部品生産は堅調に回復、対内投資は過去最高
2021年のメキシコ自動車産業(2)

2022年4月25日

メキシコで自動車部品生産は、2021年に前年比20.1%増加。新型コロナ感染拡大前(2019年)の水準にまで、ほぼ回復した(注1)。2022年も、前年比2桁増が見込まれている。

また、自動車部品製造業への対内直接投資も好調だった。米国企業の投資を中心に、2021年は396億ドル。前年比3.1倍で、過去最高を記録したかたちだ。その背景には、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の発効、米中貿易紛争の継続、新型コロナ禍の影響(注2)などがある。昨今のこうした国際状況下では、ニアショア生産の重要性が再認識されるようになった。その結果、北米での製造拠点として、メキシコが再び重要視されるようになったことがうかがえる。また、テスラやデトロイトスリーなどが北米で電気自動車(EV)生産を拡大した影響を受け、そのサプライヤーの進出に至ったともみられる。事実、日系企業の中にも、電動車関連の新規受注に起因した拡張投資を進めるところがある。

部品生産はほぼ新型コロナ前の水準に回復

メキシコ自動車部品工業会(INA)が2022年3月22日に発表した統計によると、2021年のメキシコの自動車部品生産額は947億7,800万ドル。前年比で20.1%増。2019年比で、2.5%減の水準にまで回復した。新型コロナ禍で数カ月操業停止に追い込まれた2020年の落ち込みを、ほぼ取り戻したかたちだ。販売先別には、輸出向け(2021年の生産全体の82.9%を占める)が前年比21.2%増、国内向けが同15.4%増。とくに輸出向けが好調だったことがわかる(図1参照)。

一方、2021年の完成車生産は大型バス・トラックを含めて314万5,653台だった。半導体不足の影響を強く受け、新型コロナ禍にあった前年からさらに1.0%減少している。完成車と比べると、部品の生産は堅調に推移したことになる。その背景には、目下の国際情勢がありそうだ。米中貿易紛争の継続や新型コロナ禍を機に、サプライチェーン再編の必要性が再認識されるようになった。その結果として、北米市場向けのニアショア生産拠点としてのメキシコの重要性が高まったとみられる。IHSマークイットの見通しによると、2022年の自動車部品生産額は前年比5.5%増になり、1,000億ドルを超える。当年をもってコロナ危機から完全に脱し、過去最高に達するとみられていることになる。

図1:メキシコの自動車部品生産額の推移
2010年の生産額は、国内向けが130億1,000万ドル、輸出向けが382億5,900万ドル、輸出比率は74.6%。2011年の生産額は、国内向けが138億3,700万ドル、輸出向けが459億5,900万ドル、輸出比率は76.9%。2012年の生産額は、国内向けが255億500万ドル、輸出向けが520億5,900万ドル、輸出比率は67.1%。2013年の生産額は、国内向けが240億7,800万ドル、輸出向けが578億3,500万ドル、輸出比率は70.6%。2014年の生産額は、国内向けが221億6,500万ドル、輸出向けが648億2,600万ドル、輸出比率は74.5%。2015年の生産額は、国内向けが194億4,000万ドル、輸出向けが684億2,100万ドル、輸出比率は77.9%。2016年の生産額は、国内向けが187億8,500万ドル、輸出向けが768億2,200万ドル、輸出比率は79.0%。2017年の生産額は、国内向けが175億1,400万ドル、輸出向けが734億5,400万ドル、輸出比率は80.7%。2018年の生産額は、国内向けが178億2,300万ドル、輸出向けが793億1,000万ドル、輸出比率は81.7%。2019年の生産額は、国内向けが161億5,200万ドル、輸出向けが810億7,600万ドル、輸出比率は83.4%。2020年の生産額は、国内向けが140億7,000万ドル、輸出向けが648億1,400万ドル、輸出比率は82.2%。2021年の生産額は、国内向けが162億3,500万ドル、輸出向けが785億4,300万ドル、輸出比率は82.9%。2022年の生産額見通しは、国内向けが171億3,200万ドル、輸出向けが828億7,900万ドル、輸出比率は82.9%。

注:2021~2022年は推定値。 出所:メキシコ自動車部品工業会(INA),2020年までの原資料は国立統計地理情報院(INEGI)

