ニアショアリングによる好影響をメキシコ企業の2割弱が既に実感
中銀調査報告から判明した今後の潜在性と課題

2022年10月31日

メキシコ中央銀行は2022年6月27日~7月21日に従業員100人以上の製造業、非製造業の合計1,300社以上に行ったアンケート調査結果をとりまとめ、9月15日に四半期地域経済報告に掲載した。「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」と題する同調査結果によると、メキシコ企業の2割弱が、米中貿易摩擦や新型コロナ禍などを背景に消費地の近くに供給源を設ける「ニアショアリング」について重要性の認識が高まっていることが、自社の製品・サービスの需要増や投資の増加に向けた追い風になっていると回答している。自動車産業などグローバルチェーンに参画している業種の場合、好影響を実感している企業の比率は4分の1を超える。また、ニアショアリングによる恩恵が今後及ぶ可能性があると回答した企業は6割弱に達している。ニアショアリングの流れを受け、2021年の自動車部品製造業への対内直接投資は35億ドルを超えて過去2番目となり、2022年の自動車部品輸出も中国などからの生産移転効果で過去最高の水準に達している。

米中貿易摩擦、USMCA、コロナ禍がメキシコへの企業進出の追い風

中銀は四半期地域経済報告の作成のため、業況感などに関するアンケート調査を毎月実施している。今回発表された調査は、その特別な調査項目として「メキシコへの再配置に関する見解」についてアンケートが行われたもの。

同調査では最初に、「米国への近接性を利用する目的で外国企業がメキシコへ進出しようとする背景にはどのような要因があるか」という設問を設けている。同設問への答え(複数回答)としては、「米中間の貿易摩擦」が49.3%で最多、続いて「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく原産地規則(の厳格化)」が49.0%、「新型コロナ(COVID-19)の感染拡大」が33.3%、「ロシア-ウクライナ紛争」が29.3%となっている(図1参照)。

図1:メキシコにさらに多くの外国企業が進出する要因
「米中間の貿易摩擦」が49.3%で最多、「USMCAの原産地規則」が49.0%、「新型コロナ(COVID-19)の感染拡大」が33.3%、「ロシア-ウクライナ紛争」が29.3%、「パンデミック・紛争以前の要因」が28.1%、「その他」が12.1%で続く。

出所:中央銀行「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」

2021年に米国でジョー・バイデン政権が発足しても、米国政府はトランプ前政権が導入した中国に対する通商法301条の追加関税を継続している。多くの中国製品に対する25%など追加関税は、在米企業による輸入調達先の中国からメキシコへの切り替えに加え、ヌエボレオン州など北東部工業州を中心に中国企業のメキシコへの進出を促している。中国からヌエボレオン州への投資額は2017年には330万ドルに過ぎなかったが、2018年以降に急増し、2020年には4,970万ドル、2021年には3,800万ドルと10倍以上の水準になっている(2022年9月5日付ビジネス短信参照)。また、2020年7月1日に発効したUSMCAにより、自動車分野の原産地規則が厳格化され、自動車や自動車部品が北米原産品となるためには、多くの部材を北米域内で調達する必要が生じており(2019年5月8日付地域・分析レポート参照)、これも自動車産業、特に部品製造業がメキシコに生産を移転する要因となっている。さらに、新型コロナ禍がもたらした半導体などの需給ギャップは、アジアに依存したサプライチェーンのリスクを再認識させることになり、また、原油価格の高騰やコンテナ不足が影響した海上輸送価格の高騰も、ニアショアリングの重要性を再認識させることにつながっている。

グローバルチェーン参画企業の4分の1以上がニアショアリングの恩恵を実感

同調査では、「ニアショアリングの影響により、過去12カ月間で実際に自社の製品やサービスの需要増や外国投資の増加を実感したかどうか」という設問をしている。実感したと回答した比率は、「全体」では16.0%だが、「グローバルチェーン参画製造業」(注1)は26.3%に上る(図2参照)。「その他の製造業」でも18.5%に及んだ。「自社で輸出を行っている製造業」は24.8%が需要増などを実感しており、「自社で輸出を行っていない製造業」では16.6%だった。

