ウクライナ危機によるベトナムの上半期貿易への影響、輸入額が増加
直接的な影響は限定的も、間接的な影響大

2022年9月29日

2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻してから、約半年が経過した。しかし、いまだにこの軍事侵攻は終わる兆しが見えない。このウクライナ危機は、ロシアとウクライナ間の問題だけでは収まらず、世界中の国々にさまざまな影響をもたらしている。例えば、両国は一次産品の主要なサプライヤーであり、小麦、トウモロコシ、天然ガス、石油などの輸出が、世界全体の輸出総額に占める割合が大きい。これら多くの一次産品の価格は、ロシアのウクライナ侵攻以来、世界的にも急速に上昇している。今回は、このウクライナ危機がベトナムの貿易にどのような影響を及ぼしているのか、2022年上半期(1~6月)と2021年上半期の貿易統計を比較しながら読み解く。

ロシア、ウクライナがベトナムの貿易額に占める割合は、全体の1%未満

最初に、2022年上半期におけるベトナムの貿易について振り返る。輸出は、前年同期比17.3%増の1,860億ドル、輸入は、15.5%増の1,853億ドルだった(2022年7月15日付ビジネス短信参照、表1参照)。輸出入ともに、全体的に堅調な伸びをみせた。国・地域別でみると、輸出は、中国と香港向けが、いわゆる新型コロナウイルスの「ゼロコロナ政策」の影響によって伸び悩んだが、そのほかの上位国・地域は大幅な増額となった。特に、最大の輸出先である米国向けが24.1%伸びるなど、欧米向けの輸出が好調を維持した。輸入は、米国(2.4%減)を除き、上位国・地域は増額となった。

一方、ロシア、ウクライナとの貿易に着目すると、輸出はロシア(前年同期比49.4%減)、ウクライナ(68.0%減)向けがともに大幅に減少した。一方、輸入はロシアが22.5%増加したが、ウクライナは9.2%減となった。ロシア、ウクライナとの貿易額は前年同期と比べ、変動幅が大きいことがわかる。しかし、両国とも輸出入どちらも、ベトナムの貿易全体に占める割合は1%未満であり、特にウクライナは0.1%以下とかなり少ない。そのため、ウクライナ危機がベトナムの貿易に与える直接的な影響は限定的であると考えられる。

表1:ベトナムの主要国・地域別輸出入(通関ベース)

輸出(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域名 2021年上半期 2022年上半期
金額 構成比 金額 構成比 前年
同期比
1 米国 45,618 28.8 56,600 30.4 24.1
2 中国 24,555 15.5 26,171 14.1 6.6
3 韓国 10,335 6.5 12,102 6.5 17.1
4 日本 10,082 6.4 11,379 6.1 12.9
5 香港 5,687 3.6 5,520 3.0 △2.9
6 オランダ 3,891 2.5 5,043 2.7 29.6
7 ドイツ 3,598 2.3 4,371 2.3 21.5
8 インド 2,926 1.8 4,073 2.2 39.2
9 タイ 3,050 1.9 3,642 2.0 19.4
10 カナダ 2,457 1.5 3,246 1.7 32.1
29 ロシア 1,657 1.0 839 0.5 △49.4
70 ウクライナ 157 0.1 50 0.03 △68.0
合計(その他含む) 158,569 100 186,032 100 17.3
輸入(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域名 2021年上半期 2022年上半期
金額 構成比 金額 構成比 前年
同期比
1 中国 53,325 33.2 61,124 33.0 14.6
2 韓国 25,438 15.9 32,539 17.6 27.9
3 台湾 10,163 6.3 12,126 6.5 19.3
4 日本 10,852 6.8 12,038 6.5 10.9
5 米国 7,734 4.8 7,546 4.1 △2.4
6 タイ 6,624 4.1 7,009 3.8 5.8
7 オーストラリア 3,698 2.3 5,232 2.8 41.5
8 マレーシア 4,230 2.6 4,831 2.6 14.2
9 インドネシア 3,621 2.3 4,608 2.5 27.2
10 インド 3,429 2.1 3,709 2.0 8.2
19 ロシア 967 0.6 1,184 0.6 22.5
51 ウクライナ 125 0.1 114 0.1 △9.2
合計(その他含む) 160,427 100 185,289 100 15.5

