供給難に苦しみ生産活動が停滞
2021年のメキシコ自動車産業(1)

2022年4月22日

2021年のメキシコの自動車生産台数(大型バス・トラックを除く)は、297万9,276万台。前年比で2%減少した。

2020年は、新型コロナ感染拡大により一時的に生産停止を余儀なくされた。その結果、生産台数は前年比20.2%減と、歴史的な落ち込みになった。それだけに、2021年には回復に期待がかかっていた。しかし、新型コロナ感染拡大に起因する半導体不足などの供給難に見舞われ、さらに後退したかたちだ。

輸出台数も270万6,980台と、0.9%増にとどまった。これは、生産面の制約を受けた結果と言える。一方で国内販売は101万4,735台で6.8%増加。8年ぶりに100万台を下回った2020年から、回復がみられた(図1参照)。

図1:メキシコの自動車生産・輸出・販売台数
生産台数は、2010年に226.1万台、2011年に255.8万台、2012年に288.5万台、2013年に293.3万台、2014年に322万台、2015年に339.9万台、2016年に346.6万台、2017年に393.3万台、2018年に391.9万台、2019年に381.1万台、2020年に304万台、2021年に297.9万台。輸出台数は、2010年に186万台、2011年に214.4万台、2012年に235.6万台、2013年に242.3万台、2014年に264.3万台、2015年に275.9万台、2016年に276.8万台、2017年に325.4万台、2018年に345.1万台、2019年に338.8万台、2020年に268.2万台、2021年に270.7万台。国内販売台数は、2010年に82万台、2011年に90.6万台、2012年に98.8万台、2013年に106.5万台、2014年に113.7万台、2015年に135.4万台、2016年に160.7万台、2017年に153.5万台、2018年に142.7万台、2019年に131.8万台、2020年に95.0万台、2021年に101.5万台。

出所:メキシコ自動車工業会(AMIA)

生産は供給難から停滞も、北米以外の輸出は堅調

まず、メキシコで完成車(大型バス・トラックを除く)を生産している企業について確認しておく。生産歴60年以上に及ぶのが、日産自動車、ゼネラルモーターズ(GM)、フォルクスワーゲン(VW)、ステランティス、フォードだ。このほか日系企業では1994年にホンダ、2002年トヨタ、2014年マツダが、それぞれ生産を開始した。他国からは、2016年以降、起亜、BMW、ダイムラーが進出。さらにVW系列高級ブランドのアウディも、2017年に操業を始めた。また、中国の安徽江淮汽車(JAC)と北京汽車(BAIC)が、小規模ながらノックダウン生産(注1)をしている。

大型バス・トラックを除く2021年の生産台数は、297万9,276万台。前年比2%減少になった。生産が大きく落ち込んだ前年から盛り返すことはできなかった。

ここで、新型コロナ禍以降の経緯を振り返る。感染拡大を受けて、メキシコ連邦政府は2020年3月30日、「衛生上の緊急事態宣言」(2020年4月1日付ビジネス短信参照)を発出。これにより、「不可欠な活動」と認められる業種以外は操業が制限された。自動車産業も、2020年5月半ばまでの約1カ月半にわたり、生産停止を余儀なくされた。その結果、2020年は生産台数が304万178台で前年比20.2%減と激しく落ち込んだ。2021年3月以降は、感染状況に改善がみられるようになった。ワクチン接種の進捗などにより、操業規制は州によって緩和または撤廃された。一方で、世界的な情報処理機器需要の高まりで、半導体に慢性的な供給不足が発生。また、物流の需給が逼迫したことで、原材料などの輸送にかかる時間とコストが増大した。このように、新型コロナ禍に起因して、供給面で制約が生じてしまった。これが企業活動に影響し、生産台数の減少につながったかたちだ。