図2:ニアショアリングの流れで製品・サービスの需要増や外国からの直接投資増を実感した企業の比率
全体では16.0%、グローバルチェーン参画製造業では26.3%、その他の製造業では18.5%、非製造業では11.7%、自社で輸出を行っている製造業では24.8%、自社で輸出を行っていない製造業では16.6%。

注:過去12カ月で需要増や投資増を実感した企業の各分野の回答全体に占める比率。
出所:中央銀行「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」

同調査では、「ニアショアリングによる需要増が既存の生産設備における生産の増加に、過去12カ月間でどの程度の影響を与えたか、また、今後12カ月間でどの程度の影響があるか」という設問も設定している。全国では、「影響がない」が過去で79.2%、今後で81.2%、「15%未満の増加」が過去で11.5%、今後で9.6%、「15~30%の増加」が過去で8.3%、今後で7.3%、「30%超の増加」が過去で1.0%、今後で1.9%となっている(図3参照)。地域別(注2)にみると、現状では北部の企業において好影響を受けている比率が相対的に高いが、北中部では今後12カ月間で影響が及ぶという回答比率が相対的に高い。特に、15~30%程度の影響が及ぶという回答が過去12カ月間の6.6%から今後12カ月間では10.6%、30%超の影響が及ぶという回答が同1.6%から4.8%に拡大することから、北部よりも影響が顕在化するのは遅かったが、今後は比較的大きな好影響を期待していることがわかる。

図3:ニアショアリングの流れによる需要増が既存生産設備における生産に与える影響の度合い
全国の過去12カ月の実績では、「影響なし」が79.2%、「15%未満の増加」が11.5%、「15~30%の増加」が8.3%、「30%超の増加」が1.0%。全国の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が81.2%、「15%未満の増加」が9.6%、「15~30%の増加」が7.3%、「30%超の増加」が1.9%。北部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が73.6%、「15%未満の増加」が17.6%、「15~30%の増加」が7.5%、「30%超の増加」が1.3%。北部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が77.7%、「15%未満の増加」が14.2%、「15~30%の増加」が6.7%、「30%超の増加」が1.4%。北中部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が78.0%、「15%未満の増加」が13.9%、「15~30%の増加」が6.6%、「30%超の増加」が1.6%。北中部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が76.3%、「15%未満の増加」が8.3%、「15~30%の増加」が10.6%、「30%超の増加」が4.8%。中央部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が84.3%、「15%未満の増加」が4.9%、「15~30%の増加」が10.5%、「30%超の増加」が0.3%。中央部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が85.3%、「15%未満の増加」が6.6%、「15~30%の増加」が6.8%、「30%超の増加」が1.3%。南部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が82.7%、「15%未満の増加」が13.0%、「15~30%の増加」が2.4%、「30%超の増加」が1.9%。南部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が90.2%、「15%未満の増加」が5.1%、「15~30%の増加」が4.5%、「30%超の増加」が0.3%。

注:「過去」は過去12月間の影響の度合い、「今後」は今後12カ月間の見通し。
出所:中央銀行「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」

「既存の生産設備では需要増を賄いきれず、生産能力増強に向けた投資の増加が必要になったか、または今後必要になるのか、その場合、どの程度の生産能力の増加を行ったのか、また見込めるのか」といった設問も設定している。全国では、「影響がない」が過去で84.5%、今後で84.1%となり、影響があるとの回答は今後12カ月の方がわずかに増加する。「15%未満の増加」は過去で11.6%、今後で9.0%と縮小するが、「15~30%の増加」は過去の3.1%から今後の5.1%、「30%超の増加」が過去の0.8%から今後の1.8%へと拡大し、今までは生産設備増強までは不要だった、あるいは15%未満の増強で需要増を賄えていたが、今後は大幅な生産能力増強が必要になると見込んでいる企業が一定程度存在することがわかる(図4参照)。地域別にみると、北部の恩恵が現時点では多いが、大きく生産能力を増強する企業は北中部に多く、ニアショアリングの恩恵が北部から北中部まで下がってきており、また、その規模も比較的大きいことがわかる。

