2021年は、新車販売が前年比7%増、生産22%減(カナダ)

2022年8月9日

2021年、カナダでの新車販売は、第1四半期こそ好調に滑り出した。しかしその後は、半導体供給不足で供給が間に合わない事態が発生。年間を通じた販売台数は前年比6.6%増にとどまった。また、米国への生産移管も進展。その結果、生産台数は前年比22.0%減と、記録的な低水準に沈んだ。

こうした中でも、カナダで自動車生産する5社のうち4社が、電気自動車(EV)の組み立て工場への投資計画を発表。新たな生産体制に向け、シフトを進めている。2021年には、ZEV(注1)の販売シェアが5.2%に高まった。そのような中、連邦政府は、ZEVに対するリベート制度の対象を、スポーツ用多目的車(SUV)などカナダで人気が高いタイプの車種へ拡充することを発表した。

半導体供給不足で販売台数伸び悩み

調査会社デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント(DAC)の2022年1月5日に発表によると、2021年の新車販売台数は163万8,398台。低迷した2020年の水準に比べ、6.6%増加した(表1参照)。しかし、過去最高を記録した2017年の203万8,798台からは、19.6%も減少した。市場の潜在力を大きく下回ったかたちだ。

DACのマネージング・パートナー、アンドリュー・キング氏は「2020年が需要の問題に悩まされたのに対し、2021年は供給の問題に見舞われた」とコメント。2021年第1四半期(1~3月)時点での販売台数(季節調整済み年率換算)は、192万台。自動車業界には楽観的な空気が流れた。しかし、第2四半期以降は半導体供給不足の深刻化で供給が間に合わなくなった。その結果、年率換算で140万~170万台の販売台数で推移することになったと付言した。

表1:メーカー別新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位(*1) メーカー 2020年 2021年 前年比
1(1) フォード 239,368 243,447 1.7
2(3) トヨタ 191,420 225,215 17.7
3(2) GM 218,501 217,475 △0.5
4(4) ステランティス 178,752 161,482 △9.7
5(5) ホンダ 140,243 147,658 5.3
6(6) 現代 113,820 131,179 15.3
7(7) 日産 88,450 98,405 11.3
8(8) 起亜 72,452 79,198 9.3
9(9) マツダ 57,773 62,201 7.7
10(11) VW 49,830 60,299 21.0
11(10) スバル 52,129 56,870 9.1
12(12) メルセデス・ベンツ 35,397 36,240 2.4
13(13) BMW 25,493 30,651 20.2
14(14) アウディ 25,895 28,790 11.2
15(15) 三菱自動車 16,092 23,644 46.9
その他(*2) 31,773 35,644 12.2
セグメント 乗用車 308,593 308,169 △0.1
小型トラック 1,228,795 1,330,229 8.3
(参考) 米系自動車メーカー 636,621 622,404 △2.2
日系自動車メーカー 546,107 613,993 12.4
その他メーカー 354,660 402,001 13.3
合計 1,537,388 1,638,398 6.6

注1:かっこ内(*1)は、2020年の順位を示す。
注2:その他(*2)はジャガー、ランドローバー、マセラティ、ミニ、ポルシェ、ボルボ。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタントのデータを基にジェトロ作成

メーカー別には、フォードが前年からの首位を維持した。2位には、トヨタが前年の3位から返り咲き。ゼネラルモーターズ(GM)は3位に後退した。ステランティスとホンダは、前年からの4位、5位を維持した。 米系メーカーの販売総台数は、前年比2.2%減の62万2,404台に落ち込んだ。その一方で、日系メーカー6社(トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、三菱自動車)は同12.4%増の61万3,993台を記録した。その結果、販売台数シェアは前年の35.5%から37.5%に拡大した。

セグメント別にはどうか。乗用車(セダン、クーペ、ハッチバック)の販売は、ほぼ横ばいだった(前年比0.1%減)。これに対し、フォードFシリーズを筆頭に、トヨタRAV4などの「小型トラック」は同8.3%増。両セグメントを合わせた総販売台数に占める小型トラックの割合は81.2%と過去最高になり、乗用車からシフトする傾向が続いている。なお、ここでいう「小型トラック」には、ピックアップトラックのほか、SUV、クロスオーバーSUV(CUV)、バンも含まれている点、注意が必要だ。

生産台数減少の一因は米国への生産移管

一方、2021年の生産台数は大きく減少した。DACが1月31日に発表した統計によると、生産台数は前年比22.0%減の111万1,081台(表2参照)。1967年以来の低水準になった。新型コロナ禍前の2019年までの数年間は、カナダの自動車生産台数が200万台程度で推移していたことを考慮すると、ほぼ半減したことになる。

