南部TN州で、迅速対応が第3波(オミクロン株)抑制に奏功(インド)
第2波(デルタ株)の教訓も生かし

2022年3月15日

2021年4月以降、世界的にデルタ株の感染が拡大し、新型コロナウイルスが再流行した。このときは、インドの状況がしばしば報道で取り上げられた。

一方オミクロン株については、インドでの感染について現況が日本で報じられることはそこまで多くはないようだ。以下、筆者が駐在するチェンナイを州都とする南部タミル・ナドゥ州(TN州)を例に、両株の流行について比較を試みる。

1日当たりの新規感染者数はどう推移

インドでは、2020年3月以降のアルファ株の感染拡大が第1波、2021年4月以降のデルタ株感染が第2波、2022年1月以降のオミクロン株感染が第3波とされる。日本と比べるとピーク回数が少ない。一方で、それぞれのピーク時で感染者が多いことが特徴だ。

特に第2波では、デルタ株の感染拡大により、2021年4月18日以降、TN州の1日当たりの新規感染者数は1万人超え。その後、5月2日には2万人、5月12日には3万人を超えた。しかし、5月21日の3万6,184人をピークに、減少傾向へ。5月30日に3万人、6月7日には2万人を下回り、急激に減少した。そして、ピークから1カ月を経過しない6月17日に1万人を下回った。第2波の幅は約2カ月で、上昇幅・下降幅ともにおよそ1カ月だった。

一方、第3波では、オミクロン株の感染拡大により、2022年1月8日に1万人を超えた。感染拡大のスピードは速く、1月13日に2万人、1月22日には3万人を超え、3万744人となった。しかし、その後は下降。1月31日に2万人を、2月4日に1万人を下回った。第3波の幅は約1カ月で、上昇幅・下降幅ともにおよそ半月だった。

感染者数が1万人を超えた日を1日目とし、その後1万人を下回る前までの感染者数の推移を図で示す。第3波は、感染拡大、収束ともに、第2波よりも早い。ピークは、第2波が3万5,000人前後で推移したが、第3波は3万人前後で推移した。すなわち、ピーク時の感染者は第2波の方が多かった。

図:TN州の1日当たりの新規感染者数
第2波においては、新規感染者数が1万人を超えてからピーク時の3万6,184人に達するまでと、そこから減少し1万人を下回るまでの、上昇幅・下降幅はともにおよそ1カ月である。一方、第3波においては、新規感染者数が1万人を超えてからピーク時の3万744人 に達するまでと、そこから減少し1万人を下回るまでの、上昇幅・下降幅はともにおよそ半月である。

出所:Daily Bulletin(TN州政府)からジェトロ作成

現在TN州では、累計約1億回のワクチン接種を実施済み。18歳以上の成人の6割以上が、接種を2回済ませている。そのうちの多くが、第2波と第3波の間に、2回目の接種を済ませた。第3波では、ワクチン接種が感染者数の増加抑制・減少に寄与したと考えられる。

ロックダウン時期と影響を比較すると

TN州政府による行動抑制策はどうだったのか。

第2波では、1日当たりの新規感染者数が1万人を超えた直後(2021年4月20日)から、夜間および日曜日に限って外出禁止令を発出(2021年4月20日付ビジネス短信参照)。続いて、5月10日から終日外出禁止令を出し(2021年5月13日付ビジネス短信参照)、一部の例外を除き完全なロックダウンを実施した。さらに、5月17日から近距離の移動についても許可証(eパス)取得を義務付け。警察によるチェックポストが設けられた(2021年5月24日付ビジネス短信参照)。これらの結果、5月21日以降、1日当たりの新規感染者数が減少傾向を示し始めた。しかし、州内の県ごとの感染状況が異なったため、6月7日から県ごとにロックダウンが緩和された。TN州西部地域は、感染拡大が収まっていないとされたため、厳しいロックダウンが継続した(2021年6月8日付ビジネス短信参照)。

一方、第3波では、1日当たりの新規感染者数が1万人を超える前、2022年1月6日から、夜間と日曜日に限った外出禁止令を発出(2022年1月14日付ビジネス短信参照)。1月23日以降、新規感染者数が減少傾向に転じた。その後の1月28日に、この外出禁止令が解除された(ロックダウン緩和のタイミングが予想外に早く、筆者は驚いた)。

第2波と第3波を比較すると、第3波では、終日外出禁止令、許可証(eパス)の義務付け、県ごとのロックダウン緩和がなかった。第2波の方が規制期間が長かったことも相違点で、総じてより厳しいロックダウンだったと言える。また、当局の動きについては、第3波の方がTN州政府の初動がより早かった。それがピーク時の感染者数抑制につながったと考えられる。 在チェンナイ周辺日系企業の対応にも差異があった。第2波では、日系企業の多くから駐在員退避の話を耳にした。対して第3波では、それほどなかった印象だ。

第2波では、チェンナイ市民の生活に圧迫感

チェンナイ在住のインド人に聴取したところ、第2波にあっては買い物ができなくなったことや飲食店が閉まったことで生活に支障が出た、との声があった。新型コロナにより亡くなる人がいたために、新型コロナへの恐怖感を訴える声や、友人や親戚に会えず精神的につらかった、という声も聞かれた。また、食料品市場などで働き、日払い給与により生計を立てている人の中には、給与の支給がなくなり困窮した人もいたとの話が聞かれる。

一方、第3波については、生活で困った点を挙げる人はほとんどいなかった。夜間と日曜日に限った外出禁止令の場合、活動可能な時間帯があるため、影響が小さかったようだ。しかし、感染力の強さから、デルタ株以上にオミクロン株を恐れる人もいた。

ワクチンについては、政府系病院が提供した無料接種を第2波後に利用した人もいたためか、政府対応を評価する声が聞かれた。一方、第3波では既に2回のワクチン接種を終えた人が多い。そのことがマスクを外したり、消毒を怠ったりすることにつながっている、との指摘も聞あった。

TN州政府の第3波対応に評価の声

TN州政府は、第2波での経験を、教訓として生かし、第3波では迅速な対応を取ったといえよう。新型コロナ感染拡大という有事に、対応のミスを恐れず迅速な対応を行ったことは、ある一定の評価はできるのではないだろうか。実際、チェンナイに住むインド人は「第2波の初動対応は評価しないものの、第3波の初動対応は評価する」と語る。第3波を短期間で乗り切り、今後の迅速な経済復興が期待されるところだ(注)。


注:
3月6日に新規感染者数は196人となり、第1波初期の2020年4月以来初めて200人を下回った。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
浜崎 翔太(はまさき しょうた)
2014年、財務省 関東財務局入局。金融(監督、監査)、広報、および財産管理処分に関する業務に幅広く従事した。ジェトロに出向し、2020年11月から現職。