図4:ニアショアリングの流れによる需要増が生産能力増強に向けた投資に与える影響の度合い
全国の過去12カ月の実績では、「影響なし」が84.5%、「15%未満の増加」が11.6%、「15~30%の増加」が3.1%、「30%超の増加」が0.8%。全国の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が84.1%、「15%未満の増加」が9.0%、「15~30%の増加」が5.1%、「30%超の増加」が1.8%。北部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が80.3%、「15%未満の増加」が15.0%、「15~30%の増加」が2.9%、「30%超の増加」が1.7%。北部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が80.0%、「15%未満の増加」が11.0%、「15~30%の増加」が6.4%、「30%超の増加」が2.6%。北中部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が86.3%、「15%未満の増加」が8.3%、「15~30%の増加」が4.1%、「30%超の増加」が0.0%。北中部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が79.8%、「15%未満の増加」が8.8%、「15~30%の増加」が10.4%、「30%超の増加」が1.0%。中央部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が86.9%、「15%未満の増加」が9.7%、「15~30%の増加」が3.1%、「30%超の増加」が0.3%。中央部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が88.8%、「15%未満の増加」が7.8%、「15~30%の増加」が1.9%、「30%超の増加」が1.5%。南部の過去12カ月の実績では、「影響なし」が89.6%、「15%未満の増加」が9.3%、「15~30%の増加」が1.1%、「30%超の増加」が0.0%。南部の今後12カ月間の見通しでは、「影響なし」が90.4%、「15%未満の増加」が4.3%、「15~30%の増加」が5.1%、「30%超の増加」が0.3%。

注:「過去」は過去12月間の影響の度合い、「今後」は今後12カ月間の見通し。
出所:中央銀行「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」

約6割が今後3年間でニアショアリングの恩恵が自社に及ぶ可能性を指摘

同調査では、「今後3年間の間でニアショアリングによる恩恵が、自社、同業他社、他の業界に及ぶ確率」についても聞いている。自社に恩恵が及ぶと回答した企業の比率は合計で58.3%であり、そのうち、36.7%が20%以下の確率、11.1%が21~49%の確率で恩恵が及ぶとしている(図5参照)。自社には恩恵が及ばないかもしれないが、少なくとも同業他社には及ぶだろうという回答比率は高く、74.4%に及ぶ。これは他の業種だと79.8%と8割近い比率となる。50%以上でニアショアリングの恩恵が及ぶだろうという回答比率は、自社で10.5%、同業他社で15.2%、他の業種では23.3%になる。

図5:ニアショアリングによる恩恵が及ぶ確率
自社に恩恵が及ぶ確率として、「0%」が41.7%、「1~20%」が36.7%、「21~49%」が11.1%、「50%」が6.0%、「51~80%」が3.2%、「80%超」が1.3%、確率0%を除いた合計は58.3%。同業他社に恩恵が及ぶ確率として、「0%」が25.6%、「1~20%」が44.1%、「21~49%」が15.2%、「50%」が9.5%、「51~80%」が4.5%、「80%超」が1.2%、確率0%を除いた合計は74.4%。他の業種の企業に恩恵が及ぶ確率として、「0%」が20.2%、「1~20%」が37.1%、「21~49%」が19.4%、「50%」が15.8%、「51~80%」が6.0%、「80%超」が1.5%、確率0%を除いた合計は79.8%。

出所:中央銀行「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」

中銀の本調査以外でも、ニアショアリングがメキシコに与えている影響が垣間見える統計データがある。2021年の自動車部品製造業における対内直接投資額は前年比2.7倍の35億5,200万ドルに及び、過去2番目(注3)の水準に達した。全体の54.3%を米国からの投資(在米日系企業などからの投資も含む)が占め、前年の2.4倍に拡大した(図6参照)。19.7%を占めるドイツからの投資も5.1倍、9.9%を占める日本からの投資も2.8倍、3.1%を占めるスペインからの投資も3.6倍、2.8%を占める韓国からの投資も1.5倍に拡大した。