注:2022年上半期は速報値、2021年上半期は確定値。
出所:ベトナム税関総局のデータを基にジェトロ作成

ウクライナ危機を起因とする資源価格高騰が影響

それでも、ベトナムの輸入において大きな変化がみられた。7位オーストラリア(前年同期比41.5%増)や9位インドネシア(27.2%増)といった資源国からの輸入が大幅に増加している。両国からの輸入を品目別にみると、どちらも石炭の増加が激しい。石炭の輸入額はオーストラリアが3.1倍の24億8,190万ドル、インドネシアが71.8%増の9億9,668万ドルだった。ベトナムでは、経済成長とともにエネルギー資源の需要が増加している。電力供給面では、ベトナムは石炭火力発電が主要な電源となっており、石炭の確保が欠かせない(2022年4月8日付ビジネス短信参照)。近年は、ベトナム国内の石炭採掘量は伸び悩んでおり、輸入への依存度が増している状況だ。一方、2022年上半期の石炭の輸入量をみると、オーストラリアが5.3%減、インドネシアは29.3%減となり、むしろ減少している。ベトナムは石炭の輸入量を抑制したが、世界的な石炭価格の上昇を受け、金額が大きく膨らんだことがわかる。資源価格の高騰がベトナムの輸入額上昇の要因となっており、ウクライナ危機によるベトナムの貿易に与える間接的な影響は大きいと言える。

ロシアへの輸出は半減も、資源価格の高騰で輸入は大幅増

続いて、ベトナムとロシアの貿易を読み解く。ロシアへの輸出は全体として前年同期比で大幅に減少し、約半分となった(表2参照)。品目別にみても、ほぼ全ての品目で大幅に減少している。特に1位の電話機・同部品は、71.7%の減少となった。ベトナムにスマートフォンの大型工場を構えて電話機・同部品輸出の大半を占めるサムスン電子が、ロシアへのスマートフォンの出荷を停止したことが影響している。一方の輸入は、金属類、化学原料を除いて上位品目すべてが大幅に増加した。特に石炭は、85.8%増と伸び、対ロシア輸入の3分の1を占める。ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、各国が経済制裁としてロシア産の石炭の輸入を禁止する中(2022年3月9日付2022年4月11日付ビジネス短信参照)、ベトナムは中立の立場を示し、引き続きロシアから石炭を輸入していたものと推測できる。ただし、石炭の輸入額は、4月をピークに増えたが、5月と6月は大幅に落ち込んでいる。また、輸入量をみると、2021年上半期が198万トンであったのに対し、2022年上半期は141万トンにとどまっている。輸入量は減っている半面、輸入額は大幅に増加していることから、ロシアから輸入される石炭価格も高騰していることがわかる。

表2:ベトナムとロシアの貿易(通関ベース、主要品目)

輸出(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年上半期 2022年上半期
金額 構成比 金額 構成比 前年
同期比
電話機・同部品 501 30.2 142 16.9 △71.7
縫製品 195 11.7 117 13.9 △40.0
コーヒー 82 5.0 110 13.1 33.9
機械設備・同部品 87 5.2 74 8.8 △14.4
コンピュータ電子製品・同部品 253 15.3 66 7.9 △73.8
水産物 87 5.3 57 6.8 △34.5
履物 87 5.3 40 4.7 △54.3
果物・野菜 42 2.5 25 3.0 △40.9
ゴム 11 0.7 18 2.2 65.9
カシューナッツ 25 1.5 16 1.9 △37.1
合計(その他含む) 1,657 100 839 100 △49.4
輸入(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年上半期 2022年上半期
金額 構成比 金額 構成比 前年
同期比
石炭 218 22.5 404 34.2 85.8
鉄鋼 160 16.6 226 19.1 40.8
肥料 62 6.4 97 8.2 56.3
水産物 44 4.5 66 5.6 50.9
プラスチック原料 24 2.5 53 4.5 122.4
木材・木製品 20 2.1 32 2.7 58.3
金属類 31 3.2 31 2.6 0.9
化学原料 25 2.6 20 1.6 △22.9
鉱石 15 1.5 19 1.6 27.4
医薬品 10 1.0 17 1.4 78.2
合計(その他含む) 967 100 1,184 100 22.5