自動車部品の貿易についてはどうか。2021年の輸出は、前年比21.2%増の785億4,300万ドルに回復した。ただし、新型コロナ前の2019年と比べると3.1%少ない。その仕向地別に輸出額をみると、全体の89.5%を米国向けが占める。完成車輸出と同様に、米国の動向に左右される構造だ。米国以外の主要仕向け地としては、カナダが全体の3.2%、ブラジルが1.5%、中国が1.2%、日本が0.9%、ドイツが0.7%だった。

片や2021年の自動車部品輸入は、534億7,400万ドルだった。前年比20.8%増、2019年比では3.4%減だ。輸入相手国としては、輸出と同様に米国への依存度は高い(構成比52.7%)。しかし、アジア諸国のプレゼンスが大きいのも特徴だ。中でも、中国製の輸入が14.0%、日本製が6.5%、韓国製が6.2%を占める。3カ国を合計すると26.7%を占め、部品調達先として重要だ(表1参照)。

その結果として、貿易収支は250億6,900万ドルに及ぶ大きな黒字になる。完成車と並び、メキシコにとって重要な外貨獲得源だ。

表1:メキシコの自動車部品国別貿易額(単位:100万ドル,%)(△はマイナス値)

輸出
国名 2019年 2020年 2021年
金額 金額 金額 構成比 伸び率
米国 70,500 55,898 70,265 89.5 25.7
カナダ 3,162 2,528 2,513 3.2 △ 0.6
ブラジル 1,378 1,101 1,178 1.5 7.0
中国 1,216 972 943 1.2 △ 3.0
日本 810 648 707 0.9 9.1
ドイツ 649 519 550 0.7 6.0
その他 3,361 3,148 2,387 3.0 △ 24.2
合計 81,076 64,814 78,543 100.0 21.2
輸入
国名 2019年 2020年 2021年
金額 金額 金額 構成比 伸び率
米国 27,347 21,822 28,171 52.7 29.1
中国 8,027 6,417 7,486 14.0 16.7
日本 3,432 2,744 3,476 6.5 26.7
韓国 3,100 2,478 3,315 6.2 33.8
ドイツ 2,989 2,390 2,674 5.0 11.9
カナダ 1,993 1,593 2,032 3.8 27.6
その他 8,470 6,808 6,320 11.8 △ 7.2
合計 55,358 44,252 53,474 100.0 20.8

出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)

INAの発表から2021年の輸出を製品分野別にみると、(1)ワイヤーハーネスや電線類が91億5,500万ドルで最大だった(自動車部品輸出全体に占める構成比11.7%)。これに、(2)プレス部品・車体アクセサリー3億2,300万ドル(同6.8%)、(3)座席・同部品53億2,100万ドル(同6.8%)、(4)トランスミッション・同部品40億9,200万ドル(同5.2%)が続く。一方で、輸入は、(1)プレス部品・車体アクセサリー(自動車部品輸入全体に占める構成比6.2%)が32億9,900万ドル、(2)トランスミッション・同部品(同6.1%)32億5,800万ドル、(3)車載音響映像機器(同4.8%)26億1,600万ドル、(4)ガソリンエンジン(同4.3%)22億9,400万ドル、(5)ハーネス部品(同4.1%)21億9,900万ドル、(6)ブレーキ部品(同4.1%)21億9,200万ドル、と続く。

INAによると、米国の自動車部品調達先としてのメキシコの重要性は年々高まっている。そのメキシコ製の比率は、2010年の29.6%から2021年には36.8%まで拡大した。同じ期間に中国製は10.9%から10.1%へ、カナダ製は15.3%から9.8%へ、日本製は13.6%から8.5%へ、ドイツ製は7.7%から6.7%へ低下した。自動車部品の米国向け輸出製造拠点として、メキシコの活用が進んでいることがわかる。

部品事業者は北部と中央高原バヒオ地域に集積、外資系に存在感

国立統計地理情報院(INEGI)の全国事業所統計ダイレクトリー(DENUE)によると、メキシコで自動車部品を製造する事業所は過去12年間で大きく増加。2009年末に956カ所だったのが、2021年11月時点で2,614カ所に至った。これは、日本、米国、欧州、韓国の完成車メーカー(OEM)による相次ぐ工場新設に牽引された結果でもある。

