日本におけるスタートアップビザとは?
国際的なスタートアップの都「Startup Capital Kyoto」へ(3)

2021年11月12日

2020年7月に、内閣府は、スタートアップの創出や成長、また起業家の聖地を目指す「世界に伍(ご)するスタートアップ・エコシステム都市」として、首都圏や京阪神、愛知・浜松や福岡など8地域を選定した。この取り組みでは、ベンチャーキャピタルによるスタートアップ企業への投資や、ユニコーン企業の創出とともに、海外起業家の誘致促進に向けたスタートアップビザのさらなる活用を具体的な目標に掲げる。

日本ではスタートアップビザをめぐり、どのような取り組みを進めているのか。連載(3)では、日本におけるスタートアップビザ制度の特徴と課題について明らかにする。

日本におけるスタートアップビザ制度

国際的潮流に合わせ、日本国内でもスタートアップビザが一部の自治体や、特定の大学への留学生を対象として導入されている。外国人が日本で創業する場合、通常は「経営・管理」の在留資格の取得が必要になる(注1)。ただ、事業所の確保および500万円以上の投資、または2人以上の常勤職員の雇用が条件となっており、外国人がすぐに新たな起業をするうえではハードルが高い。そこで、一部の自治体では、外国人起業家が創業に向けた準備を進めるために、一時的に在留資格を与える取り組みを実施している。

内閣府では、2015年7月から、創業人材となる多様な外国人の受け入れ促進を図る国家戦略特区を認定する「外国人創業活動促進事業」を開始した。この事業は、地方自治体などが創業希望者の事業計画などから一定の要件を確認した場合、「経営・管理」の在留資格の基準を6カ月後までに満たす見込みがあれば、入国を認めるものである。2021年8月現在、東京都、神奈川県、京都府、新潟市、福岡市、北九州市、仙台市、愛知県、広島県、今治市の10自治体で認められている。

具体的な取得手続きは次のとおりである。申請者は、事業計画などの書類を該当する自治体に申請し、自治体の審査で認められれば創業活動に関する確認証明書が交付される。その確認証明書を、所管する地域の出入国管理局に申請し、「経営・管理」の在留資格が認定されれば、6か月間のビザを取得できる。その6カ月間内に、「経営・管理」ビザの更新に向けた創業準備を進めることになる。「経営・管理」ビザを更新できれば、最長1年間、事業活動を継続できる(注2)。

加えて、経済産業省および法務省でも、外国人に起業準備活動のための在留資格を認める「外国人起業活動促進事業」を2018年12月に導入した。経済産業大臣が認定した、地方自治体による「外国人起業活動管理支援計画」に基づく管理・支援などを受ける外国人起業家は、最長で1年間、起業準備活動のために入国・在留することが可能となる。2021年8月現在で福岡市、愛知県、岐阜県、神戸市、大阪市、三重県、北海道、仙台市、茨城県、大分県、京都府、渋谷区の12自治体が導入している。

具体的な取得手続きは次のとおりである。申請者は、事業計画などの書類を該当する自治体に申請し、自治体の審査で認められれば起業準備活動に関する確認証明書が交付される。その起業準備活動証明書を、所管する地域の出入国管理局に申請し、「特定活動」の在留資格が認定されれば、6か月間のビザを取得できる。6カ月後に「特定活動」ビザを更新する場合は、改めて自治体の審査を経て起業準備活動証明書の発行を受けたうえで、出入国管理局に申請する。1年間の起業準備活動終了後、「経営・管理」ビザの要件を満たせば最長1年間、事業を継続できる。

このほか、起業を準備する留学生を対象とする優遇制度も導入されている。出入国在留管理庁は、2020年3月に、留学生が在学中および卒業後に帰国することなくスタートアップビザへの切り替えを可能とする制度を策定した(注3)。さらに2020年11月、優秀な留学生の受入れに意欲的に取り組んでいるとされる大学などに在籍中から起業活動を行っていた留学生が、卒業後も継続して起業活動を行うことを希望する場合、一定の要件を満たせば在留資格「特定活動」による最長2年間の在留を認めるという制度を導入した(注4)。

日本のスタートアップビザの特徴とその課題

日本のスタートアップビザの大きな特徴は、政府によって認定された地方自治体がプログラムを実施する、という点である。認定された地方自治体の裁量は大きく、各地に適した事業分野の企業をスタートアップビザの対象としている(「各自治体におけるスタートアップビザの対象事業」参照)。地域が注力する産業を対象に海外のイノベーションを導入することで、地域の特性に合わせた発展が期待できる(注5)。

