コロナ禍でも旅客実績予想超え
中国ラオス鉄道の今後を読む(前編)

2022年11月30日

ラオスの首都・ビエンチャンと中国雲南省・昆明、1,035キロを結ぶのが中国ラオス鉄道だ。開通したのは、2021年12月3日である。それから、1年近くが経過したことになる。

本稿では、その旅客輸送について分析し、今後の展望を考察したい。

ランドリンクへの期待を背負って開通

中国ラオス鉄道は、昆明駅(中国雲南省)とビエンチャン南駅(ラオスの首都)、1,035キロの区間を結ぶ。標準軌(1,435ミリ)の軌間で統一された国際鉄道だ。開通は、2021年12月3日(2021年12月9日付ビジネス短信参照)。うちラオス区間は、ビエンチャン南駅から中国との国境にある「友好トンネル」(全長9.6キロ)までの422キロ。中国区間は、同トンネルから昆明駅まで613キロだ(図参照)。

ラオス区間の建設については、2010年にラオスのチュムマリー国家主席(当時)と中国の胡錦涛国家主席(当時)が協力覚書を締結。これがラオス特別国会で承認されたのは、2012年である。2015年11月に、両国政府間で政府間鉄道協力協定に調印。同年12月には起工式を実施。2016年から、本格的に建設を開始した。その総工費、約60億ドルに及ぶ。2021年12月3日の開通式典では、トンルン国家主席が「中国ラオス鉄道は、近代的なインフラを求めるラオス国民の夢がかなったものだ。また、両国の運命共同体としての関係(注1)を象徴する」と高らかに宣言した。さらに、中国には一帯一路構想があり、ラオスは国家開発戦略「コネクティビティーの良いランドリンク化」を擁す。同鉄道は、両構想・戦略の実現に向けた大きな期待を背負ってスタートしたのだ。

図:中国ラオス鉄道およびタイ国鉄(東北本線)
中国ラオス鉄道は中国雲南省の昆明とラオスの首都ビエンチャンを結ぶ。また、ビエンチャンにはタイ国鉄が乗り入れており、乗り換え/積み替えることでさらにタイのバンコクへ繋がる。

出所:ジェトロ作成

期待以上の旅客利用に、乗車券品薄

同鉄道のラオス区間では、中国で製造されたCR200J型旅客用高速列車(時速160キロ)、普通列車(時速120キロ)、および貨物列車(時速120キロ)の3種類が運用されている。このうち高速・普通列車による旅客輸送は、2021年12月4日から両国で正式営業を開始した(注2)。2022年10月3日までの開通10カ月間で、中国側・ラオス側合わせて739万人が利用した。3月に雲南省が発表していた3カ年計画では、全区間で「2022年に乗客450万人以上、2024年には900万人以上」が目標とされていた。こうしてみると、想定以上の利用者があったことになる。ラオス区間を運営するラオス中国鉄路(以下、LCRC)によると、2022年9月24日までの10カ月弱で、同区間を90万人が利用した(9月30日付「パテートラオ」紙)。

ただし、すべてが計画どおりに進んできたわけではない。例えば、中国ラオス鉄道国境協定では「旅客は、乗務員の交代や列車の乗り換えなしに、首都ビエンチャンと昆明の区間を一貫して往来可能」とされていた。しかし、開通から10カ月を経た時点でも、中国政府による強い新型コロナ禍対策により、旅客運行はラオスと中国それぞれの国内区間に限定して運営。また、ラオスから中国へ鉄道で乗り継ぐには、(1)中国が求める新型コロナ感染予防措置を経る、(2)中国国境近くのボーテン駅で下車、(3)従来からある陸路を徒歩や車で移動して越境、中国側のモーハン駅から再び鉄道に乗車、せざるを得ない。このように鉄道の旅客運行が各国内に制限されている点を踏まえると、ラオス区間の旅客数(90万人)は決して少ないとはいえない。734万人のラオスと4,721万人の雲南省の人口比で単純に比較しても、立派な実績だ。実際、この鉄道はラオス人や外国人旅行者に人気が高い。理由としてはまず、(1)バスや乗り合いバンよりも安価で済み所要時間が大幅に短い、(2)飛行機よりも大幅に安く、時間に正確と、コスト・時間面のメリットが挙げられる。加えて、(3)乗車時の揺れが少なく、快適で安全という面も評価されているとみられる(表参照)。

表:各都間への乗客輸送コストの比較(―は値なし)
区間 距離 鉄道(2等席) バスもしくは
ワゴン
フライト
(ラオス国営航空)
所要時間 値段(円) 所要時間 値段(円) 所要時間 値段(円)
ビエンチャン・バンビエン間 123 1:01 890 2:00 864
ビエンチャン・ルアンパバン間 239 1:56 1,711 8:00 1,728 0:40 10,150
ビエンチャン・ムアンサイ間 339 2:46 2,411 13:00 2,333 0:50 9,570
ビエンチャン・ボーテン間 406 3:20 2,878 16:00 3,025
昆明・モーハン間(中国区間) 613 5:32 5,339

注:1人民元=20.38円、1円=115.71キープ、1USD=145円で算出。
出所:各種資料からジェトロ作成

一方で、時速160キロのCR200Jは、2022年10月時点でも1日2往復(ビエンチャン・ボーテン1往復、ビエンチャン・ルアンパバン1往復)の運行にとどまる。時速120キロの普通列車に至っては、1日1往復だけだ。さらに、乗車券は50%を観光会社に、10%を政府に、優先販売されている。換言すると、一般窓口では40%相当しか販売されていないことになる。そのため乗車券が品薄で、入手には長時間窓口に並ぶ必要が生じている。結果、一部の利用者は、個人や業者から転売された比較的高額な乗車券を購入する以外、手に入りにくい状況だった。

これに対しては、国民から多くの批判が噴出。これを受けて、LCRCは9月から発券時に旅客の名前を印刷する転売対策を開始した。また2022年中にオンラインでの乗車券販売を開始する準備も進めている。また当初想定よりも利用客が多いことから、LCRCは保有車両数の増強にも乗り出している(現時点ではCR200Jを3列車保有。これに加えて、2列車を追加注文すると説明)。

今後、中国のコロナ対策が緩和されると、国際旅客サービスの本格開始が見えてくる。そうなると、乗客数がさらに大きく増加する期待が高まることになる。


CR200J型旅客用高速列車(ジェトロ撮影)

注1:
ブンニャン国家主席(当時)は2019年4月、中国の習近平国家主席と会談。ラオス人民革命党と中国共産党による中国ラオス運命共同体の建設を期し、「行動計画」に調印した。
注2:
2022年8月までに旅客サービス開始に至っているのは、中国区間の全11駅、ラオス区間11駅中10駅。

中国ラオス鉄道の今後を読む

  1. コロナ禍でも旅客実績予想超え
  2. 連結性の向上や沿線開発が鍵
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員