サーキュラーエコノミー実現でサプライチェーンに影響(日豪印ASEAN)
第2回サプライチェーン強靭化フォーラム(3)

2021年11月11日

日本とオーストラリア、インド、ASEANの産官学が参加した第2回サプライチェーン強靭(きょうじん)化フォーラムの開催内容を伝えるシリーズの3回目。本稿と次稿では、アカデミアセッションを取り上げる。アカデミアセッションの第1部では、「サステナブル&インクルーシブグロースに向けた取り組み」と題して、日豪印ASEANから4人のパネリストが登壇し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に関わるそれぞれの国・地域の取り組みや、経済、サプライチェーンに与える影響などについて論じた。

国際協力でサーキュラーエコノミーに向けたロードマップ策定

はじめに、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)都市・産業トランスフォーメーション研究グループリーダーのヘインズ・シャンドル氏と、インド科学工業研究委員会(CSIR)環境バイオテクノロジー・ゲノミクスディビジョン首席テクニカルオフィサーのリタ・ドダプカール氏の両者が「オーストラリアとインドのプラスチックサーキュラーエコノミーに向けた取り組み」について紹介した。

オーストラリア:ヘインズ・シャンドル氏

現在、サーキュラーエコノミーへの転換に向け、インドとオーストラリア両政府共同で、インドでのプラスチック廃棄物削減に関するロードマップを策定している。具体的には、廃棄物や汚染を設計段階で排除し、材料や製品を何度も使用できるようにして、天然資源への負荷を低減することで、環境や健康への悪影響を緩和する。このロードマップの目標は、2030年までに埋め立てや環境中に流出するポリマーの量を75%削減することになっている。さらに、2040年までに廃棄物を出さない設計、使用済み材料の再利用とリサイクルを通じて、完全にサーキュラーする経済を実現することとしている。

  • サーキュラー型社会を実現するためには6つの要素、(1)設計・製造、(2)利用・収集、(3)リサイクル、(4)市場の発達、(5)ゼロ廃棄の文化、(6)ガバナンスが重要な要素となる。日本は特に(5)文化と(6)ガバナンスで世界をリードしている。また、加工時に発生する副資材を利用した製品の市場の発達は今後必要不可欠だ。
  • サーキュラー型社会を促進するためには、デジタル技術の活用も避けては通れない。廃棄物のデータ管理には、欧州で取り入れられているパスポートというかたちを導入することが重要だ。廃棄物のモニタリングのためのデータは、ブロックチェーン技術が活用できる。

インド:リタ・ドタプカール氏

  • プラスチックは安価でかつ耐久性もあるため、世界的にも重要な材料で、インドでは1,660万トン利用している。従来、インドの廃棄物管理の考え方は、製造者のポリエチレン使用量を制限するなど、製造者のみに責任を負わせる方策だったが、サーキュラーエコノミーを目指すに当たって、各自治体や物流などさまざまな主体が責任をもって取り組むことになった。
  • 「クリーンインディア」のキャンペーンでは、2022年から使い捨てプラスチックの使用を禁止することになっている。また、インド政府が2015年に開始した「デジタルインディア」キャンペーンで、廃棄物管理にデジタル化を導入している。ゴミ箱や車両の動きをライブで追跡し、廃棄物の効率的な収集と輸送のためにルートを最適化するなど、デジタル技術を活用した事例が出てきている。
  • 最後に、自治体における廃棄物削減へのデジタル技術活用の代表的な例を紹介する。インドールという中部に位置する都市では、ごみ収集車両にタグを埋め込み、デジタル技術を活用して一元管理を行っており、車両の位置を一般市民がスマートフォンからアプリで確認することも可能になっている。

サーキュラーエコノミーやインダストリー4.0が経済に与える影響は甚大

東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)研究戦略・イノベーションディレクターのベンカタチャラム・アムブジ氏は、持続可能で包括的な成長という題名で、ASEANを中心にサーキュラーエコノミーとインダストリー4.0が経済に与える影響について説明した。