表:各自治体におけるスタートアップビザの対象事業
自治体 対象事業
北海道
  • 地域を支える農林水産業の成長産業化を促進する事業
  • 地域資源を活用した食関連産業の振興を促進する事業
  • 観光産業の先進地・北海道の実現を促進する事業
  • 高い付加価値を生み出すものづくり産業の振興を促進する事業
  • 市場規模やニーズの変化に応じた産業の創造を促進する事業
  • その他、知事が必要と認める事業
仙台市 仙台市の産業の国際競争力の強化や雇用の拡大を図ることが期待でき、後述の産業に当てはまる事業
  • 知識創造型産業(例:半導体関連、ソフトウエアの開発、コンテンツ制作、ロボット関連など)
  • 健康・医療・福祉・教育関連産業(例:創薬ベンチャー、医療技術開発、再生医療、福祉用機器開発、語学等教育関連事業など)
  • 環境・エネルギー・防災関連産業(例:クリーンエネルギー開発、次世代蓄電技術、防災に関連した製品・サービスの提供など)
  • 貿易・観光関連産業(例:市内産品の海外販路開拓に資する事業、外国人観光客の誘致に関する事業など)
新潟市
  • 規定なし
茨城県
  • ライフサイエンス(医療、バイオ・製薬など)を中心に、研究開発型の事業
  • IT 分野(情報通信業)やロボティクスなど革新的技術・技能を用いて高成長を目指す事業
  • その他知事が特に認める事業
東京都
  • 規定なし
渋谷区
  • 健康・医療・福祉関連産業
  • 環境・エネルギー関連産業
  • 食品、農業、林業、漁業関連産業
  • 情報関連産業
  • 文化・アート関連産業
  • ファッション関連産業
神奈川県
  • 未病・ライフサイエンス事業(バイオ関連、医療機器など)
  • エネルギー関連事業(創エネルギー、省エネルギー、蓄エネルギーなど)
  • IT・ロボット事業〔ソフトウエア関連、人工知能(AI)関連、モノのインターネット(IoT)関連、情報通信技術(ICT)関連など〕
  • 観光事業(誘客促進、観光魅力づくりなど)
  • 前述のほか、本県における産業の国際競争力の強化および国際的な経済活動の拠点性の向上を図ることに資するものとして、神奈川県知事が特に認めるもの
愛知県 (外国人創業活動促進事業)
  • 規定なし
(外国人起業活動促進事業)
  • IT分野(情報通信業)において高成長を目指す事業
  • 革新的技術・技能を用いて高成長を目指す事業
岐阜県 岐阜県内の産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成することを目的とし、後述の分野に当てはまる事業
  • IT、IoTなど関連分野(IT、IoTなどを導入・活用し、企業の生産性向上や新商品・技術開発、付加価値創造に関連する事業)
  • 観光分野(県の観光消費の拡大、県内への誘客促進に関連する事業)
京都府 (外国人創業活動促進事業・外国人起業活動促進事業)
京都府の産業の国際競争力の強化、雇用の拡大、地域経済への循環および国際的な経済拠点としての発展を目的とし、後述の分野に当てはまる事業
  • 伝統産業、先端産業などのものづくり分野
  • AI・IoT・情報通信分野
  • 環境・エネルギー分野
  • ライフサイエンス・ウェルネス分野
  • ソーシャルビジネス分野
  • 文化・アート・コンテンツ分野
  • 農林水産・京の食文化に関する分野
  • 観光分野(主に観光客の利用に供する観光土産販売施設、飲食店などを除く)
  • その他、京都府知事の認める分野
大阪市 地域未来投資促進法における大阪市基本計画で定める産業分野
  • 成長ものづくり分野
  • 第4次産業革命関連分野
  • グリーンエネルギー分野
  • ヘルスケアライフサイエンス分野
  • 観光・スポーツ・文化・まちづくり分野
神戸市
  • 高度技術を活用した事業(IT,健康,医療・福祉,環境,物流など)
  • 既存産業の高付加価値化やイノベーションを誘発する事業
  • その他、神戸市長が必要と認める事業
広島県
  • 規定なし
今治市
  • 規定なし
福岡市 (外国人創業活動促進事業・外国人起業活動促進事業)
福岡市の産業の国際競争力の強化や雇用の拡大を図ることが期待でき、後述の産業に当てはまる事業
  • 知識創造型産業(半導体関連、ソフトウエア開発、コンテンツ制作、ロボット関連など)
  • 健康・医療・福祉関連産業(創薬ベンチャー、医療技術開発、再生医療、福祉用機器開発など)
  • 環境・エネルギー関連産業(クリーンエネルギー開発、次世代蓄電技術、地球情報システムなど)
  • 物流関連業(グローバルSCMサービス、3PLサービス、国際宅配、ドローン物流開発など)
  • 貿易関連業(市内産品の海外販路開拓に資する事業、博多港と福岡空港の機能を活用する事業など)※貿易関連業については、新規性がある事業や市内事業者の成長に大きく寄与する事業である必要がある
北九州市
  • 北九州市まち・ひと・しごと創生総合戦略に定める北九州市新成長戦略の推進に資する事業
  • 前号に掲げるもののほか、当市における産業の国際競争力の強化および国際的な経済活動の拠点性の向上を図ることに資するものとして、市長が特に認めるもの
大分県
  • 自動車関連、電子・電気・機械関連、素材型・造船関連、健康・医療・福祉関連、環境・エネルギー関連、食品・農林水産関連、サービス産業、情報関連、航空関連、物流関連産業など