企業別に生産台数をみてみると、GM(総生産台数に占める構成比17.4%)が51万8,175台。28.9%減と大幅に減少した(表1参照)。ステランティス(同13.7%)も、40万6,973台で7.9%減だった。一方、日産自動車(同18.0%)が53万6,323台。当年では最多で、前年から2.8%増だった。また、トヨタ(同7.5%)も22万2,346台で31.3%増、ホンダ(同5.1%)15万2,187台18.4%増と好調だった。フォードは、21万8,289台で60.4%増と大きく伸びた。なおこれは、生産車両のモデルチェンジにより2020年の生産台数が少なかった反動という側面もある。

表1:メキシコの企業別自動車(大型バス・トラック除く)生産・販売(1-12月)(単位:台,%)(△はマイナス値、-は値なし)
企業名 生産 販売
2020年 2021年 2020年 2021年
台数 台数 構成比 伸び率 台数 台数 構成比 伸び率
日産 521,730 536,323 18.0 2.8 194,427 203,918 20.1 4.9
GM 728,768 518,175 17.4 △ 28.9 150,256 127,300 12.5 △ 15.3
フォルクスワーゲン 422,927 431,908 14.5 2.1 125,895 130,115 12.8 3.4
ステランティス 442,107 406,973 13.7 △ 7.9 58,743 65,909 6.5 12.2
ヒュンダイ・キア 206,800 219,400 7.4 6.1 105,851 119,249 11.8 12.7
階層レベル2の項目起亜 206,800 219,400 7.4 6.1 73,620 82,040 8.1 11.4
階層レベル2の項目ヒュンダイ 32,231 37,209 3.7 15.4
トヨタ 169,350 222,346 7.5 31.3 76,577 91,090 9.0 19.0
フォード 136,067 218,289 7.3 60.4 38,132 41,735 4.1 9.4
ホンダ 128,568 152,187 5.1 18.4 48,996 43,790 4.3 △ 10.6
マツダ 138,855 127,293 4.3 △ 8.3 46,117 46,901 4.6 1.7
メルセデス・ベンツ 85,392 74,337 2.5 △ 12.9 14,788 13,751 1.4 △ 7.0
BMW 55,832 68,919 2.3 23.4 15,112 16,912 1.7 11.9
スズキ 25,975 33,044 3.3 27.2
ルノー 25,516 28,218 2.8 10.6
三菱自動車 10,447 17,872 1.8 71.1
スバル 1,444 2,119 0.2 46.7
いすゞ 964 1,045 0.1 8.4
その他 3,782 3,126 0.1 △ 17.3 10,823 31,767 3.1 193.5
日系企業合計 958,503 1,038,149 34.8 8.3 404,947 439,779 43.3 8.6
合計 3,040,178 2,979,276 100.0 △ 2.0 950,063 1,014,735 100.0 6.8

注1:系列ブランド(例えばフォルクスワーゲンはSEAT,AUDI,PORSCHE)を含む。
注2:いすゞの販売台数はELF100/ELF200/ELF300の販売台数だけがAMIAに報告されている。
注3:この表にいう「販売」とは、メキシコ国内での販売。輸入車の販売を含む一方で、国内生産車の輸出を含まない。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)

改めて、2021年の輸出台数は、前年比0.9%の伸びにとどまった。これを地域別にみると、北米向けが225万1,482台。前年から2.2%減少した(表2参照)。GM(生産台数の87.6%が米国向け)の輸出台数が53万1,383台で22.1%減少したことや、ステランティス(80.8%が米国向け)も前年比4.5%減だったことなどが響いた(図2参照)。一方で、中南米・カリブ向けの輸出は16万7,381台で45.6%増、アジア・大洋州向けの輸出も8万1,144台で39.4%増。いずれも、堅調だった。

メキシコでの自動車生産は、輸出志向だ。メキシコ国内で生産される自動車(大型バス・トラックを除く)の実に9割弱が輸出向けであるため、生産の停滞は輸出減に直結する。実際、2021年に自動車輸出が大きく伸びなかった主な原因は、世界的な需要減というよりも供給面の制約という要因が大きかったと考えられる。対米輸出比率が高いGMなどの工場では、半導体不足により生産を一時的に停止する事象が複数回にわたって起こっていた。