  • ASEANなどの新興国にとって、サーキュラーエコノミーという言葉自体は比較的新しく出てきた概念であり、近年注目が集まっている。ASEANでは1人当たりの資源消費量が2000年と比較して大幅に増加しており、資源の効率的な利用が課題となっている。こうした課題を解決するためには、消費削減やリサイクル促進が必要不可欠となっている。
  • サプライチェーン上のさまざまな段階で、サーキュラーエコノミーを意識する企業が出ている。ERIAの研究グループでは、ASEAN諸国や各企業がサーキュラーエコノミーにどの程度対応可能かについて分析を行っている。インダストリー4.0とサーキュラーエコノミーの2つの指標によって、持続可能で包摂的な経済成長ができるかどうかを図ることができる。
  • インダストリー4.0とサーキュラーエコノミーの共通点として、(1)産業界のビジネスモデルの変革、(2)消費者への新しく統合された製品・サービスの提供、(3)レジリエンス強化のためのサプライチェーンに沿ったイノベーションが挙げられる。インダストリー4.0とサーキュラーエコノミーが包括的な経済成長に与える影響は業界によって異なり、直接的には電子産業で、間接的には鉱業、林業やインフラ分野などで雇用創出が期待されるものの、加工食品産業や繊維産業では雇用が減る可能性もある。
  • サーキュラーエコノミーの推進に向けて、ASEAN各国で技術導入に向けた準備度合に差があり、シンガポールやマレーシア、タイなどは比較的準備が進み、インドネシアやフィリピン、ベトナムが続く。カンボジアとラオス、ミャンマーではまだ改善の余地がある。ASEANではサーキュラーエコノミーに向けたロードマップを策定しており、関連の4つの柱(農業、エネルギー、ファイナンス、規格・基準)を立ち上げ、その推進を行っている。

EUでは先行的に実施、アジアでも独自のサーキュラーエコノミー実現へ

続いて、東京大学大学院工学系研究科教授の梅田靖氏から、サーキュラーエコノミーを実現するためにEUの政策や各企業の具体例の紹介と提言があった。

  • サーキュラーエコノミーというのは、リサイクルだけでなく、メンテナンス、リユースなど幅が広く、そうした多様な循環がサービスプロバイダーを通して実現されるということだと考えている。2015年に策定されたEUのサーキュラーエコノミーに関する政策を見てみると、従来はコストだと考えられていた循環について、発想の転換を行って経済成長や雇用の創出につなげていくことができるということが重要だ。
  • そもそも、なぜ循環型社会がEUの雇用や競争力につながるのか。日本では従来コストと考えられてきたものがどう変わっているのかといえば、主に3つの観点がある。(1)消費者の価値が「所有」から「体験」に変わってきていること、(2)経済の主要プレーヤーが製造業からサービスプロバイダー(循環プロバイダー)に代わってきていること、(3)デジタルテクノロジーの3つに流れによって、サーキュラーエコノミーの実現が競争力になると理解できる。
  • サーキュラーエコノミーの実現によってサプライチェーンに大きな変化がもたらされる。例えば、リアルタイムで全ての製品のライフサイクル管理を行う必要性や、未加工原料と使用済み原料の価値の違いが少なくなってくること、使用済み原料の品質保証をすることの必要性などが挙げられる。
  • 企業によるサーキュラーエコノミーの実現例として、ブリヂストン社が展開するリトレッドサービスがある。タイヤを大量に消費するトラックを所有する運送業者とのB to B取引で、ブリヂストンがタイヤを所有し、デジタル技術を活用してタイヤの状態をモニタリング、企業はタイヤをリースするというサービスであり、これによりタイヤの寿命が約2倍になる。企業側はタイヤ使用量が減るためコスト削減になり、ブリヂストンもさまざまなデータを取得することができる。サプライチェーンの観点では、こうしたサービスを創出するため、製品のライフサイクルをリアルタイムで把握する必要があり、デジタル技術が不可欠となる。
  • 次世代のサプライチェーンマネジメントでは、デジタル技術は必要不可欠であるとともに、取り組みの失敗事例も蓄積し、それを共有することでPDCAを回すということも重要だろう。また、製品のライフサイクル全体を管理しようと思えば、国際的に協力することが重要になるだろう。また、EUのサーキュラーエコノミーが政策的に策定されてきたのに対して、日本企業をはじめとするアジアではボトムアップ(各企業の取り組みの積み上げや成功事例の共有)がより重要と考える。

最後に、モデレーターを務めた経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェローの田村暁彦氏が本セッションの総括として、サーキュラーエコノミー政策は環境だけではなく経済の観点も考慮すべきこと、デジタルトランスフォーメーション(DX)がこの政策で非常に重要なこと、サーキュラーエコノミーを進めるにはステークホルダーとの協力が必要不可欠である点などの言及があった。

執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課
遠藤 壮一郎(えんどう そういちろう)
2014年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)、ジェトロ・ベンガルール事務所などの勤務を経て、2020年6月から現職。

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