連結性の向上や沿線開発が鍵
中国ラオス鉄道の今後を読む(後編)

2022年12月22日

2021年12月3日、ラオスの首都ビエンチャンと中国雲南省昆明を結ぶ1,035キロの中国ラオス鉄道が開通した。本稿では開通1年を経て、貨物輸送の状況について分析し今後の展望について考察したい。

注目される貨物輸送

貨物輸送は、中国ラオス鉄道において旅客輸送より重要で、東南アジア北部と中国との物流に大きな変化をもたらすと期待されている。日系企業にも、ASEANと中国間の自動車などの部品の輸送手段として活用しようという動きが出ている。これまでにラオス国内では8駅で貨物用施設が完成し、各駅で貨物サービスが開始されている。なお、中国ラオス鉄道国境協定では、貨物列車は相手国への越境後に貨物車両自体はそのままで、機関車と乗務員を相手国側と交代することが定められている。

中国側とラオス側の全区間を通し、開通1年間で1,120万トンの貨物輸送が行われた。また、ラオス中国鉄路(LCRC)によると、ラオス区間では1年間で約200万トンの貨物の輸送が行われ、うち157万トンが越境貨物であった(注1)。ラオスから輸出される品目の大部分は一次産品で、鉄鉱石、銅、鉛、スズ、アンチモンといったラオス国内で採掘された鉱物資源、天然ゴムやキャッサバ、木炭、コメなどの農林産物という。なお、雲南省の3カ年計画では、2022年の中国ラオス鉄道を利用した輸出入量は160万トンの計画でほぼ達成する見込みである。また、2024年には340万トンに増やす計画である。取り扱い品目は1年間で1,200品目に拡大した。

開通以来、課題となっていた中国側国境にあるモーハン駅の農畜産物の検疫サービスも、開通から1年を経て2022年12月3日に開始された(2022年12月16日付ビジネス短信参照)。これまで、検疫対象品目はモーハン駅で検査ができないため、ラオス側国境のボーテン駅までしか鉄道輸送が利用できず、ボーテン駅でトラックに積み替えて陸路国境を越える必要があり、ラオスやタイ産の果物など農産物の輸出を困難にしていた。また、首都ビエンチャンのタナレーンドライポートに中国の植物検疫(SPS)センターを設置する計画で、利便性の向上が期待されている(注2)。

LCRCによると、ラオス区間での貨物輸送は基本的にチャーター便で、1日平均4~5往復が運行しており、近く10往復に増える見通しである。ラオス国内の報道によると、ラオス国内の貨物輸送コストは鉄道により20~40%減、ビエンチャン~昆明間は40~50%減となったという。また、これまでに中国から本鉄道を使用して、ラオスのみならずタイやミャンマー、カンボジアなど10カ国へ輸出された。

タイ国鉄(SRT)との接続では、ビエンチャンのタナレーンドライポートに積み替え施設が2022年7月に完成し(2022年7月7日付ビジネス短信参照)、効率化が計画されている(注3)。また、タイのレムチャバン港近くに中国鉄道用のコンテナデポが設置された。8月には、マレーシア鉄道(KTMB)とタイ国鉄により、マレーシアのクアラルンプール駅からラオスのタナレーン駅まで貨物の試験輸送が行われた。今後、輸送が本格的に始まれば、マレーシア鉄道、タイ国鉄、中国ラオス鉄道を結ぶ輸送が可能となる見込みだ。


ビエンチャン南駅での貨物の輸送(ジェトロ撮影)

利用面で残る課題

前述のように、貨物輸送は順調に増えている一方、様々な課題も見えてきた。1つ目の課題として、在ラオスや在タイの多くの企業にとって国際鉄道貨物輸送利用におけるハードルが高い状況がある。ラオス国内で貨物輸送を利用するためには、荷主やフォワーダーは50万元(約1,000万円、1元=約20円)の保証金をLCRCに預け、事前に輸送費全額(注4)を支払う必要がある。加えて、中国区間の輸送にはLCRCは関与していないため、別途、中国側で手配しなければならず、在ラオス企業による利用を困難にしている。ブローカーを介した手配では、非常に高い輸送費を提示されるケースがある。なお、日系物流会社によると、現状ではチャーター便による輸送が大部分を占めることもあり、両区間をシームレスに手配するにはラオスと中国の両国で広いネットワークを有する中国の大手物流会社を介して手配するのが最良と判断しているという。今後の利用を増やすためには、LCRCが中国鉄路と協力し、国際貨物輸送の定期便を確保し、多くのフォワーダーが直接手配できるようにする必要があるだろう。