図2:企業別仕向け地別自動車生産比率
(2021年,国産車販売+輸出の合計に占める構成比)
日産は生産の44.7%が米国向け、32.6%が国内市場向け、4.6%がカナダ向け、15.2%が中南米向け、2.6%がアジア向け。GMは生産の87.6%が米国向け、4.5%が国内市場向け、5.4%がカナダ向け、0.8%が中南米向け、1.2%がアジア向け、残りがその他。VWは生産の53.9%が米国向け、7.2%が国内市場向け、10.6%がカナダ向け、2.7%が中南米向け、23.3%が欧州向け、1.5%がアジア向け、残りがその他。ステランティスは生産の80.8%が米国向け、3.5%が国内市場向け、7.9%がカナダ向け、2.1%が中南米向け、0.1%が欧州向け、5.4%がアジア向け。フォードは生産の80.0%が米国向け、2.4%が国内市場向け、4.1%が中南米向け、13.6%が欧州向け、0.0%がアジア向け。ホンダは生産の83.3%が米国向け、8.5%が国内市場向け、7.2%がカナダ向け、その他0.9%については仕向地を発表していない。トヨタは生産の94.6%が米国向け、2.5%がカナダ向け、2.9%が中南米向け。マツダは生産の39.2%が米国向け、18.1%が国内市場向け、6.5%がカナダ向け、14.2%が中南米向け、21.6%が欧州向け、残りがその他。起亜は生産の60.2%が米国向け、24.7%が国内市場向け、6.9%がカナダ向け、7.4%が中南米向け、0.5%がアジア向け、残りがその他。BMWは生産の59.3%が米国向け、1.9%が国内市場向け、3.5%がカナダ向け、0.8%が中南米向け、19.5%が欧州向け、10.7%がアジア向け、4.3%がその他。ダイムラー(メルセデス・ベンツ)は生産の30.0%が米国向け、1.1%が国内市場向け、2.7%がカナダ向け、4.8%が中南米向け、40.1%が欧州向け、16.9%がアジア向け、4.5%がその他。11社合計すると生産の67.6%が米国向け、11.7%が国内市場向け、5.9%がカナダ向け、5.5%が中南米向け、6.5%が欧州向け、2.3%がアジア向け、残りがその他。

出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

表2:主要地域別自動車輸出(大型バス・トラックを除く)(1-12月)(単位:台,%)(△はマイナス値)
仕向け地 2020年 2021年
台数 構成比 台数 構成比 伸び率
米州 2,416,996 90.1 2,418,863 89.4 0.1
階層レベル2の項目 北米 2,302,003 85.8 2,251,482 83.2 △ 2.2
階層レベル3の項目米国 2,135,041 79.6 2,071,668 76.5 △ 3.0
階層レベル3の項目カナダ 166,962 6.2 179,814 6.6 7.7
階層レベル2の項目中南米・カリブ 114,993 4.3 167,381 6.2 45.6
階層レベル3の項目コロンビア 30,539 1.1 40,197 1.5 31.6
階層レベル3の項目ブラジル 19,013 0.7 30,409 1.1 59.9
階層レベル3の項目チリ 14,223 0.5 25,277 0.9 77.7
階層レベル3の項目プエルトリコ 15,735 0.6 24,136 0.9 53.4
階層レベル3の項目ペルー 5,711 0.2 10,112 0.4 77.1
階層レベル3の項目アルゼンチン 7,338 0.3 9,059 0.3 23.5
欧州 198,730 7.4 199,491 7.4 0.4
階層レベル3の項目ドイツ 159,492 5.9 143,619 5.3 △ 10.0
階層レベル3の項目英国 1,647 0.1 10,468 0.4 535.6
階層レベル3の項目イタリア 12,479 0.5 7,423 0.3 △ 40.5
階層レベル3の項目ロシア 2,430 0.1 6,419 0.2 164.2
階層レベル3の項目フランス 2,624 0.1 4,235 0.2 61.4
アジア・大洋州 58,191 2.2 81,144 3.0 39.4
階層レベル3の項目アラブ首長国連邦 10,051 0.4 26,892 1.0 167.6
階層レベル3の項目日本 9,670 0.4 9,842 0.4 1.8
階層レベル3の項目サウジアラビア 8,216 0.3 9,102 0.3 10.8
階層レベル3の項目オーストラリア 6,651 0.2 8,843 0.3 33.0
階層レベル3の項目イスラエル 3,760 0.1 5,349 0.2 42.3
階層レベル3の項目韓国 6,992 0.3 5,179 0.2 △ 25.9
その他・不詳 7,889 0.3 7,482 0.3 △ 5.2
輸出合計 2,681,806 100.0 2,706,980 100.0 0.9

