京都のスタートアップビザで提供される支援と企業の活用例
国際的なスタートアップの都「Startup Capital Kyoto」へ(4)

2021年11月17日

京都では、産業の競争力強化に資する外国人起業家の受け入れ拡大に向け、2020年4月に「スタートアップビザ」を導入した。スタートアップビザを活用した外国人起業家は、最長で1年間、起業準備活動のために入国・在留することが可能となる。京阪神地域では、2018年度に4件にとどまっていたスタートアップビザの認定件数を、2020年度から2024年度にかけて60件へと大きく増やすことを目指している。連載(4)では、京都のスタートアップビザの事業においてどのような支援を提供しているのかを概観する。

京都におけるスタートアップビザ

京都でスタートアップビザを活用した外国人起業家は、最長で1年間、起業準備活動のために入国・在留することが可能となる。また、法人設立に関する行政書士への相談、資金調達などの法務に関する国際弁護士への相談、オフィスに関する補助、銀行口座の開設に向けた銀行の紹介なども利用できる。ビザの申請は日英両言語で可能である。ジェトロ京都は、スタートアップビザの窓口を京都府や京都市とともに担っている。これは、全国47都道府県に事務所を有するジェトロにおいて初めての試みだった(注1)。米国シリコンバレーでの会社設立にも携わったコンシェルジュなどが日英両言語で相談に応じている。


出所:京都におけるスタートアップビザのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

なぜスタートアップビザを導入したのか

京都でスタートアップビザを導入した背景には、国際的な知名度の高さを利用した、外国人材による地域経済への貢献に対する期待がある。京都は、人口当たりの大学生の比率が日本国内で最も高い地域である。だが、大学卒業後には多くの学生が首都圏などに流出し、新たな産業を担う人材が十分に確保できていない。一方で、京都は、観光分野をはじめとして国際的に注目を集めており、新型コロナウイルスの感染拡大以前には多くの観光客が京都を訪問していた。海外からの高い評価を、インバウンド観光にとどまらず、より持続的な地域の経済発展につながるイノベーションの創出につなげようとしている。

スタートアップビザ導入以前にも、京都でスタートアップ企業を創業する外国人材は少なくなかったが(注2)、創業時に十分な支援を受けられていなかった。映像や音響と連動した香り制御装置「アロマシューター」を開発・製造するアロマジョイン(Aromajoin)を創業した金東煜氏は、2012年に設立した創業当時の苦労について、「最も大変だったのは投資・経営ビザ(当時)を取ること。ビザの取得は、資金調達や営業、採用などと同じくらい大変だった。そのプロセスはだいぶ改善されたと聞いているが、当時は、特に保証人がいなければスタートラインにさえ立てなかったので、もどかしい状況だった。ある意味、人格が試されているような、心理的・精神的な挑戦であった」と語っている。京都は、地域経済への貢献が期待される外国人による創業をさらに広げるため、スタートアップビザを導入した。


創業当時を振り返る、アロマジョインの金東煜氏(アロマジョイン提供)

スタートアップビザの認定を受けた企業の例

京都では、2021年9月末までに7件の起業準備活動が認定を受けている。そうしたスタートアップビザの申請者はなぜ京都での起業を選択し、起業にあたってスタートアップビザのプログラムをどのように活用したのだろうか。ここでは、3社の例を紹介する。

ゾルビ(XORBI)

XORBIは、AR・VR(拡張現実・仮想現実)技術を活用し、現実の世界がデジタル空間に投影されたミラーワールドを楽しむことができるビデオゲームを開発している。スマートフォンや、VR用のヘッドセットを利用することで、海外の都市の光景などのイメージを、その場にいながらにして体験することができる。

創業者のファリッド・ベン・アモール(Farid Ben Amor)氏は、もともと米国のエンターテインメント産業において海外映画作品の買い取りなどを行っており、それが日本との最初の接点であった。その後、動画配信サービスのスタートアップ企業「プルートTV(Pluto TV)」の、米国複合メディア大手バイアコム(Viacom)への売却に成功した。

その次のステップとして、京都での起業を選択した。京都を選択した理由は、VR・ARの強固な研究拠点の存在や、任天堂をはじめとするゲーム産業の集積による豊富な人材などを挙げる。ゲームの分野では、プログラミングやデザイン、アートやハードウェアなど複数分野の人材が必要であり、京都は世界中からの合流地点になるという。

スタートアップビザの発行プロセスに関しては、新型コロナウイルスの影響で日本への渡航に時間がかかっているものの、非常に迅速な対応を受けられた、と評価している。申請書類の内容についても、通常のビジネスに合わせたものになっており妥当なものであった、と述べている。

コウエド(KOUad)

KOUadは、京都の職人やデザイナーとのコラボレーションによる、建築資材などのシンガポール市場やほかのアジア市場に向けた展開支援を行っている。

創業者のオン・リン(Ong Ling)氏は、もともとシンガポールで、建築・不動産分野の企業を15年以上経営していた。その企業において、新たな建築資材の市場を探していた。そこで、多くの職人や新たな技術を持つ企業が多く集まる非常に活気のある市場がある京都での起業を決めた。

スタートアップビザのプログラムでは、言語が障壁となる中で、ジェトロや行政書士への相談を通じて法人設立手続きを進めた。その他、税理士への相談も活用している。

ファンフォ(Funfo)

Funfoは、スマートフォンでQRコードを読み取るだけでメニューを注文できる、モバイルオーダーアプリを開発する。アプリを導入した飲食店は、客と接触することなく注文・決済が可能となるため、業務を効率化できる。加えて、アプリから得られたデータの活用や、顧客への広告やクーポンの送付(提供)により、売上の拡大やコストの低減にもつなげられる。

同社は、中国や台湾出身の立命館大学の卒業生らが共同で創業した企業だが、創業のきっかけは、中国への里帰りであった。中国で訪れた飲食店は、広い店内にもかかわらず、デジタル技術を活用することで少ない従業員で切り盛りしていた。そこからヒントを得て、日本の飲食業界が抱える人手不足という課題の解消を目指し、生活の拠点がある京都で創業を決めた。

スタートアップビザのプログラムについては、法人設立やビザの申請手続きのみならず、知的財産の専門家や資金調達に関する弁護士への相談、さらには地域の金融機関と連携した銀行口座の開設なども活用している。さらに、スタートアップビザの取得に関して、日本の新聞で報道された記事が中国の媒体に転載されたことがきっかけとなり、香港の投資家から3,000万円の資金調達も実現した。


京都におけるビジネスについて語る、右上から時計回りでゾルビのファリッド・ベン・アモール氏、
コウエドのオン・リン氏、ファンフォの王源源氏、ジェトロ京都のジョセフ京田コンシェルジュ
(ベンチャーカフェ東京提供)

注1:
2021年度からは、ジェトロ神戸でも「スタートアップビザ」の窓口業務を開始している。
注2:
アロマジョインの金氏のほかに、弁当箱専門店の「ベントーアンドコー(Bento&Co)」や出荷管理システムの「シップアンドコー(Ship&Co)」を展開する、ベルトラン(BERTRAND)を創業したフランス出身のトマ・ベルトラン氏なども京都の外国人起業家として挙げられる。また、情報タスク管理アプリケーションを提供するノーション(Notion)は、米国でのビジネスが伸び悩んだ後に再出発の拠点として選んだ京都で製品を開発した。現在、同社はユニコーン企業に成長している。
【独自】情報管理ツール「Notion」CEOインタビュー、気鋭ユニコーン企業が狙う日本市場外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」 DIAMOND SIGNAL、2020年7月。
執筆者紹介
ジェトロ京都
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課を経て現職。