2つ目の課題は、空コンテナの問題である。2022年3月にソンサイ副首相は、貨物輸送に対して空コンテナが目立ち輸送効率が低い点を指摘し、コンテナ管理をシステム化し、輸送価格も適正化するように指示した。例えば、ラオスからは鉱物のバルク輸出が多いものの、中国からは部品や完成品などの輸入が多く、輸出入の量が不均衡で、取扱商品も異なることから、空コンテナを戻すためのコスト負担などが生じている。日系物流会社によると、空コンテナの返却期限が短く設定されていることもあり、中国からタイのバンコクへの輸出後、空コンテナをいかにラオス側へ早く戻すかが課題だという。また、レムチャバンに設置された鉄道用コンテナデポへの戻しは、現状では価格が高いと指摘する。それでもトラックや海上運賃が高止まりしており、鉄道の割安感があるが、燃料価格が下った際に、中国ラオス鉄道の競争力を維持できるかは不透明である。

3つ目の課題は、中国とラオス間の貨物輸送にかかる時間の長さである。鉄道会社はビエンチャンと昆明間の輸送時間を38時間と説明するが、実際には90時間程度を要したケースも報告されている。全コンテナ分の通関が完了しないと列車が越境できないことや、通関手続きが24時間体制ではないことが要因とみられる。

4つ目の課題は、リスク回避である。中国ラオス鉄道は険しい山岳地域を走り、単線区間が長い。天災などに即時対応できるようにトラック輸送ルートも確保しておく必要が指摘される。

連結性の向上や沿線開発が鍵

中国ラオス鉄道は、新型コロナ禍で迎えた初年度としては、旅客・貨物ともに課題の残るものの、当初の目標は達成されていると評価できる。今後さらなる経済効果を高めるには、前述の課題の克服とともにタイとの連結性をより一層高める必要がある。2022年10月6日に、タイのアヌティン副首相らはラオスのビエンサワット公共事業運輸相と会談し、鉄道の連結について協議した。ビエンチャン首都とメコン川の対岸のタイのノンカイ県を結ぶラオス・タイ第1友好橋の近くに、標準軌と1,000ミリ軌の両方が通行可能な鉄道用橋の建設のための調査を開始すること、鉄道橋が完成するまでは既存のラオス・タイ第1友好橋を活用し、タイ国鉄のラオスへの乗り入れを現在の1日2往復から7往復へ増便し、1列車あたり12車両から最大25車両へ増結する計画が確認された。また、ラオス国内のタイ国鉄の旅客用最終駅となるビエンチャン首都カムサワート駅の建設は最終段階にあり、2023年半ばから商業運転を開始する予定である。なお、日系物流企業によると、バンコクとノンカイを結ぶ、建設中の中国タイ鉄道は2028年に全線開通する計画であるが、タイ国内の貨物輸送では、中国タイ鉄道ではなく在来線を活用する計画とのことである。

また、2022年3月に雲南省が発表した3カ年計画では、シングルウインドウ通関やデジタル技術の導入による通関の利便性の向上、鉄道沿線の開発やラオス産農産物への税制優遇措置と支援拡大、越境電子商取引や中国元とラオス・キープによる直接金融取引の促進などを総合的に進める計画が提言されている。特にラオス区間の沿線開発については、これまで5つの主要駅で開発を行うことが合意されており、開発の開始が待たれる(表参照)。中国ラオス鉄道の持つポテンシャルを最大限に引き出すためには、これら連接性やソフト面、沿線開発を複合的に進める必要がある。

表:ラオス区間の沿線開発計画
開発計画 デベロッパー
ビエンチャン駅 包括的ロジスティクスセンター、加工工業や農産品生産の拠点 LCRC
バンビエン駅 環境にやさしい自然観光センター LCRC
ルアンパバン駅 世界遺産都市の観光業、商業/住宅開発 LCRC
ムアンサイ駅 ラオス北部の工業化の拠点とロジスティクスセンター開発 LCRC
ナトゥイ駅 農業、工業、スマートシティ、物流 アマタコーポレーション(タイ)

出所:各種資料からジェトロ作成


注1:
貨物輸出入の詳細な統計は発表されていないが、タナレーン税関職員によると、中国からラオス向けの輸入過多であろうとのこと。
注2:
タナレーン税関職員によると、2023年中に運用が開始される見通しとのこと。
注3:
タナレーン税関職員によると、国際貨物駅としての登記に時間がかかっており、11月末時点では積み替え施設は実際には使用されておらず、従来のビエンチャン南駅を使用しているとのこと。
注4:
ラオス区間の輸送費では20フィートコンテナの場合、1キロ当たり13.75元で、ビエンチャン南駅からボーテン駅間は422キロのため5,802.5元。これに積み下ろし費用やコンテナ使用料などが加算される。

中国ラオス鉄道の今後を読む

  1. コロナ禍でも旅客実績予想超え
  2. 連結性の向上や沿線開発が鍵
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員