出所:国立統計地理情報院(INEGI)

このように、米国系完成車メーカーの多くが、供給難を被った。一方で日産自動車は、生産台数のメーカー別順位で首位に返り咲いた。これは、2017年以来になる。また、トヨタ、ホンダ、起亜などアジア系の企業の多くが生産台数を増やした。明暗を分けたのは、半導体などの調達状況だろう。IHSマークイットによる自動車(大型バス・トラックを除く)生産台数見通しによると、2022年のメキシコの生産台数の予想値は348万台。半導体不足が解消し、生産が新型コロナ危機前の水準に戻るのは、2023年以降になる見込みだ。

新型コロナ危機前の国内販売水準には回復せず

2021年の国内販売台数は、101万4,735台。前年比6.8%増だった。もっとも、2020年は、国内販売台数が95万63台で100万台に届かず、前年比で27.9%減という大幅マイナスを記録していた。このことを考慮すると、2021年に国内需要が順調に回復したとは言い難い。新型コロナ危機前の2019年の国内販売は131万7,931台、2018年は142万7,086台だったのだ。

メーカー別に2021年の販売台数をみると、最多の日産自動車が20万3,918台。前年比4.9%増だった。トヨタは9万1,090台で19.0%増、マツダは4万6,901台で1.7%増、スズキは3万3,044台で27.2%増だった。トヨタやスズキは伸び幅が大きい。その他、販売台数が全体で2番目に多いVWは13万115台で3.4%増。一方でGMは、12万7,300台で15.3%減だった。

セグメント別に2021年の国内販売をみると、「サブコンパクト」(排気量1.3~1.5リットル前後の小型車)は、前年比0.3%減とわずかながらも販売台数を減らした。その結果、全体の販売台数における構成比も2ポイント減の28%になった(図3参照)。同様に「コンパクト」(同1.8~2.0リットル前後の小型車)も、販売台数3.9%減、構成比は2.3ポイント減の19.9%だった。反対に大きく伸びたのが「ミニバン」とスポーツ用多目的車(SUV)だ。前者が前年比47.9%増、後者が26.4%増だった。「サブコンパクト」や「コンパクト」は、中間層が購入する比較的安価な車種だ。その販売台数が減少し、「SUV」や「ミニバン」が伸びたということは、中間層が新車の購入を控えざるを得ない状況が続いているとみられる。