図6:自動車部品製造業における投資国別対内直接投資
2011年は米国からの投資が8億8,500万ドル、ドイツからの投資が4,500万ドル、日本からの投資が1億1,100万ドル、カナダからの投資が1憶4,200万ドル、スペインからの投資が5,500万ドル、韓国からの投資が500万ドル、その他が2億6,100万ドル。2012年は米国からの投資が8億8,100万ドル、ドイツからの投資が2億4,700万ドル、日本からの投資が5億4,400万ドル、カナダからの投資が2,700万ドル、スペインからの投資が700万ドル、韓国からの投資は記録なし、その他が2億5,300万ドル。2013年は米国からの投資が6億700万ドル、ドイツからの投資が3億900万ドル、日本からの投資が8億3,600万ドル、カナダからの投資が5,700万ドル、スペインからの投資が100万ドル、韓国からの投資は記録なし、その他が1億6,400万ドル。2014年は米国からの投資が14億8,800万ドル、ドイツからの投資が4億1,700万ドル、日本からの投資が7億2,500万ドル、カナダからの投資が1憶9,800万ドル、スペインからの投資が900万ドル、韓国からの投資は1,500万ドル、その他が9,800万ドル。2015年は米国からの投資が23億6,300万ドル、ドイツからの投資が2億7,900万ドル、日本からの投資が5億3,100万ドル、カナダからの投資が9,900万ドル、スペインからの投資が5,600万ドル、韓国からの投資は6,100万ドル、その他が1憶5,300万ドル。2016年は米国からの投資が14億800万ドル、ドイツからの投資が3億4,400万ドル、日本からの投資が5億7,300万ドル、カナダからの投資が1憶1,800万ドル、スペインからの投資が1憶4,900万ドル、韓国からの投資は9,400万ドル、その他が4,600万ドル。2017年は米国からの投資が17億9,200万ドル、ドイツからの投資が8億1,300万ドル、日本からの投資が6億2,500万ドル、カナダからの投資が1憶8,600万ドル、スペインからの投資が8,000万ドル、韓国からの投資は5,100万ドル、その他が2憶8,900万ドル。2018年は米国からの投資が9億2,700万ドル、ドイツからの投資が8億4,900万ドル、日本からの投資が7億6,800万ドル、カナダからの投資が2憶8,000万ドル、スペインからの投資が8,700万ドル、韓国からの投資は4,600万ドル、その他が3憶2,700万ドル。2019年は米国からの投資が14億9,500万ドル、ドイツからの投資が3億4,700万ドル、日本からの投資が3億7,300万ドル、カナダからの投資が1憶2,200万ドル、スペインからの投資が1憶7,500万ドル、韓国からの投資は9,000万ドル、その他が5憶500万ドル。2020年は米国からの投資が7億8,900万ドル、ドイツからの投資が1億3,700万ドル、日本からの投資が1億2,600万ドル、カナダからの投資が8,200万ドル、スペインからの投資が3,100万ドル、韓国からの投資は6,500万ドル、その他が6,800万ドル。2021年は米国からの投資が19億2,900万ドル、ドイツからの投資が7億ドル、日本からの投資が3億5,000万ドル、カナダからの投資が1憶6,000万ドル、スペインからの投資が1憶1,100万ドル、韓国からの投資は9,900万ドル、その他が2億500万ドル。

注:2022年6月30日時点確認分。
出所:メキシコ経済省外資局データから作成

他方、メキシコの2022年1~7月の自動車部品輸出額は、前年同期比8.7%増の368億4,000万ドルと過去最高の水準で推移している(図7参照)。全体の88.7%を占める米国向けが4.9%増加したのに加え、カナダ向けが62.0%増、中国向けが2.9倍に拡大している。2022年1~8月の米国側自動車部品輸入統計をみると、メキシコ製部品の輸入額は380億3,200万ドルで前年同期比15.2%増となり、米国の自動車部品輸入総額の43.0%を占めた(表参照)。2018年と2022年(1~8月)の米国の原産国別自動車部品輸入シェア(金額ベース)を比較すると、中国製の輸入シェアが13.1%から10.4%へと縮小する一方、メキシコ製のシェアは42.0%から43.0%へと拡大している。米中貿易摩擦やUSMCAの原産地規則などの影響で、中国からの部品輸入の一部がメキシコからの輸入に切り替わっているものと思われる。

