「10分オンラインデリバリー」を試してみた
コロナ禍で変わるインドとデジタル化(4)

2022年5月9日

インドで、オンラインアプリを使い、食料雑貨を「10分以内」に受け取ることができる。ECやオンラインデリバリーのサービス拡大競争の中、そうした配達をアピールするスタートアップがブームを巻き起こした。フードデリバリー最大手のゾマト(Zomato)も、同様のサービスへの参入を発表。話題を集めた。

そこで、10分デリバリーを実際に試しつつ、本レポートでは、さまざまな展開が見られる当地関連業界の動きについて紹介する。

インドで「クイックコマース」がブーム

スピード配送を売りにするこのような業態は、電子商取引(EC)オンラインデリバリーの中でも、特に「Qコマース(Quick Commerce)」と呼ばれる。日常的に使用する品物を必要な時にすぐ入手できる、といった消費者のニーズに応えるサービスだ。外出の必要がなく会計待ちのレジの行列に悩まされることもないため、その便利さが人気を集めている。

2022年3月21日、インドのフードデリバリー大手のゾマトは、注文から配達まで10分以内で完結する、新サービス「Zomato Instant(ゾマト・インスタント)」の試験運用開始を発表した。同社最高経営責任者(CEO)のディーピンダー・ゴヤル氏は自身のツイッター上で「各地に点在するステーションで特定のメニューを2~4分間で調理・準備し2キロ以内の距離を6分以内で配達することで、10分以内の配達が可能」と、仕組みを説明している。4月以降、都市部の一部地域に限定して試験運用を開始。今後の展開を判断する見込みだ(執筆時点)。

本当に可能?―オフィスで10分デリバリーをトライ

これに先立って、既に10分デリバリーを実現しているスタートアップがある。ベンガルールに本社を置くゼプト(Zepto)や、グルグラム拠点のブリンキット(Blinkit)が代表例だ。それぞれ、ベンガルール、デリー、ムンバイなど大都市圏の対象エリアで、食品や日用品の高速配達サービスが利用可能だ。

しかし、交通量や渋滞も多いインド都市部で、本当に10分以内のデリバリーが可能なのだろうか。そこで、ゼプトによるデリバリーを実際に試してみた。その様子を、以下に紹介する。


アプリから商品を選び配送先を選択(左)
電子決済とも連動。注文後カウントダウンが始まる(右)

6分54秒後、建物到着の通知が届いた(左)
注文した商品(ココナッツ)が届いた(中央、右)(いずれもジェトロ撮影)

アプリでの注文から建物入り口までは、何と7分以内で到着した。ただし配達員によると、その後、入館時の荷物検査やエレベーター待ちに時間がかかったとのことで、実際に受け取りが完了したのは注文から15分後だった。なお、今回の配達手数料は、商品代に加え、35ルピー(約56円、1ルピー=1.6円換算)だった。

過度なスピード対応への反対意見も

ゾマト・インスタントのリリースは、大きな話題となった。

ただし、これに対する懸念や反対意見も見られる。例えば、Qコマースによる配達が交通事故を引き起こしてきたという報道が以前から見られる。今回のリリースに対しては、飲食店側から、短時間の調理では品質を保てないとして新サービスへの不参加が表明された例もあるという。このほか、配達員の労働組合IFAT (Indian Federation of App-based Transport workers)は「ゾマトは新サービスによって生じる配達員へのプレッシャーを理解するべきだ。ワーカーは機械ではない。同社は、配達員が遭遇した事故データを公開していない」と反対意見を出した。ちなみにこれに対し、ゾマトは「配達員には配達時間に対してペナルティーを課さず、インセンティブもない。そのため、特別に負担はかからない」旨、ツイッター上で考えを示した(国会議員による同様の批判に対するゴヤルCEOの回答)。

その他、ギグワーカーの労働環境悪化に対する懸念は、以前のレポートでも紹介したとおりだ(2021年10月21日付地域・分析レポート参照)。

食品調理・販売の自動化も加速

一方で、ゾマトは別の方向性の展開も模索している。

同社は2022年3月、食品自動加工ロボットを開発するスタートアップ、ムクンダフーズ(Mukunda Foods)に出資を決めた。ムクンダフーズのビジネスモデルは、クラウドキッチン(注1)や高級レストランなどに応用することで調理の自動化・効率化を図り、店舗の効率化や顧客体験の向上につなげるものだ。調理の簡易化・自動化により、クラウドキッチンの拠点増にもつながるかもしれない。同社は同じくフードデリバリー大手のスウィッギーとも提携している。新型コロナ禍後の衛生対応ニーズもあり、こうした自動化へのニーズがにわかに増えてきた(2022年3月16日付地域・分析レポート参照)。

また、インドで無人自動販売に取り組む動きもある。ニュートリタップ(Nutritap、注2)は、D2Cブランド(注3)向けに、IoT(モノのインターネット)を活用した無人自動販売キオスクを開発するスタートアップだ。同社は既に140万米ドルの資金調達を達成。インド国内の空港やオフィス、病院などのラウンジに300以上の自動販売機を導入し、D2Cの自動小売りチャンネルを展開している。共同創業者兼CEOのラジェシュ・クマール氏によると、カフェ品質のコーヒーを自動製造・無人販売するバリスタマシンがすでに商品化されている。そのほか、現在、ピザを材料から自動調理する無人自動販売機を開発中という(現在テスト段階)。実現すると、アプリからの注文で、オフィスや自宅近隣に設置されたマシンですぐ受け取りが可能になる。デリバリーを省略できるわけだ。今後の展開に期待したい。


ニュートリタップの自動販売機(左)、新規開発中のコーヒー、ピザ自動販売機のイメージ図(中央、右)
(いずれもニュートリタップ提供)

インドはいま、さまざまな課題に対して日々新たなデジタルサービスが展開される壮大な「デジタル実験場」になっている。これらを可能にする背景には、IT人材輩出国としてのインドの姿も垣間見えてくる。インドのスタートアップからは、日本の高い技術力やノウハウ、リソースへの期待がある。日本企業にとっては、これまで述べたようなスタートアップ企業と連携することで、インドの小売販売市場にアクセスできるメリットが生じる。しかしそれだけでなく、現地スタートアップと連携してデジタル技術の社会実装を実証しつつ、その成果を日本や第三国への展開、相互のグローバルな成長に生かすという方法にも大きな可能性があるだろう(注4)。


注1:
クラウドキッチンとは、デリバリー業態だけで運営する飲食店モデル。
注2:
ニュートリタップは、ハリヤナ州グルグラムに拠点を置くスタートアップ。その製品紹介動画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますはYouTubeで参照できる。
注3:
D2Cとは、Direct to Consumerのこと。メーカーなどが消費者に直販する形態。
注4:
ジェトロでは2021年以降、海外スタートアップとの連携・協業のためのビジネスプラットフォーム「J-Bridge」を立ち上げた。ご関心に応じ、ぜひ活用を。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
酒井 惇史(さかい あつし)
2013年、ジェトロ入構。展示事業部、ものづくり産業部、ジェトロ京都、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年12月から現職。