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京都におけるスタートアップビザの課題
国際的なスタートアップの都「Startup Capital Kyoto」へ(5)

2021年11月17日

京都では、2020年4月から「スタートアップビザ」により外国人の起業支援を実施している。その支援を通じ、国際的に開かれたスタートアップ・エコシステムを構築させていくうえで課題も浮上している。

連載の最後となる(5)では、外国人起業家を包摂したコミュニティの構築、および京都外への発信、という課題に対する京都の取り組みを紹介することで、外国人起業家支援の在り方を探る。

外国人起業家を包摂したコミュニティの構築

京都は、都市でありながらもコンパクトな街であると評されることも多いが、起業したばかりのスタートアップ企業にとって、ネットワークを築くのは容易ではない。スタートアップビザを取得したオン・リン氏は、「コストを抑えられる物流業者をうまく見つけられず苦労している」と話す。

外国人起業家のコミュニティ「KIEC(Kyoto International Entrepreneurs Community)」の運営にも携わるグローカル人材開発センターの山田埜氏は、「京都のいろいろな場所でコミュニティが生まれているのは確かだが、どのようなコミュニティが存在しているのか可視化されておらず、コミュニティの外からはうまく見つけられない。また横のつながりの重要性や紹介文化が根強く残る京都においては、外国語による支援が不十分なことが起業のハードルを高くしている」と指摘している(注1)。

そこで、京都府や京都市、ジェトロや京都知恵産業創造の森では、京都のエコシステムにおける交流の場として、2021年3月にスラック(Slack)によるオンラインコミュニティ「Startup Capital Kyoto外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を導入した。このコミュニティは、新型コロナウイルスによって対面での接触が限られる中で、国内外出身の起業家や支援者が気軽に情報を交換できる場として構築された。高精度翻訳ソフトのディープエル(Deep L)と連携させることで、多言語による情報発信を実現している。絵文字のボタンを押すだけで、すべての投稿を日本語・英語・中国語など24言語で即座に受け取ることができる。2021年9月末時点で、約300人が参画している。


出所:スラック(Slack)オンラインコミュニティ「Startup Capital Kyoto外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

一方で、行政による支援のみならず、地域の企業や住民などが、街ぐるみでスタートアップ企業を応援することも必要となる。起業したてのビジネスは失敗がつきものであり、とりわけ社会における少数派である外国人起業家が、ビジネスを拡大させるためには、周囲による理解や支援が欠かせない。

京都市内の中華料理店「本場四川串鍋牛華八婆」は、開店した2020年3月からファンフォのモバイルオーダーシステムを利用している。同店を経営する周姝嫄氏は、ジェトロのインタビューに対して、新型コロナウイルスの流行が始まり、今後の売り上げが不透明な状況で、創業前の企業の製品を導入するというのは勇気がいる判断だったことを認めている。それでも、「ファンフォのシステムを導入したのは、それがお客さんにとって一番望ましいことだと思ったから。ファンフォのシステムは、店員と接触することなくメニューを注文できる。当初は、導入したシステムがうまく作動しないこともあり、ひどかった。でも、問題点をファンフォに伝えて、辛抱強く使い続けることでシステムは改善されていった」と語る。


周姝嫄氏(右)に製品を説明する、ファンフォの喬恒越氏(左)と王源源氏(中央)(ジェトロ撮影)

京都外における京都に対するイメージの改善

日本国内では、京都が新参者に対して排他的であり、ビジネスを始めるのが大変であるというイメージが存在している。実際に、京都への拠点設立を検討していた外国企業の中には、「京都では新しいサービスが受け入れられるのが難しい」という情報に触れたことで、京都での拠点設立を断念したという企業もある。また海外では、京都は観光地というイメージが国際的に浸透している一方で、働く場所や起業の拠点として意識されることは少ない。

だが、京都はむしろ、スタートアップ企業に親和的な文化が根付いており、外からの人材の受け入れに積極的な地域である。京都から生まれた京セラやオムロン、ワコールなどは、もともと京都外出身者が創業した。また、天皇や貴族が住む都だったことから、日本全国から各地の名産品が集まり、付加価値の高い財でなければ淘汰(とうた)される市場でもあったため、独自性(オリジナリティ)が伝統的に追求されてきた(注2)。加えて、西陣織などの伝統産業を生み出してきたものづくりの精神や、多くのノーベル賞受賞者を輩出した京都大学を中心とする学術文化研究を通じた知恵の集積、関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)での産官学連携によるオープンイノベーションの取り組み、なども強みとして挙げられる。

