TSMCやインテルが工場新設
米アリゾナ州、ハイテク投資相次ぐ(前編)

2022年6月28日

米国アリゾナ州では、半導体や電気自動車(EV)関連など先端産業に関する大型投資が相次いでおり、2020~2030年の10年間で72万人の雇用者数の増加が見込まれている。そのため、継続的な人口増加や、先端産業以外の幅広い産業への波及効果も期待されている。本稿の前編では、アリゾナ州フェニックス近郊を中心とした半導体産業の主な投資動向を紹介する。

半導体産業からみたアリゾナ州の魅力

アリゾナ州には、もともと米軍の重要基地があったことから、防衛産業や軍事技術と関係性の高い電気・電子産業が集積しており、ボーイング(Boeing)、ゼネラル・ダイナミクス(General Dynamics)、BAEシステムズ(BAE Systems)、レイセオン・テクノロジーズ(Raytheon Technologies)などの大手企業が拠点を構えてきた。

半導体産業も集積しており、インテル(Intel)がチャンドラー市に国内第2の規模となる生産拠点を置いているほか、マイクロチップ・テクノロジー(Microchip Technology)やオン・セミコンダクター(ON Semiconductor)、オランダのNXPといった半導体メーカー、さらには日系を含む半導体関連の部素材・装置サプライヤーも拠点を設立している。

アリゾナ州は乾燥した砂漠地帯に位置するため、低湿で安定した気候環境に恵まれ、地震を含めた自然災害のリスクが低い。また、州内には原子力発電所が稼働しており、電力供給は安定している。雨量が極めて少ないため、大量の水を使用する半導体製造には一見不向きにみられるが、実は地下水が豊富な上、半導体工場では水の再利用システムが確立していることから、工場操業には支障を来さない。何より、アリゾナ州立大学をはじめとする地元の教育機関が先端産業を支える技術系人材の育成に力を入れていることに加え、州政府や自治体がインセンティブ付与や許認可手続きを含めて企業活動に非常に協力的とされる。これらの点が相まって、アリゾナ州は半導体産業を引き付けているとみられる。

半導体メーカーから大型投資が相次ぐ

米国内での半導体サプライチェーン構築の重要性が高まる中、ファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は2020年5月、120億ドルを投資してフェニックス市北部に工場を建設する計画を発表した。2024年に操業を開始し、5ナノメートル(nm)プロセスの半導体ウエハーを毎月2万枚製造する。現在は1棟の建屋を建設中だが、さらに最大5つの工場を建設する計画があることが報道されている(ロイター2021年5月4日)。

TSMCの工場建設の様子(ジェトロ撮影)

また、アリゾナ州で40年以上操業してきた米国半導体大手のインテルは2021年3月、200億ドルを追加投資し、チャンドラー市の生産拠点に新たに2棟の工場を建設する計画を明らかにした。「インテル20A」を含む最先端製品の製造を予定しており、同年9月には工場建設に着手し、2024年の稼働開始を目指している(2021年9月30日付ビジネス短信参照)。

半導体関連の部素材や装置の投資も追随

こうした半導体メーカーの動きを受け、半導体関連の部素材や装置を提供するサプライヤーによるアリゾナ州への投資も相次いでいる。

例えば、産業用ガスを供給する英国のリンデ(Linde)は、TSMCの工場に超高純度窒素や酸素、アルゴンを供給する長期契約を締結しており、6億ドルを投じてオンサイトプラントを建設し、2022年後半から稼働を開始する計画を明らかにしている。

化学品メーカーでは、台湾のサンリットケミカル(Sunlit Chemical)は2022年1月、フェニックス市北部で工場建設を開始した。2023年初頭までにフッ化水素酸やそのほかの高純度の工業用化学品の生産を開始し、2025年には原料の精製を含めた工程の操業を行うとしており、総額1億ドルの投資を予定している。また、ドイツのメルク(Merck)の米国事業体EMDエレクトロニクス(EMD Electronics)は2022年1月、2,800万ドルを投じて半導体産業向けの特殊ガスの貯蔵や供給、制御する機器を生産する工場をチャンドラー市に建設すると発表した。2022年末までの操業開始を目指している。

真空製品や排ガス除害装置を扱うエドワーズ(Edwards)は2022年3月、チャンドラー市に新たな施設を建設していることを発表した。新施設は2022年第3四半期(7~9月)から稼働し、真空ポンプの分解や洗浄、検査、修理、交換、再組み立てを行う。

このほか、TSMCのサプライヤーである長春グループ(Chang Chun Group)やLCYケミカル(LCY Chemical)はカサグランデ市で工場建設用地を取得したと報じられている。米国に進出するTSMC関連の台湾企業は、工場建設やウエハー、フォトリソグラフィ材料、ガスや研磨剤、化学品といった製造工程材料者など26社になるという報道もある。

日系サプライヤーの動向に目を転じると、JX金属は2022年3月、半導体用スパッタリングターゲット事業の強化と新規事業展開のため、メサ市の用地を取得することを決定した。チャンドラー市にある既存拠点の約6倍(約26万平方メートル)の規模で、2024年度以降の稼働を目指して生産設備の新設を計画している。全体の投資額は日本円換算で120億円規模と報道されている。また、富士フイルムは2022年3月、メサ市の既存工場の半導体製造関連プロセス事業を強化するため、8,800万ドルの拡張投資を完了させた。これにより生産能力が30%向上したという。

本稿では、アリゾナ州での半導体産業の主な投資動向を紹介した。後編では、電気自動車(EV)やデータセンターの投資動向を紹介する〔米アリゾナ州、ハイテク投資相次ぐ(後編)周辺産業への波及も期待〕。

米アリゾナ州、ハイテク投資相次ぐ

  1. TSMCやインテルが工場新設
  2. 周辺産業への波及も期待
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
永田 光(ながた ひかる)
2010年、財務省入省。2020年8月からジェトロに出向、現職。