図3:自動車(大型バス・トラック除く)セグメント別国内販売比率
エンジン排気量1.3~1.5L前後の小型車である「サブコンパクト」セグメントのシェアは2011年に31.3%、2012年に31.1%、2013年に29.9%、2014年に33.0%、2015年に35.9%、2016年に36.9%、2017年に36.4%、2018年に34.6%、2019年に34.0%、2020年に30.0%、2021年に28.0%。排気量1.8~2.0L前後の「コンパクト」のシェアは2011年に29.1%、2012年に28.3%、2013年に29.4%、2014年に26.6%、2015年に24.6%、2016年に23.7%、2017年に22.2%、2018年に21.8%、2019年に19.9%、2020年に22.2%、2021年に19.9%。SUVのシェアは2011年に16.9%、2012年に17.2%、2013年に19.0%、2014年に19.3%、2015年に19.6%、2016年に19.5%、2017年に21.6%、2018年に23.7%、2019年に26.1%、2020年に26.5%、2021年に31.4%。ピックアップトラックのシェアは2011年に15.5%、2012年に15.0%、2013年に13.8%、2014年に13.7%、2015年に13.3%、2016年に13.2%、2017年に13.1%、2018年に13.0%、2019年に14.7%、2020年に16.4%、2021年に15.9%。排気量2.4L以上のセダン・ハッチバッグである「ミッドサイズ」セグメントのシェアは2011年に4.0%、2012年に5.7%、2013年に5.9%、2014年に5.5%、2015年に4.9%、2016年に5.1%、2017年に5.0%、2018年に5.1%、2019年に3.6%、2020年に3.3%、2021年に2.8%。残りの僅かなシェアはミニバンとスポーツタイプのセグメントが占めている。

出所:メキシコ自動車工業会(AMIA)

国内販売が危機前の水準まで回復しなかったのは、メキシコ国内全体の耐久消費財購入意欲が低いためと言えそうだ。

2021年12月時点の消費者信頼感指数(季節調整済み)は44.5ポイント。そのうち、「家計の現状の1年前との比較」を示す指数は48.7ポイント、「1年後の家計の現状との比較」も57.2ポイント、「1年後の国の経済の現状との比較」も49.6ポイントと明るい見通しが示されている。一方、「耐久消費財購入意欲」指数は26.4ポイントと他の項目と比べて低い。

また、自動車ローンの利用数も低水準だ。2021年の国内新車販売で自動車ローンが利用されたのは60万1,280台。その伸び率は前年比で3.1%増と、国内販売台数の伸び率(6.8%)の半分にも達していない。ローン利用率も59.3%で、前年から2.1ポイント減少した(図4参照)。自動車ローンは大衆車の販売に重要な役割を果たすことからすると、購買意欲が盛り上がっていないと解釈できる。

消費者心理は、今後ますます冷え込む可能性もある。新型コロナ危機に起因する世界的なインフレ率の高進への対応として、中央銀行は政策金利を引き上げている(注2)。ローン金利は、なおも上昇が見込まれる。となると、自動車購入のハードルはさらに上がることになりそうだ。

図4:自動車ローンを利用した国内販売台数の推移
ローン販売台数は2011年に46.4万台、2012年に51.9万台、2013年に59.8万台、2014年に62.7万台、2015年に77.5万台、2016年に97.9万台、2017年に93.4万台、2018年に87.4万台、2019年に78.3万台、2020年に58.3万台、2021年に60.1万台。ローン販売比率は、2011年に51.2%、2012年に52.5%、2013年に56.3%、2014年に55.1%、2015年に57.2%、2016年に60.9%、2017年60.8%、2018年は61.3%、2019年に59.4%、2020年に61.4%、2021年に59.3%。

出所:メキシコ自動車ディーラー協会(AMDA)

さらに、国内販売市場に不安を与える要素もある。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が推し進める違法中古車の合法化政策だ。

AMLO大統領は2021年10月、北部国境地帯で違法輸入状態にある中古車について、手数料を払うことで合法化させる措置を適用するよう大蔵公債省などに命じた。この措置は、違法状態の輸入中古車を合法化。車両公式登録(REPUVE)を与えることにより、違法車両を利用した犯罪を防止することを主な目的とする。同時に、非合法車両を所有する低所得者層に対して法的安心感を与えることも狙いとされている。