事業所数を州別にみると、(1) グアナファト州〔269カ所/ゼネラルモーターズ(GM)、フォルクスワーゲン(VW)、マツダ、ホンダ、トヨタの工場が所在(注3)〕、(2) メキシコ州(261カ所/フォードやクライスラーの完成車工場が所在)、(3)コアウイラ州(243カ所/メキシコ北東部、GMとクライスラーの工場が所在)、(4) ヌエボレオン州(232カ所/北東部有数の工業都市モンテレイがあり、対米向け自動車部品製造拠点として有名)、(5) ケレタロ州(205カ所/中央高原バヒオ地域の工業州で、自動車部品、白物家電、航空機部品の生産が盛ん)、(6) チワワ州(197所/米国に隣接、テキサス州エルパソ市の南に隣接する国境都市フアレス市ではワイヤーハーネスの生産が盛ん)、などが上位となっている(図2参照)。

事業所の数を製品分野別にみると、電気・電子系統(478カ所)が全体の2割弱を占めて最大。これに、プラスチック部品(463カ所)、座席・内装(372カ所)、金属プレス部品(286カ所)、ガソリンエンジン・同部品(165カ所)が続く(図3参照)。

図2:自動車部品製造業の事業所数州別構成(箇所数、%)
事業所数が多い順に、グアナファト州(269ヵ所、10.3%)、メキシコ州(261ヵ所、10.0%)、コアウイラ州(243ヵ所、9.3%)、ヌエボレオン州(232ヵ所、8.9%)、ケレタロ州(205ヵ所、7.8%)、チワワ州(197ヵ所、7.5%)、プエブラ州(163ヵ所、6.2%)、メキシコ市(158ヵ所、6.0%)、サンルイスポトシ州(133ヵ所、5.1%)、ハリスコ州(126ヵ所、4.8%)、タマウリパス州(114ヵ所、4.8%)、アグアスカリエンテス州(103ヵ所、3.9%)、ソノラ州(74ヵ所、2.8%)、バハカリフォルニア州(72ヵ所、2.8%)、その他(264ヵ所、10.1%)

注:全2,614事業所の州別構成比。
出所:INEGI 「全国事業所統計ダイレクトリー(DENUE)」から作成

図3:自動車部品製造業の事業所数製品分野別構成(箇所数、%)
電気電子系統が478ヵ所(18.3%)、プラスチック部品が463ヵ所(17.7%)、座席・内装が372ヵ所(14.2%)、金属プレス部品が286ヵ所(10.9%)、ガソリンエンジン・同部品が165ヵ所(6.3%)、サスペンション・ステアリング系統が155ヵ所(5.9%)、ブレーキ系統が125ヵ所(4.8%)、トランスミッション系統が97ヵ所(3.7%)、その他の部品が473ヵ所(18.1%)。

注:全2,614事業所の製品分野別構成比。
出所:INEGI「全国事業所統計ダイレクトリー(DENUE)」から作成

自動車産業では、外資系企業の存在感が大きい。経済省が確認したところ、自動車産業(自動車・同部品製造)で外資系企業が1,460社ある(2021年末時点)。なお、そのうちの224社が、日本からの直接出資過半の企業だった(注4)。その数は米国の724社に次いで多い。この数字を6 年前の2015年末確認時点と比べると、外資系企業数全体で560社、日本からの直接出資で112社、米国系からの直接出資で166社増えている。ちなみにその他出資国として多かったのが、ドイツ(203社)、韓国(87社)、カナダ(84社)だった(図4参照)。

グローバルな自動車部品メーカーのメキシコ進出比率は高い。2020年の世界の自動車部品売上高上位100社(注5)が、既にメキシコに進出しているかどうかを調べたところ、100社のうち94社は既に工場設置済みだった。換言すると、未進出は6社だけということになる。100社以内にランクインする日系企業23社は、全てメキシコに工場進出済みだ。ドイツ系も同様だった(図5参照)。

図4:自動車産業の外資系企業数
国籍別比率
(2021年第4四半期)
全1,460社のうち、最も数が多いのは米国系企業であり724社(49.6%)、日系が224社(15.3%)、ドイツ系が203社(13.9%)、韓国系が87社(6.0%)、カナダ系が84社(5.8%)、その他が138社(9.5%)と続く。