問題は、そうした京都で起業する魅力を対外的にいかに発信していくかである。ジェトロ京都では、国内外で開催されたスタートアップイベントや、海外ビジネスでは今や必須となっているリンクトイン(LinkedIn)やフェイスブック(Facebook)といったSNS、さらにはスタートアップ・エコシステムに関する動画や記事の掲載など、主にオンラインを活用した発信に取り組んでいる。2020年10月には北欧で最大級のスタートアップイベントを開催するエストニアの「Latitude59」と連携してピッチイベントを開催したほか、2020年9月に開催された「Japan Hackathon」や2020年10月と2021年7月に開催された「HVCKYOTO(Healthcare Venture Conference KYOTO)」では、京都におけるスタートアップビザプログラムの愛称を冠した「Startup Capital Kyoto賞」を優れた外国人起業家に授与するなどの取り組みを行っている。


京阪神のスタートアップ・エコシステムを海外に発信する動画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ジェトロ撮影)

国際的なスタートアップの都に向けて

連載(1)で言及したように、外国人起業家は、多様性によるイノベーションの創出・海外展開の促進・起業の活性化という効果をもたらす可能性がある。安全保障や自国民の雇用確保といった点を考慮しつつ、海外のイノベーションを取り込んでいくことで、地域の発展や国際競争力の向上が期待できる。こうした利点から、連載(2)で概観したとおり、スタートアップビザなどの政策を通じた創業人材の獲得に向けた国際競争は今後も激化していく。新型コロナウイルスの影響で移動が難しくなり、またデジタル化が浸透しようとも、起業家の多くは、最新の情報や人材に接触しやすい環境を求めて創業場所を選択する。イノベーションが創発される出会いの場に対する需要が消えることはないだろう。

そうした中で、日本は優れた起業家を地域に引き付けるためにはどのようにすればよいのか。連載(3)で指摘したとおり、外国人起業家を地域の発展に結び付けるスタートアップ・エコシステムとして取り込んでいくための仕組みが必要となる。連載(4)と(5)では、京都におけるスタートアップビザの取り組みを題材に、地域内におけるコミュニティの構築と地域外への情報発信の重要性を指摘した。現実的には、スタートアップ・エコシステムは多様な要素が連関する循環構造によって成立しているため、より多くの主体が取り組みを積み重ねることが求められる。

京都は、StartupBlinkが2021年6月に発表した100カ国1,000都市を対象とする「世界のスタートアップ・エコシステム都市ランキング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」において、前年よりも127位上昇し、124位となった。これは、国内において東京に次ぐ2番手である。ヘルステクノロジーに関するランキングにおいて、京都は国内最高位の14位となり、医療分野における研究の蓄積が高く評価された。海外からのエコシステムとしての評価が、着実に高まりつつある。その他、Startup Genomeが2021年9月に発表した「The Global Startup Ecosystem Report 2021」では、京都が初めて掲載された。

外国人起業家を支援することは、地域の未来に貢献する存在でありながら、社会の多数派と出自が異なるがゆえに日本社会で眠っていた能力を新たに活用するということである。京都は、人々との交流によって国際的な都を歴史的に築いてきた。外国人を取り残すことのない起業環境を整えていくことが、将来にわたって都市を持続させていくための基盤ともなる。


注1:
近年、地域におけるスタートアップ・エコシステムの形成において、起業家と支援者が容易につながることのできるコミュニティの構築が求められている。国際的に著名な米国発アクセラレーターである、テックスターズ(Techstars)の共同創業者ブラッド・フェルド(Brad Feld)氏らは、スタートアップ企業を中心とするコミュニティの形成がエコシステムの発展において重要であると指摘している。Brad Feld and Ian Hathaway, The Startup Community Way: Evolving an Entrepreneurial Ecosystem, 2020, Wiley.
注2:
徳賀芳弘編著『京都企業歴史と空間の産物』中央経済社、2016年、294-296ページ。川北英隆、奥野一成編著『京都企業が世界を変える企業価値創造と株式投資』きんざい、2015年、20-21ページ。
執筆者紹介
ジェトロ京都
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課を経て現職。

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