当初は、行政命令の発効日(2021年10月19日)以前に米国との国境州および南バハカリフォルニア州に所在する違法車両が合法化の対象とされていた。しかし最終的に、2022年1月19日付の官報で対象州が拡大された(注3)。それだけでなく、違法輸入車両合法化の期限も、2022年7月20日から同年9月20日に延長された。さらに、合法化手続きが大幅に簡素化された(注4)。違法中古車に対して実質的に全く審査せずに合法化を認める内容に変更されたことに、自動車産業の企業団体などは猛反発(2022年3月2日付ビジネス短信参照、注5)。メキシコ自動車ディーラー協会(AMDA)は2022年2月末、今回の措置が新車市場と正規中古車市場にさらに大きな悪影響を及ぼすとするプレスリリース(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。さらに、メキシコ自動車部品工業会(INA)、メキシコ自動車工業会(AMIA)などとオンライン記者会見を開催。同措置が「(2022年の)新車販売台数を20万台減少させる可能性がある」と指摘している。

新型コロナ危機に起因する国内景況感悪化や半導体など資材の供給難に加え、連邦政府による違法中古車の合法化政策による悪影響まで懸念されるようになったかたちだ。今後のメキシコの国内販売市場は、短期的には低調に推移すると考えられる。

電動車の販売台数が前年比で約2倍に

2021年のメキシコの電動車〔電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の合計〕販売台数は4万7,079台。前年比で約2倍と、大幅に増加した(図5参照)。内訳をみると、電動車全体の9割を占めるHEVが前年比93.2%増の4万2,447台になった。PHEVは75.8%増の3,492台、EVが約2.5倍の1,140台と、いずれも好調だった。2021年の新車販売総数に占める電動車の割合は4.6%で、2020年の2.6%から大きく増加したかたちだ。なお、電気自動車メーカーのテスラは、AMIAに加盟していない。その結果、その実績が統計データに含まれていない。そのため、実際には、当記事で示したより多くがメキシコ国内で販売されていることになる。

図5:メキシコにおけるハイブリッド・電気自動車の販売台数
2017年はHEVが9,349台、PHEVが968台、EVが237台。2018年はHEVが1万6,022台、PHEVが1,584台、EVが201台。2019年はHEVが2万3,938台、PHEVが1,365台、EVが305台。2020年はHEVが2万1,970台、PHEVが1,986台、EVが449台。2021年はHEVが4万2,447台、PHEVが3,492台、EVが1,140台。電動車(HEV、PHEV、EVの合計)の国内販売総数に占める比率は、2017年に0.7%、2018年に1.2%、2019年に1.9%、2020年に2.6%、2021年に4.6%と右肩上がりで上昇。

注:HEV:ハイブリッド、PHEV:プラグインハイブリッド、EV:電気自動車、xEVはHEV,PHEV,EVの合計。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

メキシコで電動車の販売を促進させることを期した主なインセンティブには、以下がある。

  • 消費者を対象にしたもの:連邦が課する新車税(ISAN、注6)の免除、州が課する自動車所有税(Tenencia)の減免。
  • 駐車場などの運営事業者を対象にしたもの:EVの充電スタンドを設置した場合、その投資額の30%を当該年度の法人所得税(ISR)から税額控除できる。
  • 一般関税率の減免:国内でEVの普及を進めるため、2020年9月4日から2024年9月30日までの間、新車EV(バス、乗用車、トラック)に限り無税化。

また、電動車販売に関連し、メキシコ公式規格(NOM)の改定の動きがある。車両総重量3,857キログラム以下の車両については、NOM-163-SEMARNAT-ENER-SCFI-2013で排ガス・燃費基準が設けられている。自動車メーカー別に平均燃費基準(CAFE)を定めるもので、米国の制度にならって2013年8月末から導入された。環境に優しい車を多く販売した企業には、クレジット(注7)が付与される仕組みも組み込まれている。