注:直接出資国による分類。在米日系企業の投資は米国からの投資に計上。
出所:メキシコ経済省外資局

図5:世界の自動車部品サプライヤーの
メキシコ進出状況
(2020年の売上高上位100社)
上位100社のうち日系企業は23社がメキシコに工場を持っており、米系は22社、ドイツ系は18社、韓国系は8社、フランス系は5社、中国系は4社、カナダ系は4社、スペイン系は3社、イギリス系は2社、スイス系は2社、メキシコ系は1社、その他の国籍では2社がメキシコ国内に工場を持つ。上位100社のうちメキシコに進出していないのは6社であり、その内訳は米系が1社、中国系が4社、韓国系が1社。

注:未進出は米系1社と中国系4社、韓国系1社。
出所:ジェトロ作成(原資料はAutomotive News, 2021年6月28日)

日系進出企業の調達、依然として本国依存

メキシコには日米欧韓のグローバルな1次部品メーカー(Tier1)が進出済みであり、Tier1の数では、他の自動車生産大国と比べて大差ない。しかし、2次部品メーカー(Tier2)や3次部品メーカー(Tier3)の数は不足する。そのため、進出日系企業の部品・原材料の現地調達が思うように進んでいない。ジェトロが毎年、世界主要国で実施する「海外進出日系企業実態調査」によると、2021年のメキシコ進出日系輸送機器・同部品製造業の現地調達比率は25.8%。2020年より6.6%ポイント低下してしまった。他方、日本からの調達は40.3%と、7.3%増えた(図6参照)。この背景には、円安の進行もある。2020年、円の期中平均対ペソ為替レートは1円=約0.2014ペソだった。これに対し2021年には、約0.1847ペソと8.3%円安に動いている。この水準だと、品質の高い日本製品に競争力が生じる。ただし、国際的なコンテナ不足や海上輸送コストの上昇が続き、ウクライナ危機に起因した原油価格の高騰の影響も考えられる。そうしてみると、アジアから長距離を輸送する部材調達は、今後減少に向かう可能性もある。

メキシコでは、部品・原材料の輸入に関税面での恩典が与えられてきた(注6)。その裏返しとして、他国と比べて国内に製造業の裾野が十分に育たない結果ももたらした面もある。特に地場資本の企業では、自動車産業で求められる品質管理の水準を満たす企業が少ない。そのため、一部の地場系優良企業や日系・ドイツ系など外資系企業に受注が集中し、現地調達部品の価格は中々下がらない。また、鉄やプラスチック樹脂などの素材産業が弱い。これは、自動車用に用いることができる高品質な素材が現地調達できないという課題になる。

図6:進出日系企業(輸送機器・同部品製造)の部品・原材料の調達先(地域別)
現地調達の比率は、2020年度のメキシコで32.4%、2021年度のメキシコで25.8%、2021年度のブラジルで54.8%、同中国で76.0%、同タイで62.5%、同インドネシアで46.6%。日本からの調達比率は2020年度のメキシコで33.0%、2021年度のメキシコで40.3%、2021年度のブラジルで24.0%、同中国で18.2%、同タイで29.1%、同インドネシアで37.6%。米国からの調達比率は2020年度のメキシコで16.7%、2021年度のメキシコで17.3%、2021年度のブラジルで1.3%、同中国で0.2%、同タイで0.2%、同インドネシアで0.1%。中国からの調達比率は2020年度のメキシコで5.9%、2021年度のメキシコで7.7%、2021年度のブラジルで2.5%、同タイで3.2%、同インドネシアで3.5%。韓国からの調達比率は2020年度のメキシコで1.7%、2021年度のメキシコで2.3%、2021年度のブラジルで0%、同中国で1.0%、同タイで0.8%、同インドネシアで0.5%。ASEANからの調達比率は2020年度のメキシコで6.3%、2021年度のメキシコで4.1%、2021年度のブラジルで6.2%、同中国で2.9%、同タイで3.1%、同インドネシアで8.0%。

出所:ジェトロ「2021年度在アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」、「2020, 2021年度在中南米進出日系企業実態調査」

他方、現地調達全体に占める現地進出日系企業からの調達比率をみると、メキシコでは64.0%に達する。前年の61.2%からさらに上昇した。ブラジルや中国と比べると、進出日系企業へ依存度がかなり高い。もっとも、タイやインドネシアとほぼ同水準だ(図7参照)。