図7:メキシコの仕向け地別自動車部品輸出(2013~20222年まで各年すべて1-7月で比較)
2013年(1-7月)の輸出額は259億9,800万ドル、そのうち米国向けが232億8,900万ドル、カナダ向けが8億7,100万ドル。2014年の輸出額は294億9,600万ドル、そのうち米国向けが265億6,500万ドル、カナダ向けが9億300万ドル。2015年の輸出額は314億6,600万ドル、そのうち米国向けが280億5,600万ドル、カナダ向けが10億500万ドル。2016年の輸出額は325億8,700万ドル、そのうち米国向けが289億4,700万ドル、カナダ向けが12億1,500万ドル。2017年の輸出額は336億3,000万ドル、そのうち米国向けが299億8,500万ドル、カナダ向けが12億7,600万ドル。2018年の輸出額は358億1,500万ドル、そのうち米国向けが310億9,600万ドル、カナダ向けが15億8,900万ドル。2019年の輸出額は334億8,600万ドル、そのうち米国向けが306億7,800万ドル、カナダ向けが12億8,600万ドル。2020年の輸出額は236億7,500万ドル、そのうち米国向けが221億1,900万ドル、カナダ向けが6億4,000万ドル。2021年の輸出額は338億9,900万ドル、そのうち米国向けが311億4,400万ドル、カナダ向けが10億3,100万ドル。2022年の輸出額は368億4,000万ドル、そのうち米国向けが326億6,800万ドル、カナダ向けが16億7,000万ドル、中国向けが13億6,700万ドル。

注:HS87.08項の自動車専用部品に加え、HS83類、84類、85類、90類、94類の主に自動車用途に用いられる部品を抽出。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)貿易統計

表:米国の自動車部品輸入(単位:100万ドル,%)(△はマイナス値)
国・地域名 1-12月 1-8月
2018年 2019年 2020年 2021年 2021年 2022年
金額 構成比 金額 金額 金額 金額 金額 伸び率 構成比
メキシコ 48,849 42.0 49,181 42,354 49,231 33,019 38,032 15.2 43.0
カナダ 14,001 12.1 13,564 11,363 13,161 8,684 10,004 15.2 11.3
中国 15,226 13.1 12,220 10,081 12,349 8,269 9,236 11.7 10.4
日本 10,857 9.3 10,028 8,692 10,919 7,367 8,021 8.9 9.1
韓国 5,942 5.1 6,542 5,698 7,401 5,205 5,672 9.0 6.4
ドイツ 4,989 4.3 4,844 3,901 5,282 3,560 3,562 0.1 4.0
台湾 2,551 2.2 2,624 2,574 3,082 2,036 2,388 17.3 2.7
インド 1,442 1.2 1,544 1,157 1,870 1,222 1,396 14.3 1.6
タイ 851 0.7 1,037 1,035 1,566 1,068 1,172 9.7 1.3
イタリア 1,048 0.9 964 1,034 1,238 851 826 △ 3.0 0.9
その他 10,423 9.0 10,456 8,712 11,183 7,538 8,204 8.8 9.3
全世界 116,178 100.0 113,005 96,602 117,283 78,819 88,513 12.3 100.0

出所:米国国際貿易委員会(USITC)データベースから作成

法の支配と税負担、インセンティブの欠如が外資誘致上の課題

中銀の調査では最後に、「様々な要因がメキシコの外資誘致における競争力に有利に働く(企業誘致を促進する)か、あるいは不利に働く(企業誘致を阻害する)か」について、企業の見解を聞いている。企業誘致を促進する要因としては、「米国との近接性」が最も大きく、「大きく促進」との回答が80.0%に達し、「中程度に促進」を含めると98%に及ぶ(図8参照)。「給与水準」や「質の高い労働力」についても、「大きく促進」がそれぞれ47.5%、28.0%、「中程度に促進」がそれぞれ42.0%、48.1%に達し、競争力のある労働力がメキシコの強みとなっている。メキシコの製造業の賃金は、一般ワーカーで米国の8分の1程度、エンジニアで3分の1程度である。また、平均年齢が29歳と若い。約1億3,000万人弱の人口を有し、製造業向けの労働力が米国と比べると豊富に存在する。インフラについては、阻害要因になるとの声も比較的多いが、促進要因と認識している比率の方が7ポイントほど高い。