出所:各自治体ウェブサイトなどからジェトロ京都作成

一方で、海外のスタートアップビザに関する取り組みと比較すると、日本のスタートアップビザには、運用および制度の両面から改善の余地がある。

運用面では、スタートアップ・エコシステムとしての地域の発展と海外に向けた情報発信という2点に課題がある。前者に関して、スタートアップビザは出入国管理の観点から行政機関が中心になり、自治体や公的機関と申請者間でのやり取りに終始しがちである。だが、それでは外国発のイノベーションを地域に十分取り込むことができない。民間支援機関や他の先輩起業家など地域のコミュニティとして連携を進めることで、スタートアップ企業はもちろん周囲の成長につながり、ひいては起業環境の向上へとつながる。

後者については、本制度の利用者が外国人であるため、外国語による海外向けの情報発信を強化する必要がある。各自治体のウェブサイトは、日本語の情報を英語に直訳したかのような情報も多く、地域の魅力を十分に伝えきれていない。また、自治体による支援制度や生活情報に関しても、外国語による発信はまだまだ不十分である。

制度面では、インセンティブの拡大や重複の解消が必要となる。前者に関して、多くの国において認められている複数人による起業や家族の帯同といったインセンティブは、現制度で想定されておらず、個別に当人がビザを申請する必要がある。しかし、複数人での起業は起業の成功確率が高まり、家族の帯同は家庭と仕事の両立を求める優秀な起業家を誘致するうえで望ましい。実際に京都では、起業を検討していた外国人起業家が、他国のスタートアップビザ制度と比較検討したうえで他国での起業を選択した、といった事例も発生している。このため、外国人にとって起業や創業を促進するうえで優遇策の拡充を検討する余地がある。

後者の制度における重複という観点からは、外国人創業活動促進事業と外国人起業活動促進事業とが、創業準備期間の長さや在留資格の違いを除けば、かなり類似している点が挙げられる。それにもかかわらず、異なる官庁が所管しているため、特に自治体などのスタートアップビザ窓口担当者の事務手続きに関する負担が大きくなっている。申請するスタートアップ企業としても、制度を適切に理解することは容易ではない。


注1:
就労資格の詳細については、ジェトロ「日本での拠点設立方法2.4就労資格の種類
注2:
なお、京都府や福岡市、仙台市では、6カ月の「経営・管理」ビザを取得してから2回目の更新までの期間に限り、個室のオフィスのみならず認定されたコワーキングスペースでの活動を認めている。
注3:
出入国在留管理庁「国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業に係る在留資格の変更、在留期間の更新のガイドラインPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(129.16KB)
注4:
法務省「本邦の大学等を卒業した留学生による起業活動に係る措置について外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注5:
例えば福岡市の取り組みについて、ジェトロ「世界は今-JETRO Global Eyeスタートアップビザで創業都市へ ‐外国人起業家とつくる新たなビジネス‐」(2020年10月)、佐藤賢一郎・戸崎いずみ「国家戦略特区を活用した外国人による創業の促進─福岡市の取り組みから─」『日本政策金融公庫論集』第51号(2021年5 月)、81-102ページ。
執筆者紹介
ジェトロ京都
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課を経て現職。