図7:進出日系企業(輸送機器・同部品製造)の部品・原材料の現地調達先の資本国籍内訳
現地進出日系企業からの調達比率は、2020年度のメキシコで61.2%、2021年度のメキシコで64.0%、2021年度のブラジルで15.9%、同中国で32.8%、同タイで70.0%、同インドネシアで58.7%。地場企業からの調達比率は2020年度のメキシコで27.6%、2021年度のメキシコで25.5%、2021年度のブラジルで81.6%、同中国で62.0%、同タイで29.0%、同インドネシアで37.8%。その他外資系企業からの調達比率は2020年度のメキシコで11.2%、2021年度のメキシコで10.5%、2021年度のブラジルで2.5%、同中国で5.2%、同タイで1.0%、同インドネシアで3.5%。

出所:ジェトロ「2021年度在アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」、「2020, 2021年度在中南米進出日系企業実態調査」

ここで、マークラインズの自動車部品サプライヤーデータベース(注7)を使って、自動車産業が集積するアジア・米州主要国の自動車部品企業の数を比較してみる。メキシコは中国やインド、タイと比べると、自動車部品サプライヤーの数がまだ少ない。完成車の生産規模と自動車部品サプライヤーの関係をみると、メキシコは完成車の生産規模の割には、サプライヤーの数が相対的に不足している。完成車1万台当たりの部品サプライヤー数は、メキシコは5.30社。タイ(10.94社)、インド(9.32社)、中国(7.30社)、インドネシア(6.34社)の後塵を拝している。

特にASEAN諸国と比べると、日系サプライヤーの数で大きな開きがある。タイに進出済みの日系サプライヤー数は、メキシコの2.8倍に及ぶ。インドネシアと比べると、全体ではメキシコ(2,112社)の方がインドネシア(816社)よりも多いにもかかわらず、日系だけではインドネシア(479社)がメキシコ(419社)を逆転する(表2参照)。先の図7では、タイやインドネシアで進出日系企業からの調達比率が高いことを指摘した。その要因の1つは、進出数が多いところにあると言えるだろう。

表2:アジア・米州自動車生産主要国の自動車部品企業数
国名 完成車生産
台数(千台)
企業数 部品企業数/
完成車1万台
全体 日系 日系比率
中国 25,721 18,765 1,971 10.5% 7.30
米国 10,880 4,453 911 20.5% 4.09
日本 9,684 8,300 7,955 95.8% 8.57
インド 4,516 4,207 325 7.7% 9.32
メキシコ 3,987 2,112 419 19.8% 5.30
ブラジル 2,945 921 116 12.6% 3.13
タイ 2,014 2,202 1,186 53.9% 10.94
カナダ 1,917 419 59 14.1% 2.19
インドネシア 1,287 816 479 58.7% 6.34
アルゼンチン 315 120 11 9.2% 3.81

注:完成車生産台数は2019年のデータ。企業数は2022年2月5日抽出時点。
出所:世界自動車工業会(OICA),マークラインズ自動車部品企業データベースから作成

豊富でコスト競争力のある労働力の魅力は健在

2021年7月に、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の発効から1年が経過。完成車や自動車部品の原産地規則の1つ、域内原産割合(RVC)の閾値(いきち)が引き上げられた(注8)。一部の自動車部品については原産地規則を達成するのが困難なため、米国で一般関税(大半が2.5%)を支払って輸入している比率が高い。例えば、2021年12月時点で米国がメキシコから輸入しているステアリング系統部品の輸入額の48.9%がUSMCAを活用していない(当該部品の関税は2.5%)。同様に、クラッチの46.5%、サスペンション系統の32.5%がUSMCAを活用していない(双方とも関税は2.5%)。ただし、たとえ関税負担が発生したとしても、対米向け自動車部品輸出製造拠点としてのメキシコの魅力は大きく減じていないようだ。

ジェトロが2021年9月に実施した「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」によると、メキシコ進出日系自動車・同部品製造企業の今後の部品・原材料の調達先変更計画(全32件)としては、日本や米国からの調達をメキシコの現地調達に切り替える動きの方が強い。逆にメキシコで現地調達している部材を他国からの調達に切り替える動きは3件に過ぎない(図8参照)。調達先変更理由(複数回答)としては、「生産コストの適正化」が75.0%と圧倒的に多い。これに、「通商環境の変化」の21.4%、「FTAなど通商協定の活用」14.3%が続いた。なお、メキシコに調達先を切り替えると回答した企業に限ると、「生産コストの適正化」が6割。やはり、「通商環境の変化」の3割、「FTAの活用」2割を大きく上回っている。