注:2022年上半期は速報値、2021年上半期は確定値。
出所:ベトナム税関総局のデータを基にジェトロ作成

ウクライナへの輸出は大幅減、輸入は微減にとどまる

次に、ウクライナとの貿易を品目別にみると、輸出は上位品目の多くが6割以上の大幅な減少となった(表3参照)。ロシアの侵攻により、ウクライナの黒海沿岸部の港湾が封鎖されたため、ウクライナ向けの輸出ができず、減少が激しいものと思われる。月別にみると、1、2月の輸出額が、上半期のウクライナ向け輸出額全体の約9割を占めており、ロシアがウクライナに侵攻した2月下旬以降、ほとんど輸出できていない。

一方の輸入は、もともと品目数が少なく、そのうち98%が貿易統計上「その他製品」に分類されているため、品目別の詳細な動向がつかめない。月別にみると、やはり2、3月の輸入額が、上半期の輸入額全体の約9割を占めており、4月以降はウクライナから輸入がほぼ止まっている。ただし、2022年7月22日にウクライナ、ロシア、トルコの3カ国は、国連の支援の下、トルコのイスタンブールで、黒海を経由したウクライナからの穀物輸出再開に関する合意文書に署名したと発表(2022年7月26日付ビジネス短信参照)。当事国は、この合意に関連する全船舶と港湾施設に対するいかなる攻撃も行わないことなどを定めた。これにより、穀物に限らず、さまざまな品目がベトナムに輸入されることが期待される。

表3:ベトナムとウクライナの貿易(通関ベース、主要品目)

輸出(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年上半期 2022年上半期
金額 構成比 金額 構成比 前年
同期比
電話機・同部品 68 43.3 22 42.9 △68.3
水産物 16 9.9 6 11.0 △64.6
機械設備・同部品 7 4.2 3 6.8 △48.7
履物 9 5.8 3 6.6 △64.0
コンピュータ電子製品・同部品 9 5.7 3 6.6 △63.4
コーヒー 7 4.6 2 4.6 △68.1
カシューナッツ 7 4.4 2 3.6 △74.1
織布・生地 4 2.6 2 3.2 △61.1
1 0.6 1 1.3 △34.6
プラスチック製品 2 1.4 1 1.2 △73.1
合計(その他含む) 157 100 50 100 △68.0
輸入(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年上半期 2022年上半期
金額 構成比 金額 構成比 前年
同期比
その他製品 121 96.4 111 98.0 △7.7
機械設備・同部品 3 2.7 2 1.9 △37.4
鉄鋼 1 0.8 0.1 0.1 △91.6
合計(その他含む) 125 100 114 100 △9.2

注:2022年上半期は速報値、2021年上半期は確定値。
出所:ベトナム税関総局のデータを基にジェトロ作成

ベトナムは貿易額のGDP比が184%と非常に高く、ベトナム経済は世界情勢の影響を大いに反映する。今のところ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻の終わりが見えず、各国によるロシアへの経済制裁やエネルギー資源の高騰による経済への影響は続くことが予想される。また、世界経済はウクライナ危機だけではなく、新型コロナウイルスのような感染症の拡大、それに伴う世界的なサプライチェーンの混乱など、さまざまな問題を抱えている。それらの影響がベトナムの貿易へ与える影響について引き続き注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
蛇見 拓斗(じゃみ たくと)
2017年、富山県庁入庁。2021年ジェトロ海外調査部アジア大洋州課、2022年4月から現職(出向)。