その改定案を2018年9月28日、連邦官報で公布。現在、業界団体を中心にパブリックコメントが募集中されている。現在、同改定案策定の最終段階にある。案の中には、HEV、PHEV、BEV、燃料電池車(FCEV)などを販売した場合のクレジット引き上げが盛り込まれた。適用にあたって上限が定められているものの、クレジットで優遇されることになる。

関係者によると、2022年2月末時点の案でクレジット計算に用いられる乗数は、BEVおよびFCEVが1台当たり13.5、PHEVが8.3、HEVが5。HEVと比べ、BEVやFCEVの販売は2倍以上だ。片や、同NOMが定める企業別の排ガス・燃費基準は、2013年時点のNOMよりもかなり厳しくなるとみられている。その結果として、基準達成のためにはクレジットの活用が必須になる自動車メーカーも増えると見込まれる。このNOMの改定は、自動車メーカーがメキシコ市場において、EVなどの導入を加速させるインセンティブとして機能するとみられる。

目下、メキシコ国内でのHEV販売ではトヨタが最も多くのラインアップを投入し、好調だ。プリウス、カローラ・ハイブリッド、カムリ・ハイブリッド、ラブフォー・ハイブリッド、シエナ・ハイブリッドの5種を展開している。2021年には、シエナ・ハイブリッドを発売。ミニバンで唯一のハイブリッド車として、販売を伸ばした。一方、国内でEVを生産するのは米国勢だ。フォードは2020年11月から、メキシコ州クアウティトラン・イスカリ工場で100%電気自動車の生産を本格的に開始済み。2019年半ばまでガソリンエンジン小型車フィエスタを生産していたメキシコ州クアウティトラン工場でも、同社の伝統的スポーツカーの名称を引き継ぐ「マスタング・マッハE」(SUV)を生産している。またGMも、2021年4月、コアウイラ州ラモスアリスぺ工場でEVおよびEV用駆動部品を製造する計画を発表した。

AMLO政権が2018年12月に発足して以降、新車EVの無関税化を除いて、積極的なEV促進策が発表されていない。そうしたこともあって、メキシコ国内でEVが普及するまでには、まだ相当の期間を要すると見込まれる。そうしたことから、中長期的に米国向けのEV生産の拡大が先行していくと考えられる。


注1:
外国で生産された製品の主要部品を輸入して、組み立て・販売する手法。
注2:
中央銀行は、2021年2月時点で4.00%だった政策金利を、2022年3月に6.5%まで引き上げた。
注3:
違法輸入中古車の合法化措置が対象とされる地域は、北部国境州等(バハカリフォルニア州、南バハカリフォルニア州、ソノラ州、チワワ州、コアウイラ州、ヌエボレオン州、タマウリパス州)と、ドゥランゴ州、ナヤリ州、ミチョアカン州、シナロア州、サカテカス州を含めた範囲に拡大された。
注4:
合法化手続きにあたっては、通関士などを通じた確定輸入申告を不要にした。メキシコ国家税関庁(ANAM)による車両の実視確認を受ける必要もない。違法中古車の所有者が定型宣誓文書をREPUVE管轄当局に書類送付する(紙または電子媒体)だけで、手続き完了になる。
注5 :
自動車業界は、この措置に反対の立場を取ってきた。この立場は、2021年6月にAMLO大統領が合法化への検討を始めた当初から一貫している。
注6:
新車の販売価格に応じて2~17%が課税される。
注7:
自動車メーカーが当該年度に目標以上の排ガス抑制・燃費基準達成を実現した場合に与えられる控除枠。次年度以降に目標基準を達成しなかった場合、その未達分を相殺する目的で適用することが可能。また、メーカー間でクレジットを売買することも想定されている。

2021年のメキシコ自動車産業

  1. 供給難に苦しみ生産活動が停滞
  2. 部品生産は堅調に回復、対内投資は過去最高
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
松本 杏奈(まつもと あんな)
2008年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課などを経て、2018年9月から現職。