米西海岸港湾の労働協約が7月1日に失効、労使は通常業務継続を表明

2022年7月15日

米国西海岸港湾では、太平洋海事協会(PMA)と国際港湾倉庫労働者組合(ILWU)の労働協約が7月1日午後5時(太平洋標準時)をもって失効した。労働協約は、契約期間中にストライキやロックアウト、作業停止を行うことを禁じているが、失効後はこれに縛られないため、新たな労使協約の締結に向けた労使交渉の行方次第では、ストライキなどに発展し、港湾機能が停滞することが懸念されていた。PMAとILWUは失効当日に共同声明を発表し、「(現行の労働協約の)契約延長はしないが、PMAとILWUが(新たな労働協約の)合意に達するまで、荷物は動き続け、港湾の通常業務は継続される」と表明しており、西海岸の港湾機能は引き続き維持される見通しだ(2022年7月4日付ビジネス短信参照)。

過去には大規模な混乱も発生

米国西海岸港湾では、PMAとILWUによる労働協約の期限に合わせて定期的に労使交渉が行われている。2000年以降では、2002年、2008年、2014年、2019年がその期限にあたり、このタイミングに合わせて交渉が行われた。前回の交渉では、2019年7月1日に失効予定だった労働協約を2022年7月1日まで3年間延長していた(2017年9月8日付ビジネス短信参照)。

2000年以降の労使交渉の経過をみると、例えば2014年の交渉では、協約失効後1年以上にわたって交渉が継続して行われるなど(2015年6月12日付ビジネス短信参照)、協約失効前に合意に至った例はない。また、過去には労使交渉が難航し、荷役業務の遅れにより米国経済に1日当たり20億ドルともいわれる巨額な損失が生じ、時の政権が介入したこともある(2017年9月8日付ビジネス短信参照)。

サプライチェーンの混乱が続く異例の状況下での労使交渉

今回の労使交渉は、2022年5月10日から正式に始まった。これに先立ち、PMAは2021年10月に労働協約を1年間延長するよう申し出たが、11月にILWUがそれを拒否している。労使交渉では、一般的に賃金と福利厚生が争点になるが、これに加えて、今回は荷役作業の自動化も重要な論点になるとみられてきた(ブルームバーグ2022年4月13日)。

米国では、新型コロナ禍に端を発した世界的なサプライチェーンの混乱と港湾混雑、コンテナ不足に伴う財供給の不足や遅延、運賃高騰、これらを一因とした物価の高騰が続いており、労使交渉が開始される前から、全米主要業界団体が早期妥結に向けてバイデン政権に関与を要請するなど(2022年3月7日付ビジネス短信参照)、今回の労使交渉に対する関係者の関心は極めて高い。とりわけ、2022年11月に中間選挙を控える中、支持率が低迷するバイデン政権としては、労使交渉が難航し、物流混乱にさらなる拍車をかける展開は何としても避けなければならず、元陸軍大将で米国輸送軍(注)の司令官などを歴任したライオンズ氏を、港湾・サプライチェーン担当の新たな特使に任命するなど(2022年6月7日付ビジネス短信参照)、強い関心を持って交渉の行方を見守っている。

労使双方ともに7月以降も自制をもって交渉を続け、妥結を急ぐ

このように異例な状況下での交渉のため、当初は早期妥結が図られるという楽観的な見方もあったが、ILWUが5月後半に交渉の一時的な中断を要請するなど、実際には厳しい交渉が続いている模様だ(2022年5月26日付ビジネス短信参照)。

もっとも、PMAとILWUは、6月14日の共同声明で「労使双方ともにストライキやロックアウトの準備はしていない」と表明している(2022年6月15日付ビジネス短信参照)。労働協約失効当日に発表した共同声明では、「両者は、地元、地域、米国経済にとっての港湾の戦略的重要性を理解しており、西海岸に対する継続的な信頼を確保するために、できるだけ早く新しい沿岸全域の契約を確定する必要性に留意している」とも述べており、7月以降も労使双方ともに自制をもって交渉を続け、妥結を急ぐとみられる。

実際、行政や議会、企業などの幅広い関係者から円滑な交渉妥結を求める圧力は高まっている。労働協約失効間際の6月30日には、民主党選出の連邦議会議員21人がPMAとILWUに書簡を送り、労使双方が団体交渉のプロセスに専念し、合意に至るまで誠実に努力することを要請した。失効当日の7月1日には、米小売業協会(NRF)をはじめ157の米国主要業界団体がバイデン大統領に書簡を送り、バイデン政権がPMAとILWUに働きかけを行い、労使双方が最終合意に達するまでの間、現行の労働協約を延長することや、両者が交渉の席にとどまり、誠実に交渉することを約束すること、港湾のさらなる混乱を招くようないかなる行動も行わないと合意することを促すよう求めている。

このような中、PMAやILWUとしてもストライキやロックアウトのように港湾機能を停滞させる強硬手段を取りづらいのが実情だ。

マーティ・ウォルシュ米労働長官は「PMAとILWUとは毎週連絡を取り合っている」とした上で、「われわれは良い場所にいると言い続けている。前へ進んでいる」と述べ、交渉が順調に進んでいるという認識を示している(ロイター2022年6月28日)。

展開次第では連邦政府の介入も

ジェトロのロサンゼルス事務所で物流アドバイザーを務める森本政司氏は「米国西岸港の労使交渉は、ターミナルの自動化が焦点となっている。労使の隔たりが小さい場合、港湾オペレーションに影響せずに交渉が続行すると考えられるが、労使の隔たりが大きい場合、港湾オペレーションに影響するおそれがある。ただし、その場合、連邦政府が早期に介入する可能性が高い」と指摘した。さらに、今後の展開については、「今後も大きな混乱が生じることなく交渉が継続されるというのが大方の見方で、ILWUがストライキを宣言しなくても、組合員が自主的に荷動きを遅延させ、港湾の処理能力を低下させようとする可能性はあり得るが、その場合でも連邦政府が介入してそれを防ぐだろう」との見解を示している。


注:
輸送軍は、米軍において地域や機能の別に編成された11の統合軍のうちの1つ。全世界の米軍の兵站(へいたん)や輸送に関する作戦指揮を統括する。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
永田 光(ながた ひかる)
2010年、財務省入省。2020年8月からジェトロに出向、現職。