図8:進出日系企業の調達先変更計画

変更前
変更前の調達先としては、日本が43.8%、米国が18.8%、中国が15.6%、メキシコが9.4%、韓国が3.1%、タイが3.1%、フィリピンが3.1%。その他が3.1%。
変更後
変更後の調達先としては、メキシコが37.5%、マレーシアが9.4%、米国が6.3%、中国が6.3%、日本が3.1%、韓国が3.1%、インドネシアが3.1%、カナダが3.1%、その他が15.6%、調達打ち切りが12.5%。

出所:JETRO「2021年度在中南米進出日系企業実態調査」

一方、メキシコ進出日系自動車・同部品製造業のうち9社が「生産地を見直す」と回答した。この中で、メキシコを見直しの対象地に挙げた企業は2社だった。そのうち、1社はメキシコ国内で生産地を見直し、1社は日本に一部の生産を移す。変更後の生産地をメキシコとした企業は3社で、日本と米国からメキシコへ生産を移管する。その他はメキシコ国外間で生産地を見直す。生産地の変更理由(複数回答)としては、「生産コストの適正化」が88.9%(8社)と圧倒的に多かった。「通商環境の変化」「FTAなど通商協定の活用」「新型コロナ感染の拡大」が11.1%(それぞれ1社)で続いた。

ジェトロに寄せられる貿易投資相談の中には、米国からメキシコへの生産移管についての相談も散見される。生産移管を検討する理由としては、米国とメキシコの間の賃金格差に加え、米国で単純労働力の確保が難しいことを挙げる声が多い。製造工程で多くの単純労働力を必要とする製品分野においては、米国で生産しようとしても労働力が十分に集まらないというわけだ。そうした指摘は多く、豊富な労働力が存在するメキシコでの生産を検討せざるを得ないようだ。また、新型コロナを契機に広がった国際的なサプライチェーンの分断と海上輸送コストの高騰は、ニアショア生産の重要性を再認識させることにつながった。そのため、米国向け製造拠点として、メキシコの再評価が進んでいる。

実際、メキシコと米国との間の賃金格差は非常に大きい。福利厚生費を加味した賃金で比較しても、一般工員で8倍超、エンジニアや中間管理職でも2~3倍の差がある。また、メキシコでは、就業人口の55.8%(2021年平均)が納税者登録や社会保険登録のないインフォーマル就労者だ。自動車産業などでフォーマルな雇用を求める就労者は、当然のように多い。そのため、完全失業率が4.1%と高くないにもかかわらず、工員を募集して人が集まらないことは少ない(表3参照)。

表3:米州の自動車産業集積地(注)の人件費(月給)比較
2021年12月~2022年1月のデータ(単位:ドル)
国名 都市名 給与分類 一般工員 エンジニア 中間管理職
米国 デトロイト 福利厚生費含む 3,728 7,722 10,364
米国 ナッシュビル 福利厚生費含む 3,409 6,268 8,499
米国 コロンバス 福利厚生費含む 3,381 6,933 9,464
カナダ トロント 福利厚生費含む 2,784 4,321 6,067
ブラジル サンパウロ 福利厚生・社会保障費含む 497 2,880 3,638
ブラジル カンピナス 福利厚生・社会保障費含む 475 2,721 3,387
メキシコ モンテレイ 基本給のみ 382 1,880 3,556
メキシコ サンルイスポトシ 基本給のみ 308 2,465 2,903
メキシコ ケレタロ 基本給のみ 302 2,172 3,341
メキシコ イラプアト 基本給のみ 294 1,763 2,932
メキシコ アグアスカリエンテス 基本給のみ 293 1,374 2,562

注1:自動車産業、特に日系企業が集積する地域に近い都市のデータを採用。
注2:メキシコの給与は基本給のみだが、福利厚生費を含めると基本給の約1.3倍程度。
出所:ジェトロ「投資コスト比較調査」(2021年度)

2021年の自動車部品製造業への対内直接投資は過去最高

2021年の自動車・同部品製造業への対内直接投資額は、前年比29.5%増の約52億6,800万ドルに達した。完成車製造では53.0%減少したものの、自動車部品製造は約39億6,400万ドルへと3.1倍に拡大した。同投資額は、自動車部品製造分野の対内直接投資額として過去最高になる(図9参照)。