図8:メキシコへの多国籍企業進出に向けた諸要因の影響
「米国との近接性」という要因は、「大きく促進」との回答が80.0%、「中程度に促進」が18.0%、「影響なし」が1.7%、「中程度に阻害」が0.2%、「大きく阻害」は0%。「給与水準」の要因は、「大きく促進」との回答が47.5%、「中程度に促進」が42.0%、「影響なし」が7.2%、「中程度に阻害」が3.0%、「大きく阻害」は0.2%。「質の高い労働力」という要因は、「大きく促進」との回答が28.0%、「中程度に促進」が48.1%、「影響なし」が13.4%、「中程度に阻害」が9.7%、「大きく阻害」は0.7%。「インフラ」という要因は、「大きく促進」との回答が13.7%、「中程度に促進」が31.7%、「影響なし」が16.2%、「中程度に阻害」が29.7%、「大きく阻害」は8.7%。「インフラ」という要因は、「大きく促進」との回答が13.7%、「中程度に促進」が31.7%、「影響なし」が16.2%、「中程度に阻害」が29.7%、「大きく阻害」は8.7%。「税制・インセンティブ」という要因は、「大きく促進」との回答が7.0%、「中程度に促進」が23.1%、「影響なし」が25.1%、「中程度に阻害」が33.6%、「大きく阻害」は11.3%。「法の支配」という要因は、「大きく促進」との回答が6.9%、「中程度に促進」が7.7%、「影響なし」が6.0%、「中程度に阻害」が21.8%、「大きく阻害」は57.6%。

出所:中央銀行「メキシコへの再配置に関する企業見解調査」

他方、メキシコで外資誘致の阻害要因として認識されているのは、「税制およびインセンティブ」と「法の支配」である。税制およびインセンティブでは、「大きく阻害」と「中程度に阻害」を合わせると44.9%に及び、「大きく促進」と「中程度に促進」の合計を14.8ポイント上回る。メキシコの法人税率は30%と新興国の中では比較的高く、また、税務上の利益から10%を労働者に分配する労働者利益分配金(PTU)という制度もあるため、企業の負担は重い。また、米国南部などと比べると、新規投資に際してのインセンティブがほとんどない。

投資誘致に向けた阻害要因として、さらに深刻に受け止められているのは、「法の支配(の欠如)」である。同要因は「大きく阻害」だけで57.6%と過半を占め、「中程度に阻害」を合わせると79.4%で約8割に及ぶ。この背景には、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール政権下で行われてきた、民間投資家の不安を招く数多くの政策があると思われる。大統領就任前にわずか100万人超の法的拘束力を持たない大衆意見公募を根拠とし、既に建設中であった新メキシコ国際空港の建設を中止してしまったこと、米国のビール会社に与えられていた建設許認可について大衆意見公募の結果を基に突如取り消したこと、発電分野や炭化水素資源開発分野で憲法に違反するとみられる数々の法案を国会に提出して与党の多数支配の下で成立させたこと(2021年3月22日付2021年5月18日付ビジネス短信参照)、電力再国有化に向けた憲法改正案で過去にさかのぼって民間事業者の権利を剥奪しようとしたこと(2021年10月14日付ビジネス短信参照)など、多くの政策が原因になっていると思われる。エネルギー分野の法改正の多くは裁判所の決定で差し止めとなっており、電力国有化に向けた憲法改正案は国会で否決されたものの、現政権下における法の支配の欠如や政策不透明感は、企業の投資意欲を減退させている。民間投資の低迷は、2019年以降のメキシコ経済の最大の押し下げ要因となっている。


注1:
本アンケート調査では、各業種における輸出比率などを考慮し、北米産業分類(SCIAN)の315(衣類)、326(プラスチック・ゴム)、331(卑金属)、332(金属製品)、333(機械・機器)、334(データ処理・通信・計測・その他の電子機器)、335(電気機器・発電機器)、336(輸送用機器)、339(その他の製造業)を「グローバルチェーン参画製造業」と定義している。
注2:
北部はバハカリフォルニア、ソノラ、チワワ、コアウイラ、ヌエボレオン、タマウリパスの6州、北中部は南バハカリフォルニア、シナロア、ドゥランゴ、サカテカス、サンルイスポトシ、アグアスカリエンテス、ナヤリ、ハリスコ、コリマ、ミチョアカンの10州、中央部はグアナファト、ケレタロ、メキシコ州、イダルゴ、メキシコ市、モレロス、トラスカラ、プエブラの8州、南部はゲレロ、オアハカ、ベラクルス、タバスコ、カンペチェ、ユカタン、キンタナロー、チアパスの8州が含まれる。
注3:
2022年6月30日時点確認分。2022年第1四半期に過去のデータが下方修正されるまでは、2021年が過去最高の自動車部品製造業への投資額を記録していた。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。