北米域内で生産移管が進んでいることが押し下げ要因だ。カナダの生産台数がピークを記録した1999年には、北米の生産台数に占めるカナダのシェアは17%を超えていた。しかし、2021年には8.7%と前年の11.0%からさらに低下した。なお、カナダのシェアは前年より2.3ポイント減少した一方で、米国のシェアは前年の65.5%から2021年は67.9%へ2.4ポイント増、メキシコは両年とも23.4%で横ばいと、カナダの減少分は米国のシェア拡大で吸収された。

表2:メーカー別自動車生産台数 (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位(*) メーカー 2020年 2021年 前年比
1(1) トヨタ 427,321 427,058 △0.1
2(2) ホンダ 355,513 292,189 △17.8
3(3) ステランティス 334,447 235,875 △29.5
4(5) フォード 145,532 104,196 △28.4
5(4) GM 160,858 51,763 △67.8
セグメント 乗用車 336,831 301,062 △10.6
小型トラック 1,086,840 810,019 △25.5
合計 1,423,671 1,111,081 △22.0

注:かっこ内(*)は、2020年の順位を示す。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント

メーカー別には、トヨタが首位を維持した(42万7,058台)。前年比0.1%減と、ほぼ横ばいだった。レクサスRXシリーズが16.1%の増産の一方、RAV4シリーズは4.5%の減産になった。ホンダも、前年からの2位を維持した(29万2,189台)。ただしシビックやCR-Vをそれぞれ減産し、前年比17.8%減になった。この日系メーカー2社の減産率は、ステランティスやフォード、GMに比べて低かった。その結果として、在カナダ日系メーカーの生産台数シェアは、前年の55.0%から64.7%に拡大した。

セグメント別には、全生産台数に対する小型トラックのシェアが、前年の76.3%から72.9%に低下した。乗用車の生産台数が前年比10.6%減だったのに対し、小型トラックは25.5%減と乗用車を上回って低迷した結果だ。小型トラックは、前年まで継続的に構成比が増える傾向にあったのが、一転したかたちにもなる(注2)。

EV生産に向けた体制整備が進む

こうした中でも、新たな生産体制へのシフトが進んでいる。カナダで自動車生産を行う5社(表2参照)のうち4社が、EV組み立て工場に投資する計画を発表した。

まずフォードが2020年9月、EV生産設備への投資を発表(2020年10月1日付ビジネス短信参照)した。これに始まり2022年3月には、ホンダがハイブリッドEV生産に向けた工場再編を発表した(2022年3月17日付ビジネス短信参照)。GMも同じく3月、韓国のポスコ・ケミカルと共同でEV用電池材料の生産工場建設を発表。引き続いて4月、EV生産に向けて2工場の再編を発表している(2022年4月6日付ビジネス短信参照)。同様にステランティスも3月、韓国のLGエナジーソリューションとの合弁電池工場建設発表。その後5月、EV生産に向け、オンタリオ州の2工場を再編すると発表した(2022年5月10日付ビジネス短信参照)。

なお、トヨタはカナダでハイブリッドEVの生産を行っており、バッテリー電気自動車(BEV)のbZ4Xの販売について4月に公表している。一方で、同車種のカナダでの生産については、本稿執筆時点で明らかになっていない。

加えて、EVを含め、消費者のZEV需要が高まっている。カナダ統計局の新車登録統計(2021年分、4月21日発表)によると、ZEV〔バッテリー電気自動車(BEV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)〕の新規登録台数は8万6,032台。全新車登録台数に対するシェアが5.2%に及んだ。

この状況下、ZEV推進をさらに加速すべく、カナダ運輸省は2022年4月、ZEV向けリベート制度の対象を、SUVなどカナダで人気の高いタイプの車種に拡充することを発表している。


注1:
カナダ運輸省では、「ゼロエミッション車(ZEV)」を、バッテリー電気自動車(BEV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)と定義している。日本などとは定義が異なるため、要注意だ。
本稿での「ZEV」は、この3車種を指す。
注2:
「小型トラック」の販売が伸びながら生産が低迷した理由は明確でないが、DACによると、当期に進行していた半導体不足はブランドや車種によって違いがみられたことから、その影響を「小型トラック」分野で乗用車以上に強く受けていた可能性が考えられる。
執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所
飯田 洋子(いいだ ようこ)
民間企業勤務を経て2007年からジェトロ・トロント事務所勤務。