図9:自動車産業における対内直接投資
完成車製造への投資額は、1999年が15億600万ドル、2000年が6億500万ドル、2001年が4億7,100万ドル、2002年が5億400万ドル、2003年が2億5,900万ドル、2004年が12億700万ドル、2005年が4億8,100万ドル、2006年が3,700万ドル、2007年が3億3,600万ドル、2008年が3億1,500万ドル、6億2,800万ドル、2010年が8億3,500万ドル、2011年が5億5,700万ドル、2012年が11億5,400万ドル、2013年が18億3,800万ドル、2014年が27億700万ドル、2015年が33億5,700万ドル、2016年が27億700万ドル、2017年が38億8,000万ドル、2018年が33億3,300万ドル、2019年が42億9,100万ドル、2020年が27億7,400万ドル、2021年が13億400万ドル。自動車部品製造への投資額は、1999年が10億8,500万ドル、2000年が12億1,600万ドル、2001年が16億9,100万ドル、2002年が9億8,400万ドル、2003年が14億8,800万ドル、2004年が18億9,100万ドル、2005年が19億400万ドル、2006年が19億9,300万ドル、2007年が21億8,900万ドル、2008年が3億1,500万ドル、2009年が9億8,300万ドル、2010年が18億7,400万ドル、2011年が15億500万ドル、2012年が19億6,000万ドル、2013年が19億7,400万ドル、2014年が29億4,600万ドル、2015年が35億4,200万ドル、2016年が27億3,000万ドル、2017年が38億3,400万ドル、2018年が32億7,900万ドル、2019年が31億200万ドル、2020年が12億9,200万ドル、2021年が39億6,400万ドル。

注:2021年12月31日時点確認分。
出所:メキシコ経済省外資局

2021年の自動車部品製造業への対内直接投資額を国別にみると、米国からが23億2,500万ドルで最大だ(全体に占める構成比58.7%、前年比3倍の伸び)。これに、ドイツの7億300万ドル(構成比17.7%、前年比5.1倍)、日本3億4,700万ドル(構成比8.7%、前年比2.8倍)が続く。米国の投資は、過去最高だった2015年の23億6,300万ドルに匹敵する額になった(図10参照)。

図10:自動車部品製造業における国別対内直接投資
米国は、2011年が8億8,500万ドル、2012年が8億8,100万ドル、2013年が6億700万ドル、2014年が14億8,500万ドル、2015年が23億6,300万ドル、2016年が14億500万ドル、2017年が17億8,900万ドル、2018年が9億2,200万ドル、2019年が14億9,100万ドル、2020年が7億8,600万ドル、2021年が23億2,500万ドル。ドイツは、2011年が4,500万ドル、2012年が2億4,700万ドル、2013年が3億900万ドル、2014年が4億1,700万ドル、2015年が2億7,900万ドル、2016年が3億4,400万ドル、2017年が8億1,300万ドル、2018年が8億4,900万ドル、2019年が3億4,700万ドル、2020年が1億3,700万ドル、2021年が7億300万ドル。日本が、2011年が1億1,100万ドル、2012年が5億4,400万ドル、2013年が8億3,600万ドル、2014年が7億2,500万ドル、2015年が5億3,100万ドル、2016年が5億7,300万ドル、2017年が6億2,500万ドル、2018年が7億6,800万ドル、2019年が3億7,300万ドル、2020年が1億2,400万ドル、2021年が3億4,700万ドル。カナダが、2011年が1億4,200万ドル、2012年が2,700万ドル、2013年が5,700万ドル、2014年が1億9,800万ドル、2015年が9,900万ドル、2016年が1億1,800万ドル、2017年が1億8,600万ドル、2018年が2億8,000万ドル、2019年が1億2,200万ドル、2020年が8,200万ドル、2021年が1億6,000万ドル。スペインが、2011年が5,500万ドル、2012年が700万ドル、2013年が100万ドル、2014年が900万ドル、2015年が5,600万ドル、2016年が1億4,900万ドル、2017年が8,000万ドル、2018年が8,700万ドル、2019年が1億7,500万ドル、2020年が3,100万ドル、2021年が1億1,000万ドル。韓国が、2011年が500万ドル、2012年は非公表、2013年は非公表、2014年が1,500万ドル、2015年が6,100万ドル、2016年が9,400万ドル、2017年が5,100万ドル、2018年が4,600万ドル、2019年が9,000万ドル、2020年が6,500万ドル、2021年が1億300万ドル。その他は、2011年が2億6,100万ドル、2012年が2億5,300万ドル、2013年が1億6,400万ドル、2014年が9,800万ドル、2015年が1億5,300万ドル、2016年が4,600万ドル、2017年が2億8,900万ドル、2018年が3億2,700万ドル、2019年が5億500万ドル、2020年が6,800万ドル、2021年が2億1,700万ドル。

