解決すべき課題が数多いという事実も見えてきた。


タマビル国境:石材の積み下ろしを終えて、
トラックがインド側に戻る(ジェトロ撮影)

インド側に開業したばかりのICP(ジェトロ撮影)

インド側の道路:道幅が狭く、路面状況も悪い
(ジェトロ撮影)

ダウキとシロンを結ぶ道路:
当日も、濃霧が発生していた(ジェトロ撮影)

2.アカウラ国境

立地環境からバングラデシュ製品に需要

バングラデシュの首都ダッカから東に約130kmの町がアカウラ。インドのトリプラ州州都がアガルタラだ。この2都市を結ぶアカウラ―アガルタラ国境(以下、アカウラ国境)は、人の往来も活発だ。2022年7月から2023年3月までで、延べ15万人以上が行き来した。

この陸路国境を利用した貿易に関し、アカウラとアガルタラ、両税関に話を聞いた。2021/2022年度は、インドからバングラデシュへの輸入が9万6,520t(約29億タカ、約38億円、1タカ=約1.3円)。バングラデシュからインドへの輸出は9万1,053t(約60億ルピー、約102億円、1ルピー=約1.7円)だった。

インドからバングラデシュへの最大の輸入品は小麦。そのほか、ショウガやコメなどが輸入されている。ただし、品目が限定的というのが実情だ。一方で、バングラデシュからインドへの輸出品は食品、セメント、ポリ塩化ビニル(PVC)製品など多岐にわたる。比較的高付加価値な製品が多いのも特徴だ(表参照)。インド側のトリプラ州は、インド主要部から隔離された位置条件にある。いきおい、北東地域の中でも特にバングラデシュからの輸入に依存せざるを得ないということだろう。

表:2021/2022年度のアカウラ国境における輸出品目上位30品目
順位 品目 重量(トン)
1 セメント 33,975
2 鮮魚 11,412
3 大豆油 9,147
4 8,597
5 パーム油 5,429
6 異形棒鋼 4,215
7 乾燥魚 2,757
8 マンゴードリンク 2,140
9 養鶏飼料 2,104
10 鉄板(コイル状) 1,793
11 綿 1,648
12 蒸気コイル 1,454
13 LPガス 831
14 ガラス板 616
15 木製・金属製家具 506
16 ポテトパレット 456
17 炭酸カルシウム 428
18 プラスチック家具 413
19 PVCパイプ 382
20 ハンドポンプ 379
21 家庭用プラスチック製品 306
22 ビスケット 273
23 亜鉛メッキ鋼板 177
24 カシューナッツ 155
25 ジュートより糸 154
26 PVCドア 147
27 ロリポップ 133
28 PVCフロアマット 129
29 PVCシート 124
30 即席麺 108

注:各年度の期間は7月~6月。
出所:アカウラ税関資料からジェトロ作成

税関・通関事業者の知識・技能向上を

アカウラ税関へのヒアリングによると、同港では現状、キャパシティー面で十分に余裕がある。通常、滞留などが発生することはない。特段の問題が発生した場合は別として、輸出時にアカウラ側で要する手続きは30分程度で完了するという。一方で、課題として、以下のような点が指摘された。

  1. 現時点で、貨物用スキャナーがない(設置準備中)。
  2. 生鮮食品(鮮魚や野菜など)を取り扱うのに適したインフラが未整備。
  3. ダッカやアシュガンジ港とアカウラ間で、道路状況が良くない。
  4. 輸出入手続きや輸出統計品目(HSコード)に関して、税関職員の知識・技能に不足がある。

なお、4点目の税関職員の知識・技能不足については、同港だけの課題ではない。同国最大の貿易港・チョットグラム(旧チッタゴン)港などですら、深刻な問題になっている。事実、通関の遅れが生じる原因としてたびたび指摘される事項だ。アカウラ税関でも、輸出入品目の拡大にともなって、チェックするHSコードも多様化し、問題として顕在化してきたという状況と推測される。連結性の改善を図る上で、重要な課題となるため、継続的な訓練が必要だろう。あわせて、C&Fエージェント(いわゆるフォーワーダー)の知識不足を問題視する声も聞かれる。民間サイドのスキルアップもあわせて進めていく必要がある。

トランジット輸送本格化の場合、さらに利用拡大の可能性

この連載の「バングラデシュとインド北東地域の連結性(1)課題と動向」で紹介したように、今後、インド主要部からバングラデシュを経由し、北東地域まで一貫した物流システムが組まれることも想定される。そうしたトランジット輸送が本格的に活用されるようになると、アカウラ国境の利用はさらに拡大する可能性がある(アガルタラ税関)。IBP航路(注3)を利用する場合、(1)アシュガンジ港(アカウラの西に位置する河川港)を経由して、トラックに積み替え、(2)その後、アカウラ国境を通じてトリプラ州に輸送される、というルートが想定される。また、将来的に西部のベナポール国境を通じたトランジット輸送が利用可能になった場合、トラックでバングラデシュを横断して、アカウラ国境からトリプラ州に輸送するルートが現実的になる(現時点では、このルートは利用が認められていない)。

一方で、同じくトリプラ州とバングラデシュの国境地域では、トリプラ州南部の町サブルームとバングラデシュのラムガルフを結ぶ新たな陸上港の開発が進められている。当該区間が開業すると、この新しい陸上港がチョットグラム港(および現在開発が進む南部のマタバリ港)からトリプラ州への陸路輸送のゲートウェイを担うことが想定できる。


アガルタラICP(ジェトロ撮影)

アカウラ国境:バングラデシュ側の様子
(ジェトロ撮影)

アカウラ陸上港:小規模な倉庫があるだけで、
特段の施設はなかった(ジェトロ撮影)

注1:
3年間という比較的短期間で確認した結果にとどまる点、要留意。
注2:
タマビル国境付近では、写真撮影する人などが多く見られた。国境を越えた良好な関係が感じられる。
注3:
インド・バングラデシュ議定書航路。「内水面貿易・輸送に関する議定書」で定められた両国の船舶がお互いの領内を航行できる内陸水運航路のこと。

バングラデシュとインド北東州の連結性

執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
薄木 裕也(うすき ゆうや)
2020年、ジェトロ入構。市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て、2022年から現職。