注:2021年12月31日時点確認分。
出所:メキシコ経済省外資局データから作成

その中には、北米自動車産業の電動化を視野に入れた案件もある。

その一例が、GMによるコアウイラ州ラモスアリスペ工場でのEV駆動部品製造投資だ(2021年5月7日付ビジネス短信参照)。また2021年11月29日付の「経済日報」では、台湾系電子受託製造サービス(EMS)企業が(注9)米国テスラ工場向け納入を期して投資すると報じられた。

日系企業の中にも、EV関連投資に踏み出す企業がある。サスペンション系統部品大手エフテックは2021年12月、EV用部品の新規受注に対応するために、2022年度中のメキシコへの追加投資を発表した(2021年12月24日付同社プレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(52KB) 、2022年2月22日付「日刊工業新聞」)。EMS大手シークスも2022年2月、車載関連電子機器を製造するための工場拡張に向けた投資を発表している(2022年2月16日付同社プレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(124KB) )。

メキシコでは、電子部品の一般(MFN)関税率には無税のものが多い。仮に有税品目であっても、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)や自由貿易協定(FTA)を活用すると免除されることがしばしばだ。また、特殊な追加関税が課されることもない(注10)。こうしてみると、メキシコで車載用電子製品などを組み立てて米国に輸出するオペレーションは、関税コスト削減の観点からも重要な意味を持つ。


注1:
2020年は新型コロナ危機、2021年は国際的な半導体不足により、各国とも実際の生産能力よりもかなり少ない生産台数だった。実際の生産能力をより正確に反映するために、危機前の2019年実績を引き、あわせて比較してみた。
注2:
新型コロナウイルス拡大により、サプライチェーンの分断、海上輸送コストの上昇などが発生し、生産活動などの足かせになったと考えられている。
注3:
グアナファト州に所在するVWの工場では、エンジンを製造。ここで挙げた他企業の工場では完成車製造。
注4:
日系企業の中には、在米日系企業からの出資がマジョリティーの企業も多いと考えられる。となると、米国からの直接出資が過半と発表されている724社の中にも、実質的に日系企業が含まれる可能性濃厚だ。
注5:
米国のオートモーティブニュース誌が2021年6月28日に発表した「Top 100 Global OEM Parts Suppliers」に掲載された企業を対象に確認した結果。
注6:
メキシコでこれまでに講じられてきた関税恩典としては、(1)マキラドーラや(2) 自由貿易協定(FTA)ネットワークの拡充がある。 (1) は輸出を条件とした保税加工プログラムで、1960年代後半から導入が進められた。また(2)は1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)が典型的だ。
注7:
マークラインズは、世界の自動車産業に関して情報ポータルサイトを運営する。同サイトでは、自動車部品サプライヤーを約6万社所収するデータベースが利用できる。
注8:
米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、北米自由貿易協定(NAFTA)の後継と理解される。これら協定で特恵関税を受けるためには、原産地規則を満たす必要がある。特に完成車や自動車部品については、その1つとして域内原産割合(RVC)を満たさなければならない。そのRVCについて、USMCA上ではNAFTAより高く設定された。
RVCは乗用車・ピックアップ、同部品の場合、発効後3年間で段階的に引き上げられる。2021年7月1日には、(1)完成車およびTable A.1に掲載されたコアパーツのRVCは66%から69%へ、(2)Table Bに掲載されたプリンシパルパーツのRVCは62.5%から65%へ、(3)Table Cに掲載された自動車部品は62%から63%へ引き上げられた。
注9:
米国のEV企業テスラ向けに、広達電脳(クアンタ・コンピューター)や和碩聯合科技(ペガトロン)などが参入するという。
注10:
米国では、通商法301条に基づいて中国製電子部品に25%の追加関税が課されることなどもありうる。

2021年のメキシコ自動車産業

  1. 供給難に苦しみ生産活動が停滞
  2. 部品生産は堅調に回復、対内投資は過去最高
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。

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